古書14 ~金具(設計・鋲打ち)~
古書に不可欠という事はないけれど素敵なデザイン、それが四隅の金具だと思うのです! (挨拶)
なくてもいいんですけどね。
あるのが好きなんですよね。
・金具デザイン
※小マス1mm、大マス1cm(全体は7×7cm)
こんな風になっています。
以前も使ったモチーフ。
絡み合った蔦と葉っぱが好きです。
細かい彫刻とか、丁寧な職人仕事を見ると、なんだか嬉しくなるんですよね。
で、これ誰がやるの?
細かい彫刻とか、丁寧な職人仕事を気軽に要求する設計図を見ると、なんだか「あっ、これ現場の負担考えてないな」って思うんですよね……。
……一応、できそうかどうかテストをしてみる。
方眼用紙に同じサイズを用意して、下絵を……。
した、え、を?
……下絵すら挫折する難易度。
ギリギリ描けるけど、この量は描けない。
まして、厚紙を深く彫り込むのは不可能。
……うん、無理。これは『設計』じゃない。『願望』だ。
雰囲気は伝わるので、イメージイラストとかコンセプトアートと呼ぶのが正しい。
現場判断でそう割り切る。
ただ、その上で、イメージを汲み取り、コンセプトを貫く。
デザイナーと現場が共有した理想のために、最善を尽くす必要があります。
……とりあえず、このふざけたデザインを直そう。まずはそれからだ。
まず、3mm幅に刻むのは無理。5……いや、6mmは欲しい。
それに合わせてスケールを全体的に上げて、線数を整理……。
というわけで、こうなりました。(↑は挫折したので途中まで)
葉っぱの枚数だけでも、147枚から83枚に減っています(多分)。
狂気を感じる数字が、いくぶんまともになっていますね。
……前の数字が狂ってるだけで、決してまともと呼んではいけない気が。
そういうの、交渉のテクニックにあったような……?
……とりあえず(実戦)テストへ。
それでも多少(?)の狂気を感じるため、「一発彫り」「葉っぱは割と適当でもOK」という二つの条件を自分に呑ませる。理想と現実の折り合い、大事。
切り出した5mm厚の黒厚紙に、インクの切れたボールペンでガリガリと彫り込んでいきます。
とりあえず1枚あがり。
……ふむ。
指の負担、許容範囲。
ガイドのトレース率、満足のいくレベル。
作業時間、ほどほど。
……悪くは、ない。悪くは……。
ただ……際のライン彫りだけでいいなら、はるかに楽で『低コスト』になる。
……もう一つ、『テスト』をしてみましょう。
実際にどうなるかは、『頭の中の絵』にしかなかった。
でも、ここまですれば、よりはっきりと、目に見える形にできる。
本の上に、実際そうなるように載せてみる。
……あ、ダメだわこれは。
きゅんときた。
そう、この『絵』が見たかった……!
この絵を、現実にしたかった……。
今さら。――今さら?
コンコルド効果やサンクコストという言葉を知らないではありません。
それは、大事な概念です。
頭の中の絵を現実にするには『コスト』がいる。
――とんでもなく高いコストが。
モチベーションは魂を燃やすとして、時間だけはどうにもならない。
他の事に使えるはずだった時間を、私は今、火にくべている。
そんな事は、知っているのに。
理想と現実は違う。
どこかで折り合いをつける必要がある。
そんな事は、分かっているのに。
――でも、さっきの絵を見せられた後に、『この』絵を許容できるとでも?
ふざけろ。
そんなに人間が出来ていたら、こんなものに手を出すものか。
存分にやれ。
ただ、作りたいものを、作りたいように。
……というわけで、ここで休憩です。
一日の作業終わり。おやすみなさい。
……モチベーションは胸きゅんのおかげで存分に高まっているのですが。
睡眠時間はだめ。それは魂を燃やしても、ほんの短期間しか誤魔化せない。
後、指関節もそろそろ限界なので。
それはまあ、残り7枚の金具を刻印するぐらいなら『もつ』でしょう。
でも、作業は、明日も明後日も、その先もずっと続くのです。
……それに、個人的にはモチベーション高すぎてもそれはそれでミスが多い気がするっていうか。
モチベーションはもしかしたら創作で一番大切なものですが、多分、モチベーションが高すぎると、それだけで全てを解決できる気になるんですよね。
……多分、錯覚だと思う。
・金具、紋様彫り込み
0.5mm厚の黒厚紙を、インクの出ないボールペンでガリガリやるだけです。
モチベーションさえ保てれば、難しい事は何もない。
ただし、指関節はいたわりましょう。
説得力があまりないですけど、反面教師という便利な言葉もありますし。
言っている事とやっている事が、あんまりかけ離れていると、おまいう案件ですけども、それをできている人しか理想や正論を語ってはいけないと言うなら、この世界が良くなる余地などありません。
・金具(側面留め具)デザイン
前回のラフをベースになんとなく数字を決める……。
横が4cm、高さが5.6cmです。
ちなみに側面の「mm」は、『端からへこんでいる長さ』です。
分かりにくい設計図ですが、自分用なので……。
印刷してもいいのですが、それを写したりするのも面倒なので、方眼用紙にダイレクトで描いていきます。
方眼用紙は、頭の中で座標を同期させられるのがいいですよね。
・留め具テスト
側面の留め具は、本をいい感じに閉じたままにしておくための金具……なのですが。
もっと正確に言うと、『本が閉じている間、いい感じのままでいてくれる金具』が必要です。
よりシンプルに言うと、『この金具にはなるべく負担を掛けたくない』。
……厚紙ですもの……。
なので、構造上、多少は負担が掛かる部分なのですが、『多少』以上の負担は掛かって欲しくない。
そのためにはサイズ合わせが必要です。
この留め具は、本文の厚みに合わせて設計されています……が、果たして机上の設計が通用するのかは謎……。
机上の設計は論理的なので、ある程度は信頼できます。
でも、『ある程度』を超えて、机上の設計を信頼している奴は信頼できない。
そんなわけでテストです。
テストを乗り越えた設計だけがいい設計。
……たまに『実戦(でぶっつけ本番の)テスト』という非人道的な事が行われておりますが、なるべく実戦前にテストをしたいと、思っています。
思っているだけかもしれません。
そんなわけで厚紙でテスト。
方眼用紙に書いた設計図を、まち針で穴を開けてトレースします。
穴を増やせば理論上完全な曲線になりますが……大変ですよね。
どうせハサミを入れる時に、多少ズレますし。
なので、ポイントを押さえればOKです。
上の金具には、仮に釘を入れています。
蝶番もテスト。
今回は、机上の設計が上手くいったようです。
一発OK!
いつもこうならいいのに……。
いつもは、一発KOされかけて、足をガクガクさせながらも、ナインカウントでなんとか立つ。
タオルを投げ込んでくれる人がいない。
・金具(側面留め具)切り出し
切り出して、蝶番になる部分を丸みのある物(ペンなど)に沿わせながら、なるべく慎重に曲げます。
パンチで穴を開けます。後で貼り合わせた時に、ぴったり合うように。
そして『短剣をくわえた蛇』をなんとなくで切り出し、紋様を彫り込む……。(写真左)
スムーズに、当初立てた作業予定通りに進行する工程は、とても精神に優しい。
いつもこうなら(略)
・金具(留め具受け・蝶番)
設計図はこう。
青いのは山折りマーク。○が鋲のサイズです。
これより一回り小さい穴を開ける。
畳むので、反対にも穴が必要なのですが、設計図では割愛。
なんてアバウトな設計図だ。
『留め具受け』は、つまようじとビーズです。
先っぽは後で塗装しますが、一応黒くマジックで塗っておく。
・焼きなまし
真鍮の飾り釘を小さな鋲代わりに使う……のですが、後で切断するので、そのために『焼きなまし』を入れておきます。
漢字で『焼き鈍し』と書くように、一度金属を加熱して、柔らかくします。
あの、ほら……みんな大好きな、鍛冶職が炉に刀身を入れて、引っ張り出して叩いて水につけるアレです。
金属を柔らかくして、叩いて成型、水で冷やして硬度を取り戻す……という一連の流れは、まず金属を柔らかくしなくてはいけません。
……まあ、炉とかはないので? ガスコンロですけど?
ペンチでもいいのですが、今回は、"力を入れると開くピンセット"で釘の頭を持って加熱。
珍しく衝動買いした百均アイテムです。
たまに塗装時に使ったり、今回のように使ったり……なくてもいいけど、あると便利、という言葉がぴったり。
写真の左、(焼)マークがあるのが焼きなました釘で、右が未処理。
色合いがちょっと違いますね。
なお、当たり前ですが、火を使うので、火傷に注意して下さい。
写真では見えませんが軍手着用です。
ちなみに、ガスコンロに掛かっているのはやかんです。
お茶を淹れるために湯沸かし中。
……ガスコンロだけを使うのはガス代がもったいなくて。
・金具、鋲打ち
まずは道具を準備します。
金具(厚紙)にリベット、焼きなました釘。
使う道具は、普通のリベット打ち用の道具。ハンマーはゴムハンマーです。
とりあえず裏表紙から。少し学習が見られる。
リベット打ちは、ごく普通に……。
当て布を当てていますが、上手くいかなかった時もあるので、出来はまちまち。
釘の穴もあらかじめ開けてから通して、金属用ニッパーで切断します。
……表紙の『下穴』が繋がっていたのは、釘を金槌で叩いて曲げようとしていた初期の設計の名残ですね。
やってみたら、釘は曲げられたんですけど。
金具という名の厚紙も、一緒に曲がるという事ぐらい、なぜ分からなかったのか。
以前、ガントレットでも(設計テスト時に)やったミスなのに、学習が見られないの、人としてどうかと思う。
……この金具が鉄……いや、真鍮なら、それでもいけたと思うんですよね。
ちなみに最後まで、色合いを金系(真鍮色)にするか、黒系(鉄色)にするか迷っていたり……。
今回は頭の中のカラーリングに従って黒系。
でも、金系の真鍮色も好きなので、いつか真鍮板とリベットと釘でやる時は無塗装でやりたい……。(※『いつか』は妄想です)
なので諦めてニッパーで切断。
わあ、焼きなましのおかげで柔らか。(棒読み)
釘はそのままだと当然すっぽ抜けるので、グルーガンで黒グルーを穴に注ぎ込み、固定します。
……グルーの熱が真鍮の釘に伝わって熱い……。
火傷に注意です。軍手してても熱い……。
ちなみに、この作業前に、塗装に備えて、釘の頭とリベットの頭を紙やすりで荒らしておきましょう。
・慣れ親しんだ嫌な予感
留め具受け部分のリベット打ちをしている時に、『嫌な予感』が。
……予感っていうか。
自分が、ミスをしたという直感……でしょうか。
予め感じると書いて予感なので、手遅れのこれは予感と呼んではいけないかもしれない。
なんか分かる。何を間違えたか分からないけれど、何かがおかしい。
……見つけた。
……リベットが、金具を挟み込んでない……。
……どこか、懐かしいミスです。
ガントレットの時もやったんですよこのミス。
パーツを挟み忘れる……単純にして致命的なミスです。
リベット……カシメは、『叩いてひしゃげさせる』事ではめ込みます。
外す事はできない。外れるようなリベットは打ちそこないだけです。
でも、『壊す』ならできる……。(ペンチを取り出す)
リベットをペンチでひねり外す技は、リベット打ちに失敗した時にしか使い所のない特殊スキルですが、きっちり習得済み。
なお習得条件は、リベット打ちに失敗して、自力でリカバリーを迫られる事。
まあ、ペンチでぐいっとやるだけです。
やる機会があるかはさておき、そんなに難易度の高いスキルではありません。
『するり』、と外れるリベット。
……振り返ると、その軽さに違和感を覚えた、自分の感覚を信じるべきでした。
しかしその時の私は、新品のリベット(小)を取り出して、改めて打ち直す事を選びました。
『ころり』、と転がるリベット。
……ん? ミス?
とりあえず拾い上げ、合わせてみる。
そこで私は気が付いたのです。
……長さが、足りない。
表紙の厚みに、リベット(小)の方はギリギリの長さすぎて、はまらない……。
……つまり、これは、『作業現場のミス』ではなくて。
『設計段階のミス』ですね。
……思わず天を仰ぐ。
ここは、ビジュアル的に絶対にこのリベット(小)が欲しいのに。
でも、はまらない。
リベット打ちの技術がどうとかじゃない。物理的に無理な厚み。
……こういうピンチの時に、頼れる固定手段は?
そう、グルーですね。
――グルーだ! グルーガン持ってこい! グルーは全てを解決する!
リベット打ちをしたように見えるように気を付けながら、グルー(黒)で固定。
予定された強度があって、見た目がよければよし!
なんとか体裁を整える事に成功です。
ちなみにここも、黒のグルーで補強を入れておきます。
釘の方が強度があって楽なんですけどね。
丸ビーズの方が可愛いんですよね。
グルーを信じろ……。グルーは全てを解決する……。
怪しい宗教に傾倒したグルーエヴァンジェリストみたいになりつつありますが、ここらで文字数と写真の枚数がひどい事になりつつあるので、残りは次回に。
次回は「古書15 ~金具(塗装)・書名~」です。




