18.咆哮
威風堂々――。
高橋先輩にこそ、その言葉が似合う。
「立ち上がれ......」高橋先輩が言う。
「はは......とんでもない奴が来ちゃったねえ」霧ヶ峰は四つん這いで言う。
立ち上がった霧ヶ峰から悲壮感が出ている。構うものか。
俺はジャケットを脱いで、腕に巻き付けた。これなら鉈で切りつけられても、防御出来るだろう。
「来い」高橋先輩が言う。
「では遠慮なく......はは」
疾風迅雷。
霧ヶ峰のどこにそんな体力が残っていたのか。恐ろしい速度で高橋先輩に切りかかった。
だが。
高橋先輩は――腕で止めた。
恐らく、プロテクターだ。路上格闘部の部室で見たことがある。
「行くぞ......おっ!」
高橋先輩の攻勢が始まった。
ラフなボクシングスタイル。直也が作った傷口を的確に殴りつける。
「ウウッ」霧ヶ峰が呻く。
「どうした......最後のあがきを見せてみろ......!」
強い、それに執拗だ。
俺の出番無さそうだな、これ......。
そう思った瞬間。
霧ヶ峰が叫んだ。
あの警察官七人を怯ませた絶叫だ。
さすがに高橋先輩も一瞬体が固まった。
その隙を突いて、霧ヶ峰が切りかかる。
それも足を狙って!
だが、それも効かなかった。
高橋先輩は足にもプロテクターを付けている!
腰を捻って放った右フックが霧ヶ峰を襲う。
そして高橋先輩は、霧ヶ峰の鉈を片手で押さえ、もう片方の手で首を絞める。
「高橋先輩! それは!」
「鷹狩......こいつは多数の被害者を出したクズだ......裁判を受けさせるつもりは俺には無い......ここで死んで......俺の糧になってもらう」
「人を、殺すんですか」
「鷹狩......お前も......自衛や直也のためなら人を殺すだろう......」
俺は本当にこのままで良いのか迷った。
霧ヶ峰はもがいている。
そうして、力が尽き果てそうになった時、俺は閃いた。
そう、天啓。
俺は腕にまいたジャケットを手に持つと、それを霧ヶ峰に被せた。
驚きで一瞬、高橋先輩は力を緩める。
その隙に。
俺は霧ヶ峰を持ち上げた。
「オオオオオ!!!」
そして――。
千住大橋から霧ヶ峰を落とした。
下を流れる川まで、七メートルはありそうだ。
俺は高橋先輩に言った。
「俺は、それでも高橋先輩に人殺しになってほしくない。あいつには、裁判を受けさせる」
高橋先輩は何も言わず、目を閉じた――。
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今日中(2021/09/04)に最終話を投稿します。