翼の生えた君
アムステルダムの小道をそとへ外れたかげに、奇妙なヘビを見つけたという。
ヘビにしては胴が太く、まるで大きな何かを呑み込んだかのようだったそうだ。
尻尾の終わりはとても細く長く伸びており、草木の陰からにょろにょろと好奇心をかき立てる動きをしていたらしい。
「願い事はあるかい? 三つまでだけどね」
そのヘビがいうには、近頃国立美術館から魔法のランプが盗まれたらしい。どうやらお腹にあるのは、その魔法のランプのようだった。
「願い事が叶えば消えて無くなるだろう。だから早く願いをいうがいいさ」
ならば魔法のランプを消すお願いを言えばいいだろう。といったが、どうやらそれは出来ないらしい。
「ささ、私のことは良いから君の願いをいうべきだ」
ならばと、まずは《私を食べないでくれ》とお願いをする。
「たやすいことだ」
ヘビは一つ微笑んだ。
次に《私を襲わないでくれ》とお願いをする。
「おやすいご用だ」
ヘビは一つ頷いた。
最後に《そして翼が生えて何処かへ飛んでいくがいい》といった。
ヘビは目を丸くして私を見たが、お腹の膨らみがスッと消えて、翼の生えたヘビは空高く飛んで細く長い尻尾がにょろにょろと動いたが、すぐに見えなくなってしまった。
もう、会うことはないだろう。