第一章 第七幕 未来人
「まさか、ホントにそんな事が……」
そんな事はあり得ない。
そんな顔をしているレン。
「魔導エネルギーの制御練習用の小球、出してみなさいよ」
私達ヴァルキリーが魔導術を行使するには魔導デバイスが必要だ。
魔導エネルギーは本来、ヴァルキリーの体内にあり、体内あるいは身体の周囲の直接触れられる範囲でのみヴァルキリーの操作を受け付ける。
それを身体から切り離して操作を可能にするのが魔導デバイスだ。
通常は槍等の武器に宝珠を埋め込んだ攻撃術式用デバイスと、アクセサリーに宝珠を埋め込んだ通信術式用デバイス。
この2つを平行して運用する。
宝珠を通す事によりバイパスと呼ばれる糸条の魔導エネルギーを生成し身体から離れる魔導エネルギーとを繋ぐ事によって遠隔操作を可能にしている。
今回は普段から私達が身につけてるピアスを通じて魔導エネルギーの小球を作り出して目の前に浮遊させる。
操作練習の初歩中の初歩だ。
「ほら、出したぞ」
舞華の要求に渋々と言った感じでレンが小球を出す。
「アンタ達も」
私とマキにも小球を出す様に促された。
「ええー、私達もですかー」
レンもマキも小球の操作が安定しておりブレないが、私の小球は大きくなったり小さくなったりを繰り返す上に完全にその場に留まらずフラフラしている。
「それで?」
レンに促され舞華がレンの小球に向けて手をかざした。
するレンの前に静止していた小球が舞華の方に吸い寄せられていく。
「そんな馬鹿な……」
「アンタの小球にバイパスを繋いで制御を奪ったの。そっちの接続は完全に切ったから、もうアンタには制御できないわね」
信じられない。
そんな顔をしているレンを余所に、舞華はレンから奪った小球を飛ばしマキの小球にぶつける。
ぶつかった2つの小球は弾けて消えた。
「ぱっと見にはこれで魔導エネルギーは消えてしまった様に見えるけど、実はまだそこにあるの。制御を失ったからまとまりを失って散ってしまったけど、霧の様な形でまだそこに存在してる」
そう言って舞華はマキとレンの小球が消えたあたりに手をかざす。
「だからこうやって散り散りなった魔導エネルギーのひとつひとつバイパスを繋いでより集めると……こんな風に再利用が可能になる」
そこには2つの小球がより合わさった少し大きめの小球が出現していた。
「更にこんな事も可能ね」
今度は私の小球に手をかざす。
するとさっきまでブレブレだった私の小球がとたんに安定しだした。
「完全に制御を奪った訳じゃないから、まだそっちでも操作できるハズよ。バイパスを繋いで術式を補正、操作をサポートしてるわ」
舞華がそう言うと小球が針条の形に変わる。
「ほら、射ってみなさい」
舞華の小球を指すのでそれに従って私は「えい」と針を飛ばした。
すると針は吸い込まれる様に真っ直ぐ小球に飛び、突き刺さるとポンと小さく爆発した。
私はそれを見てある事に気付いた。
「あの、もしかして……私が敵の戦艦に飛び込んだ時も……」
「睦月にバイパスを繋いでずっと術式を補正していたわね」
あまりにサラッと言うので呆気に取られてしまった。
どうりであの時は調子が良かった訳だ。
私は射撃と障壁を同時に展開できなかったハズなのにあの時はそれが可能だった。
射撃もいつもより安定していた。
それは舞華が手伝ってくれていたからだったのだ。
「ありがとう舞華ちゃん」
「わたしだって睦月の魔導エネルギーを使わせて貰ってたから、お互い様よ」
舞華は照れくさそうな素振りを一瞬見せるがすぐいつも通り素っ気なくそう答えた。
「それで、透子達は今どうしてるの?」
「透子さん達は……名古屋の戦いから、行方がわからなくなってしまって……たぶんもう……」
「そう……」
一瞬悲しげな表情を見せた舞華だが、一言だけもらし黙って目を伏せるだけだった。
「今後の方針だが……やはり本隊に合流を」
暗い雰囲気になりそうだったのを察したのか、レンが強引に話を変えた。
「本隊がまだこの大阪に留まっているとは思えない……」
「今回のケースはプランDに相当します。プラン通りなら私達ヴァルキリー2期生がゲリラ戦を展開し敵を撹乱、1期生を中心とした本隊は昨晩のうちに九州まで撤退……ですね。ですが睦月先輩がここに残ってしまっています。本隊はなんとしても先輩を九州に連れて行きたいみたいでしたので回収の為に別動隊が残っているのでは?私にもそういう命令が出てますし」
「えーっと、防衛軍が私を連れて行こうとしてる理由がよくわからないのだけど、はっきり言って私ってお荷物じゃない。出力だけは高いけど射撃は全然当たらないし」
「その出力の高さを見越して、ではないかしら。要塞化した九州が防衛軍の本命。そういう噂は前からあった。それが真実実を帯びてきている。だとしたら、もうひとつの噂も」
「超大型魔導兵器……まさか睦月をそれのジェネレーターがわりに?」
「あり得ない話じゃないと思うわ」
「えー、まさかそんな……」
それが事実ならゾッとする。
「静かに、誰か近付いてくるわ」
「敵か?」
この隠れ拠点には隠蔽結界の発生装置が設置してある。
少し大きめで動かすには難儀するがヴァルキリーが魔導エネルギーを注ぐだけで駆動する優れものだ。
昨日から私達で交代して魔導エネルギーを注いでいる。
今日もさっき魔導エネルギーを注いだばかりだ。
敵に発見された可能性は低い。
そう思いたい。
「魔導エネルギーを感じるわね。ヴァルキリー?」
入り口の前に集まり警戒の姿勢を取る。
巧妙に隠された扉が叩かれた。
コンコン コココン コン
2 3 1の調布だ。
これは味方の合図。
なので確認の為合言葉を訪ねる。
念のためだ。
「山と言ったら?」
「川、と見せかけて森」
味方で間違いない。
隠し扉を開ける。
そこには1人のヴァルキリーがいた。
「ホントにここで会えた、お母さん」
彼女は私達を見ると目を潤ませて、私と舞華に抱きついてきた。
これには私も舞華も動揺せざるを得ない。
子供なんて産んだ覚えもない。
そんな機会がある前に私達は手術を受けて子宮に魔導ドライブを埋め込んでい。
子供なんて望める身体ではない。
そしてなにより、彼女は私よりも身長が高い。
おそらく歳も上なんじゃないだろうか。
「ごめんなさい突然」
そう言って2人を離し、目元を軽く拭うと自己紹介を始めた。
「私は城野 如月。睦月さん、舞華さん、お二人の娘です。未来から来ました」
空いた口が塞がらなかった。
確かにヴァルキリー化を含む魔導技術は未来人からもたらされたという話は聞いた事がある。
でも私達は妊娠なんてできないし、なによりも女同士だ。
遺伝子を掛け合わせて作られたとかそう言う話だろうか。
「聞いて驚かないでください。魔導ドライブの適合値は脅威の100%、現役最強のヴァルキリーである私がきたからにはもう安心です」
私達が驚いている間にも彼女の自己紹介は続いていた。
どうやら少し、いや結構お調子者な様だ。
綺麗にまとめられた金色に輝くポニーテールをるんるん揺らしている様子は身長に似合わずちょっと可愛かった。
「少し、気になったのだけど。ホントにここで会えた。というのはどういう事かしら?」
流石舞華、こんな時でも冷静だ。
「それはですね。未来に残っていた記録通りに事が運んで進んでいないので、ホントにここでお母さん達と再開できるかちょっと、いえかなり不安だったんです」
未来人はかなりポンコツだったようだ。
今回は説明回とみせかけて、むつ舞のイチャラブ回