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夢幻の姫君  作者: 紘仲 哉弛
第5章 杜絶の時辰儀
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1. 悪縁とニアミス

ほんとお久しぶりです。

ぼちぼちと書いていきます。

宜しくお願いします!

 その男は明らかに異様な格好をしている。インフィニタでは見かけない不可思議な格好。白い大きなシャツとジーンズ。デニム素材という、綿の厚地織布でできたズボン。その染色技術も含め、この国にはないものだ。アクア国で大量生産されている。その軽装は灼熱の地では不用意であり、かつ治安が悪い地では不用心である。


 鋼色の髪は肩まで伸び、右目を軽く覆う。サラリと風に靡く様は爽やか、汗くささは全く感じさせない。白くキメが細かい肌を守ることなく、そのまま太陽に晒す。しかし、晴れているのに傘をさす姿は、男達の蔑みの視線を誘う。


 高い鼻に支えられた黒いサングラスのフレームはキラキラと光り、高品質の高価な珍しいものだと一見してわかる。不用心だと思われるその目出つ姿は、目をつけてください、と言っているようなものだ………。無知な者が見ればだが。


 その男の紫色の瞳はこの不毛の地を興味深く観察している。先程から後をつけてくる輩がいるが、特に相手にする必要性も感じない。そこらへんに飛んでいるハエと大した違いはない。まとまって襲ってきても、片手で始末できる。


「クロス様、アクアに戻らないんですか?」


 その男の側近、1号と呼ばれる男はその巨大に似合わず、衛生面や環境面でとってもナイーブだ。濁った水や虫がたかる食べ物に嫌悪感を示し、冷房がない宿泊施設には恐怖すら感じる。


「僕に一撃をかました男が見つかりそうだし?もうちょっとかな?」


「エクセン=コンサスの息子でしたっけ?」


「はぁ?なに言ってんの?ヴィサスの生き残りだよね?僕はそっちの方に興味湧いてんだけど?」


「クロス様が相手にするほどの人物だとは思いませんがね……。ヴィサスの純血じゃないでしょ。この前のカルティマの件はたまたまでしょうに……」


「僕に意見するわけ?」


 クロスは面倒臭そうに答えると、アルデナ地区のスメリア街で1番高級なホテルに入っていく。1号もそれに続き入って行く。

 アクアを真似たそのホテルは綺麗に清掃され、珍しく冷房機器も備え付けられている。働く者達の礼儀も確かそうだ、1号は軽く安堵のため息をついた。今夜はマシな宿泊施設に滞在できそうだ。


 このホテルは、プロディ家の系列のホテルだ。プロディ家はエクセン=コンサスの愛妾、グアバの生家である。現在の当主はグアバの1番目の兄が継いでいるが、裏で実権を握っているのはカラン=プロディ、6番目の弟である。


 このホテルはワーグマンという偽名で取っているが、前々からクロスは何度もグアバからの招待を受けていた。元々、エクセンはアクア国と繋がりを持っているが、それを陰で動き深めているのはグアバだ。軍を通じ、影の権力者に繋がろうとしている。


「原始的過ぎて、ネットが繋がらないのが壊滅的だよね〜」


 そのクロスの軽口に対し、フロントの女性は表情を変えずに説明を続ける。


「お部屋に案内しましたら、支配人がご挨拶に伺います」


「それ、要らないわ〜」


「いえ、そういうわけには……」


 オーナーから、重要なお客様だと強く言われている。丁重にご案内しなければ……。フロント歴8年の彼女は、風変わりの目の前の客に警戒する。


「あ?なんか面倒な感じ?だったら、いいや、違うところ泊まるし」


「なっ!!」


 思わず1号は声を上げた。他のホテルなど冗談じゃない!?まともにお湯も出ないシャワー、シワシワのシーツ、くもったグラス、暑くて死にそうな宿などこれ以上我慢ならない。


「わっ、私が手続きをします!貴方様は先にお部屋でお休みください!!」


 1号が割って入った。そもそもが自分が雑用をするのが正解なのだ。主人が出る必要はない。


「そうですね……ご一緒の方がよろしいみたいですね」


「支配人にも私が会います」


 1号がフロント係と話を進める。 

 ウェルカムドリンク、ディナー、ブームサービス、朝食などクロスの好みで用意されているようだ。こういう煩わしさを省きたかったゆえに、偽名を使ったのだが、プロディ家のこの地での力は侮れなかったようだ。


 じゃ、とクロスは、勝手にホテルの奥に入っていく。

 フロント係はベルボーイに目配せし、鍵を手渡す。まだ若いベルボーイは慌ててクロスの後を追った。


 クロスが客室へ向かう途中で1人の男とすれ違った。その男はクロスとは反対方向、ホテルの出口へと向かう。男は向こうから来る奇妙な男、クロスに一瞬意識を向けたが、すぐに視線を外した。


『アクア人か?』


 見る限り軽薄なアクア人、高級ホテルには似つかわしくないラフな服装……しかし、着ている服自体は安物ではなく、身につけているアクセサリーも高級品だ。身のこなしは礼儀を身につけた癖がある。一般観光客ではなさそうだ。


 クロスの方もチラリとすれ違う男に意識を向けた。黒いスーツ、茶色い髪、黒い瞳、背が高く、体格もいい。メガネで顔を隠してるつもりだろうが、整った顔だ。頭も悪くなさそう。


『どこぞの国のイヌか……』


 こっちは特に更なる興味も湧かず、早々に視界からさよならする。


 この時、このクロスとすれ違った男がもう少し成熟していれば、一悶着起こせたかもしれない。この異質な男を排除しようとしたかも知れない。しかし、まだその時ではなかったのだろう。

 その男、レオナルド=ロイドは、後々、因縁の仲になるクロスとすれ違い、軽く気を留めただけで終わらせた。その男の異様さの本質に気付けなかった。


 互いに関わりを持つこともなく、素知らぬ者同士としてすれ違い、終わった。互いに記憶に残すこともなかった。


 レオナルドはサン国の外交官としてインフィニタに入国し後、ヴィサス区には行かず、マリオと別れ、アルデナ地区のスメリアにやって来た。

 到着した港で、不穏な情報を手にしたからだ。


 ヴィサスで反乱が起こり、暴徒化した民衆を抑えるため、各区の兵が派遣される。その騒乱の中で、ヴィサスの主力が死ぬ。また、ヴィサスの主力は死なないが、アルデナの手中に収まり吸収される。そういう類の情報が入り乱れていた。


 レオナルドはすぐにでも飛んでいき、ラウダの側で守りたかったが。マリオと話し合い、エクセンを抑えるためにアルデナに向かうことにした。アルデナの動きは無視できないレベルになっていた。


 サン国の外交官は、ホテルのチェックインを終え、街中へと消えていく………。もちろん、プロディ家の尾行には気付いている。


 彼らはまだこの男の正体には気付いていない。

 

読んで頂きありがとうございます!


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