表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/19

07.路上格闘部の高橋先輩


 俺の通う葵山高校には、奇妙な施設や部屋がある。

 例えばバンジー室だ。

 天井が高く、広い。ただそれだけで『他には何もない』。

 俺はコールドリーダー部を設立しようとした時、このバンジー室を使おうと思ったが、何もない空間が逆に嫌になって見送った。コールドリーディング以外、何も無い男と思われたら嫌じゃないか。


 俺と直也は室内運動室に向かった。

 室内運動室では演劇部や柔道部などが活動しているが、その中でも異色を放っているのが、路上格闘部だ。

 時々、俺と直也は路上格闘部で運動をしている。


「直也、お前......本気で喧嘩したのはいつだ?」

「中二の頃っすねえ」

「フッフフ......お前が狂犬と言われていた時の頃だな。すっかり牙が抜かれてて先輩は悲しいぜ」

「......先輩は別の中学でしょ。どうして知ってるんですか」

「そりゃあ、横の繋がりがあってな。お前の悪名はよく響いてた」

「もう俺、尖がるのは卒業したんで」

「偉いぜお前......フッフフ......! 卒業して俺のところに来るのが偉い!」


 室内運動室は畳のようなものが敷き詰められている部屋だった。畳では無いと思うが、実際のところ、なんて呼べばいいのかよくわからない床だった。とにかく柔らかくて、そこそこの弾力があった。

 俺はバイシクルクランチをやっている高橋先輩に声をかけた。

「先輩ちす! 訓練に参加させて下さい!」

「おお......おお......よく来た。好きなだけやってけ」

 そうして俺と直也は喧嘩まがいの訓練をすることになった。


「先輩、ナイフで人の体を刺したことは?」直也が言う。

「ねえなあ......お前、もしかして」

「いや、さすがに無いっす。でもこれ、良いですよねえ」

 直也が手にしているのはゴム製のバタフライナイフだ。

 切りつけられると、熱く感じる。

「フッフフ......! 自由にしろよ! 俺はいつも通り......得物は無しだ」

「先輩は柔道強いっすよねえ。何年やってたんですか」

「やってねえよ」

「え?」

「独学だ。全部独学で......学んだ!」

 俺は――。

 そう言うなり、直也の体に抱きついて、体を捻った。

 小外刈と呼ばれる技のアレンジだ。

 直也は倒れ、その上に俺が乗っかかる形になった。

「先輩」

「フ......フフ......何だ」

「先輩の負けっす」

「!?」

 俺の脇腹に直也の得物が突き付けられていた。

 素直に俺は退いた。

 直也が立ち上がる。

「やっぱ柔道は武器に弱いっすよねえ。で、どうするんすか?」

「なら――こいつはどうだ?」

 俺は直也の両腕を掴み――。

 巴投げをした。

「先輩」

「何だ」

「痛いっす」

「すまん」

「いや、いいっす。喧嘩っすから」

「そうか」

 と、そこに。

 高橋先輩が声をかけてきた。

「お前ら......俺に挑んでくる気は......?」

「......! 高橋先輩には挑みたくねえなあ」俺は言う。

「同意っす。半殺しだもん」

「......むう」

 高橋先輩はつまらなそうに背を向けた。

 ――チャンス到来。

 俺は高橋先輩の肩に手をかけようとした。

 その瞬間。

 視界が天井に吸い込まれ、意識が遠のいた――。


「......? どうなった」

 俺はずきずきする頭を抱えて起き上がった。

 時刻は一七時三〇分だと、室内運動室の時計が教えてくれた。

「先輩無謀っすねえ。高橋先輩に顎ぶん殴られて気絶っすよ」

「......!」

 俺は記憶をチェックするが、顎を殴られた記憶は無い。

「俺が高橋先輩の肩に手をかけた後か? それは」

「いや、肩に手が触れそうになる前っすね」

「......!」

 高橋とかいう男は思った以上に異常らしいな......フッフフ......!

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「直也、もうちょい運動しよう......フッフフ!」

「大丈夫すか?」

「大丈夫だ。ホラ」

 俺と直也はそれから、簡単に技をかけたり、かけられたりして遊んだ。

 久々の運動は何もかもを忘れさせてくれた。

 殺人鬼を客にしているという現実ですらも――。


読了ありがとうございます。


よろしければ、ツイッターフォローとポイント付与を

お願い出来るでしょうか。


今日の夜(2021/08/30)に続きを投稿します。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ