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03.コールドリーディング


 男は陰鬱な雰囲気をまとっていた。

 俺はこれほど光の無い男を見るのが初めてだった。

 まるで――光が屈折して避けているかのような、そんな感じのする男だった。


「は......はは......占い、やってるの......?」

 男は絞り出すように言うと、笑った。

 その笑顔を見て俺はさらに気が参ってしまった。

「ええ。おかけになられてください」俺は言った。

 男は静かに椅子に腰かける。

 俺はその時気付いた。――この男、拳が内出血を起こしている。何かを殴ったのだろうか?

「僕は学校で占い部に所属していましてね。実践の為、こうして占いをしております」

「......そうなんだあ。へえ。水晶玉でも使うの?」

「いえ、私は使いません。人を見るとイメージが湧くので、協力して占いをすることを得意としています」

「協力、協力かあ」

 男は静かに笑う。

「協力なんて、何十年もやってないなあ。もしかしたら一度もしたことがないかもしれない」

「では僕が初めての協力者ですね」

「はは......は......よろしくねえ」

「それでは占いをする前に、お客様のことを知りたいと思います」

「何を......言ったら良いんだい?」

「何も。それではお客様のことを見てみます」

 俺は手を男にかざした。

 少し苦し気な顔をする。

「これは......なるほど」

「何が......見えた?」

「貴方は今の人生に満足しているわけではないが、不満というわけでもなさそうですね」

「はは......は......確かに」

「これまで、人と積極的に接する機会を持とうと思ったことはあるが、結局やめてしまった」

「うん......凄い......当たってる」

 俺は少し賭けに出ることにした。

「何か、クリエイティブなことをしようとした。そしてそれはある意味満足するものだった」

 この言葉にはコールドリーディングのコツというか、逃げ道が大量に用意されている。だから外しても問題は特にない。

「は......はは! 確かに! 俺は満足したね!」


 そうして俺はいくらか言葉を紡ぎ、男の信頼を少し勝ち取ることに成功した。

 男の視線は闇がこもるものであったが、段々、光を帯びてきた。

「なあ先生」男は俺のことを先生と呼び始めた。

「俺はよお、ちょっと今、手掛けているプロジェクトがあるんだが、そのことについて占ってくれないか」

「わかりました」

 俺はタロットカードを手にした。

 正直に言って、俺はそろそろこの男とはおさらばしたい気持ちだった。

 こんなにも......直観が悲鳴をあげることは無かったからだ。

 だがプロとして、最後にタロットカードを一枚引くくらいのことはしたかった。

 スプレッドはワンオラクル。

 俺は一枚引いた。

 出たカードは――<死>だった。

 <死>というと不吉なイメージだが、<死>は同時に生の始まりでもある。

 つまり、何かが激変する可能性がある。

 俺はそのことを告げた。

「なるほど」男は答えた。

「先生、もう少し突っ込んで占って貰えないか。ちょっと興味が湧いてきたんでね」

 俺は限界に近かったが、修行だと思うことにした。

「お客様のプロジェクトをより深く占う為に、お客様のことをより知りたく思います」

「ふうん」

 俺はぐっと力を込めて、男の全身に手をかざした。

「赤い、イメージが湧いてきますね」俺は言った。

 勿論、男の拳が内出血を起こしていることからの連想だった。

 男はそれを聞くと、ぴくりと反応し、――顔が虚無になった。

 やってしまったか?

 いや、こんな男からの信頼を得てもどうにもならない。外しても良い。

 俺はさらに言葉を紡ぐ。

「これは......血? 赤い何かが垂れているように見えます。心当たりは?」

 男は無言だった。だが、僅かに瞳孔が開いた。

「なるほど、お客様は」

 俺は言った。

「悪いことをなさっていますね」


「いやあ、ばれちゃったか~。実は最近喧嘩しちゃってさあ」

「なるほど~ふふふ~」


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 男の目から涙が零れた。

 混乱する俺に男はこう言った。

「好きで......やってるわけじゃない! 俺だって、本当はやりたくない! でも、体がどうしても疼くんだ......! 先月のマリエのこともそう! 俺は本当は手を出したくなかった! でもあの女が......俺に誘惑をするから!」

 そして男は俯いて、声をあげて泣いた。

 俺はその光景を見ながらこう思った。

 マリエって――。


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読了ありがとうございます。


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お願い出来るでしょうか。


明日(2021/08/28)に続きを投稿します。

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