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夢幻の姫君  作者: 紘仲 哉弛
第1章 インフィニタの夜明け
22/150

22.ボオラ区へ入る

 ボオラ区はドゥーリ区とアルデナ区に接している。ボオラ族は鉱業民族であり、主家はケンブリッド家、主力はフォルテ、唯一の女性である。


 ラウダ、ウンブラ、ガリ、ルシート(レオナルド)の4人は、ボオラ区のエレクトロという街に来ていた。ガタイのいい男達があちこちにいる。


「なんでアイツが一緒にいるわけ?」


 ラウダはルシートを指差すと、ガリに話しかける。


「ラウダ、人を指差すもんじゃない。チェリ様に軍師を守るように言われたようだよ?」


「アイツに守られる!?ないだろ。あんな弱っちそうな奴に」


 ガリは苦笑いをする。


「あのさぁ〜全部丸聞こえるんだけど??」


 ルシートは簡易な制服を身にまといながら、ラウダを睨んでいた。


「あながち、間違いでないな」


 ウンブラはポツリとこぼした。


 ルシートは納得いかない顔をしているが、口をつぐんだ。本番で力を見せればいい。


「あのさ、ラウダはアイツ嫌いなのか?」


 ガリはこっそりとラウダに聞いてみる。


「そうだね。基本的に苦労知らずの坊ちゃんは嫌いだよ」


「坊ちゃんかも知れないけど、苦労って人それぞれではないか?お前には理解できていない苦労もあるかも知れないだろ」


 ぐっ、とラウダは言葉を飲み込んだ。確かに、あの男のことはよく知らない。


「まぁ、せっかくなんだし。アイツとも話をして、それでも気に食わないなら無視すればいいんじゃない?」


 ガリはニッコリと笑う。ラウダは小さく頷いた。


 ウンブラは目的地を見つけたようで、露店の間の小道へと入っていく。その奥には古びた小さな店があった。それは写真店だった。


「ごめんよ〜いるか?」


 ウンブラはそう言いながら店に入っていく。扉を開け、細い入り口に吸い込まれていく。ラウダ達もそれに続いた。店の中に入ると、沢山の記念写真と共に、客を迎える部屋が用意されていた。


「ウンブラ、お供を引き連れて大したものだな」


 奥のカーテンから眼鏡を掛けた男が顔だけを出した。どうやら、カーテンの向こうは暗室のようだ。現像作業をしているのだろう。


「もうちょっとしたら終わるから、待ってろ」


 そう言い残すと、暗室に戻っていった。


 ウンブラは近くのソファにドカッと腰を下ろした。ガリは手慣れた様子で、近くのキッチンに向かい、お茶の準備を始める。ラウダは気まずいながらも、ルシートと同じソファに腰を下ろした。


「アイツは俺のダチだ。あちこちを転々としている。写真家って名乗ってやがるが、要は情報屋だ」


「転々としてるんなら、なんで場所がわかるわけ?」


「仲間うちだけの目印がある。それは教えられねぇな」


 ウンブラがニッと笑うと、目の前にお茶が並べられる。ガリが手際良く4人分のお茶を並べた。


「酒は?」


「お茶だよ!」


「え?酒は?」


「ないよ!」


 ガリは呆れた顔をしながら、ウンブラとやり取りをする。そもそも、飲み出したら潰れるまで飲む男だ。間違っても出さない。


「おいおい、俺の店は飲み屋じゃないからな」

 

 そう言いながら、奥から眼鏡の男が出てきた。白いエプロンは薬剤で少し汚れている。ウンブラは男に紙の包みを手渡す。


「現像液、定着剤などが入ってる。最近のやつだから使いやすいらしいぞ」


「ありがとな。助かる」


 男は嬉しそうに受け取った。


「で、ガリは知ってるけど、あと2人の坊やは誰?」


「あの金髪の方は俺の弟子、隣の赤毛は通訳」


「相変わらず、ザックリだな。あー、俺はルーカスね。よろしく」


 詮索するなと言うことだろう。


 ルーカスは眼鏡を持ち上がると2人をじっくりと見た。そして、目を疑った。


「おい、ウンブラ!ヴィサスか!?」


 ラウダの深緑の瞳を見て、ルーカスが口を押さえた。自分が持ってるネタの人物なら、まさに今が旬の子供だ。


「煩い、騒ぐな。それより、アクア国と通じてる奴らの情報持ってるか?」


 ルーカスは名残惜しそうにラウダを見ると、渋々と話し始める。


「アルデナ族のカンサス家が怪しい動きをしているらしいぞ。あとは、ラカス族のブスクラ家の動きも怪しい。お前らが関わったカルティマの大戦にかなり焦っている」


「俺らのことまで漏れてるのかよ?」


「まぁな、ルーカス様の情報網は寝言まで拾うからな」


 ルーカスはガリからお茶を手渡され、口に運ぶ。そして、興味深そうに口を開いた。


「ガンジスの軍師を探し回ってるぞ」


 ラウダはギクリ、とする。


「やはりか」


「アクア軍は既に情報を入手し、国内に密偵を放っている。それと、アウロラ族が珍しく動きだした、どうやらこっちも軍師狙いだ。インフィニタ軍の代表エクセンも同じくだな」


 ルーカスは、面白そうにウンブラを見ている。


「えらい面倒背負い込んだな?ガラにもないやつ?」


「お前は全部わかってるのだろう?この騒ぎは落ち着くか?」


「無理だろうね」


 ルーカスはラウダの方を向いた。


「光が強すぎるのは問題だよ?その分、影も濃くなるからね」


 ラウダは頭を傾げる。


「まぁ、君は隠れられるほどの大きさの人間じゃなさそうだから、無理もないだろうけど?この国荒れるよ」


 ラウダの口が歪んだ。自分が荒らすと言うような口ぶりではないか。


「ルーカス脅かすな。転換期は起こるものだ。それがたまたま今だ、というだけだろ」


 ウンブラはルーカスを睨む。


「まぁ、今までの積み重ねがあってのことだから。しかし、そちらの軍師さんは表に引っ張り出されるだろうね」


 それもかなりの変革をもたらす結果になる。深緑の色の瞳、ヴィサスが絡むとなると。


「スノウ国に亡命させてしまったら?」


 ガリがルーカスに思わず漏らしてしまった。ウンブラは冷たい視線を向けた。この男は味方ではない。


「それって、まずいんじゃない?アクアが黙っていないよ」


 ルシート(レオナルド)の表情が歪む。ラウダという厄介者を受け入れたくはない。自国が大事だ。


「ガンジスは良い男だが、力としてはまだ弱い。おススメするなら、アウロラ区に保護を求めることかな」


 ルーカスは意味ありげな笑みを浮かべる。


「君の母親との繋がりがあるようだし?」


 ウンブラは訝しげな表情を浮かべる。ラウダはルーカスを睨んだ。自分がよく知らないことをコイツは知っている。その上で話をしてるのが気に食わない。


「俺からこの人達に話していいのかな?」


 ルーカスはラウダを覗き込んだ。ラウダはため息をつくと、観念して話し出した。


「俺はアルデナのエクセンの子供だ。母親はヴィサス族の出身だ」


 レオナルドはドキリとした。王妃が探していた子供は目の前にいる。だとすれば、保護すべきだ。


 ウンブラとガリは顔を見合わせる。見当はついていたが、それでも実際にそうだとなると驚くものだ。


「だけど、アウロラ区との繋がりは知らない」


 ルーカスはラウダに静かに語る。


「君の母親グロリアは元々、アウロラ族のイエロズの許嫁だったんだよ。エクセンはそれを奪って婚姻を結んだ」


 レオナルドは思わず口を押さえた。何だかドロドロの愛憎劇が目に浮かんだ。


「イエロズが動いたのは、多分、君を取り戻すつもりなのだと思う。今もグロリアを愛しているらしい」


「オヤジはアイツだぞ?」


「それを超えるものを持っている。君はヴィサス族の特徴をよく受け継いでいる。今回の作戦で証明してしまった。皮肉だな、今の君は引くて数多だよ」


 ルーカスは哀れむような視線を向けた。


「もう、隠れる必要はないし。隠れることもできない」


 ラウダは大きなため息をついた。平穏に暮らせるだけで良かった。何かを変革するつもりなんてないし、誰かの期待に応えるつもりもない。


「ここに来たのも何かの縁だ。主力のフォルテに会うといい。望むなら繋ぎをつけてやってもいい」


 ルーカスは優しくそう言い終えた。


「ルシート、先にラウダを連れて宿に行け。場所はガリに聞くんだ。俺とガリは別件の話が山ほどあるから」


 ルーカスはギョッとする。


「沢山って……おいおい、頼むよ」


 今度はウンブラがニッコリと笑った。随分と好き勝手に口を開いてくれたもんだ。おかげでラウダの扱い方を変えなければならなくなった。


「夜は長いよなぁ?ガリ?」


 ガリは奥の棚から酒を出してくる。


「不本意だけど、解禁ってやつ?」


 ガリも思うところがあるのだろう。止めやしない。


「おいおい、マジかよ……」


 ルーカスはゲッソリとした。



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