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夢幻の姫君  作者: 紘仲 哉弛
第1章 インフィニタの夜明け
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3.威風堂々な策士

 ラウダが話し始めると、サドは興味深そうにその場の人物観察を始めた。テルビスは少し目を見開いている、自分と同じようにラウダの話した言葉を理解できていないのだろう。


【何のことだ?】


 サンマルコは平然を装い、そう言うのがやっとだった。自分以外にこの場を制するものはいないと油断していた。ふと漏らした言葉を拾われてしまった。


【結構ですよ、()()()()()()、ということはわかりました】


 ラウダの瞳の色が深まったような気がした。サンマルコは言葉を失う。


(この少年はまだ14歳か15歳というとこだろう。それなのに、なぜこんなに落ち着いているんだ??)


【そちらの貴方、貴方が売買する商品の調整をしているようですね。こちらを舐めすぎではないか?】


 今度も完璧なスノウ語を側近に向かって話す。テルビスともう1人の側近は顔を見合わせた。上流階級の言葉遣いだった。


 ラウダは言い終えると、サドに微笑む。


「こんな茶番は時間の無駄です。もう、お分かりなんでしょう?」


 サドは両手を広げて肩をすぼめると、お前に任せると右手を差し出した。


「アクア語で頼むよ」


 ラウダは呆れた顔をする。


勿体(もったい)つけなくても、サドが一言言えば終わるだろうに……)


 軽くため息を吐くと、頭をかしげながら上目遣いで話し始める。


【ここに出されてるものは古すぎて話にならない。()めてるのか?最新式が出てるだろ?ZX203は出さないのか?さっきの提示額なら、それぐらい買える額だろ?】


 テルビスは一瞬、目を見開き、そして、破顔する。


【ハッハッハッハッ!こりゃたまげたわ!面白い!】


 サンマルコは身を乗り出した。


【さっき、あんたが選んだ物は1番古い型じゃないか!大した眼力もないくせに!】


 もう1人の側近がサンマルコの肩を押さえても、その怒りは収まらないようだ。じたばたしている。


【アレは悪くはない。むしろ名品だろ?故障が少ないし、充填(じゅうてん)速度が早い、弾丸の振れも僅かだ。腕があれば十分最新型とも張り合える】


 テルビスは側近の1人に目をやると、その男は苦笑いをしながら頭を縦に振った。


【あんたがそれを外すように耳打ちしたのは、そういうことだろ?】


 ラウダはサドに目をやる。そんなことは、この男なら最初に見抜いていただろう。多分、暇つぶしに揶揄(からか)っているのだ。


【だそうだ。(だま)される方が悪いって言うのが俺の信条だが、我が国を馬鹿にされるのは許せんなぁ】


 サドはアクア語で話すと口元を歪め、凍えるような視線を向けた。テルビスは参ったという顔をする。


「すまなかった。こちらとしても、取引相手の力量を測らせてもらった。アクア軍もウチの取引先だ。渡り合えるような相手でないと、安心して取り引きはできない」


 サドは腕組みをすると、フンと口を歪める。若くして裏社会で台頭するだけあって、一癖も二癖もある奴だと思った。


「まぁ、機嫌を直してください。今回は初めての取り引きということで、そちらの言い値で出しましょう」


 側近の2人は驚いて声が出せなかった。そんな事を言い出すとは、よほど気分が良いのだろう。


「そうか、それなら取引をしないわけにはいかんな?」


 サドは満足そうに微笑むが、ラウダは素知らぬフリで、そっぼを向いた。


(サドだけで充分だったな)


 ラウダは空かせた腹に意識を向けていた。早く栄養を()りたいと体が叫んでいる。早く帰らせて貰えないかと、サドを見るが、こちらの思いなどどこ吹く風。


「言い値で取り引きするが、こちらからの条件も飲んで貰いたい」


 テルビスの視線はラウダに向いていた。


「ウチとの取引には、そちらの策士様を必ず同席させて貰いたい」


(はぁ??冗談じゃねぇ!)


 ラウダは面倒くさそうな話に表情を崩した。酷く迷惑だと言う視線をサドに向けた。


 クスッ


 サドは面白そうに笑った。


「そんなに気に入ったか?」


「はい。許されるなら、私が貰い受けたい」


 主人の言葉にサンマルコは「冗談じゃない!」と体を震わせた。その様子をサドは楽しんだ。


「それはできない相談だが、商談時に同席させるくらいならいいだろう」


 サドは、この策士を手放す気など全くない。その価値は相手以上によくわかっていた。


 テルビスはラウダをじっと見ていた。得られれば、かなりの戦力になるのはわかっている。それに、この人形のように美しいモノを横に置いておきたい。他人に媚びないのも気に入った。


(は?勝手に決めてんなよ!)


 ニヤニヤするサドを横目で見ながら、ラウダの気分は最悪だった。小綺麗にされ、こんな茶番に引っ張らられ、おまけに身売りの話まで出てくる始末。


 このイライラは、腹のせいだけではないと思った。


 





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