16.乱舞
大踏切通りを俺は駆け抜けた。
霧ヶ峰が追ってくる。
砂糖通りを俺は駆け抜ける。
霧ヶ峰が追ってくる。
柴葉商店街を俺は駆ける。
霧ヶ峰が追ってくる。
道の角を通る途中で、俺は学生カバンを捨てた。後で回収する。捨てるところは見られなかったので、破壊される恐れは無いだろう。
果たして人間は全速力を何分維持出来るだろうか?
俺はついにへろへろになった。
霧ヶ峰もへろへろになったのか、スピードを落としている。
「先生~一緒に死んで~」
そんな風に声をかけられたので俺は、
「嫌で~す」
と返した。
俺は体力を維持する為、賭けに出ることにした。
振り返って、霧ヶ峰を待つ。
少しして。
霧ヶ峰が追い付いて来た。
「諦めたのかな......はは......は」
「いんや」
「!?」
俺は霧ヶ峰に急接近する。
そして胸倉を掴む。
「ふんッ」
背負い投げ――。
俺が柔道を学んでいることを霧ヶ峰は知らない。
予想通り、霧ヶ峰は対応出来ず、アスファルトに叩きつけられた。
そして俺はその場を離れた。
――後は、警察官のいる白草公園に逃げこみ、保護を求め、霧ヶ峰を指名手配してもらえばいい。
そういう風にプランを考えた。
その時。
おぞましい殺気が俺の体に吸い込まれた。
俺は振り返る。
霧ヶ峰が立っていた。
「先生......体は痛くねえよ......痛いのは、心だ」
「タフですね......」
俺は白草公園目指して全速力で走った。もうそろそろ二〇分だ!
走っている俺の目に次々と風景が流れ込んでくる。
公園。商店街。道路。家。神社。コンビニ。
やがて。
白草公園に辿り着いた。
警察官が七名、見えた。
俺は声をあげた。
「助けて下さーい!!」
警察官たちが一斉にこちらを見る。
俺は警察官たちの元に辿り着いた。
終わった――。
俺は安堵で力が抜けた。地面に座り込む。空が青い。空気がうまい。
そして霧ヶ峰が現れた。
鉈を隠そうともしない。
警察官たちは俺に情報を聞くよりも先に、危機を排除することを優先した。
「止まりなさい君! 止まらなければ撃つ!」
警告が行われた。
霧ヶ峰は黙って接近してくる。
「もう一度だけ言う! 止まりなさい君! 止まらなければ撃つ!」
警察官たちは拳銃を構えた。
その時。
予想を超えた事態が発生した。
霧ヶ峰が叫んだのだ。
途轍もなく大きな声で、狂気が含まれていた。
一瞬、警察官たちに動揺が見えた。
そしてその隙に――。
霧ヶ峰が警察官たちに急激に接近し、切り込んだ。
俺はぼーっと見てた。
こんなことがあるのか?
舞台を見るように。
俺は眺めていた。
一斉に射撃が行われたが、弾が当たったのか当たらなかったのかよくわからなかった。
ただとにかく、霧ヶ峰は動けた。
霧ヶ峰の初撃で警察官の一人が顔にダメージを負い、倒れ込む。
警棒で警察官たちが向かうが、鬼となった霧ヶ峰は強かった。
いくら叩かれても、鉈で暴れまわった。
こんなことがあっていいのか?
警察官七名だぞ?
相手はたった一人。
霧ヶ峰は舞う。
孤独に舞う。
狂気と共に舞う。
一人、また一人と警察官は倒れる。
やがて。
警察官は全滅した。死んではいないと思うが、しばらくは立ちあがれないだろう。
俺の肩を叩く者がいた。
直也だった。
「先輩、逃げましょう。策があります」
「よお直也。俺ァ、この現実、受け入れ難いぜ」
「ええ。全く。行きましょうか」
俺と直也はその場から離れた。
霧ヶ峰はゆっくり、俺たちの後を付いて来た。
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明日中(2021/09/04)にまた、続きを投稿します。