第一章 第十幕 美しい……
今回も少し視点移動が複雑です。
睦月の掲げた槍の穂先に巨大な光が集まっていた。
睦月自身が産み出した魔導エネルギーに加え、舞華が周囲から集めた魔導エネルギーだ。
「魔導エネルギーの濃度が低いわ。やっぱり2期生だけじゃ限界があるわね。これじゃ敵の装甲は抜けない、もっと限界までエネルギーを引っ張らないと」
最後の装甲を解除し、裸になる舞華。
「ちょっと舞華ちゃん!流石にそこまでやるのは!?」
「睦月は魔導エネルギーをひねり出すのに集中して」
「はっ、はいぃ!」
今の舞華はちょっと怖すぎだ。
「艦長北の高台に兵を集めて下さい。下手をすると東京の光の柱の時よりも被害がでる。私は先行してそちらに向かいます」
リャックは通信を切るとバイクに股がった。
「間に合ってくれよ……」
リャックのバイクは強靭な肉体を持つガルム星人に合わせた特別制だ。
地球のバイクの数倍の速度で地を駆け、あっという間に高台の下まで駆けつけた。
眼前には高台の下で周囲を警戒する二人のヴァルキリーがいた。
「如月は何処へ行ったんだ?」
「周囲を見てくるって言ってました」
「まったく、未来人め、好き勝手に……」
レンは如月の事をあまり快く思っていない。
彼女は元々軍人の家の産まれだ。
そのせいか防衛軍に対する心象も睦月達とは温度差がある。
その為、防衛軍を信用してないと言い放った如月達に反感を抱いているのだ。
「レンさん!あれ!」
「敵だ!かなり早い!くるぞ!!」
急ぎデバイスを召還する二人。
レンのデバイスは一見すると刀に見える。
しかしレンそれを普通の刀の様には使わない。
柄の後ろに鞘を連結させて長巻として扱うのだ。
対するマキは極一般的な素槍である。
二人ともにデバイスに埋め込まれた宝珠は二つ。
攻撃と防御を同時にこなす、ヴァルキリーの基本スタイルである。
敵の出で立ちは赤い宇宙戦闘服にそれに合わせた赤いメット。
装飾のほどこされたメットはさながら特撮ヒーローの様だがそのメットには大きな傷痕がある。
敵もこちらに気付いた様でバイクにくくりつけられていた大剣を解き放つ。
「このスピードで迫られるとなると、狙撃も形無しだな」
敵はスピードを緩める気はなさそうだ、騎乗したまま速度を生かして交戦する構えらしい。
あるいは、こちらの狙いに気付いていて、高台まで突破する気なのか。
いやそんなハズはない、もし気付いているなら意地でもここで止めるまでとの邀撃構えを強める。
「敵は一騎。舐められたモノだ。赤メット!」
敵が最初に狙ったのはマキだ。
構えの違いでレンよりもマキの方がくみしやすいと悟ったのだ。
高速で地を駆けるバイクの速度に任せた一撃、マキはかろうじて避ける事成功する。
その瞬間、狙い済ました様にレンの攻撃が赤メットを襲う。
しかし、赤メットは器用にもレンの強襲を避けてみせた。
それでもバイクの姿勢を大きく崩し、転倒するバイクから大きく跳躍して飛び降りる。
レンを飛び越え高台側に難なく着地した赤メットは、隙無く構えるレンを完全に無視、全力で高台へ駆け上がった。
高台では睦月と舞華、二人で作り上げた巨大な破壊の光槍があった。
それは舞華の補正で瞬く間に凝縮されていく。
普段の舞華であれば一本の針と言われるくらいまで細く鋭く練り上げてみせるが、今回は流石にそうはいかなかった。
睦月と魔導エネルギーの渦の力は流石に膨大すぎたのだ。
それはまさしく巨大な杭。
舞華は睦月の顔を見てうなずく。
発射準備は無事完了。
後は睦月が狙って撃つだけである。
二人のヴァルキリーを強引に抜き去り、高台の上まであっという間に駆け上がったリャックは驚愕した。
天に浮かぶ神々しき光の杭。
これが発射されれば、自分達の母艦など一撃で沈んでしまうに違いない。
これは何としても止めなければならい。
しかし、リャックは動けなかった。
光の杭、その下に佇む二人のヴァルキリー。
そのうちの一人は完全に裸だ。
「美しい……」
見とれてしまっていたのだ
あろうことかこの非常時に、敵の裸に。
それは戦場において完全に許されない失態だった。
無情にも放たれた光の杭は、リャックの頭上を通り抜け自身の母艦を突き刺すべく天を駆けていった。
「ファイアッ!!!!!」
睦月の掛け声と共に放たれた光の杭。
しかし発射の瞬間に聞こえた異星人の声を睦月の耳ははっきりと拾っていた。
「気を取られた……右に反れるっ……」
「大丈夫!その程度なら補正できる」
僅かに外れるかに見えたそれは舞華の補正を持って見事に敵艦に突き刺さり、派手に爆発した。
高台から炎上する母艦を見下ろしながらリャックは愕然としていた。
「またしても戦士としてあるまじき失態……かくなるうえは、何としても敵を撃ち取られねばっ……」
敵艦の狙撃という大仕事をやってのけたのもつかのま。
目の前に敵が迫っている。
睦月も舞華も消耗が激しい。
「たぁああ!もう逃がさんぞ」
レンとマキが駆けつけた。
これで4対1、漸く一安心といったところか。
しかし赤メットの敵は巧みに四人の攻撃をかわし攻撃が全くあたらない。
驚異的な身のこなしだ。
睦月は前に出て舞華を後ろに庇う姿勢をとる。
戦装束を着ていない舞華を前に出す訳にはいかなかった。
それに、舞華の裸をこれ以上敵に見られたくなかったのだ。
それでも舞華は戦装束を着ようとはしなかった。
攻撃の手が緩むのを避ける為だ。
母艦を落とされた赤メットはさながら決死隊。
少しでも隙を見せればあっという間にやられてしまう。
それが解っているのだ。
睦月は舞華の守りに徹し、レンとマキが近接攻撃をしかける。
その合間を縫うように舞華の射撃が赤メットを襲う。
一瞬間足りとも休ませない構えだ。
それでも赤メットはまるでサーカスの軽業師の様に、巧みに身をかわし、時には大剣で防ぐ。
攻撃が当たる気配がまるでない。
焦れてレンとマキの攻撃がだんだん荒くなっていく。
早く倒さないと不味い事になりそうだ。
「場は整った、二人とも下がりなさい」
舞華の声と供に、赤メットの周囲を包む様に無数の光の針が出現する。
完全な全方位攻撃。
さしもの敵もこれはかわせない。
誰しもがそう思った。
しかし赤メットは伸身のムーンサルトの容量で後方へ回転しながら跳躍し、避けて見せたのだ。
それでも舞華は言う。
「チェックメイト」
舞華が赤メットの着地点に向けて光の波動を放っていたのだ。
それを見た赤メットは、空中でベルトのコンソールを操作した。
「ビームナックル」
瞬く間に赤メットの右手が光り、その拳で光の波動を反らしてみせる。
しかし、流石にその動作は無茶だったのか着地に失敗して派手に地面を転がった。
全員が息を飲んだ。
コイツは本当の化け物だと。
だけど、流石にこれ以上は無理と判断したのか起き上がった赤メットは一目散に逃げ出した。
危機が去ったと思うと一気に疲労感が襲ってきた。
「あれだけのヤツだ、只引いただけとは思えん。足止めだった可能性を考えた方がいい」
レンの言葉にうなずいたその時、後ろでドサッという音がした。
振り返ると舞華が白目を剥いて倒れていた。
リャック。強いのに肝心なところでいつもやらかしてくれる敵ながら憎めないヤツ。
度々タイトル微妙に変えてごめんなさい。