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第一章 第十二幕 リミッター

ごめんなさい。遅くなってしまいました。

「お母さん達にわたしておきたい物があります」


出撃待機している睦月達にそう言って声をかけたのは如月だ。

2本の槍を持っている。


「新しいデバイスですか?でも機能が複雑なのはちょっと……」


睦月に渡されたデバイスは大きな宝珠がひとつだけついた穂先の大きな槍だ。

しかしなにやら複雑そうな機構が宝珠の周りに取り付けられているのが伺える。


「それはリミッターですね」

「リミッター?」


「はい。睦月お母さんが魔導エネルギーのコントロールがきかないのってエネルギーの出力が高すぎるせいですよね。なので強力なリミッターをかけて1000分の1くらいまで落としてしまえば、それだけで安定します。1000分の1まで押さえても、防衛軍主力ヴァルキリーと同じ80%中盤くらいの出力はありますから戦闘でも問題ありませんよ。そして出力を絞ってる分、継戦能力が1000倍になります」


魔導ドライブの適合値が80%を越えれば防衛軍では上位のヴァルキリーと言っていい。

睦月は96%だが、90%を越えているヴァルキリーは地球全体で見ても10人くらいしかいない。

95%を越えるとなれば睦月1人だ。


「ぷっ、継戦能力1000倍。ホントにデタラメよね。睦月は」


ここで笑ったのは舞華だ。


「この時代の睦月お母さんでも10%くらいまではコントロールできるだろうって未来のお母さんが言ってましたよ。頑張れば15%くらいまでは可だそうです。普段は0.1%を推奨しますけど」


「そんな物があるなら何で防衛軍にリミッターのデータをわたさなかったんだ」

「防衛軍には他の魔導技術と一緒にリミッターのデータもわたしておいたんですけどね。リミッターは未来の記録でも防衛軍で作られた事はなかったみたいです」


レンのツッコミに如月は丁寧に答える。


「構造がかなり複雑ね。結構費用がかかりそう。このリミッターを作ったところで、睦月ひとりが普通のヴァルキリー並みになる程度なら、わざわざ作るメリットが感じられないわね」

「他に使い道もなさそうだしな」


「このリミッター、さっきの戦いの時にわたして貰えてたらもう少し楽に戦えた気がするんだけど……」


「ごめんなさい。さっきはまだこの時代のお母さんに合わせて微調整をしてる最中だったので、あの戦い自体記録にないモノでしたし」



「私のは普通の十文字槍ね」

「はい。舞華お母さんは皮膚そのものがデバイスですからデバイスよりも普通の槍の方が良いって未来のお母さんが」

「それには私も同感。助かるわ」


「ところでそのお母さん呼び何とかならないかな。流石にお母さんって呼ばれるには歳とか覚悟というか何というか色々とね」

「それは私もお願いしたいわね」


「えー、そんなー……私にとってお母さんはお母さんですよー」

「はいはい姉さん甘えない甘えない」


「そうだ。ドタバタしてて忘れてたんだけど舞華ちゃんに撃ち込まれたナノマシン、何とかできないかな」

「あー、それに関してなんですけど……皮膚に関する物……ですよね。記録通りならそうなんですけど」

「ええ、皮膚の感度を上げる物ね」


舞華は恥ずかしそうな素振りも見せずにサラッと答える。


「ごめんなさい。舞華おか……舞華さんの皮膚に関しては未来の技術でもよく解らない事が多くて迂闊に手を出せないんです」

「えっ!?そうなの?!」


「はい。様々な実験が行われましたがヴァルキリーの皮膚がデバイスと同じ、いえ、それ以上の機能を持つなんて現象自体が不可思議で再現すらできませんでした。それどころか迂闊に皮膚を弄ると命の危険すらあると予測されます」

「そう」


素っ気なく舞華は答えたが流石にこのままは不便だと言いたげに見えた。


「それにナノマシンの効果で皮膚の感度が鋭敏になった事で、皮膚のデバイスとしての能力の精度が上がったって未来のお母さんは言ってましたよ」

「ちっ、それは否定できないわね……」


「それで、作戦は何かあるの?」

「今回は正面突破ですね」

「つまりノープランと」


「魔導エネルギーの反応で捕まっているヴァルキリー達の位置もだいたい解ってますから。私と睦月さん舞華さんが居るこの状況なら正面突っ込んでも問題ありません。下手に挟撃しようとして分散して誰かが捕まったりしたらお話になりませんし」


如月はマキのチラリと見た。

この中で1番、戦力として不安のあるのはマキだ。

如月は当初、マキを置いて行く事を主張したのだがマキはそれを拒み頑なに一緒に行く事を主張した。

兵力を分散させないのは、そのマキを気遣っての事だ。


「今から舞華……さんにむけて魔導エネルギーを放出します。舞華さんはそれをまとめあげて周囲に滞空させておいてください」

「なるほど、それは便利そうね」


如月が舞華に手を掲げてた魔導エネルギーを放出すると舞華の周りにバスケットボールくらい大きさの球が八つ出来上がった。


「これだけ?もっといけるわよ」

「いえ、長期戦や不足の事態に余力を残しておく事を考えるとこのくらいで丁度良いそうです」


「もっといけるって、この球ひとつでも相当な量の魔導エネルギーがありそうなんだが……」

「ひとつで丁度……レン、あんた1人分よ」

「それを八つも……睦月だけでなくお前も大概デタラメだよ……」


レンもヴァルキリー全体で見ればかなり上位、適合値は88%を誇る。

そんなレンでも睦月の256分の1、0,4%程度の力しか出ない。

ヴァルキリー同士の力関係は適合値で決まると云われるのはこのせいだ。


それを悪い意味で崩したのは睦月であり、良い意味で打ち破ったのが舞華だった。


「如月ちゃんのデバイスは直剣ですか?珍しいですね」


ヴァルキリーが扱うデバイスは基本的に槍という形状をした物が一般的である。


「未来で生き残ったヴァルキリー達の間で量産された物です。扱いやすいので重宝してます」


如月のデバイスは直剣。

鍔、柄、鞘にそれぞれ宝珠が取り付けられている。

これは3つの術式を同時に行使でき、なおかつ柄の後ろに鞘を連結させる事で短槍としても扱える優れものだ。


ヴァルキリー全体を通して、装備についてはワンオフ嗜好が強いが如月は量産品を好んでいる。

ワンオフ品は品質が安定しておらず扱いに難のあるものが多い。

出力があって更に何でも器用にこなす如月にとっては、品質も安定しておりどんな扱いにも小器用に対応可能な量産品の方が扱いやすいのだ。


服装に関しては襟つきのシャツにタイをしめ上に着物を羽織る形をとっている。

これも未来の日本でのヴァルキリー残存部隊の正装である。


「サブデバイスも多いな。そうか、舞華並みに器用なんだったな。サブデバイスも攻撃に転化できるタイプか」


如月は他にも小型の宝珠のついたアクセサリーを多数装備している。

いずれも未来で量産されているサブデバイスである。

サブデバイスは通常、通信言霊や観測術式等の小規模な術式の行使に使われる出力を絞ったデバイスだ。


元から魔導エネルギーの消費の少ない小規模な術式を行使するには出力を絞ったサブデバイスの方が色々と都合が良い。

しかし舞華の様に一部の器用な者は、出力を絞られているこのサブデバイスでも攻撃術式の行使が可能であった。


今の舞華には同時に行使できる術式数に制限はないが以前は20もの術式を同時に行使できた。

如月もそれに匹敵する数の術式を同時に行使できるようで、装備しているサブデバイスは少なくとも10個は見受けられた。


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