02.予兆
二〇二〇年、五月。
俺は学校の理科準備室で、直也と涼子に演説をしていた。
「フッフフ......! いいかお前ら。コールドリーディングを行う時は、対象者に好奇心を持つことが重要だ。そして一期一会と思うこと。こいつは基本だぜ。裏を返せば、こいつが出来なきゃ失敗するね」
直也が言う。「その辺歩いてる主婦やサラリーマンに一々好奇心を持つってしんどいなあ。どうにかなんないすかね」
「どうにもならねえよ......! いいか、バックグラウンドに思いを馳せるんだ。コイツはどこから来て、どこへ行くんだろうって思うんだ。大抵の場合はそれで好奇心が湧くさ」
「湧かない場合は?」涼子が言う。
「フッフフ......! 失敗を覚悟するしかないな......!」
「でも、どうして好奇心が重要なんですか?」涼子は首をかしげる。
「好奇心を持つことで、表情や仕草に無意識に変化が現れるからさ......! それはつまり、『貴方のことを大事にしています』っていうメッセージを発することなんだ......! それで対象者も自然とこちらを信頼するようになるのさ......!」
俺はそこで時刻を見た。
十六時三〇分。
「さあ、今日も暴きに行くぜ......! コールドリーダー部、実践開始だ!」
東京都。北千住。おおいわ通りにて。
天幕を張ってから一〇分後、さっそく一人目の客が現れた。
目つきの鋭い、スーツの女。二〇二〇年だってのに、肩パッドをしてる。バブル時代からタイムスリップしてきたのか? 靴は丁寧に磨かれている。年齢は三〇代前半ってところか――。
「へえ、学生さんが占いをするのね」女は言った。
「はい。占い部に所属していまして。こうして町で実践しております」
「ちょっと言っておくけど、単なる興味本位だから」
「構いませんよ。それではまず、貴方のことを知ってみましょう」
そこで俺は言葉を区切り、こう言った。
「しかし、僕は断片的な情報しか見ることが出来ないのです。そのことが何を意味するのか、協力をお願いしたいと思います」
フッフフ......! これはコールドリーディングの基礎だ! 相談者のことを占いで当てるのではなく、浮かんだイメージを一緒に解釈する、という姿勢が俺たちを成功に導く!
「ふーん。まあいいけど」
グッド! 俺はさっそく、女の顔に向けて手をかざす!
「ふむ......おや、悲しいイメージが湧いてきましたね」
「悲しい?」
「貴方は闘争を本来好むタイプではない。しかし、時として巻き込まれることがある」
「へえ、当たってるかも」
少し神妙な面持ちを俺は浮かべた。
「苦労なされたのですね。でも、その経験があって今があるとも考えている」
「当たってるわ。凄いわね」
「火が見える......これは、火かな?」
「火? 何かしら」
「何かが揺らめいていますね。思いつくものはありますか?」
女は少し考え、こう言った。
「タバコの煙かも。へえ、貴方は凄いのね。次々と当たるわ」
「ありがとうございます。ご職業を伺ってよろしいですか?」
女はそれからとつとつと語った。
弁護士をしていること。
女だから、という理由で舐められていること。
本当は吸いたくないタバコを吸って、横の繋がりを作ろうとしていること。
俺は頃合いを見て、言った。
「貴方の未来を見てみましょう」
「嫌な未来だったら悲しいわね」
「アドバイスも差し上げますよ」
「それは嬉しい。どうぞお願い」
俺はタロットカードを取り出した。
スプレッドは――ホロスコープ。
これはつまり、十三枚のカードを引いて分析するということだ。
俺は言葉を紡いだ――。
「鷹狩先輩」直也の声だ。
「フッフフ......どうしたァ?」
「どこまであの女性のことが見えてたんです?」
「弁護士とかの士業をしてるってことは一目でわかった」
「どうして?」
「肩パッドをしているからさ。この時代に肩パッドをしている女は士業しかあり得ねえよ。ついでに言っておこうか。どうして肩パッドをするかと言うとだな、男に舐められないようにする為さ......!」
「ふーん。それで闘争に巻き込まれる人間だって言ったんですね」
「そうさ。それにタバコの匂いもした。高確率で他人とぶつかり合うタイプの人間さ......!」
「他には?」
「ナンパはされない女ってこともわかった」
「どうして?」
「靴が綺麗だからさ。ナンパ師は靴の汚れた女を狙う。靴の汚れた女はずぼら体質で、ヤリやすいからな......!」
「へえ~鷹狩先輩は色々知ってますねえ」
「フッフフ......! 超天才占い師である俺としては、あらゆることに精通している必要がある......!」
そこに涼子が割ってきた。
「鷹狩先輩、最後のタロットカードですが」
「何だ?」
「十三枚目のカードは<戦車>でしたよね。それでも『他人と調和すると良いことがある一年だ』と言ったのは何故ですか? <戦車>の意味と逆のような言葉ですが」
「フッフフ......! 俺のお節介さ!」
「お節介?」
「ああいう衝突する女は男社会じゃ出世しない......! だから抑えろ、って言ったのさ」
「......そうですか」
「どうした?」
「いや、私は......タロット占いで出てきたカードに意味があると考えています。事実と異なることを言うのはちょっと、違うかな、と」
「フッ......フフ......涼子、お前は若い!」
「先輩と一つしか違いませんよ」
「精神年齢がだいぶ違う! 涼子、お前にもいずれわかる! タロットはあくまで信頼させる為のツール......! 時には捻じ曲げても良いのさ」
「そうですか」何だか気落ちした涼子の声だった。
と、そこに。
天幕の入口の外に人影が見えた。
新たな客だ。
「おい、ゲストだ。静かに」俺は天幕の反対側にいる二人にそっと言う。
俺は人影に向かって大きな声で言った。
「いらっしゃいませ。よろしければどうぞ~」
人影は逡巡しているようだった。
俺は、揺らめく人影を見て、――猛烈に嫌な予感がした。
フ......フフ......。
アンタならもう察しはつくな?
この客が俺たちを地獄に突き落とした......!
物語はここから始まる......!
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明日(2021/08/27)に続きを投稿します。




