17.彼が来た
気付けば、一八時だった。
辺りは暗い。
体は熱い。
俺は直也に問う。
「策ってなんだ? というか、どこに向かっているんだ?」
「到着したら言いますよ」
小走りして直也に俺は付いていく。
後ろからは相変わらず霧ヶ峰が追ってくる。
「先生~諦めて~」霧ヶ峰が叫んできた。
「嫌で~す」俺は返した。
そうして一〇分経過したのち、俺たちはとある場所に辿り着いた。
ここは――。
千住大橋だった。
直也が立ち止まる。
「直也、ここが一体......?」
「先輩、ここっすよ」
「何がだ」
「この橋から、先輩があいつを柔道で落とすんすよ」
「は?」
「じゃ、そういうわけで」
「いやいや待て~い! 鉈を持ったあいつにそんなこと出来るかーい!」
「大丈夫っす。俺が弱らせるんで」
「警察官七人で敵わなかったやつをお前が......」
「出来るんすよ。これで」
直也はポケットからそれを取り出した。
バタフライナイフ。ゴム製ではなく、本物の、切れるナイフだ。
「直也お前......正当防衛だと思うが、人を殺すかもしれないというリスクを負えるのか?」
「先輩が殺されるよりマシですよ」
「俺がナイフでやつを殺すというのはどうだ?」
「無理っす。先輩はナイフ使ったことないでしょ」
「まあそうだが」
「じゃ、俺の雄姿見ておいてください」
直也は堂々と霧ヶ峰を待った。
俺は啞然として見守っている。
霧ヶ峰が鉈を構えて、立ち止まった。
「ナイフ......はは......怖いねえ」霧ヶ峰が言う。
「殺しはしないっすよ。ただ――アンタを痛めつけるだけだ」直也が言う。
「......やってみな!」
直後、霧ヶ峰が直也に急接近する。
すると直也、体を捻る。
「......!」霧ヶ峰が怯んだ。
「ガンガン行きますよ」直也が言う。
そうして直也の乱舞が始まった。
切る。
裂く。
突く。
獰猛な獣がターゲットを貪欲に傷つけるように。
直也の猛攻を霧ヶ峰は耐える。
「はああああッ!」
「......ぐっ。なんて子供だ......はは」
どれほどの殺意があればここまで暴れることが可能だろうか?
直也の与えた傷は二〇を越えたように見える。
「はは」霧ヶ峰がバックする。
「どうっすか」直也は言う。
「うん......強い。でも」
「でも?」
「見せかけの殺意だ」
霧ヶ峰、構えを解いて直也に近づく。
直也、すぐに霧ヶ峰の腹部にナイフを突き刺す――。
「!?」
俺は信じられなかった。
霧ヶ峰はナイフを刺されながらも、そのまま前進してきた。
「なっ」直也が驚く。
「体は痛くない......痛いのは、裏切られた心」霧ヶ峰が言う。
そして。
鉈の柄で霧ヶ峰は直也の頭部を殴りつけた。
「すぐには殺さないよ......はは......痛めつけて、殺す」霧ヶ峰が言う。
倒れかけた直也を蹴って、霧ヶ峰は地面に転がす。
そうしてマウントポジションを取って、何度も鉈の柄で直也の頭部を殴打した。
俺の目の前で、直也は頭から血を流した。
我慢できなかった。
俺は霧ヶ峰に近づいた。
「もういい! 俺を殺せ! そいつにはもう手を出すな!」
だが、俺の叫びは霧ヶ峰には届かなかった。
そしてにやりと笑う霧ヶ峰は呟いた。
「死にゆく先生のお供に、この子も連れていかせてあげよう」
鉈が、直也の首に吸い込まれていく――。
「やめろォーッ!!!!」
俺は叫んで二人により近づく。
だが間に合わない――。
――はずだった。
霧ヶ峰は急に転がりだした。
転がりだした?
いや、転ばされたのだ!
闇夜に紛れて、黒のパーカーの男がいつの間にか近くにいたのだ。
男はフードを脱いだ。
そして俺は呟いた。
「高橋先輩、来てくれたんですね」
「すまん......直也からここに来いと連絡があったが......用事があってな......」
直也が息絶え絶えに言った。
「策が一つとは、言ってないっす......」
俺は霧ヶ峰を見た。
三対一。
それも、高橋先輩が付いている。
俺は直也を立ち上がらせ、そして、高橋先輩と一緒に霧ヶ峰に立ち向かった。
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今日中(2021/09/04)にまた、続きを投稿します。