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夢幻の姫君  作者: 紘仲 哉弛
第1章 インフィニタの夜明け
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おまけの話

 これは祖父からフォルテが聞いた話だ。ヴィサスの最後の主力、ウルティマーテの話だ。


 ヴィサスは平和的で賢い民族だった。晴れた日は、田や畑を耕し、雨が降ったら本を読む。そんな日々をのんびりと過ごす。そして、多くの知恵を持ち、インフィニタの知性と言わしめた。


 ヴィサス区の主力、ウルティマーテは透明な男だったと聞く。掴みどこのがない、拘りがない、感情の起伏も少ない男だった。主力会議でも、ほとんど発言をしない。


 アルデナ族は熱いため、アクア対策についても体当たりを決めようとする。力で解決するには持ってつけだった。


 アウロラ族は真面目で論争好き、大抵は理想論で終わる。


 ボオラ族は技術者のため、武器の専門知識はあるが戦略においては口をつぐむ。特に、目に見えないことを論争することは苦手だ。


 ドゥーリ族は交易商人のため、上手く渡り合っていこうとする。損をすることに嫌悪感を示す。


 ラカス族は情報屋を生業としていたことから、データを扱うことに関しては主導権を握った。しかし、全ての情報を渡すわけではない。


 ヴィサス族は数々の難題に対し、知恵を使った解決法を提案する。学問を利用したものが多かった。民族の気質は、学びと実験を好む集団であった。

 

 ウルティマーテは大体は、それぞれの話を黙って聞いている。そして、最後にポツリと一言二言語るのみ。しかし、たいていその言葉が方向性を決める答えになった。


 中央部にいても、フラフラと歩き回り。時折、兵士の休憩室で居眠りをしている。下級兵と昼食を囲むことも多かった。


 そして、1人でふらりと各区に立ち寄り、数週間、滞在していくことが多かった。


「ウルティマーテ!君はいつもフラフラと出歩いて!大丈夫なのか?」


 ボオラ区に滞在し、エレクトロを観光している友にフォルテの祖父はチクチクと文句を言った。祖父は自区と主力の激務でヘトヘトだった。


「あ?悪いなぁ。ヴィサスは主力が2人だから、片方がやってくれてる。俺は気楽だわな」


 ウルティマーテはあっけらかんと笑う。


「お前な……」


 すると、ウルティマーテはふと遠くに目をやると呟いた。


「お前んとこさぁ、将来は女の主力がいいかもな?」


「は?ありえんだろ?」


「そうか?お前の孫、女の方を選べ。そうすれば繁栄するぞ」 


「はぁ?いきなりなんだよ!!子供は結婚すらしてないぞ?」


 ウルティマーテはふらりと立ち上がる。

 

「俺、帰るわ」


「は?なんだよ?明日帰るって言ってなかったか??」


 ウルティマーテは、宝剣ゼロを腰から外した。


「これ、お前に預けるわ」


「おい!お前がいないと剣抜けねえぞ!手入れもできないんだけど!!」


 ウルティマーテは薄らと微笑んだ。


「しばらくは必要ない。まぁ、孫によろしくな」


 手をひらひらと振ると、フラフラと歩いていく。


「まぁ、全ては繋がっているからな?寂しく思うなよ」


「寂しくなんかないわ!はよ帰れ!」


 ウルティマーテはそれに軽く笑って去った。


 祖父はそれをいつもの気まぐれだと思ったが。


 あとで、剣を託しに来たのだとわかったという。


 ウルティマーテは久々にヴィサスに戻り、その僅かの間に娘のグロリアと妻をアウロラ区に逃し、僅かの民をスノウ国に逃した。しかし、民の多くはウルティマーテと共に戦った。アクア国の新兵器はそんな彼等を滅ぼした。


 そのウルティマーテの行動は今も謎が多い。一部の噂では、一族からアクアに渡った子供の責任を自らが取ったのだと言う話もある。他民族を頼らなかったのは、それが理由ではないかと。その渡った子供は、ヴィサスの宝、天の雫だったという噂がある。


 しかし、アクアがその兵器を他民族で使用したならば、ヴィサスは自らが滅びるよりも終わらない苦しみを味わったのかもしれない。


 宝刀ゼロは、インフィニタ軍のゼロ番の主力室に、長い間、納められることになった。


 これも後でわかったことだが。ウルティマーテは各地を周り、問題の種を拾い、各地の民に渡して解決させていた。そして、目ぼしい人材に声をかけ、育てていたそうだ。その成果は後に日の目を見ることになった。


 彼はふらりと放浪しながら、各区と民族を繋いでいたのである。


 その後、フォルテは祖父の遺言通りに主力に就き、3人の兄がそれを支えている。ボオラ区はフォルテの代で最高の繁栄を極めている。


 そして、最近、フォルテの元に宝剣ゼロが送りつけられ、ヴィサスの子孫が現れた。


 その子は祖父に聞いた、ウルティマーテを思わせた。


 深緑の美しい瞳を持った真っ直ぐな子供だ。






 

 





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