幻?魔法?
一応恋愛パートナーとの出会いです。カイン視点も交えて話が進む予定です。
登場人物や国の紹介はまた後日まとめてあげるはず
時は数百年 ──この帝国の創立の時代に遡る
初代皇帝 アーヴィン・ヴァン・ベルグは味方には施しを。敵となる者には粛清を。その信念を貫き通し見事大陸を統一しアーヴィン帝国を築き上げた。
だがその傍らには《 魔女》がいた。彼女は艶やかな髪…今のフィルと同じ紫の髪を持ち常に皇帝を支えていた。皇帝とは信頼関係以上の絆だと勘違いしていた彼女が、暴走するまでは
皇帝と幼馴染であった令嬢との婚約式。そこで《 魔女》の暴走が始まった。
その日のために整えられた神聖な庭は全て枯れ、晴天だった空も赤黒い雲で覆われた。
彼女の怒りが植物を死なせ、空までも変えてしまったのだ。そうして歩み、皇帝と未来の皇妃の前で立ち止まった彼女は……
あろう事か自分と皇帝を呪い、その場で2人とも息絶えてしまう。幸せになるための式が、阿鼻叫喚の場になった。
その後、帝国は皇帝の弟君が即位し何事もなく歴史は続く。だが1つの禁忌を作り出した。
《 魔女》と同じ色を持つ者は彼女の転生者である。見つけ次第閉じ込め、人と関わることを禁ず。
無駄な殺生を好まぬ皇帝が殺さぬ代わりに編み出した掟。人と関わらなければ、人を好きになることもなく暴走もしないであろう…その考えの元決められた
そう教わったのは何時だっただろうか、とフィルは考える。
閉じ込められて数年は経った気がするが、日付が分かるものがない、最初の1ヶ月ほどで日を数える事は諦めた。
歴史を教えてくれた家庭教師に興味本位で聞いたことがある、今まで禁忌の子はいたのか、と。
だがいなかった、この髪色は魔女…と今現在の自分だけらしい。
そこまで考えて彼女の悲しみや絶望が魔女への怒りへと変換されたのは至極真っ当な事
「最初からこの髪にしてくれたら良かったのに…魔女の意地悪、性悪ー!!」
最初からこの色で生まれていれば両親の暖かさも人の優しさも知ることなく、胸の痛みもなく受け入れられただろうが…残念ながら数年前までそれを知っていた彼女にとっては未だ受け入れたくない出来事であった。
ただ、いきなり隔離されてから数年経った今は悲しみも絶望も少しは慣れてしまった。
その理由の1つに…話す相手が出来た事が上げられる。
閉じ込められ、誰も近寄らない牢屋で何を言っているのかと言われそうだが紛れもない事実。
閉じ込められて数年後のある日、顔を洗うために器に張った水の中に人の顔が映りこんだのだ。
人に会いたすぎて幻かと目を何度も擦ったが、見える景色は変わらない。水面に空と…グレーシルバーの髪を持つ美青年が映っている。
フィル自身もそうだが、相手も驚いているようで、深い紺の瞳を丸くしていたのを覚えている。
だがそれだけではない、この器
『え、…と…君は誰、かな?あ、いや。すまない、人に聞く前に自分から名乗らねば。僕は…そうだな、カインと呼んでくれ。君は?妖精さんかい?』
「わ、私はフィル……一応、人間です。」
なんと、通信まで出来たのだ。相手もさらに驚いていたがフィルは驚きと同じぐらい喜びが胸いっぱいに広がった。
人と話せてる。私を見て怖がらない人と!
嬉しくて、でも喜んでいては不審がられると思い絞り出した声は小さかったが相手は聞き取れたようで
『フィルか、良い名前だね。なぜこうして話せてるか分からないけど…折角だし仲良くなろう?』
「は、はい!迷惑でなければ…!」
そこから数分間、楽しい時間だった。どうやら彼は隣国の人、多分服的に貴族。
自分の容姿に質問された時には平民だから、と話を誤魔化した。人との久しぶりの会話は本当に楽しかった。
時間にすれば10分ほどだろうか、ふと通信が途切れた瞬間、数年ぶりに寂しいと思うほどに。
だが通信はこの時だけではなかったのだ。
フィルとカインが同時刻に水面を覗き込めば、数分間の通信が出来る。これが数回通信を介して分かった出来事である。
それからというもの、夜のある時間帯はカインと決まって通信をしてから眠る、と言うのがフィルの退屈だった日常から楽しい毎日へと変化をもたらせた。
本人は知らない、その変化が…いや、初めて通信を行えた日から運命の歯車が回り始めたことを
音を立てて回る歯車が見せる未来、とは……