14.襲撃の夜
それは突然やってきた。
ドン!バラバラバラバラ!!
カシャン!ド————ン!!!!
「お前ら起きろ!爆撃されてる!!」
ウンブラの大声が響いた。
ラウダは慌てて起き上がるが、真っ暗で自分がどこにいるのか、全くわからなかった。頬には生暖かい液体がかかっていた。そして、それは酷く鉄の匂いがした。
ラウダはオヤジと布団を並べて寝ていたはずだ。しかし、起きてみれば、家が壊れ、物が散乱していた。自分がどの方向にいるのかさえ、わからない。
そして、暗闇に目が慣れてくると、徐々に今が見えてきた。ラウダの顔は青ざめていく。
「オヤジさん……何してるんだよ」
オヤジはラウダを庇い、血を流していた。ラウダに覆いかぶさろうとしている柱をその体で支えていた。ラウダは頬に伝わる液体を拭う。それはオヤジの血だった。
「オヤジ!今助けるから」
ラウダはそこから這い出ると、オヤジの上の柱を持ち上げた。それは太い梁でびくともしなかった。
「ラウダ、逃げろ。俺の右の肺に折れた柱が刺さっている。もう、もたない」
「何言ってんだよ!助かるよ!」
「いや、この家が崩れる。隙間から這い出るんだ」
オヤジはラウダに向け、精一杯明るく答えた。体は段々と麻痺してきている。小刻みに震えだした。若ければもうちょっと頑張られた。この体では、これ以上は耐えられないだろう。
暗闇の中、ラウダの揺らぎはその色を増している。不安、悲しみ、怒り、慈しみ、オヤジはその変わりゆく光を愛おしく見つめた。
(あぁ、そうか。やはりあの方だ)
オヤジは痛みが一瞬消えたような気がした。目の前には憧れの主力がいる。
「ウルティマーテ様、生きてください。貴方に助けて頂いたこの命、やっと恩返しができます」
ラウダは息を呑んだ。オヤジは幻覚を見始めている。違うと言った途端、オヤジが落胆し、生きる力を失うかもしれない。それは凄く恐ろしく感じた。
「必ずや、ゼロを携え、国を守ってください。我が家族をよろしくお願いします」
ラウダは答えに困った。自分はオヤジの思う人ではない。
背後には、ガリとウンブラが控えていた。
「ウンブラ!その子を連れて、お前達は逃げろ。俺の家族を頼む」
「わかった、任せておけ」
ウンブラはオヤジの状態を確認すると、オヤジの耳元で囁いた。
「ダメだよ!放ってはいけない!」
ラウダは柱を持ち上げる。全く意味がないことでも、やらないよりましだ。
「いけまけん。ウルティマーテ様、貴方にはやることがあるはずです」
ラウダの頬に涙が伝った。もし、母の血統に力があるなら、どうか力を貸してほしい。この目の前の友を助けたい。頼むから奇跡が欲しかった。しかし、現実的には無理な話だった。
「俺は貴方を信じています」
その信じきった眼差しに、ラウダは言わずにはいられなかった。それは間違った行いだとしても。
「任せろ、俺がゼロを手にし、必ずやお前の家族を守ってやる」
ラウダはオヤジに語りかけた。その瞳は深緑に輝いている。オヤジはラウダを見ながら微笑んだ。
「ありがてぇや」
そして、最後の力を振り絞って、ラウダを突き飛ばし、ウンブラに預けた。
「行け、ウンブラ」
ウンブラはラウダの腕を掴むと瓦礫の隙間へと引きずる。ラウダは抵抗したが、ウンブラの力には敵わなかった。
「おい!オヤジを見殺しにするのかよ!」
「黙れ!」
ウンブラはガリにも目配せする。ガリは隙間をこじ開け、先に外に這い出た。そして、外から2人を引っ張りだす。
ウンブラとラウダが外に出た途端、家は大きく崩れた。
ガタガタガタガタ!!バン!!
あたりに土煙が巻き上げ、爆弾の残骸と瓦礫の山々、辺りは火に囲まれていた。
ラウダは涙を流しながら、地面に座り込んでいた。
向こうのほうでは、何種類もの言語が飛び交い、兵士達が言い争いをしている。ラウダは泣きながら、ぼーっとその話を聞いていた。
「全部は聞き取れないが、アクア軍の爆撃のようだよ。なんちゃら作戦を発動する前に奇襲を受けたみたいだよ」
肝心のところは、軍の隠語を使っている。しかし、なんらかの落ち度があったのだろう。兵士は仲間割れをしていた。
「どうして、民間人を巻き込むんだよ」
ラウダは涙を流さながら怒っていた。
「明日には、オヤジはここを出てんだよ。なんで、夜なんだよ!」
そして、いい争う数人の兵士に目を向けた。
「できもしない作戦なら、戦線を北上させんなよ!」
その声に、兵士たちの視線がラウダに注がれる。軍の隠語を正確に聞き取っていた。
「おい!ラウダ、やめろ」
ウンブラが止めたが、ラウダの怒りは止まらなかった。その憤りと覇気に、ウンブラさえも圧倒された。
「お前、なんだその瞳は……」
ウンブラは気押された、ラウダの瞳は深緑に輝いている。
ラウダはウンブラの手を跳ね除けると、兵士達の場所に向かった。兵士は一斉に銃を構えた。
ラウダは臆することなく、そこの司令官らしき者に怒鳴りつけた。
「敵は的に入ったんだろ?なぜ、起爆させない?」
「お前、聞いていたのか?何者だ!」
「こんだけの犠牲と引き換えの作戦だろ?ひよってんじゃねえよ!」
司令官は少年の覇気に押されていた。そして、その瞳を見ると、強く出れずにいた。
「実行部隊が渋ってんだろ?」
3台のバイクの傍らに若い兵士が3人が動かずにいた。3人は目を逸らした。
「さっきの話の図面よこせ」
「なに?」
「犠牲は無駄にはさせない。俺が行く」
ラウダは手を差し出し、睨みつける。司令官はその瞳を見つめると、図面を手渡した。ラウダはそれをざっと見ると覚えた。
「プログラムのusbを寄越せ」
若い兵士がラウダに渡した。
「司令官!民間人に任せるとは何事です!」
ウンブラが慌ててかけてきた。ラウダを睨む。
「ラウダ!素人は引っ込んでろ!」
「この爆弾の配置、配線、プログラムの設計をしたのは俺だよ」
ラウダは唇を噛み締めた。お遊びで作って売った設計図だ。その責任の重さすらわからずに。
「はぁ?」
ウンブラは言葉を失った。それが本当なら、この少年は何者なのだろう?脳裏にオヤジの特別な子という言葉が響いた。
ラウダはusbをポケットに入れるとバイクに向かう。
「自分もついて行きます」
兵士の1人が武器を携帯すると、ラウダに従った。
「ガリ!コイツらとの交渉は頼んだ!俺もいく」
ウンブラを見送りながら、ガリはやれやれとため息をつく。
司令官は勝手な行動に、口をぱくぱくさせた。
「えー、本日はウチの傭兵を使って頂き、ありがとうございます。お代はちゃんと貰いますよ。ウチのは口は悪いけど、腕はいいので」
ガリはニッコリと微笑むと、反論を許さない圧で、司令官達を黙らせた。




