18.全ては掌のうえ
「そこの者、拘束を今すぐ解け!」
ガンジスの命令に、若い兵士は急いで動いた。ラウダ達は拘束を解かれ、椅子に座らされた。
「ラウダ!なぜ、こんなところにいる?設計図、お前が作ったモノだろ?だから、仕事は選べと言ったはずだ!何でもやるんじゃない」
ガンジスは正式名、幼少名はサド。そう、ネゴシウムのボスであるサドは、主力のガンジスでもあった。
「あんたが、そんなアホを司令官にしてるからだろ!もっとマシな奴はいねぇのかよ!お前の軍隊!!」
司令官はポカンと口を開けている。
(何を言っている?こんな子供が上官だと??)
「お前な……派手にやりやがって!アクア軍を壊滅させたぞ、中央部の意見は真っ二つだ」
ラウダは呆れた顔をして、冷静な声で言い返す。
「あんたさ、兵士に俺を見張らせてただろ?知らないどころか、凄く上手くやったな?最後の隊の投入は、あんたの指示がないとできない」
サドは面白そうに微笑んだ。
「なんだ、わかってたのか。さすが、俺の策士だ」
ウンブラはやり取りを聴きながら、やっと納得がいった。ラウダの動きに軍が上手く合わせていた。絶妙なタイミングで駒を動かしていた。あの司令官では無理だと思っていた。
見えない誰かが、上手く兵を動かしていた。
(全くの素人が奇跡を起こせるほど、戦場は甘くはないからな)
ウンブラはサドとラウダを見比べる。あうんの呼吸があるように見えた。しかし、なぜだろう?ラウダは一線を引いているようにも思える。軍への介入には意欲がなく、むしろ避けたいように見える。
サドは重いため息をつくと、もう一度、司令官に目をやった。全く適性のない男だったが、毒にはならない男だと思っていた。何もしない奴だとは思っていたが、欲だけはあったようだ。
「お前、あの戦闘で何が起こったか説明してみろ」
司令官は震えながら、サドを見上げた。導火線が切られたのに爆発した理由などわからないし、戦車が壊れた理由もわからなかった。
「………」
言葉が出ないことはわかっていた。そもそも、答えられる男だとは思ってはいない。
「ラウダ!説明しろ!」
ラウダは大きなため息をつく。説明は酷く面倒に思えた。しょうがないなぁ、と渋々話し始める。
「爆弾の着火方法は導火線ではない。あれはトラップだよ。そもそも、導火線ですらない。切られたのを合図に、地面の中で線からコイルが出るように設計した」
「コイル?」
「その話はもうちょっと後。爆破の話を先にする。着火は通信型起爆装置を使用した。アンテナの木、立てただろ?」
「で、的に入ったアクア軍を爆破した。爆破の順番はプログラムを書き換えて実行した。アクア軍の隊形の変化に合わせ、的から逃さないように気を遣った。それと同時に、一緒に行った2人にはコイルを繋げる切り替えを行ってもらった」
「あぁ、あれはそういうレバーだったんだな」
ウンブラは異様に重かったレバーを思い出した。しかし、コイルって?
「地面の下には熱で発電させる装置を入れ込んである。爆発のおかげ高熱が瞬時に作れた、それにより大量の電気が発生し、それをコイルに流すことによって、電磁パルスを発生させることに成功した」
「電磁パルス、電子機器を破壊する、電磁波のことだな?」
「そうだよ、それが思ったより強いものになったからアクア軍の司令部まで破壊することになった」
ラウダはサドを真っ直ぐに見た。
「俺の設計図を正確に作らないとできないことだった。アレを作った兵士、その指示をした者は素晴らしいとしか言いようがない。それって、サドが送った兵士だよな?」
サドは曖昧な笑顔を向けた。
自分は考えただけだ。その意図を汲み、作った者がいなければ作動しない。精密さが求められた。
「電磁パルス対策の兵器や車を準備していたのも偶然じゃない。全て見越して準備してたんだろ?」
「ラウダ、お前はいいかげん軍師の職に就け。もう、その時期だと思わないか?」
ラウダの問いには答えず、サドはそう述べるだけだった。
「主力!貴方は全てわかっていたのか!」
司令官は真っ青な顔をして、サドを見つめていた。
「さあなぁ、どうだったかなぁ」
主力であるガンジスは、曖昧に微笑んで何も答えなかった。
「そうそう、客人の紹介を忘れていた」
ガンジスは左手をかざすと、正面右側にいる男に顔を向けた。
「こちらは、ラカス地区の主力、チェリ殿の側近ルシートだ」
ルシートはウンブラに笑いかけていた。ウンブラは居心地が悪そうな顔をしている。そう、チェリに身売りされた、レオナルドだった。
金髪碧眼の上品そうな男をラウダは訝しげに見ていた。苦労も知らないような綺麗な男だ、ラウダは反吐が出ると思った。チェリは庶民出で苦労人と聞く、そんな主力が選んだことにガッカリした。
「貴方達が拘束されたと聞き、チェリ様はたいへん心配していましたよ。誤解が解けたようで、私が来た甲斐がありました」
レオナルドは和やかに話す。その優雅さは生まれ持ったものだろう。白い軍服がとても似合っていた。
「さすが、ルシート様はお名前も素晴らしく、高貴でいらっしゃる」
ウンブラの棒読みなセリフに、ガリは思わず吹き出した。




