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夢幻の姫君  作者: 紘仲 哉弛
第2章 ゼロ番の主力
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6.戻れぬ道

 大量の買い物袋が部屋に運ばれてくる。人の往来を見ながら、ラウダはベットに座っていた。数々の品物を見ながら、ファミリアは大きく頷いている。


 食べ物や飲み物は、テーブルに並べられる。新品の靴や服。その中には明らかに女性物が混じっている。美しい生地のドレスはどれも一級品ばかりだ。


(おいおい……)


 レオナルドは自分の目を疑った。テーブルに並ぶ鳥の丸焼き、テンドルの丸焼きだ。ラカス区にしかない店だ。数時間で並ぶとは信じられない。


「そうそう、テンドルの丸焼き。私のツテを辿って、そこで働いていた元調理人に作らせたよ」


 ファミリアは和やかに笑いながらも、目はレオナルドを睨んでいる。自分をラウダから引き離すためだったと気づいた時には殺意が芽生えたほどだ。その相手は苦笑いをしている。


(アウロラの力を全て使ったわけね……)


 奥には、優秀な従者が控えている。さすが次期主力の力。アウロラ区の悲願の姫を迎える、その意気込みもあるだろうが……。


「ファミリアさん、これはやり過ぎだ」


 ラウダは目の前の品々にウンザリしていた。明らかに自分を女だと意識しての贈り物だ。


「貴方への贈り物なので返さないで貰いたい」


「いや、困る」


「お願いです」


 ラウダは髪の毛を両手でクシャクシャにした。苛立ちを飲み込むとベットから立ち上がった。


 パタパタパタパタ


 早足で出口に向かう。ファミリアは急いでその後ろについた。


「ついてくるな!」


 ラウダは振り返りざまに、大声で叫んだ。ファミリアは驚き息をのんだ、さらに続こうとするのをレオナルドが抑えた。


「しばらく1人にしてくれ」


 鋭く短い言葉を吐くと、ラウダは部屋を去った。ジタバタするファミリアにレオナルドが小声だが、強い口調で言い放った。


「やめろ、女であることを突きつけるな」


「私が守りたいんだ。男として生きなくてもいいように」


 レオナルドは抑える手に力が入った。


「それがアイツを追い詰めるとは思わないのか?」


「なにを……」


 言いかけると、掴まれた腕に痛みが走った。凄い力だった。


「アイツは、女であることをますます選べなくなる。お前の望みを押し付けんなよ」


 ファミリアは目を大きく見開いた。そんなつもりではなかった。自分は健気な姫君を迎えに来ただけだ。もう、男の真似事をしなくてもいいように。ただ、救い、守りたいだけだ。


「ファミリア、ルシートの言う通りだ。控えよ」


 入り口には仁王立ちしたフォルテが立っていた。険しい顔をしている。


「ラウダは主力0番だ。お前がどうこうできる相手ではない」


「え!?」


「自分はエクセン=カンサスの()()だが、縁は切ったと表明すると言っていたぞ。アルデナ区には戻らない。アウロラ区にも行かぬ」


 レオナルドは苦い顔をしていた。


(男として生きると決めたのか……)


「親父に何を吹き込まれたか知らぬが、諦めよ」


「それでも……私は…」


「それでも、ラウダの助けになりたいか?」


「はい、ただ助けになりたいのです」


「ならば、今すぐ中央部に戻れ」


 ファミリアはまさか!という表情だ。追い出されるのだと思ったようだ。自分が彼女を違う選択へと押しやってしまった。そんな自分は彼女の目の前から消えろと言うことなのか……。


「アルデナ区、エクセンは縁を切るなど許さないだろう。その側近の奴らもそうだ。ラウダを取り込もうとするはずだ。お前が中央に戻り、0番の主力の地盤を整えてやれ」


 ファミリアはそれに小さく頷く。アルデナは主力0番を欲しがるだろう。希少な0番の主力が自家の血を引くとしたら、何としてでも戻したいと思うはずだ。


「わかりました。中央に戻り、0番をお迎えする準備をします」


 フォルテは軽くため息をつく。


 ラウダが男として生きると頑なになってしまったことが不憫だった。母の生きた道を恐れたのかもしれない。それを自分がたどり、求められることも。


「ルシート、お前はもうしばらく大丈夫だな?」


 レオナルドは頷く。ラウダについて中央部に戻ることになるだろう。チェリの指示でもある。


「ウンブラとガリもこちらに着いている。同行するそうだ」


「わかりました」


 そう答えたレオナルドをファミリアは横目で見た。それは冷ややかな視線だった。ライバルの心の奥底に隠している想いに気づいたのかもしれない。


 それは優しさなのか、同情なのか、愛情なのか。無関心とは真逆の何らかの深い想いの一種ではないかと思う。


 扉の外ではチラチラと女性達が部屋を覗いている。彼女達の興味は素敵なドレスと宝石だった。その(せわ)しなさに、フォルテは苦笑いをした。


「そうそう。ファミリア、お前の贈り物はウチの女どもが貰い受けるぞ」


 そう言うとニッコリと微笑んだ。


 

 

 


 

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