15.嵐
葵山高校。午後一六時。火曜日。
俺は涼子の精神が消耗されているだろうと考え、今日はコールドリーダー部の活動を中止することにした。
直也と涼子に中止のメールを送り、帰り支度をする。
――そういえば、理科準備室の金庫はどうするかな。
そんなことを考えた。
それから昇降口を目指した。
「おっす~鷹狩。もう帰るの? おじさんと『モンスターモンスター』やってかない?」同級生だ。俺は疲れてるから、と言ってその場を離れた。
昇降口で靴を履き替え、外へ出る。
――良い夕焼けだ。
そして校門へ向かう。
その時、俺の目は信じがたい光景を捉えた。
心臓が高鳴る。汗が一気に噴き出る。手は緊張で硬くなる。
俺はいっさいの緊張を隠して、校門に到着する。
そこには――霧ヶ峰がいた。
何故か、冬物のコートを着ている。
「先生......は......はは......すいません、来ちゃいました」
「朝から鳥が騒いでいたので、何かが来るとは感じていました」嘘だ。
俺はにっこり笑う。そして言う。「ご足労おかけいたしました。どうかなさいましたか?」
「いやあ先生、実は相談したいことがあって......一緒に来ていただけませんか」
「構いませんよ」本当は逃げ出したかったが、不審に思われたくなかった。
それから俺と霧ヶ峰は占いについての考えを交換しつつ、一五分ほど歩いた。
到着した場所は知らない一軒家だった。大きなガレージがある。シャッターが半分ほど開いていた。
「ささっ。先生。シャッターをくぐってください」
俺は――。
「霧ヶ峰さん。どうやらこの場所は相談をするのに向いてない土地のようです。私の先祖がそう言っています。誰にも話を聞かれない個室がある喫茶店があるので、そこで話をしませんか?」と言った。
「そんなことを仰らずに」
霧ヶ峰は急に、強引になった。
俺の腕を掴み、力尽くで体を引っ張ろうとした。
その時、後ろに通りすがりの男性がいることに気付いた。
俺は叫んだ。
「そこの男の方! 助けて下さい! 拉致されそうです!」
男性は瞬くと、携帯電話を取り出した。
その瞬間、男性の頭から血が噴き出した。
何故?
それは――。
霧ヶ峰がコートの下に隠していた鉈を振り下ろしたからだった。
呆然とする俺に霧ヶ峰は言った。
「先生......私の家には大きな金庫がありましてね......俺はいつも......閉めた後は番号を途中まで入力ししておくんですよ......誰かが開けた時、わかるようにね......それで今日の朝、金庫を開けようと残りの番号を入力したら、開かなかったんですよ」
霧ヶ峰は俺の目を直視した。
俺はズボンのポケットに手を突っ込んだ。
「先生......俺のこと、裏切ったな」
俺はポケットから小石を取り出すと、霧ヶ峰の目に最小動作で投げた。
そして俺は全力でその場から逃げた。
「先生待って~~~~!」
「待ちませーんッ!」
俺は走りながら携帯電話を取り出し、直也にコールした。
「はい、もしもし?」
「直也、俺だ! 霧ヶ峰にばれた! 二〇分後に白草公園に向かうから、そこに警察官を呼んでおいてくれッ! それから昨日会った千住警察署の担当者に一報入れろ!」
「了解!」
俺は人通りの多い商店街を目指して走った。
そこでなら霧ヶ峰も暴れられまい。俺は時間稼ぎをするつもりだった。
五分くらいの全力疾走の後、商店街に到着した俺は霧ヶ峰を待った。
「先生~。俺、疲れたよ~」
霧ヶ峰が走って俺の元に到着する。
しばし、無言で相対する。
「貴方は殺人鬼だ」俺は動揺を誘う目的で言ってみた。
「知ってますよ」残念ながら、大したダメージは与えられなかった。
霧ヶ峰はコートの下から鉈を取り出した。
おいおい、ここで? 正気か?
周りを見渡す。
ベビーカー連れの親子。若いお兄ちゃん。営業のサラリーマン。買い物袋を持った主婦。様々な人がいた。
「ここで暴れるんですか?」
「もう、俺は手遅れなんでしょ?」
こいつ、刺し違える気か。
ここでは死人が出る――。
俺は再び逃げた。いつまで体力が持つだろうか?
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今日中(2021/09/03)にまた、続きを投稿します。