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古書1 ~本文・紙の選定~



 古書は好きですか? 私は大好きです。(挨拶)



 でもまず、『古書』にする前に、『普通の本』を作る事が必要です。


 つまり、紙が必要です。





・小説を用意する



 この製作記の趣旨は「自作小説を古書(魔導書)っぽく製本する」なので、小説の用意そのものは省略します。



 私が用意したのは、もちろん『病毒の王』(EX)。



 「本編」と「EX」があり、EXは完結後番外編、という扱いです。


 全体の分量が多いので、さすがに全部は無理だった……。

 でも、EXだけでも分量は多め。


 今回は、印刷コストやレイアウトの観点から、本文中に存在する挿絵イラストはなし。


 開いた状態でディスプレイする事などを考えると、「それらしいイラスト」があったりすると雰囲気がぐっと増すとは思います。


 図鑑っぽくしたり、手記っぽくしたり……昔の博物学のイラストとかもいいですよね。


 ちなみに英語にしたりアラビア語にしたり、ルーン文字のような特殊フォントを使ったりと、「それっぽい本」を作る手法は色々あるのですが、今回は「本として普通に読める」事を重視しています。


 どんな本を作りたいのかを意識しておくのが一番大事ですね。





・紙を用意する



 まず、紙を発掘します。



 自室のクローゼット――と呼ばれるべきだったもの――をじっと見る。


 クローゼットなのはクローゼットなんですけど。

 服なんて一着も入ってないって言うか。


 未開封の引っ越し用ダンボール箱が満載されている。


 生活に必要な物は既に開封済みなので、つまり中身は『趣味の物』。

 四回の引っ越しを経て、段々と開封率が下がってきた。



 ……これのどこかに、お目当ての物がある。はず。



 ……ほとんど……そう、ほとんどは、中身を把握している。

 箱の中身を、太いマジックでなるべく分かりやすく書くのは、引っ越しにおいて大事なルールです。


 とあるダンボールに目をやると、見やすいところに中身が書かれていた。

 えーっと、ふんふん。



 昔の物など



 嘘をつかない範囲でなるべく分かりにくく書くルールでも?

 昔の何が入ってんの?


 私の字ですね。


 でも、何を詰めたか思い出せない。


 ……引っ越し屋さんに詳細を隠したいほどの物も、別にここで語れないほど危ないもの(性癖的な意味で)は、入ってない。……はずなんだけど、なんか自信なくなってきたような。


 単純にダンボールに本やら漫画やらを詰め続ける作業に疲れ切って、開けたら分かるぐらいの気持ちで、シンプル(言葉足らず)に書いてるだけだと思う。


 多分。

 何が入っているかは、今も分かってませんけど。

 開ける勇気がなかった。


 まあ、それはさておき。



 お目当ての物は、紙。



 当然のように重い。クソ重い。

 そして優先度が低い。

 安全度も高い。


 つまり――底にある。



 ……この、前の住人が置いて行ったベッドで下半分が塞がれた、日常的に開ける気が一ミリも感じられないクローゼットの、底から、掘り出せと。



 ……まあ、なんとか掘り出して開封。――よし。一発で当てた!

 ちゃんとした人の押し入れは、目当ての物を引けるかどうか分からないギャンブルではないんだろうな、と思いつつ、とりあえず他のダンボール箱をしまい直す。


 その作業中に、ダンボールの一つに書かれた文字が目に入る。


 側面に書かれていたので、最初は気付かなかったらしい。

 太いマジックで、けれど控えめに、私のものらしき字で書かれているのは。



 未開封限定



 ……未開封限定?


 ……アレかな……。

 いや、アレかもしれない……。



 『未開封限定』というキーワードを見ても、中身の断定ができないの怖い。



 自分で詰めたはずなんですけど。


 開けて確認しようかとも思った。

 でも、ちゃんとガムテープで封をしている方が安心だし。



 なにより私には、深淵を覗き込む勇気がなかった……。



 そっと見なかった事にしてもう一度クローゼットに押し込む。(適当)


 中身を把握している物も、自分で書いたのによく分からない物も含めて、そんな未開封のダンボールが――クローゼットに入りきらないものを含めて――22個ある現実からも目をそらす。(重ねて適当)


 よくあること。一般的なクローゼット。(重ね重ね適当)



 ちなみにいわゆる『ベッドの下』は収納になっています。



 殺人鬼が潜めたら隙間妖怪認定する。


 前の住人が何を入れていたか定かではありませんが、今はここも『趣味の物』が入っている。

 趣味の物には、持っているだけで幸せな物もあるので、多分そろそろ二年ぐらい開けてない。


 持っているだけで幸せとか言いつつ、入っている物を正確に把握していない時点で、人としてどうなのかという気はする。


 私は一体、何の上に寝ているのか。



 とりあえず見なかった事にしていいですか? いいですよね。(断定)



 人に歴史あり、と言いますね。


 でもクラフトって、こんな探索から始まるものだったろうか。

 もうクエストなんじゃないだろうか。


 そんな事を思いながら、戦利品(?)をチェック。




挿絵(By みてみん)


※厚み違いで3セットあります。



 ……紙厚を変えて複数注文していたらしい。私だなあ……。



 あ、人の心の闇を具現化したようなダンジョンを探索せずに、店舗なり通販なりで紙を入手する人はここからスタートです。





・紙の選定



 今回は、コピー用紙を使用。


 「クリームキンマリ」という、少し優しいクリーム色をした紙です。


 目に優しくて、裏写りも少なめなんですよ。




挿絵(By みてみん)



 この紙は……かなり昔に手に入れた紙です。

 なので、正確な値段が分からない……。


 ……せめて参考にと、メーカーの現在価格を見ようと思ったんですけど、倒産してたんですよね。

 悲しみ。



 今回は、発掘品が3種あり、選択肢があるので、最適な物を選定します。



 まず選択肢は、


「36.5」

「46.5」

「57.5」


 ……の3つ。


 ええと、多分この数字は「連量(れんりょう)」なんですよね。

 馴染みがない言葉ですが、「1000枚あたりの紙の重量」です。


 ……この「1000枚あたり」に統一規格がないらしい。

 メーカーが倒産しているので、他社の同じ数字と比較するのも(現物を用意しないと)できない。



 なので今回は、細かい単位は気にせず、「数字が小さい方が薄くて軽い」という事だけ分かっていればいい事にします。



 ちなみに1000枚ずつ発掘していて、それぞれ1000枚の厚みが、


「36.5」=8cm

「46.5」=10cm

「57.5」=12cm


 ……でした。


 これで、1枚あたりの厚みが分かりますね。


 ページ数が決まれば、本の厚みも出ます。




挿絵(By みてみん)



 ……10cmに見えない重量感ありますね。





・本のサイズを決める



 現実的な選択肢は、A4、A5、A6……の3つに絞られると思います。



 その前に、ちょっとだけ印刷用紙の決まり事のおさらいを。



 A4が、一番よくみるコピー用紙のサイズなのではないでしょうか。

 A5は、A4の半分です。

 A6は、A5の半分、A4の4分の1です。


 B4~B6も、同様に、サイズが半分になっていきます。




・「A6」


 安心の文庫本サイズ。


 今回の選択肢の中では最もコンパクト。


 その分コストが安く、製本の手間も少ない。


 しかし、ハードカバー装丁はある程度のサイズがあった方が、作業がやりやすい所もある。


 大判の方が古書感が出るとも思う。


 印刷形式が「両面印刷&裁断を前提に配置」とカオスで、裁断~製本で地獄を見やすい。乱丁に注意。




・「A5」


 大判コミック。


 文庫本から一段サイズが上がり、だいぶ大きいと感じつつ、ハードカバーとしては丁度いいとも思う。


 ただ、コストが上がり、後述する「紙の目」を最も意識する必要がある。


 古書感は○。


 印刷形式は、A6ほどの地獄はないが、A4ほどの楽さもない。


 A5の本を作るためにA4用紙を使う場合「裁断」以外に「折り」という選択肢があり、作業の自由度が高い。




・「A4」


 大判本。


 A4の紙を裁断せずに使えるのが最大のメリット。


 その分、表紙や見返しなど、本文より大きい紙が必要になる時に大変。


 3つの選択肢の中で、一番サイズが大きいために、コストが最も高い。


 印刷形式は両面でいいのですごく楽。



 結論を言うと「A4」を選択しました。



 写真のサイズ感から察していた人もいるかもしれません。


 まず、3つの選択肢から、A6が脱落しました。


 文庫本は馴染みがありますが、逆に馴染みがありすぎるし、何よりそのコンパクト感は古書(魔導書)の雰囲気とは、少し違ったのです。



 本命候補は「A5」。



 まず、適度な大判感がある。


 次に、倍のサイズの紙(A4)が簡単に用意できる。


 裁断も半分でいいので、ズレにくい。折ってもいい。



 実は、両面印刷テストなども済ませていて、直前までこの形式で全ての計画は進んでいたのです。



 ……では、なぜ直前で計画の全てが破棄されたか。

 そして、白紙からA4のプロジェクトがスタートしたか。


 それは、印刷テストを済ませ、軽くページのめくりなどをチェックしていた時の事。


 違和感。

 ……スムーズに開閉できない。


 あ。



 3種全て、紙の目が「縦目」だった……。



 紙には製紙の都合で「目」ができます。

 「縦目」と「横目」、それぞれ「T目」と「Y目」と表記する事もあります。




挿絵(By みてみん)


 この紙の向きが、ページをめくるのには大きく影響します。

 目に沿って曲がるので……ページをめくるのには、「縦目」が望ましいです。


 ただし、半分に裁断して使うと……向きが変わりますね。

 A5の本を作りたい場合、「A4・横目」の紙が必要とされるのです。



 発掘された紙は全て、「A4・縦目」です。



 ……そっか……。

 この紙……「A6」用……つまり、「四分割裁断」を前提にしてたっけ……。(遠い日の記憶)


 今回は、「古書っぽさ」を目指しているので、めくり心地を重視しないという選択肢もある。

 そもそも、古書にめくり心地を期待するのが間違っているというスタンスもある。 


 でも、めくり心地の悪い本を許せるほど、人間が出来ていません。



 よろしい、ならばA4だ!



 予算の増額を、当初の二倍まで許可する、存分にやれ!


 本のサイズに苦労する凄惨な未来予想図を幻視しつつ、同時に、


「大きい本っていいよね……」


 という幻影を視てしまう。


 視てしまったからには仕方ない。ええ、仕方ありませんとも。



 大きい本って古書感とか魔導書感とか、存分に出ますよね。



 存分に苦労はした。

 後悔はしていない。




 真面目に言うと「目」や、印刷の具合と、次回の「本文データ」で判明するページ数を参考に、厚みなどを考慮に入れて決定します。


 最終的には、以下の4要素を備えた紙を選びました。




種類  :クリームキンマリ


サイズ :A4


厚み  :46.5


紙の目 :縦目(T目)




 次回は「古書2 ~本文・印刷用データ~」です。




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このエッセイを読んで原作に興味が湧いた方は「病毒の王」もよろしくお願いします。

― 新着の感想 ―
[良い点] いくら紙といえど1000枚ともなれば重量感がすごいですね これがどうやってあの古書(風の本)になるのか楽しみです 身に覚えがないものがクローゼットから出てきたとき、過去の自分からプレゼン…
[良い点] 古書いいですよね。匂いとか指触りとか。 安目の文庫タイプだと上は裁断されてなくてぼこぼこしてたり。(昭和の岩○や新chou) 紙の選定の話だけでもワクワクしてしまいます。 紙の目なんて製…
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