古書6 ~本文・漬けこみ~
私はいったい何を生み出してしまったんだろう……。(挨拶)
私はただ、本のページを古びさせたかっただけなんですけど。
求めるのは「古書感」。
よって、「コーヒー液」に「本文(製本済み)」を漬けこみます。
つまり『コーヒー染め』ですね。
割とメジャーな技法で、布はもちろん、紙を染めるのも定番です。
本を丸ごと漬けこんだ人は……ぱっとは見当たらなかったんですけど。
なお、大変な思いをした割に不満点も多くて、反省点も多かったり。
……だから、いないのか?
でも、色々あったとは言え、良い雰囲気になった部分もあるので、参考になるデータは取れたと思います。
成功した事、良かった事だけを見せるのも、もちろん記事執筆に必要なリソースや誤解防止という観点からすれば大事だと思うのですが。
欲しているのは技法の解説と同時に、ミスとそのリカバリーのデータだったり……。
うちは、そのリカバリーのデータは多いですね!
……ミスが多いからですね。
まともな組織では行えない、貴重な人体実験のデータ感も出てきた。
……何が悪いのかな……。
低予算かな……。
好奇心かな……。
両方かな……。
・概要
ステップ1、「コーヒー液」を作ります。
ステップ2、「本文」を放り込みます。
ステップ3、乾かして完成です。
1ミリも情報が増えていませんね。
でも、この順番に解説していきます。
・コーヒー液
『コーヒー染め』なので、コーヒー液を用意します。
ちなみに紅茶でもいいです。好み。
まず、コーヒーを淹れます。
フィルターとコーヒーの粉で淹れるドリップタイプ。
個人的に、予算と好みが丁度いいバランスの淹れ方です。
濃さはもちろん好みですが、おおむね、粉のパックの規定量で淹れています。
おおむねと言うのは、水以外、目分量だから。
私はカフェオレが好きです。
基本はコーヒー少なめ。最近はちょっと豆乳を入れてコクを足したりします。
ブラックコーヒーも好きと言えば好きなのですが、色々と濃いので1杯飲むのは……どうしても起きていたい時、死ぬほどしんどい時、すごく楽しい時、チョコケーキをがっつり食べたい時……でしょうか。
最近は、カフェオレに、小さなカップでブラックコーヒーを添えたりも。
っていうコーヒーの思い出を語りながら、フィルターに残ったダシガラを、別によけておきます。
……コーヒー本体? 飲む以外の選択肢が?
濃いのが欲しかったら、初淹れを使う選択肢もあるとは思いますが。
1回あたりのダシガラの乾燥重量が40~50グラム。
乾燥時間も違うので数字はアテになりませんが、1回分につき、400mlの水を入れて煮込みます。
さいばしとかで適当に焦げ付かないように混ぜながら、沸騰するまでやって、冷ます……という流れ。
ただ、熱い方が浸かりやすいという話も聞く。
色合いは、もう少し濃くても良かったかな?
次回があれば多分水を減らしますが、今回はこれで通しています。
その後、濾します。
コーヒーを淹れたフィルターを再利用してもよし。
後片付けが楽なので、少量ならオススメです。
(何度か追加で作っていて、その時はコーヒーフィルター再利用です)
量が多い時は、ザル+キッチンペーパーなど。
これを、なんか丁度いい容器に入れます。
ラベルがありませんが、多分おせんべいか何かのアルミ缶。
……祖父母の家にはなぜこういうお菓子が常にあって、うちでは食べないから持ってけと言うのでしょう。割と謎。
しかもどうも、うちだけではないらしい。
理屈を超えた何かがこの世界の裏側にうごめいているのを感じつつ、とりあえず本文を入れたアルミ缶に、コーヒー液を満たす。
ちなみに当初は、唐揚げに味を染みこませる際の手順を参考に、ビニール袋に入れられないかな? と思っていたのですが。
……このサイズを入れられるビニール袋が少ない上に、それは破れたので……。
(※当初このアルミ缶は、こぼれた際の保険だった)
本の強度が不安なので、持ち上げる時のために、下にアクリル板っぽい何かを入れています。錆びない物なら適当な板でいいと思う。
きちんと体積計算もして、本文用紙が浸かる分量になっている――
……はずだったんですけど。
……ん?
うまく……浸からない?
……ここで、この地球上にある、当たり前の力を忘れていた事に気が付く。
その力の名前は、『浮力』。
そっかー。お前、浮くのね?
あんなに重いのに、浮くんだね……?
とりあえず反射的に、憎い仇を溺死させんとする犯人のように押さえつけて沈めてみる。
……が、浮く。
染みこんだら重くならないかなと期待したけどダメだった。
とりあえず一日経過させてみる。
早ければ一日で漬けこみ終わるよね、と思っていました。
………………。
…………。
……。
そして一日後。
……全っ然染みこまないな?
おかしいな……浮力があるとは言え、下半分は常に水没しているのに……。
端にしか水(薄いコーヒー)が染みこまない……。
思わず「本 水没させる方法」「本 水 染みこませる」で検索するも、参考のために嫌と言うほど見た水没した本の復旧方法しか出てこなくて、検索履歴をひどい事にしただけで終わった。
……このまま放置はしたくない。
仕方ない。シンプルな手段で解決しよう。
重石をのせて沈める。そして期間を延長する。
ステンレスの料理用バットの上に、(濡れ・錆び防止のために)ビニール袋に入れたダンベルを載せて無理矢理沈めました。
水を入れた500mlペットボトルで、より沈みやすいようにかさましする。
(ゆったり入りたいので使った事のない、お風呂のお湯を節約するテクニック)
さらに、一日に一度、上下をひっくり返し、その際にページをランダムに開いて流し込む。
……まあ結論から言うと、それでもいまいち染みこまなかった気がします。
なぜ?
本の水没・乾燥実験した人達の多くが、「中まで染みこんで、乾かすのは大変だった」って言ってるのに……。
なぜ、こんなにも丁寧に沈めているのに、むしろ茶色くなってない部分の方が多い……?
正直謎。糸綴じのせいでしょうかね……。
それともコーヒーの粒子が溶けきっていない?
テストでは綺麗に染色できたので、こうも染み込みが遅いのは……温度?
最終的な漬けこみ期間は約6日で、24時間ごとに上下をひっくり返します。
一日一度、寝る前に様子を見る、とも言います。
日記の作業メモを元に、簡単な経過を。
・漬けこみ1日目
慣れない作業にわたわたする
約12時間で様子を見てみるけれど、あまり変化なし。
明日になればきっと……と期待する。
・漬けこみ2日目
寝る前に様子を見る。
慎重にめくってみるが……あまり染みこんでない?
ページをめくって、間にコーヒー液を送り込んだりしてみるが効果は不明。
重石(ダンベル)を載せる。
……長期戦の予感。
・漬けこみ3日目
寝る前にひっくり返す。
あまり変化がない。
染みこむのが早いか、紙が溶けるのが早いか、インクが滲むのが早いか、チキンレース感ある。
・漬けこみ4日目
寝る前にひっくり返す。
……いい感じの所とそうでもない所が入り混じるのはどうしたものか。
・漬けこみ5日目
寝る前にひっくり返す。
コーヒー液に手を入れると、明らかにぬめっとした……。
このぬめりは排水溝を掃除する時のぬめりと同質としか思えないという現実から目をそらす。
納豆か山芋かオクラを食べている時以外で、口の中でこのぬめりがしたら吐き出すか迷うラインという現実からも目をそらす。
明日には引き上げよう……。
いまいち染みこんでないように見えるけれど……。
染みこんではいるのかもしれない。薄いだけで。
作業後の手のにおいが、少しツンとするような気がしつつも、かろうじて酸味強めのコーヒーのいい匂いと言えなくもない……という事実を心の支えにして、もう一日沈める事にする。
腐敗臭だったら詰んでた。
・漬けこみ6日目
寝る前に引き上げ。
幸いな事に、腐敗感はない。
なるべく水気を切り、ビニール袋に入れて、冷凍庫にイン。
――という流れ。
なんで冷凍庫に入れているのかと言うと「水没させた本を元通りにする方法」を調べた結果です。
ジップロックに入れて、封はせず、縦に置いて冷凍庫に丸一日……だそうです。
……ただ、「縦に置け」という指示だけは、あまりに大きすぎて無理だった。
出来る限りに斜めにはした……けどそれで良かったのかどうか。
ちなみに、この製作記がこんなにも遅くなったのは、作業量がひどいとかもありますが、夏の間は冷凍庫が一杯だったというのもあります。
ちょっとシャワーで洗い流したり。(古書 in お風呂場)
外側は満足な浸かり具合です。
外側『は』。
閉じていれば古びて見えて、開けば読みやすい浸かり具合……と言えなくもありませんね。
苦しいかな。
苦しいな。
・冷凍庫に古書があるとなんかちょっとそわそわするのに耐える
浸かっていた本文の外側を綺麗にしたら、なるべく水気を切った本文をビニール袋に入れて、冷凍庫に入れます。
冷凍期間は約60時間。
3日ぐらいですが、都合がつかない日は放置していたとも言う。
……絵面の圧がすごい。
ビニール袋から取り出す前にチェック……霜ついてる。
軽く叩いてみると、コンコン、という音がする。
スイカなら包丁が折れますね。
本の「小口」。
凍って白くなってますね。
ちなみに自立します。
わー……取り出す前に思ってたより、がっつり霜。
染み出した水分でしょうか。そうであれ。
パリパリと霜を払い落とす。
……カチカチですね……。
糸綴じ部分が、度重なる「ひっくり返し」に耐えかねて裂けてる……。
知ってたけど……。
(※破れは、冷凍前からです)
というか凍りすぎていて、「永久凍土の下から掘り出された一冊の紙の束。それが全ての始まりだった――」みたいな事に。
表。
白い所は全部霜です。
右上の方も薄く氷が張ってますね。
裏。
やっぱり白い所は霜。
とりあえず、霜を落として、落としきれなかった霜が室温で溶けていく水分を、ボロ布でぬぐいつつ、色々とスタンバイ。
基本的には、以下のスリーステップです。
ステップ1、インクが写らないように本文の上下にコピー用紙を一枚挟む。
ステップ2、上下に新聞紙を当てる。
ステップ3、ありったけの大判本を、筋力と高さの許す限り載せる。(図鑑とか)
見た目は、だいたいこんな感じ……。
凍っているのが溶けたら、紙を間に挟めるといいのですが……コストと、無理に開いて破損するのが怖かったので、今回は断念。
上下の新聞紙は、こまめに取り替えます。
こまめと言っても一日おきぐらい。最初は染み出す水分も多いので、半日ぐらいで一度様子を見たいかなと思います。
新聞紙はなるべく多めに。
重石の本を濡らさないためにも、特に上には、何か一枚板を挟みたいですね。
理想は、ステンレスのような水に強い金属かつ、分厚い一枚板で挟みたい。
というか『理想』と言うなら、プレスマシンとかで限界まで圧力を掛けたい……?
最終的に冷凍が必要だったかは微妙な所。
単に凍らせてみたかっただけ疑惑もある。
・『第二弾』があるなら?
現時点では、第二弾の予定はない……のですが、いつかまた製本したくなる気がするので、手に入れたデータから、次はこうしたい、というのをいくつか。
(※順不同)
・製本前にコーヒー液に浸ける。
第一はこれ。浸透が足りなかった。
一枚ずつやるのも面倒なんですけど……。
この状態で製本するのも不安なんですけど……。
・コーヒー液の温度を上げる。
多分、温度が高い方が浸かりやすい。……多分。
(※当初、煮出した直後のコーヒー液を使った実験の方が浸かりが良かった)
これを踏まえると、ホットプレートにコーヒー液を張って熱して、何枚か入れて、ある程度溜まった所で(持ち上げても簡単に破けない枚数になった所で)引き上げる。
……というのはどうかな? という妄想。
網戸的な物を利用して、引き上げ&水切りをしやすい形にしたり……。
・そもそも染めない。
いきなり全否定入った。
……いや、「茶色いA4用紙」が売ってる事に途中で気付いたんですよね。
今回は手持ちの紙もあるし、コーヒー染めのランダム感も欲しかったし……。
何より「紙の目」が表記されていなかったので手を出さなかったのですが……。
値段も割と安かったので「大量生産」をするなら、これ一択な気がしてくる。
……いや、大量生産の予定はないんですけどね。
大量生産を前提に考えるのが好きなんですよね。
説得力がないかもしれませんが……。
私が作るものは全て「大量生産のための試作機」であり、そのための技術試験なのです。
……説得力がないかもしれませんが。
「人柱」と言い換えると、少し説得力が出るかもしれません。
セルフ人柱……。
・コーヒー液を霧吹きでスプレーする。
↑の「茶色い紙」と組み合わせて、ランダムな汚れを演出しつつ、コストを押さえる。
また、これと組み合わせて、製本した後、「小口」だけコーヒー液を塗ったりするのも、端の汚れだけはリアルに演出できそうかな、と思ったり。
ただ、霧吹きが詰まりそう……?
・レーザープリンターを使う。
……なんでこんなに耐えてくれたのか分からないぐらい、滲みとか怖かった。
今回は意識したら絶対にできない、「味」と割り切るにせよ、インクが反対のページに写ったのはありますし、思ったより使わなかったとは言え、一枚あたりの印刷コストも考えると、正直インクジェットプリンターは今回のやり方に向いていない。
それでもインクジェットを使うなら、
「文字をそもそも黒で印刷しない」(焦げ茶など)。
「カラーイラストを入れる」
などの、インクジェットならではの利点を生かしたい所です。
今回は、「手元にある」という最大の利点が生かされた形ですね。
・汚れを印刷する。
今回は自動でランダムに汚れを印刷してくれる機能を使いましたからね!
……ちなみに本文印刷が終わると、なんかちょっと調子が良くなった、かも。
大量印刷で、どこか汚れが落ちたかもしれない。
それはそれとして、「自然な汚れを印刷する」というのはありかもしれません。
……ランダムな汚れを何パターンも作って、適応させるのが面倒だったというのもありますねー。
創作をする人にはそれぞれ、好きな面倒くささと、嫌いな面倒くささがあるものです。
・紅茶染めをする。
今回はコーヒーでしたが、紅茶もいい色合いが出るんですよ。
欲しい色合いや、普段何を飲んでいるかなどで、こちらを選んでもいいと思います。
……こういう本を「たくさん作って積んでみたいな」と思わないでもありませんが、とりあえず第二弾の予定はありません。
でも、やるなら、こういった新技術を試してみたいですね。
次回は「古書7 ~本文・製本2~」です。