第一章 第十一幕 ビームジェネレーター
撤退したリャックは乗り捨てていたバイクを起こし備えつけられてた無線を取る。
頼みの綱のビームエネルギーはもうない。
「後続の部隊がこちらに向かっていれば合流してもう一度戦える。…………クソッ、応答がない」
後続の部隊には艦長がビームジェネレーターをつけてくれているハズなのだ。
それが有ればビーム防御膜を張りなおし、もう一度ビームナックルを放つ事も可能になる。
それどころか野戦砲による支援も受けられる。
まだ充分以上に戦えるのだ。
ビームジェネレーターは超小型なモノでも地球の一般的な車両くらいの大きさがあり大変重たい。
それ故に速度を重視したリャックは先行したのだが今回はそれが仇となった形だ。
しかし、その後続の部隊の応答がない。
炎上してる母艦の救援に戻ったのかとも思ったが、応答それでも応答が無いのは不振だと思いながらもバイクを走らせた。
ある程度走ると後続の部隊はいた。
しかし既に皆、地に伏している。
その場で立っているのは輝く金色の髪をポニーテールに纏めた一人のヴァルキリーだけだった。
この時ばかりはさしもの彼も死を覚悟した。
「大量の魔導エネルギーの操作に脳が耐えられなくなって意識をシャットダウンしたものと予想されます」
舞華を見た皐月はさらっと言ってのけた。
意識不明の舞華を見てこれ以上ないくらいに狼狽した如月とは対照的である。
敵戦艦の撃破という未来の記録にもない快挙を2人がやり遂げた事に賛辞をおくることもどこかへ吹き飛んでしまっている。
「姉さんはもう少し落ち着いて下さい。舞華お母さんが白目を剥いて倒れるくらい向こうでもよくあった事でしょ」
「そんな事言ったって……」
「それで如月、地上であんたは1人で何処へ行っていたんだ」
言外にこっちは大変だったと言わんばかりなのはレンだ。
「ビームジェネレーターを運んでいる部隊が高台の方に向かっていたので、ちょっと行って潰してました」
「ビームジェネレーターですって!?」
「あの~、ビームジェネレーターって何??」
二人にそう尋ねたのは睦月だ。
敵の使う兵器の正しい呼称なんで防衛軍の講義にも出てこなかった。
「ああ、説明します。えっと、ビーム防御膜は解りますよね?」
「ええ、敵の周囲を薄く覆ってるバリアみたいなモノだよね」
「はい。そのバリア、私達ヴァルキリーでも数発は攻撃を叩き込まないと突破できない程強固さなのは皆さんご存知だとおもいます。そこにビームジェネレーターがあればほぼ無限にバリアをはりなおせると言ったら?」
「そんな無茶苦茶な……」
「更に戦艦の大砲並みの野戦砲にもなる。兎に角、見つけたら最優先で潰せってワタシは散々教えこまれました」
ちなみに実際の危険度的にはリャック>ビームジェネレーターなのだがそんな事は睦月達は知るよしもない。
もっともあの場で一番避けなけれなならなかったのはリャックとビームジェネレーターの合流だったのだから如月の判断も間違ってはいないのだ。
「でもビームジェネレーターまで出てきてたと言う事は、完全に今回の私達の作戦は敵に読まれていた。と言う事になりますね」
「そんな、あり得ないよ。今回の作戦は完全に睦月お母さんと舞華お母さんの思いつきだよ。それをいったいどうやって読めたっていうのさ」
「解りません。敵に魔導エネルギーを観測する技術があるなんて話は聞いた事がありませんし……可能性として考えられるのは、魔導エネルギーの渦や流れが別のエネルギーに干渉し変化が波及した。というところでしょうか」
「透子おば様が居ればその辺は1発で解りそうなんだけどなー……合流予定はもう少し先だよね……」
完全に二人会話が家族同士のそれになってしまい割って入りにくくなってしまっている。
睦月は完全に聞きの姿勢になって、如月ちゃんって家族と話す時はあんな感じなのかと感心していた。
そこに割って入ったのは舞華だ。
「あのさ、その合流予定って早めたり出来ないの?どうせもう記録どおりに進んでいない訳でしよ」
「それは!!考えた事もありませんでした。でも確かに!ここまで予定と噛み合っていないのならそれくらいは……そうすると岐阜の悲劇も回避できる……!?」
如月が1人で何やら考え込み始めた。
「その、岐阜の悲劇っていうのは?」
「えっ!」
睦月の質問に如月が明らかに狼狽えた表情をみせる。
どうやら睦月達にその話はしたくないようだ。
本当に如月は解りやすい。
「皆さん。よろしいですか。地上で動きがありました」
割り込んで話を反らした皐月に如月がお礼のジェスチャーを送っていた。
「母艦を失い、逃走を始めた敵を2期生達が追撃しました。が、母艦を離れ地上で行動していた別部隊が逃走した本体と合流しようとした結果……2期生達は敵の挟み撃ちにあい壊滅。1部が敵に捕縛された様です……」
「これは……」
「私達がやりすぎちゃったせいなのかな……」
「敵戦艦の撃破とか元々記録に無い事ですから……その先の結果も予想なんて……」
誰にも出来ませんよと皐月が言外に言った。
「それはともかく、救出に向かうしか無さそうですね。行きましょう」
と張り切る姿勢を見せる如月。
本当にこの子は解りやすい。
「でもよく地上の事が詳細に解りますね」
睦月達は今、地中の奥深く、マントルの中にいる。
普通に考えれば地表の事など知りようがない。
「ええ、地表にむけていくつも観測器を打ち込んでありますから。そこから送られてくるデータでヴァルキリーの動きくらいは丸わかりですよ」
地表に設置された観測器から地中に向け、発信機が埋め込まれている。
そしてマントル内から地表方向へ向けた受信機が地殻内に打ち込まれている。
魔導エネルギーの持つ独特の周波が土の中を突抜けての情報伝達を可能にした。
「リャック!よく無事で戻ってきてくれた。お陰で命拾いできた」
「いえ、敵の砲撃止められなかったどころかビームジェネレーターまで失う事になってしまい申し訳ありません」
「相変わらずかてえなぁ、お前さんは」
京都市街から少し離れた山中に、母艦を失った異星人達が続々と集まってきている。
リャックが市街に散った部隊の一部をまとめあげてここにたどり着いた時、艦長達はヴァルキリー達の攻撃を受けている最中だった。
幸いにも丁度ヴァルキリー達を挟み撃ちする形になった事が功を奏した形だ。
先に遭遇した金髪のヴァルキリーから、完全に逃げに徹する事で逃げきる事に成功している。
ヴァルキリー側に高台から離れてまで、こちらを追撃する意思がなかった事が幸いしたようだ。
「船にたくさんの仲間を失っちまったがヴァルキリーを捕獲できた。これで新しい戦艦くらいは買えるだろ」
異星人達は複数の惑星系からなる連邦軍だ。
艦船はそれぞれの惑星からの持ち出しである。
つまり彼らはこれから何らかの方法で新しい宇宙船を手に入れる必要がある。
そうしなければ故郷の土を踏む事はかなわないなだろう。
手っ取り早い方法は地球で略奪した戦利品を他の星の者に売却して、その金で船を買う事である。
「ですが、ここのヴァルキリーは質が悪い。あまり高くは売れないのでは??」
「いや、充分さ。戦闘力としては確かに他のヴァルキリーに劣っているかもしれんが、それでもその辺の地球人よりも遥かに身体が頑丈だ。クライアントも満足してくれるだろう」
「そうですか。しかし何人か強力な個体がいます。そいつらが奪還に動くと厄介かと」
「俺らの船を狙撃したヤツらか」
「はい。恐らく全てのヴァルキリーの中でもトップクラスの実力者が二人は……」
言わずともがな。
舞華と如月の事である。
「来ると思うか?」
「わかりません。ですが、警戒するに越した事はないかと」
「解った。すぐにここから移動する。それでいいな」