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夢幻の姫君  作者: 紘仲 哉弛
第1章 インフィニタの夜明け
14/150

14.襲撃の夜

 それは突然やってきた。


 ドン!バラバラバラバラ!!


 カシャン!ド————ン!!!!


「お前ら起きろ!爆撃されてる!!」


 ウンブラの大声が響いた。


 ラウダは慌てて起き上がるが、真っ暗で自分がどこにいるのか、全くわからなかった。頬には生暖かい液体がかかっていた。そして、それは酷く鉄の匂いがした。


 ラウダはオヤジと布団を並べて寝ていたはずだ。しかし、起きてみれば、家が壊れ、物が散乱していた。自分がどの方向にいるのかさえ、わからない。


 そして、暗闇に目が慣れてくると、徐々に今が見えてきた。ラウダの顔は青ざめていく。


「オヤジさん……何してるんだよ」


 オヤジはラウダを(かば)い、血を流していた。ラウダに覆いかぶさろうとしている柱をその体で支えていた。ラウダは頬に伝わる液体を拭う。それはオヤジの血だった。


「オヤジ!今助けるから」


 ラウダはそこから這い出ると、オヤジの上の柱を持ち上げた。それは太い梁でびくともしなかった。


「ラウダ、逃げろ。俺の右の肺に折れた柱が刺さっている。もう、もたない」


「何言ってんだよ!助かるよ!」


「いや、この家が崩れる。隙間から這い出るんだ」


 オヤジはラウダに向け、精一杯明るく答えた。体は段々と麻痺してきている。小刻みに震えだした。若ければもうちょっと頑張られた。この体では、これ以上は耐えられないだろう。


 暗闇の中、ラウダの揺らぎはその色を増している。不安、悲しみ、怒り、慈しみ、オヤジはその変わりゆく光を愛おしく見つめた。


(あぁ、そうか。やはりあの方だ)


 オヤジは痛みが一瞬消えたような気がした。目の前には憧れの主力がいる。


「ウルティマーテ様、生きてください。貴方に助けて頂いたこの命、やっと恩返しができます」


 ラウダは息を呑んだ。オヤジは幻覚を見始めている。違うと言った途端、オヤジが落胆し、生きる力を失うかもしれない。それは凄く恐ろしく感じた。


「必ずや、ゼロを携え、国を守ってください。我が家族をよろしくお願いします」


 ラウダは答えに困った。自分はオヤジの思う人ではない。


 背後には、ガリとウンブラが控えていた。


「ウンブラ!その子を連れて、お前達は逃げろ。俺の家族を頼む」


「わかった、任せておけ」


 ウンブラはオヤジの状態を確認すると、オヤジの耳元で囁いた。


「ダメだよ!放ってはいけない!」


 ラウダは柱を持ち上げる。全く意味がないことでも、やらないよりましだ。


「いけまけん。ウルティマーテ様、貴方にはやることがあるはずです」


 ラウダの頬に涙が伝った。もし、母の血統に力があるなら、どうか力を貸してほしい。この目の前の友を助けたい。頼むから奇跡が欲しかった。しかし、現実的には無理な話だった。


「俺は貴方を信じています」


 その信じきった眼差しに、ラウダは言わずにはいられなかった。それは間違った行いだとしても。


「任せろ、俺がゼロを手にし、必ずやお前の家族を守ってやる」


 ラウダはオヤジに語りかけた。その瞳は深緑に輝いている。オヤジはラウダを見ながら微笑んだ。


「ありがてぇや」


 そして、最後の力を振り絞って、ラウダを突き飛ばし、ウンブラに預けた。


「行け、ウンブラ」


 ウンブラはラウダの腕を掴むと瓦礫の隙間へと引きずる。ラウダは抵抗したが、ウンブラの力には敵わなかった。


「おい!オヤジを見殺しにするのかよ!」


「黙れ!」


 ウンブラはガリにも目配せする。ガリは隙間をこじ開け、先に外に這い出た。そして、外から2人を引っ張りだす。


 ウンブラとラウダが外に出た途端、家は大きく崩れた。


 ガタガタガタガタ!!バン!!


 あたりに土煙が巻き上げ、爆弾の残骸と瓦礫の山々、辺りは火に囲まれていた。


 ラウダは涙を流しながら、地面に座り込んでいた。


 向こうのほうでは、何種類もの言語が飛び交い、兵士達が言い争いをしている。ラウダは泣きながら、ぼーっとその話を聞いていた。


「全部は聞き取れないが、アクア軍の爆撃のようだよ。なんちゃら作戦を発動する前に奇襲を受けたみたいだよ」


 肝心のところは、軍の隠語を使っている。しかし、なんらかの落ち度があったのだろう。兵士は仲間割れをしていた。


「どうして、民間人を巻き込むんだよ」


 ラウダは涙を流さながら怒っていた。


「明日には、オヤジはここを出てんだよ。なんで、夜なんだよ!」


 そして、いい争う数人の兵士に目を向けた。


「できもしない作戦なら、戦線を北上させんなよ!」


 その声に、兵士たちの視線がラウダに注がれる。軍の隠語を正確に聞き取っていた。


「おい!ラウダ、やめろ」


 ウンブラが止めたが、ラウダの怒りは止まらなかった。その憤りと覇気に、ウンブラさえも圧倒された。


「お前、なんだその瞳は……」


 ウンブラは気押された、ラウダの瞳は深緑に輝いている。


 ラウダはウンブラの手を跳ね除けると、兵士達の場所に向かった。兵士は一斉に銃を構えた。


 ラウダは臆することなく、そこの司令官らしき者に怒鳴りつけた。


「敵は的に入ったんだろ?なぜ、起爆させない?」


「お前、聞いていたのか?何者だ!」


「こんだけの犠牲と引き換えの作戦だろ?ひよってんじゃねえよ!」


 司令官は少年の覇気に押されていた。そして、その瞳を見ると、強く出れずにいた。


「実行部隊が渋ってんだろ?」


 3台のバイクの傍らに若い兵士が3人が動かずにいた。3人は目を逸らした。


「さっきの話の図面よこせ」


「なに?」


「犠牲は無駄にはさせない。俺が行く」


 ラウダは手を差し出し、睨みつける。司令官はその瞳を見つめると、図面を手渡した。ラウダはそれをざっと見ると覚えた。


「プログラムのusbを寄越せ」


 若い兵士がラウダに渡した。


「司令官!民間人に任せるとは何事です!」


 ウンブラが慌ててかけてきた。ラウダを睨む。


「ラウダ!素人は引っ込んでろ!」


「この爆弾の配置、配線、プログラムの設計をしたのは俺だよ」


 ラウダは唇を噛み締めた。お遊びで作って売った設計図だ。その責任の重さすらわからずに。


「はぁ?」


 ウンブラは言葉を失った。それが本当なら、この少年は何者なのだろう?脳裏にオヤジの特別な子という言葉が響いた。


 ラウダはusbをポケットに入れるとバイクに向かう。


「自分もついて行きます」


 兵士の1人が武器を携帯すると、ラウダに従った。


「ガリ!コイツらとの交渉は頼んだ!俺もいく」


 ウンブラを見送りながら、ガリはやれやれとため息をつく。


 司令官は勝手な行動に、口をぱくぱくさせた。


「えー、本日はウチの傭兵を使って頂き、ありがとうございます。お代はちゃんと貰いますよ。ウチのは口は悪いけど、腕はいいので」


 ガリはニッコリと微笑むと、反論を許さない圧で、司令官達を黙らせた。

 

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