13.霧ヶ峰の週末
女ってのはどうしてこうも罪深い生き物なのだろう。
霧ヶ峰は起床して微睡みながら、そう思った。
あの滑らかな曲線。淫靡な声。快楽の機関――。
ベッドから霧ヶ峰は立ちあがる。
リビングで珈琲を飲む。インスタントだが、十分だ。
それからコンビニで買った惣菜パンを食べる。それと、プロテインが含まれたジュースを飲む。
――良い気分だ。霧ヶ峰はそう思った。
これも先生に出会ったおかげかな、と霧ヶ峰は考えた。
今までずっと一人だった。
理解者がいなかった。
だが、先生は俺を理解し、許容してくれている。霧ヶ峰はそう思う。
霧ヶ峰は本を読み始めた。ナノテクノロジーについての本だ。
極小のものを作るには、二つの方法があるという。
原子のようなごく小さいものを組み合わせる方法と、大きなものからパーツ等を取り除く方法。
二〇年近く昔の本だが、知見を得られて良かった。
霧ヶ峰はラムネを食べた。ブドウ糖の補給のつもりだった。
それから女のことについて考え始めた。
どいつもこいつも俺のことを誘惑してくる。そんな女には天罰を与えなければならない。特に、最近は一人の女が俺に強烈にアタックしてくる。近日中に始末しなければ、俺の体がもたないだろう。そう霧ヶ峰は思った。
午後一二時五〇分。
玄関チャイムの音が鳴った。
どうせ営業マンか何かだろう。霧ヶ峰は無視した。
しかし、玄関チャイムはしつこかった。
霧ヶ峰は腰を上げる。
軽く脅してやったらどんな顔をするだろう、そんなことを考えた。
玄関のチェーンを外し、扉を開ける。
そして、霧ヶ峰は立ち尽くした。
無言だった。そして目に表情が無かった。
霧ヶ峰は何も考えず、そのまま、リビングに戻った。
棚から一つのコップを取り出し、お茶を注いだ。
そして、リビングのテーブルにコップを置き、ソファに座った。
霧ヶ峰は空を見つめた。
しばらくして。
リビングのテーブルに置かれたコップを台所に運び、中身を捨てた。
それから、またリビングのソファに座った。
五分くらいして、霧ヶ峰は立ちあがった。
それから二階に向かう。
そして立ち尽くした。
午後一三時。
ベルの大きな音が響いた。
それはゆっくりしたテンポで、何度も繰り返された。
霧ヶ峰はずっと二階で立ち尽くしている。
午後一三時一〇分。
霧ヶ峰は一階のリビングに戻った。
また空を見つめている。
そして少し経って、霧ヶ峰は玄関に向かった。
玄関にチェーンはかかっていなかった。
扉の鍵もかかっていなかった。
霧ヶ峰は黙って、何も考えず、扉の鍵を閉めた――。
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明日中(2021/09/02)に続きを投稿します。