17.ドゥリー区の主力
野営地に到着すると、気さくな兵士2人に連れられ、3人は1番大きなテントに向かった。ガリはラウダの様子を心配そうに見ていた。
「お前大丈夫か?腹を蹴られてたろ?」
「ありがと、大丈夫だよ」
華奢な体つきなのに、丈夫にできているようだ。しかし、殴り蹴られることに慣れている様子が気になった。
「ラウダ、お前は大した奴だな」
ウンブラには見えていた。ラウダが殴られながらも、微妙に急所に当たらないように防御していたことを。
「とんでもない」
ラウダがそう言うと、ちょうどテントの前に行き着いた。
「司令官、3人を連れてきました」
「入れ」
テントの幕が上がると、兵士が3人を中に入れる。奥には3人の男がいた。左手には、さっきの司令官が椅子に掛けており、中央には白い軍服を着た男が椅子に座っている。右手には同じく白い軍服を着た男が椅子に座っていた。
中央の男は腰に見事な刀を携えている。5番目の宝剣グロリアだ、つまり、この区の主力ガンジスである。背が高いその男は、美しい長い黒髪を後ろで束ねている、その赤い瞳は3人を冷静に観察している。
「で、司令官、この者達は何だというのだ?」
ガンジスは顎を触りながら、司令官に目を移した。
「今回の作戦の実行に動いた者です」
「で、なんだ」
「私の命令に従わず、勝手に動いた者達です。それも、身元もハッキリしない怪しい奴です」
「そうならば、作戦の功労者ではないか?なぜ拘束している?」
「ですから、責任者の私に従わず規律を見出した奴等なんです」
ガンジスはギロリと司令官を睨んだ。
「この作戦の責任者はお前だな?」
「はい!その通りです!!」
「では、なぜ、途中で作戦を投げた?」
「投げたなどと!そんなことはありません!!アクア軍にコチラの動きがつかまれ、導火線を全て切断されたのです。作戦の実行は不可能でした」
「切断される前に作戦を実行すれば良かったのでは?記録によると、その時間はあったはずだ」
司令官は苦々しいと言わんばかりの顔になった。
「設計通りに作動しなかったのです」
「ほぉ。つまり、作戦は失敗だったのだな?」
「いや!しかし、結局は大打撃を与えたではないですか!」
「黙れ、見苦しい」
それは、その静かだが怒りを含んだ声だった。
「で、あの少年の真新しい傷はお前らしいな?」
ガンジスは、ラウダの顔や体を入ってきた時から観察していた。頬は青く腫れあがり、唇は切れ、口のから出た血が流れ固まっていた。そして、腹部のあたりが酷く汚れていた。
「あの者は私に暴言を吐いたのです。万死に値する」
司令官は蔑んだ視線を投げかけた。
「お前の作戦、そもそも私は許可してないぞ」
ガンジスは足を組み替えると、腕組みした。この男が自分を出し抜き功を立て、主力を頂けないかと画策したのはわかっている。
「時間がなかったもので……好機を流さぬために行いました」
「お前は浅はかにも出来ぬ作戦を行い、途中で頓挫し、その結果、町を破壊される結果になった」
「いや!しかし!!」
「おまけに、功労者を拘束し、暴行まで加えた。この恥知らずが!!」
「待ってください!コイツらは敵の可能性だってあるんですよ!!」
ガンジスはゆっくりと立ち上がった。そして、真っ直ぐに司令官に向かっていくと、その顔を殴った。司令官は後ろに遠く飛ばされると、地面で背中を打った。
「敵軍の中にお前はバイクで突っ込めるか?」
「自分は司令官なので……」
「覚悟の話だよ、ホントお前にはウンザリだ。司令官は解任だ。隊を去れ」
ガンジスは自分の席へと戻っていく。もっと早くこうするべきだった、と少しずつ反省していた。椅子に座ると一息ついた。そして、再び口を開いた。
「よく聞け、この少年は私の策士だ。怪しい者ではない。そして、そちらの2人はラカス地区チェリ殿の傭兵だ」
ウンブラは苦笑いをしていた。早速、チェリに救われたということか。
「おい、お前!よくも私の策士に手を出してくれたな?」
元司令官はまさか、と小さく呟いた。
「ラウダは私の側近、お前の上官にあたる男だぞ!」
そこに居合わせた兵士達は、一斉にラウダに視線を投げかけた。兵士は達の間では、ずっとこんな噂があった。
この軍には恐ろしく頭がキレる策士がいる。
今回のこの出来事を目の当たりした彼らにとって、それは単なる噂ではないとわかる。この少年が我が隊の策士だとすんなりの受け入れられる。
それを受け入れられないのは、当人だけだった。
ラウダはその事実は嬉しいことではなかった。




