表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/13

第一章 第二幕 技巧の魔女

異星人の戦艦の移動速度は異様だ。

移動の開始を観測した次の瞬間には目的地に到達している。

殆どワープと言っていい。


大阪上空に現れた戦艦は二隻。

二隻だ。

たった一隻相手に東京、名古屋では大敗をきっした。

それが今回は二隻。

絶望的にだった。


こうしている間にも戦艦からは次々と小型の揚陸艇が発進している。

言霊通信の担当からは未だに連絡はない。

どうすればいい?

私達の現在位置は二隻の戦艦の丁度真ん中。

既に展開中の敵の真っ只中だ。


「せ、先輩……どうしたら……」

後輩のマキちゃんが不安気な表情でこちらを見てる。

戸惑っている場合じゃない。


優先すべきは味方との合流。

だけど味方の展開位置が読めない。

ゲリラ戦を想定しているせいで味方の展開予定位置が分散しすぎているのだ。

そこからどう動くかも全く読めない。


観測術式の不得意な睦月では通信担当と言霊通信を繋げなければ味方の位置を把握できない。

マキちゃんにいたってはそもそも観測術式も言霊術式も修得していない。

最低限の攻撃術式と防御術式だけしか教えられていないのだ。


ならば敵の配置の薄い方へ抜けるか。

敵は内陸部から沿岸へ向かう様に展開し始めている。

味方は沿岸部で迎え撃つ形だ。


ここから沿岸方向へ向かえば味方と合流できる可能性は確かにあるが、その可能性はさほど高くはないだろう。

敵陣から抜けるどころか渦中に自ら飛び込む形になる。


内陸部へ向かえば味方とは合流できないが敵陣からはいったん離脱できる。

これでいこう。

どうせ私にはこの地での戦いでは離脱命令が出ているんだから問題はないだろう。


「マキちゃん。一点突破で敵陣から脱出するよ。遅れないで」

「はいっ!選抜!」



全力で前進すれば何とかなる。

そう信じて突き進んだ。

だけど、世の中というのは何事もそう簡単にはいかないものらしい。


まず私の射撃が当たらず、有効な攻撃手段はチャージ(突進攻撃)くらいしかなく常にレーザー光線の集中放火にさらされる。

マキちゃんにいたっては既に魔導力切れ。


ヴァルキリーは適合値によって扱える魔導力の量が違ってくる。

はっきり言ってしまえば二期生は圧倒的に適合値が低く扱える魔導力の量が圧倒的に少ない。

だから集中放火に晒されればすぐにガス欠してしまう。


繰り返すけど私は突進攻撃でしか有効打を与えられない。

つまりマキちゃんを守りながら攻撃に転じる事ができない。

詰みの状態である。


それでも私はまだ諦める気にはならなかった。

「ちょっと大人しくしててね」

「えっ?!ちょっと先輩何を!?」


魔導力切れで顔面蒼白になって動けなくなっているマキちゃんを小脇に抱えゆっくりと前進を始める。

つまるところ私にできる事は敵の集中放火を障壁で耐えながらゆっくりとでも進み続ける。

それだけだった。


しかしそれもあまり賢い選択とは言えなかった。

こちらが移動すれば敵も移動し一向に包囲はゆるまない。


「先輩……私を置いて1人で行ってください。先輩1人ならこれくらいの包囲、きっと抜けられますよ」

「何を言っているの??そんな事できない!」

「先輩はこれからの戦いに必要なヒトです。こんな所で死んでいいヒトじゃないんですよ」


後輩の言葉に目の前が真っ白になった気がした。


「嫌だよ……絶対に1人では行かない……もう嫌なんだよ!東京で家族を置き去りにして名古屋でも仲間を置き去りにした……もう大切なヒトを置き去りにして私だけ生き残るのは嫌なんだよ」

「ダメです先輩。命令されてるんです。例え自らの命を盾にしても先輩は絶対に生きて返せって……」

「嫌。それでも絶対に私はマキちゃんを置いてはいかない」


その時だった。

突然の爆発と共に包囲網に穴があいた。

私はマキちゃんを抱えたまま必死に走った。


次々と敵の、異星人の頭が爆発していく。

頭だけをピンポイントに狙っている様に感じられた。

目の前には槍を持ったレオタード姿の小柄な少女がいる。


「やった……合流できたんだ……」

私の口から自然と言葉がこぼれた。



「生きて……いたんですね」

事前に用意していゲリラ戦展開時に使われる予定だった拠点に身を隠し最初に出てきた言葉がそれだった。


彼女は十文字 舞華。

所属は第一部隊。

東京で全滅したと言われていた精鋭部隊だ。

あれだけの数の敵をたった1人で葬ったのも彼女だったのなら納得がいく。

黒いレオタードに十文字に別れたヴァルキリーの槍、それに加えて髪型はショートカットだけどサイドバンクだけが長いという特長的な格好をしている。


「何とかね。それにしてもツイてないわね。敵の目を掻い潜ってようやくここまでたどり着いたと思ったらもう戦闘が始まってるなんて」

腰を落ち着ける暇すらないなんてと愚痴る。


こんな状況でも普段の気勢が削がれた様子が全くない舞華に流石だなと思う。


「あの……」


声の方を見るとマキちゃんが状況がわからずキョトンとしていた。


「ああ、彼女は十文字 舞華」

「十文字って!あの、3魔女の1人。技巧の魔女ですか?」


そう、舞華は技巧の魔女と呼ばれていた。

適合値は一期生中最低の70%。

出力的には二期生とも殆ど変わらないだろう。

だけど彼女は強かった。


破壊の光槍を作り出せば魔導エネルギーを針の様に凝縮しどんな障壁もを貫く。

守護障壁を作り出せば紙の様に薄く凝縮しどんな攻撃も通さない。

同時に展開できる術式は軽く10を越える。

出力こそ小さいが技巧ひとつで最強と言われた精鋭部隊に選ばれた。

私とは真逆の人。



(でも舞華ちゃんが無事ならレンちゃんだってもしかしたら……)

無駄に希望を持つべきではないと思いつつもそう考えずにはいられなかった。



「それで、あなたは?」

「はいヴァルキリー二期生の堀野マキです」

「二期生??」


舞華に二期生について説明をすると予想どうりの、というか私が初めて二期生の話を聞いた時と同じ反応がかえってきた。

あまりゆっくりしてる時間もなさそうなので強引に話を変える。


「今後の方針なんだけど」

「それでしたら先輩方を本隊に送り届ける事が最優先になりますね」

「私としては残ってゲリラ部隊の支援をしたいところなんだけどね……」

「命令ですので」


えっ??

会話中だっけど私の感覚に何かがひっかかった。

何度も繰り返し言ってるけど私は観測術式は得意じゃない。

だけど、ただひとつだけ位置を正確に把握できた対象がある。

同室であったレンちゃんだ。


同室のメンバーには同室で励ましあった絆以外にも、もうひとつだけ強い繋がりがある。

胎内に埋め込まれた魔導ドライブのナンバーだ。

魔導ドライブに刻印されているナンバー、それが近いと強い感応現象が引き起こされる事がある。

連番ともなればそれはより顕著となる。


彼女達ヴァルキリーの部屋割りは魔導ドライブのナンバー準に割り振られていた。

つまり同室のメンバー=連番の魔導ドライブを埋め込まれているのである。


私がレンちゃんの気配を間違えるハズがない。

生きているんだ。

そう考えるといてもたってもいられなかった。


「マキちゃんは舞華ちゃんを本体まで案内してあげてください。私は他に行くところがあります」

そう言って拠点を飛び出したのだった。



1人で飛び出していった睦月だったのだが、当然の事ながら舞華とマキも後を追う。

しかもここは敵陣の真っ只中だ。

中々進行できずにいた睦月はあっさりと舞華達に追い付かれた。


「突然どうしたっていうのよ?」

「レンちゃんの……気配を感じたんです」

「レンって、確かあんたと同室の……場所は?」


気配の場所を聞かれて上空に浮かぶ戦艦の片割れを見つめる


「そんなダメですよ敵の戦艦に飛び込むなんて……無茶です」


睦月を生きて返せ。そんな命令を受けてるマキは必死で睦月を止めるが睦月は頑として聞かない。

そんな中、舞華が口を開く。


「ったく、しょうがないわね。15分、それが限界よ」

「え?」

「陽動くらいはやって上げるって言ってんの。同室の仲間の為に命をかけようってヤツを止める様なヤツはヴァルキリーじゃないわ」

「舞華ちゃん!ありがとうございます」

「ちゃんと帰ってきなさいよ。じゃないと夢見が悪いわ」


ぶっきらぼうに呟く舞華に涙目になる睦月であった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ