表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/19

02.予兆


 二〇二〇年、五月。

 俺は学校の理科準備室で、直也と涼子に演説をしていた。

「フッフフ......! いいかお前ら。コールドリーディングを行う時は、対象者に好奇心を持つことが重要だ。そして一期一会と思うこと。こいつは基本だぜ。裏を返せば、こいつが出来なきゃ失敗するね」

 直也が言う。「その辺歩いてる主婦やサラリーマンに一々好奇心を持つってしんどいなあ。どうにかなんないすかね」

「どうにもならねえよ......! いいか、バックグラウンドに思いを馳せるんだ。コイツはどこから来て、どこへ行くんだろうって思うんだ。大抵の場合はそれで好奇心が湧くさ」

「湧かない場合は?」涼子が言う。

「フッフフ......! 失敗を覚悟するしかないな......!」

「でも、どうして好奇心が重要なんですか?」涼子は首をかしげる。

「好奇心を持つことで、表情や仕草に無意識に変化が現れるからさ......! それはつまり、『貴方のことを大事にしています』っていうメッセージを発することなんだ......! それで対象者も自然とこちらを信頼するようになるのさ......!」

 俺はそこで時刻を見た。

 十六時三〇分。

「さあ、今日も暴きに行くぜ......! コールドリーダー部、実践開始だ!」


 東京都。北千住。おおいわ通りにて。

 天幕を張ってから一〇分後、さっそく一人目の客が現れた。

 目つきの鋭い、スーツの女。二〇二〇年だってのに、肩パッドをしてる。バブル時代からタイムスリップしてきたのか? 靴は丁寧に磨かれている。年齢は三〇代前半ってところか――。

「へえ、学生さんが占いをするのね」女は言った。

「はい。占い部に所属していまして。こうして町で実践しております」

「ちょっと言っておくけど、単なる興味本位だから」

「構いませんよ。それではまず、貴方のことを知ってみましょう」

 そこで俺は言葉を区切り、こう言った。

「しかし、僕は断片的な情報しか見ることが出来ないのです。そのことが何を意味するのか、協力をお願いしたいと思います」

 フッフフ......! これはコールドリーディングの基礎だ! 相談者のことを占いで当てるのではなく、浮かんだイメージを一緒に解釈する、という姿勢が俺たちを成功に導く!

「ふーん。まあいいけど」

 グッド! 俺はさっそく、女の顔に向けて手をかざす!

「ふむ......おや、悲しいイメージが湧いてきましたね」

「悲しい?」

「貴方は闘争を本来好むタイプではない。しかし、時として巻き込まれることがある」

「へえ、当たってるかも」

 少し神妙な面持ちを俺は浮かべた。

「苦労なされたのですね。でも、その経験があって今があるとも考えている」

「当たってるわ。凄いわね」

「火が見える......これは、火かな?」

「火? 何かしら」

「何かが揺らめいていますね。思いつくものはありますか?」

 女は少し考え、こう言った。

「タバコの煙かも。へえ、貴方は凄いのね。次々と当たるわ」

「ありがとうございます。ご職業を伺ってよろしいですか?」

 女はそれからとつとつと語った。

 弁護士をしていること。

 女だから、という理由で舐められていること。

 本当は吸いたくないタバコを吸って、横の繋がりを作ろうとしていること。

 俺は頃合いを見て、言った。

「貴方の未来を見てみましょう」

「嫌な未来だったら悲しいわね」

「アドバイスも差し上げますよ」

「それは嬉しい。どうぞお願い」

 俺はタロットカードを取り出した。

 スプレッドは――ホロスコープ。

 これはつまり、十三枚のカードを引いて分析するということだ。

 俺は言葉を紡いだ――。


「鷹狩先輩」直也の声だ。

「フッフフ......どうしたァ?」

「どこまであの女性のことが見えてたんです?」

「弁護士とかの士業をしてるってことは一目でわかった」

「どうして?」

「肩パッドをしているからさ。この時代に肩パッドをしている女は士業しかあり得ねえよ。ついでに言っておこうか。どうして肩パッドをするかと言うとだな、男に舐められないようにする為さ......!」

「ふーん。それで闘争に巻き込まれる人間だって言ったんですね」

「そうさ。それにタバコの匂いもした。高確率で他人とぶつかり合うタイプの人間さ......!」

「他には?」

「ナンパはされない女ってこともわかった」

「どうして?」

「靴が綺麗だからさ。ナンパ師は靴の汚れた女を狙う。靴の汚れた女はずぼら体質で、ヤリやすいからな......!」

「へえ~鷹狩先輩は色々知ってますねえ」

「フッフフ......! 超天才占い師である俺としては、あらゆることに精通している必要がある......!」

 そこに涼子が割ってきた。

「鷹狩先輩、最後のタロットカードですが」

「何だ?」

「十三枚目のカードは<戦車>でしたよね。それでも『他人と調和すると良いことがある一年だ』と言ったのは何故ですか? <戦車>の意味と逆のような言葉ですが」

「フッフフ......! 俺のお節介さ!」

「お節介?」

「ああいう衝突する女は男社会じゃ出世しない......! だから抑えろ、って言ったのさ」

「......そうですか」

「どうした?」

「いや、私は......タロット占いで出てきたカードに意味があると考えています。事実と異なることを言うのはちょっと、違うかな、と」

「フッ......フフ......涼子、お前は若い!」

「先輩と一つしか違いませんよ」

「精神年齢がだいぶ違う! 涼子、お前にもいずれわかる! タロットはあくまで信頼させる為のツール......! 時には捻じ曲げても良いのさ」

「そうですか」何だか気落ちした涼子の声だった。


 と、そこに。

 天幕の入口の外に人影が見えた。

 新たな客だ。

「おい、ゲストだ。静かに」俺は天幕の反対側にいる二人にそっと言う。

 俺は人影に向かって大きな声で言った。

「いらっしゃいませ。よろしければどうぞ~」

 人影は逡巡しているようだった。

 俺は、揺らめく人影を見て、――猛烈に嫌な予感がした。


 フ......フフ......。

 アンタならもう察しはつくな?

 この客が俺たちを地獄に突き落とした......!

 物語はここから始まる......!

読了ありがとうございます。


ツイッターフォローとポイント付与よろしくお願いします。


明日(2021/08/27)に続きを投稿します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ