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06.全てディンプルキー!


 雨の降る土曜日というのは、どうにも気が滅入る。

 俺はそんなことを考えていた。

 日曜日が休息日だとすると、土曜日は娯楽の日だ。なるべくなら晴れていて欲しい。どのようなことをするにしても、だ。


 東京都。北千住。一馬原にて。

 俺は親父のスーツを拝借して道路を歩いていた。雨が降っているので傘を差している。

 これから霧ヶ峰の家を偵察しに行くところだ。

 時刻は午前四時三〇分。金曜日の夜は遅くまで起きているタイプだが、この時の為に早めに就眠した。

 本来なら――。

 親父のスーツは使わず、ネットオークションで売買されている宅急便会社の制服を競り落として使うべきだが、時間を優先した。それに金もかかる。

 俺は片手で器用にマスクと伊達メガネをかけた。それとハンチング帽子も。


 霧ヶ峰の家はちょっとした商店街の外れにあった。

 昭和を匂わせるクラシックな一軒家で、周りに泥棒除けの砂利が敷いてある。

 俺は周囲に人の気配が無いことを確認し、玄関前に立った。

 ――面倒だな。

 俺は鍵穴を見た。鍵穴は、三つあった。

 周囲を再確認し、俺は不正開錠、すなわちピッキングで使用されるピック、つまり先端が少し曲がってる細い棒をそっと鍵穴に入れた。

 ――マジかよ。

 俺は歯ぎしりした。鍵は――全てディンプルキーだった!

 通常、鍵というのはギザギザしているものだが、このディンプルキーは違う。

 ギザギザではなく、くぼみが代わりに存在し、そのくぼみで鍵が開錠されるものだ。ピッキングに強い鍵と言われ、空き巣被害が増加した時に登場したと言われている。

 俺はすぐその場を離れ、遠くから霧ヶ峰の家を観察した後、帰宅した。


「――とまあ、そんな感じだったな。フッフフ!」

「もう警察に録音データ渡して解決で良いんじゃないですか」涼子が言う。

「いや、家の中に入りたい。家の中に戦利品があることを確実に確認したい」

「無理では? ディンプルキーが三つって、ピッキング無理でしょう。素人には」

「まあ確かに。俺の腕前じゃあ、突破出来ねえなあ」

「じゃ、録音データ渡して終わりってことで」

「フッフフ......! まあそう言うな。まだ方法はある」

「無いでしょう」

「ある!」

「何です。それは」

 俺はにやりと笑った。


「正規ルートの構築だ」


 東京都。北千住。おおいわ通りにて。

 鳩が数羽、道を闊歩している。平和なもんだな。

 俺はそこでふと思った。

 もしも日本人が鳩を食べるようになったら――。

 まあいい、俺はそこで思考を止めた。

 天幕をセットし、客を待つ。

 少しして、人影が外に見えた。

「お入りください」

 やはり霧ヶ峰だった。

「先生、先日は家のオーラを見て頂き、ありがとうございました」

「いえいえ、構いませんよ」

 俺は適当なことを霧ヶ峰にメールで送信していた。扉に飾りを付けると金運が増すとかそういった具合だ。

「ところで今日は......?」

 そう、霧ヶ峰呼び出したのは俺だ。俺はさっそく本題に切り出す。

「実は嫌なオーラを感じましてね」

「ええっ......!?」

「貴方の身の回りのものを確認したいのです」

「わ、わかりました。えっと、どれから......!」

「まずは順番にポケットの中身から」

 霧ヶ峰はジャケットをまさぐった。

 その時――。

 俺の目は霧ヶ峰のベルトを捉えた――。

「霧ヶ峰さん、それは?」

「え? これはキーケースですね」

「それだッ!」

「!?」

「霧ヶ峰さんッ! そこから邪気を感じますッ! 見せて下さいッ!」

「は、はい!」

 俺は差し出されたキーケースを手に取り、開いてみた。

 ディンプルキーが一つと、車の鍵があった。

 ディンプルキーには、メーカーの名前が彫ってあった。

 メーカーの名前は『TOWA』――。

 俺はそこで机から身を乗り出し、霧ヶ峰の目を見つめた。

 霧ヶ峰の目が、俺の目と合う――。

 その瞬間。

 俺はディンプルキーを裏返した――。

「近いうちに不幸が霧ヶ峰さんを襲います。いいですか、紫色の小物を見に付けるのです。さすれば不幸は遠のくでしょう」

「......! わかりました!」

 そして俺は体を元に戻し、ディンプルキーを見た。

 そこには――製造番号が彫られていた。裏返したのだから当然だった。

 番号を暗記し、俺はキーケースを霧ヶ峰に返した。


「フッフフ......! 全てが順調だぜぇ」

「先輩、どうするんすか?」直也の疑問の声。

「先ほどのリーディングで、鍵のメーカーと製造番号を押さえた。その二つさえ分かれば、ディンプルキーの複製を作ってもらうことが可能だ。大手にしか作れないことが多いがな」

「先輩......本当に家に侵入するんですか」涼子が言う。

「心配か」

「そりゃ、もう」

「俺は運が強い。安心しろ」

「本当に運が強ければ、巻き込まれませんって」

「フッフフ......! その通りだな!」

 俺たちは天幕を片づけて、学校へ帰った。

 それからすぐに鍵メーカーに製造番号を伝え、複製を注文する。


 裁きの日は近い。俺はそう思った。


読了ありがとうございます。


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お願い出来るでしょうか。


明日の夜(2021/08/30)に続きを投稿します。

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