古書7 ~本文・製本2~
……果たして本当に中まで乾燥しているのか……? (挨拶)
コーヒー液に、糸綴じまで終わった本文を放り込んだ前回。
こんな事して大丈夫かな……と、ひどい絵面に後悔した事もありました。
でもなんて言うか……通常の手段では、絶対に手に入らないデータが記録されていく事に喜びを覚える。(マッドサイエンティスト感)
・ながい乾燥
乾燥期間は、22日。
……乾かなくて。
本っ当に乾かなくて……!
分厚すぎたし、ガチで濡らしすぎた……。
ネットでも意見の分かれる、『濡れた本の復旧方法』を参考にしたんですけども。
本をお風呂に落としたって言っても、その状態で何度もページめくって、しつこく中に水を送り込んだりしませんよね。
さらに、6日間放置したりもしませんよねえ……。
なるべく一日に一度、上下の新聞紙を取り替えて……とやってはいたんですけど。
大丈夫かな……という不安に怯える日々。
ページが開けた時は、ほっとしました。
……次回があれば、本の形で、コーヒー液に放り込む事はしない気がします。
個別に染めるのも、多分それはそれで大変なのだと思いますが。
『次』があるなら、やり方は違っても、私はきっとまたコーヒーで本を染める。
……だって。
苦労はしたけど。
大変だったけど。
この絵面!
年月を重ねたモノだけが手に入れられる気品と風格!
このやり方だからこそ出せる、この古び方……!
自分の心を、ビジュアルで殴り倒せるだけのパワー!
どこを切り取っても絵になる……。
ここに来るまで、すっごく苦労したけど……。
……でも、いい感じの所は、本当にいい感じすぎる。
本当にコーヒー液にぶち込んで大丈夫なのかな……と思っていて、まさか、ここまで浸からない方面に苦労するとは思わなかったんですけど。
……『浸かりすぎる・汚れが強すぎる』方面を恐れていたんですよね。
この後もたっぷり苦労する事になるんですけども……それでも、特に外側の浸かり方は最高です。
少し早いですけれど――「これを見るために苦労した」と言える。
『こう』したかった。
たとえ、ちょっと精神の一つや二つ犠牲にしても。
どれだけの時間が掛かったとして、『これ』をつくりたかった。
満足感に浸りつつ、恐怖の内部チェックがはじまります。
・未知すぎて、見たいけど見たくない中身のチェック
上下には、新聞の印刷が写らないようにコピー用紙を当てていたんですが、そのコピー用紙の一部が張り付いたりしていて……頑張って傷付けないで取り除く。
ページをめくるのも、張り付いていないか、破れないか、おそるおそるで。
こわい。
それでも、怖がりながらも、時々張り付いたページを引き剥がして、ページをめくっていきます。
このページとか、
「右上は理想の浸かり方」
「真ん中はまあまあ」
「左下はほとんど浸かっていない」
……と、理想と現実が綺麗にグラデーションしてますね。
このページとかも、真ん中が浸かってない……。
……あれだけ漬けこんだのに?
本当に『外側』は完璧なんですけど。
とは言え、それは後でなんとかします。
最優先は、ページを全部めくれるかのチェック……。
合間合間についつい読む。あー、この作者さん好みだわー。
作者ですけど、一言一句覚えてるわけではありませんし、なんだかんだ結構時間が経っているので、新鮮な所もある。
読者様から、「2周目行ってきます」とか「もう1回読み返してきます」とか「何回読み返したか分からない」と言って貰えるのは、とても嬉しいです。
私も、何回読み返したか分かりません。(ちょっと意味が違う)
……ちなみに、印刷後にも、少しだけ誤字や怪しい表現を見つけたりして。
この古書版よりも、『小説家になろう』で読める方が最新です。
とりあえず、さらなるエイジングは後にして、製本を進めていきます。
・接着剤の選定
実はギリギリまで迷ったのが、製本に使う接着剤……。
採用したのは「木工用ボンド」……を水で溶いた「水溶き木工用ボンド」です。
他の候補は「グルー」。
大雑把に言うと、木工用ボンドは水に弱く、グルーは熱に弱いです。
強度は若干ですがグルーが上。
最終的な決め手は「グルーは乾燥時間が早すぎる」事。
大判本かつ、背表紙にディテールがあるので、アイロンなどを押し当てて後から溶かすのも大変……と、木工用ボンドに決定しました。
そしてグルーのメリットとして強度がある事が挙げられますが……逆に言えば「強度がありすぎる」とも言える。
何かを作る時は、それの破壊方法を考えておくべきです。
修理・修復する際に、工程を逆回しして……つまり、一部を破壊して、再びやり直す事を前提に、設計する必要がある。
あるいは、強度というリターンと引き替えに、やり直しが不可能であるというリスクを負うか。
今回は、水に放り込めば、力ずくで結合を解けるようにしてあります。
いえ、あくまで最悪の場合ですけどね……。
この製作記をここまで読んで下さっていれば、よく分かってもらえると思うのですが、人は……ミスをするものです……。
だから私は、ギリギリまで、それを壊せるように考えて、物を作る必要があると思うのです。
……ミスをしない自信があれば、それはそれでいいんですけど。若さが眩しい。
それでも、言いたい。
言わせて欲しい。
人は、ミスをするものです……。
・丸み出し
ボンドを何筋か、本の背に塗って、軽く止めて乾燥させます。
そうした背表紙をゴムハンマーで叩くのが「丸み出し」作業。
ちょっと丸くなった……かな?
技術はもちろんですが、パワーが足りない気もする。
ゴムハンマーではありますが、かなり力を入れてぶっ叩く、力のいる作業です。
一説によると、本職でも満足いくように出来るのは十年以上掛かるとか。
でも大事なのは、自分で本を作るためにハンマーを振るえるのは自分だけだという事です。
プロの技術に敬意を払うのは大事な事ですが、それと、自分の技術向上を図るのはまた別の話。
……あんまり丸みは出なかった気がします。
この糸綴じ方法だと、本格的な丸み出しは無理なのでは?
……という気がしなくもない。
・寒冷紗
本文の背に、寒冷紗を貼ります。
荒い織りの薄布ですね。園芸資材として使われる事が多いでしょうか。
……多分これ、寒冷紗だと思うんですよね。多分。
手持ちの素材の材質を断言できないのは問題あるかもしれない。
きっと寒冷紗。
手触りがざらっとしていて、光を通す網のような荒い目で、伸びが良い布らしきものは、寒冷紗の条件を満たしている。
そう信じて、背表紙の幅+2cmぐらいに切り出します。
そして、水で溶いた木工用ボンドで貼ります。
……また後で分かるんですが、もう1~2cmずつ幅広でも良かったかな……。
寒冷紗は破れなかったんですけど、その隣が破れたので……。
後で隠れますしね。
長すぎても無駄ですが……『大判本』の自重を……軽く見積もりすぎていた……。
とりあえずこれで完成。
表紙ができたら、他の接合用のパーツも作って、表紙と合体させる……という流れになります。
・カビ対策の話
感想でカビについて指摘して下さった方がいて……心配してくれて嬉しいです。
そういうわけで、念のために注意書きと、対策の話。
コーヒー液に浸けるという事で、カビが生える可能性があります。
……また後にカビの話も出てきますが、とりあえずここまではカビは確認されていません。(フラグ)
2~3ヶ月経過した現在も、異常は認められておりません。
冷凍に耐えるカビもいるので、冷凍は絶対ではありませんが、しないよりはマシかなとも思う。
対策は基本的なもの。
・季節を選ぶ
頑張れば夏~秋に作業できたのですが、冬まで待ちました。
なるべく低い気温で作業したかった。(フラグ)
・風通しをよくする
乾燥は風通しのよい場所で。
たまに開いたりして、より早く、確実に乾燥させたい所。(フラグ)
・いざという時は全廃棄する覚悟を持つ
……その覚悟なしにコーヒー液に印刷・製本済みの本文を放り込めない。
1枚ずつエイジングして、きちんと乾燥させてから製本するやり方だと、どこかおかしくなっても、交換で対応できるメリットがあります。
……私が採用したのは、全賭けするタイプのエイジング方式ですね。
この製作記を読んで自分でもやりたくなった方は、自己責任という言葉を胸に抱いて、自己流で改良して頑張って下さい。
……エイジングの部分を無視したら、ちょっと工夫しているだけの、ごく普通の製本だと思います。
多分。
なお、フラグはのちのち回収されます。
次回は「古書8 ~表紙・デザイン~」です。




