古書8 ~表紙・デザイン~
あなたが本を作るなら、どんな表紙にしたいですか? (挨拶)
私は、重厚な感じにしたかった。
革装丁で、表紙には、その小説ゆかりの意匠をあしらって……。
でも、私にそんな技術はなかった。
……資金があれば、革装丁はやってみたかった気持ちもあるんですけど。
ちゃんと本も読んだんですけど。
技術的には、できると思うんですけど。
私の手持ちの革はおおむね端切れなので、A5ならまだしも、A4のサイズの表紙は……。
さらにエンボスとか、そういう技法による意匠の刻印となると……。
『ちょっと』厳しいですね……。
今回は、よりリーズナブルで、作業難易度も低い「布装丁」です。
作業難易度が高く見えたとしたら、色々やりたかったからであって、布装丁のせいではありません、と、布装丁の名誉のために付け加えておきます。
・基本プラン
表紙にあしらわれたのは『短剣をくわえた蛇』。
それを立体感をもって造型したい。
エンボス加工とか好きなんですけど。大好きなんですけど。
私に、そういう技術はない……。
人が使えるのは、常に手持ちの技術のみ。
仕方ないので、手持ちの技術でなんとかできる方法を考える事に。
今回は、立体感を出したいわけです。
では、どうすれば立体感を出せるのか。
……立体を作ればいいのでは?
基本プラン決定です。
表紙には一定の厚みが欲しい。
今回は3mm。
なので、0.5mm×6=3mmという計算。
0.5mm厚の厚紙、6枚重ねの積層構造です。
力が足りないなら、積み上げればいい。
至極、当然の結論ですね。
……ですよね?
・ラフ
ラフを描きます。
誰に見せるものでもないので、自由にガシガシ描きましょう。
……いや、今回は見せてますけど。
公開に当たって、特に修正とかはなし。
ノートにも、らくがきしたりしています。
まあ、なんとなくイメージが分かる感じになってますよね。
……金具とか留め具大好きなのが分かる感じにはなってますね。
ちなみに、下の留め具デザインは左が採用されました。
右の方が楽なんですけどね。左の方が好きなんですよね。
・表紙デザイン
表紙デザインは、『短剣をくわえた蛇』を基本としつつ、蛇さんだけでは寂しいので、波紋と波紋がぶつかって打ち消し合うようなデザインも追加して……。
※計画がA5だった時のデータ。黒枠追加。
『こう』なります。
大きな同心円を、勘で作って配置。
……勘ですよ。
数字を整えれば心地良くなりやすいですが、全てをきっちり合わせるのは……作業も大変なので。
そもそも、物理的に作る場合、そこまで細かく設計しても、どうにもならない事も多いですし。
……多いですし。(戒め)
※計画がA5だった時のデータ。黒枠追加。
どこを、どう切り抜くかにナンバリングしておきます。
ちなみに、黒の濃度を10%ずつ落として、濃淡で視覚的に見分けられるようにしています。
「1」が一番分厚くて(濃くて)、「6」が薄い。
デザインを『自分に』分かるようにするのは大事な事。
完成品としてのデザインは他人に見える必要がありますが、設計段階としてのデザインは、自分に見える必要がある。
頭の中にしかない絵を、ラフイラストやメモで、形にしていくのは大事です。
……っていうのを踏まえて、6枚分のデータを用意。
ただし、一番下は台紙なので、実質は5枚ですね。
左上のナンバリングの「0」は全てを重ねたもので、一つ前の、濃淡で表現した完成予想図の色抜きです。
この中では、「1」が一番上、「5」が一番下。
さらに、真の一番下である、無加工のままの厚紙である「6」に重ねていく……という形になります。
もちろん、イラストを重ねても立体にはならないので、空白部分を切り抜きます。
1~4はどこを切り抜くか察して下さい、というやつですが、5だけはややこしかったので、「×」マークを入れています
・カッティング
一応デザインで見分けられますが、隅にナンバリングを振っておきましょう。
コピー用紙に印刷して、スティックのりで0.5mm厚の白厚紙(ほぼA4)に貼り付けて、カッターで切り抜きます。
……言うだけなら簡単な事って、この世には沢山ありますね。
あ゛ー、なんで私、この曲線多いデザインにしたかなー? と思いながら切り抜きます。
とりあえず仮組み。
まだ接着されていません。
後、タイトルが切り抜かれていない。
斜め上から見るとこう。
立体になっています。
これは、切り抜かれたパーツを積層したもの。
後で使います
そして、タイトルの「Lord of Disease」を、一番上だけ切り抜く……んですけど。
つらあ……。
なんでこんな細かいの切り抜かされてるの? わたしなにか悪い事しました?
デザインナイフの刃を研いでおいてよかった。
(※一般的には、刃を交換して下さい)
O、D、Aなど、『穴』がある文字は、中身も切り抜いて、ボンドで接着します。
「A」の文字だけは、切り抜くのに失敗したので、別途パーツをでっち上げる。
さらに四隅に、金具用の穴をパンチで開けます。
ハサミでパンチの穴を繋げる。……後でまた触れますけど、要らなかったかな、この工程は。
「3」と「4」は、後で金具を固定するために、小さい鋲用の穴の間に、さらに細長い穴を開けます(写真右側)。写真は「4」。
その後、6枚を順番に水溶きボンドで接着。
水溶きボンドは、そのまんま、水で溶いた木工用ボンドです。濃度は塗りやすいまで、適当に薄めます。
霧吹きとかで、ちょっとずつ足していくのがオススメです。
水溶きボンドはとても便利なのですが……水っ気のせいで、反るんですよねえ。
仕方ないので、1枚ごとに本を載せて反りを押さえる。
さらに、表表紙と裏表紙を、交互に貼り付けして乾燥時間を稼ぐ。
貼り付け完了。
表表紙の表側……「表」の漢字が多い。
ここで、過去の自分、そして同じような事をやる同志に向けて一つ叫びます。
そのコピー用紙を引き剥がせ、今すぐだ……!
……スティックのりで、割とがっちり張り付いていたので、無理せずに剥がさなかったんですけど。
ここは無理すべきだった。
切り抜きが終わった時点で、剥がすべきだった……。
ぴらぴら浮いて、作業しにくいし、多分強度にも悪影響が出テル……。
語尾が思わずカタコトになってしまうレベルで精神が汚染された。
(※ただの誤変換です)
あんまり需要はなさそうだけど、これは裏表紙の裏。
繰り返しになりますが、穴と穴を繋げる必要はなかったな……。
地味に手間だったのにな……。
……ものづくりには、後から分かる二度手間や無駄はよくある事です。
でも、それは次のものづくりに、絶対に必要なデータです。
もしかしたら、今作っている物よりも価値が高い。
『成功』は大事です。成功したから次に繋がる事も多い。
成功から得られるデータには、莫大な価値があります。
でも同様に、失敗のデータもまた、かけがえのない価値があります。
今しかできない事がある。
次のために。未来のために。
備えとは、準備とは、基礎とは、あらかじめ蓄積しなければならないから。
だから、計画を、工程を、その結果を記録しなければならない。
そうすれば、次は間違わない。
あるいは、『違う間違い』をできる。
新しいデータが、手に入る。
その積み重ねだけが、過去にはできなかった『何か』を実現してくれる。
私は、そう信じています。
だから私の屍にもきっと意味がある……。
……とは、微妙に信じ切れないでいます……。
だって絶対に、低予算で無理をした設計のしわ寄せがきて、現場がどうにか誤魔化してるだけだこれ……。
でも、その泣き言も記録して、次に行きましょう。
大変貴重なご意見をありがとうございました。参考にさせていただきます。
・背表紙
背表紙の幅=本文の厚み+(表表紙の厚み+裏表紙の厚み)です。
今回は5cm+(3mm+3mm)=5.6cm。
もう少しあっても……良かったのかな?
古書のイメージがある出っ張りは、今回は紐。
初期の製本技術では必然だったディテールですが、現在は飾りです。
参考にした、ある本の著者さんは「必然性のないディテールだから必要ない」というスタンスでした。
分からないでもない一方で、そんな事言ったら、凝った装丁とか全部が飾りじゃないですかー、という気分にもなる。
……ただ、このディテールを採用しない方が、装丁は楽ですね。
それでも、この出っ張りが欲しかった。
背表紙は電化製品が入ってたちょっと固めの5mm厚ダンボールを二枚重ね。
指で曲げて、なんとなーく丸みを出します。
最後に紐をボンドで貼り付けています。
ボンドが紐にたっぷり染みこんで、カチカチ。
ちなみに今回は、背表紙にタイトルはなし。
本棚に入れず、表表紙を見せるディスプレイを基本と考えている……というのもあります。
表紙のデザインと下準備が終わったので、次回からいよいよ装丁です。
次回は「古書9 ~表紙・装丁~」です。