友達の彼女が滅茶苦茶誘惑してくるんだけど俺はどうしたらいい!?(※彼女ではなく妹でした)
「よっ、拓郎、お邪魔するぜ」
「おう恒泰、いらっしゃ……い!?」
「はっじめましてー。ツネがいつもお世話になってまーす」
「…………はぁ」
恒泰の後ろからひょっこり現れた美少女を見て、俺の頭は完全にフリーズした。
「紹介するな、こいつは穂波」
「どもども、穂波でーす。拓郎さんのことはツネからいつも聞いてますよー」
「あ……どうも」
恒泰とは大学で同じゼミになったことがキッカケで仲良くなり、今では一人暮らしをしている俺の安アパートで毎日のようにダベるくらいの仲になっていた。
……が、恒泰に彼女がいるなんて話は一度も聞いたことがない!
それだというのに……恒泰の裏切り者ッ!!
しかもこんな可愛い子から『ツネ』ってあだ名で呼ばれてんのかよ!?
俺なんて女の子からあだ名どころか、下の名前で呼ばれた経験すらほぼないってのにッ!!
「今日はどうしても拓郎に穂波を紹介したくてよ。一緒に上がってもいいか?」
「あ、うん……、別にいいけど」
「いやあ、すいませんねえ、男同士が交友を深めてるところにお邪魔しちゃって」
何だ何だ、大方今日はこの可愛い彼女を俺に自慢しにきたって訳かこの野郎よろしいならば戦争だッ!!!
「ど、どうぞ……、散らかってるけど」
……が、ミスターグラスハートである俺に当然戦争をする勇気なんかある訳がなく、言われるがままに二人を部屋に通してしまう俺であった。
「へぇ~、拓郎さんの家って男の人の一人暮らしの割には綺麗に片付いてますね」
「こいつ男のクセに意外と綺麗好きなんだよ」
「そうなんだー。ツネの部屋はいっつも強盗が十人くらい押し入った並みに散らかってるのにね」
「うるせーなー、ほっとけよ」
いやそういうイチャイチャは他所でやってくんないかなッ!!?
何これ新手の拷問!!?
もしかして俺は今日ずっとこんなリア充のイチャイチャを目の前で見せつけられるの!?!?
「……あれ? 穂波、さん、その制服って……」
今の今までテンパってて気付かなかったが、穂波さんは制服を着ていた。
しかも妙に見覚えがあると思ったら、それは俺の母校の肘川北高校――通称肘北の制服に他ならなかった。
穂波さんはJKだったのか!?!?
恒泰テメェ大学生でJKの彼女がいるって、ほとんど犯罪だぞオラァ!!
「そう、穂波は俺達の一個下の後輩でもあるんだよ」
「えっへへー、どもどもせんぱーい」
「そ、そうなんだ」
因みに恒泰も肘北出身だ。
とはいえ、高校時代は一度も同じクラスになったことはなかったし、恒泰のことは廊下で見かけたことがあるくらいだったが。
ひょっとして恒泰と穂波さんは高校の頃から付き合ってるのか……!?
放課後の体育倉庫で大人の部活動(意味深)とかしてたのか……!?
「あっ、やっべ、俺家に忘れ物してきちったよ」
「え?」
つ、恒泰?
「一旦帰るわ。すぐ戻るからよ」
「あ、うん」
何だろう、忘れ物って?
「もー、ツネってホントおっちょこちょいだよね」
「お前こそ相変わらず口が減らないよな。じゃ、悪いけど拓郎、少しの間穂波の相手してやっててくれ」
「えっ!?」
穂波さんも一緒に帰るんじゃないの!?!?
恒泰はさもそれが当たり前のことみたいに、穂波さんだけを置いて俺の家から出ていってしまった。
「えへへー、よろしくお願いしまーす」
「あ……はぁ」
いやいやいやこれはどう考えてもおかしいよね!?!?
普通友達の家に初対面の彼女だけ置いて帰るかね普通!?!?(『普通』って二回言った)
ただでさえ俺は人見知りなのに、それがこんな可愛い女の子と二人きりなんて、テンパり過ぎて口から大腸出そうッ!!
「そういえばー、拓郎さんて彼女さんとかいないんですか?」
「えっ!?」
いきなり随分踏み込んでくるね君!?
心のブレーキ故障中かな!?
「い、いないよ……。いる訳ないじゃん、俺みたいな冴えない男に……」
「えー、それは周りの女の人見る目ないですねー。拓郎さんこんなにカッコイイのに!」
「あ、あはは、ありがと」
くうぅ!!
お世辞だとわかっていても、こんな美少女にカッコイイと言われたら悪い気はしない……!(単純)
わが生涯に一片の悔いなし!!
「あ、じゃあじゃあ、私なんて彼女にどうですか?」
「っ!?」
い・ま・な・ん・と!?!?
「自分で言うのもなんですけど、私って結構可愛い方だと思いますし、スタイルもそこそこイケてると思うんですよねー」
「……」
穂波さんはグラビアアイドルみたいなポーズを取りながら、あざとくウィンクを投げてきた。
あ・れ!?!?
も、もしかして俺、穂波さんに誘惑されてる……!?!?
そ、そんな……!!
確かに穂波さんは滅茶苦茶可愛いし、穂波さんが彼女だったらそりゃマンモスうれピーけど、君は恒泰の彼女じゃないかッ!!
それなのに恒泰がちょっと目を離した隙に俺を誘惑してくるなんて……!
――何てハレンチダイナマイトな娘だッ!!
「ちょ、ちょっと~、何か言ってくださいよ~。これでも結構勇気出して言ってるんですからね」
「あ、うん……」
いや勇気出し過ぎでしょ!?!?
彼氏がいない間に彼氏の友達誘惑するって、峰不○子の生まれ変わりか君は!?!?
「そ、そういえば、恒泰の忘れ物って何なんだろうねー」
こうなったら無理矢理にでも話題を変えてやる!!
「……ツネは何も忘れ物なんてしてませんよ」
「……え?」
ど、どゆこと?
「……私がツネに頼んだんです。拓郎さんの家に行ったら、忘れ物したフリして帰ってほしいって。……拓郎さんと二人っきりになりたかったから」
「っ!?!?」
「だからツネはもう戻ってきませんよ」
えーーーー!?!?!?!?
そ、それって、ツネも公認ってこと……!?!?
あ、あいつ……、あんな鬼滅の映画観て号泣してそうな普通っぽい見た目してるクセに、NTR属性持ちだったとは……!!!
大学生の割には性癖がハイレベル過ぎるだろ!?!?
光源氏の生まれ変わりかお前は!?!?
「……私、実は拓郎さんが肘北の生徒だった頃から知ってたんです」
「……え?」
そ、そうなの?
「拓郎さん陸上部だったじゃないですか」
「あ、うん」
万年補欠だったけど……。
「いつも一生懸命に走ってる姿を見て、カッコイイなーってずっと思ってたんです。私、何かに必死になったことなんてなかったから」
「……」
……穂波さん。
「だからその頃から、拓郎さんはずっと私の憧れだったんです! だもんでビックリしましたよ、ツネが拓郎さんと大学で友達になったって聞いた時には!」
「そ、そうなんだ……」
それはとても光栄だけど、それだと恒泰はただの遊びだったってこと?
俺が言うのもなんだけど、それじゃ恒泰があまりにも可哀想じゃないかい……!?
「……ねえ、拓郎さん」
「え? ……な、何かな」
「……私じゃダメですか?」
「――!!」
穂波さんは瞳を潤ませながら、上目遣いで俺を見つめてきた。
あああああああああ!!!!(萌死)
いや全然ダメじゃないよッ!!!!
むしろ土下座してでもこちらからお願いしたいくらいなんだけど……!!
恒泰が……!!
恒泰が……!!!!
「……やっぱりツネのことが気になりますか」
「っ!!」
う、うん、そりゃあ、ね……。
「ツネの弟になるのはイヤですか?」
「えっ!? い、いや、その……」
そういう言い方しちゃうの!?!?
そりゃ確かに俺が君とそういう関係になったら、恒泰とはキョウダイ(意味深)になっちゃうけどさ!?!?
「でも――私どうしても拓郎さんのことが好きなんです!」
「ほ、穂波さん……!?」
穂波さんはグイグイと俺に迫ってくる。
あああああ!!!!
もう俺は自分を抑えられないかもしれないッ!!
誰か……!
誰か助けてくれええええ!!!
――その時だった。
俺のポケットのスマホが、ブーッと一回だけ震えた。
な、何だ!?
「ちょ、ちょっとゴメンね!」
「――!」
俺は穂波さんから逃げるようにスマホの画面を確認した。
誰からの連絡か知らんが助かった……!
あのままだったら、俺は……!
「……ん?」
が、それはほかならぬ恒泰からのトークアプリのメッセージだった。
そこにはこう書かれていた。
『そういえば言い忘れてたけど、穂波は俺の妹だから』
………………え。
えええええええええ!?!?!?!?
妹おおおおおおおお!?!?!?!?
「ど、どうかしたんですか拓郎さん!?」
俺のあまりの慌てっぷりに、穂波さんが心配そうに覗き込んできた。
「………………穂波さんて、恒泰の妹さんなの?」
「え? あ、ああ、そうですよ? あれ? 言ってませんでしたっけ?」
「…………うん」
何だよおおおおおおお!!!!!!
妹だったのかよおおおおおおお!!!!!!
じゃあ『ツネ』じゃなく『お兄ちゃん』とかって呼んでよおおおおおおお!!!!!!
滅茶苦茶紛らわしいよおおおおおおお!!!!!!
「あ、もしかして私のこと、ツネの彼女だって勘違いしてました?」
「…………はい」
「あっはは~!! だからあんなにキョドってたんですねー! あはははは、か~わいい~!」
「……」
いや、これに関しては完全に君達が悪いと思う。
「んふふ~、てことは~、ツネの彼女じゃないなら、私のことも満更でもないってことですよね?」
「――!」
穂波さんは小悪魔みたいな笑みを浮かべながら、俺の方にじわじわとにじり寄ってきた。
……ま、まあ、満更でもないどころか、アリよりのアリだけどねッ!!
お読みいただきありがとうございました。
普段は肘川北高校が舞台の、以下のラブコメを連載しております。
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