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12.密室のチェーン


 金曜日。午前六時。

 鳥の鳴き声が聞こえる。外の景色は明るくなったばかりだ。静かな朝――そして危機の訪れ。

 俺は目覚めてすぐシャワーを浴びた。

 排水口に髪の毛が流れていく様を見る。

 朝のシャワーではシャンプーと石鹸は使わない。あくまで寝汗をお湯で流すのが目的だ。

 シャワーを出て学校の制服に着替える。

 親父がリビングで新聞を読んでいる。

 お袋は目玉焼きをトーストに乗せたものを食べている。

 俺は――まず珈琲を飲んだ。

「胃の調子が悪くなるよ。まずご飯を食べな」お袋がダミ声で言う。

「フッフフ......そうだ、その通りだな......! フッフフ」

「翔洋、今日も辻占いをするのか?」親父が新聞から目を離さず言う。

「どうかな? フッフフ......親父、止めるなよ。俺はこれでビッグになるんだ」

「無理だな。だが止めはせん。若いうちの失敗は財産だからな」

「フッフフ......! この一家、朝からピリ辛だぜ......!」

 俺はトーストと目玉焼き、それからゆで卵を食べて、家を出た。


 金曜日。午前七時五〇分。

 やや早い到着だ。知らないうちに歩くスピードが速くなっていたらしい。

 そりゃそうだ、今日の午後からプロジェクトが始まるからな――。

 俺は同級生に声をかけた。

「おい。神宮寺。英語の宿題はやってきたか?」

「いんや、まだ」

「お前なあ、俺に見せる予定だったろ」

「鷹狩は成績良いんだから自分でやれよ」

「バカヤロー、成績良いから宿題やらないんだろうが。宿題で頭使いたくねえよ」

「羨ましい言葉だな。これだから鷹狩は」

「あァ?」

 俺は英語の宿題に取り掛かった。神宮寺の馬鹿が約束を守っていれば、こんな時間は過ごさずに済んだのに――。


 金曜日。二時限目の授業終了。

 何故か同じクラスの女からメールが届く。

『鷹狩さん、今日ピリピリしてない?』

『バカヤロー、直接言えや』

『だって怖いんだもん』

 俺は携帯電話の電源を切った。


 金曜日。昼休み。

 理科準備室に直也と涼子、俺が集結した。

 俺は黙って涼子に霧ヶ峰家の鍵を渡した。

「それでは、午後から早退して行って参ります」妙にかしこまった涼子だった。

「涼子、俺から電話はしねえぞ。音が危機を招くことがあるからな。連絡はメールでやれ。三〇分以内に全てを終わらせろ。家から出たら尾行が無いことを確認しろ。念のため電車に乗って、一駅離れたところからタクシーで帰れ。帰宅したらメールしろ」

「はい、はい。わかっています」

「早乙女さん」直也が言う。

「何?」

「何も手伝えなくてごめん」

「気にしないで。――先輩、それじゃ」

「ああ」

 俺たちは解散した。


 金曜日。五時限目の授業終了。

 俺は涼子からの連絡が無いか確認した。

 連絡は無かった。――今のところは順調か?

 霧ヶ峰家は学校から三〇分の所にある。一三時に学校を出たとしたら、そろそろ侵入に成功して、開錠を試みている段階か。俺は成功を祈った。


 金曜日。六時限目の授業終了。

 俺は涼子からの連絡が無いか確認する。

 携帯電話にメールは来ていなかった。そろそろ帰宅している最中か?


 金曜日。一六時になった。

 ()()()()()()()()()()()()()


 俺は――後悔で理科準備室の壁を殴った。

 やはり、行かせるべきでは無かったのだ!


 金曜日。一七時。

 涼子から連絡がメールで来た。

 そこにはこうあった。

『先輩お疲れ様です。良い知らせと悪い知らせがあります』

 俺は返信する。

『良い知らせから聞こう』

『金庫の中に灰色の物体がありました。おそらく背骨です』

『でかした。それで悪い知らせは?』

『立ち去ろうとした時に、霧ヶ峰さんが帰宅しました』

『それで、お前はどこにどうしてるんだ』

『今、お風呂場の天井裏に潜んでいます』

『は?』

『家族には友達の家に泊まると言ってあります。まあ出来るなら今から帰りたいですが』

『今から霧ヶ峰を占い名目で呼び出す。その隙に逃げろ』

『わかりました』


 だが、俺の陽動は無意味に終わった。

 霧ヶ峰にメールで来るように指示したところ、体調不良で週末は家から出ないことを告げられたのだ。

 俺はすぐに涼子にメールをする。

『すまん。霧ヶ峰は外出する気が無いらしい。夜中、やつが寝静まったらすぐ家から出ろ』

『わかりました』


 俺は念のため、夜中に涼子を迎えに行くことにした。

 直也を帰宅させ、俺自身も一時帰宅する。私服に着替え、夜中に友達と約束があることをお袋に言う。

「補導される前に帰ってきな」ありがてえお袋だぜ。


 土曜日になった。時刻は午前一時三〇分。

 俺は霧ヶ峰家に向かった。

 夜中の北千住は治安が悪いイメージだが、それは駅前だけの話だ。

 霧ヶ峰家の近くに到着する。

 俺は涼子にメールした。

『やつはどうしてる。脱出出来るか?』

『寝たようです。今から動きます』

 俺は霧ヶ峰家の前に陣取った。

 十分経過した。

 二〇分経過した。

 三〇分......。

 俺は涼子にメールした?

『涼子? どうした』

 そして絶望が届いた――。


『先輩ダメです。()()()()()()()()()()()()()()()

 俺は地面を殴りつけた――。



 チェーン。それはシンプルにして最も極悪なもの。

 開けて出て行ったが最後、侵入者が存在したという明確な事実を残してしまう。

 俺は努めて冷静になろうとした。


 チェーン。

 チェーン。

 チェーン!!!


 ここで涼子が出たら霧ヶ峰はどう思う?

 シリアルキラーというのは妙に直観が働くやつが多い。

 すぐに戦利品を別の場所に移すか、処分するかして、安全措置を働かせるだろう。


 もう警察にタレ込むか?

 いや、動き出すのに時間がかかる。涼子の体力がもたない。


 俺は、決意する。

 コールドリーダーとしての、最終奥義を発動させる――。

 本来なら使うべきではないが、涼子の命がかかっている。


 俺は涼子にメールした。

『午後一三時に脱出のチャンスを作る。いいか、もしも一三時頃に()()()()()()()()()()()()()()()、玄関を通って脱出しろ。いいか?』

『よくわかりませんけど、わかりました。ベルの音ですね』

『すまん、それまでは耐えてくれ』

『大丈夫です。台所で少し水を飲みましたし。お風呂場の天井裏で仮眠します』

『わかった。お休み』

 深夜三時。俺は帰宅した。


 俺は霧ヶ峰の信頼を勝ち得ているだろうか?

 もしそうでなければ、涼子を脱出させることは出来ない。

 寝る直前に、そんなことを俺は思った。

 そして夢の中で、俺は何度も霧ヶ峰に殺された――。


読了ありがとうございます。


よろしければ、ツイッターフォローとポイント付与を

お願い出来るでしょうか。


今日中(2021/09/01)に続きを投稿します。

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