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第一章 第一幕 この世界には絶望しかない

逆転劇になりますのでツラいのは最初のウチだけです。たぶん。きっと。

「はぁあああ!」

烈迫の気合いと共に産み出された光の槍が宙を駆ける。

光の槍それは魔導力と呼ばれる力で作り出された破壊の槍。

それを産み出したのはまだ年若い少女であった。


彼女の出で立ちは戦場に似つかわしいとは思えない派手なピンクのレオタードであるが腕と脚には大きな籠手と足具をまとっており、戦士としての体裁を保っている。

しかしそれも、レーザーやビームの飛び交う戦場ではいささか古臭い。

そして何よりも目を引くのはその手に携えた巨大な槍であろう。彼女の身長を越える長さの柄とその先端に輝く巨大な刃の付け根には大きな宝石と複雑な機械が取り付けられている。


その槍はただの槍ではなく魔導エネルギーを操作するデバイスであった。

少女の元より放たれた光の槍は数百メートルはあろう距離を瞬く間に駆け、建物に衝突すると凄まじい勢いで爆散した。


その衝撃は巨大なビルひとつをあっという間に崩壊させ周囲に爆風を撒き散らすに至り、数百メートル離れた場所にいる少女もその爆風に光り輝く長い髪を激しく煽られる。


「やった??」

私の持つ魔導エネルギー量はヴァルキリーの中でも圧倒的だ。それゆえ細やかな操作を苦手としており遠距離射撃の命中率は高くない。


共に出撃したハズの仲間達の姿もいつの間にかなくなっており、観測能力の高くない私には戦果の確認がおぼつかない。


「痛っ!!」

横方向からの突然のレーザー照射で顔の皮膚が焼け裂けた。


「別方向……?」

素早く魔導エネルギーを収束させて障壁を作るが少女の元に錯綜するレーザー光はひとつやふたつではなかったのだ。


「そんな……まさか囲まれて……」

それは予想しうる最悪の展開である。

彼女ら、ヴァルキリーの魔導障壁はレーザー光線のひとつやふたつ程度ならびくともしなかっただろう。しかし何十、何百の光線が一点に集中すれば話は別である。事実、戦場で散った彼女の仲間の大半は、このレーザーの集中放火でやられている。


「ここまでなの??」

考えられうる最悪の状況に瀕していよいよ私は死を連想すると共に過去を思い返す。

思い返せば録でもない人生だった。


人体に強力な魔導エネルギーを宿しそれを操作可能にする魔導ドライブの適合が認められたと言われ軍に強制的に連れていかれた時、私は恋もまだ知らなかった。

それからの人生と言えば酷いモノで、魔導ドライブの埋め込み手術。術後の痛みは特に酷く何度も死にたいと思った。


数ヶ月かけてようやく魔導ドライブが身体に馴染み、痛みが引いたと思えばそこから先は地獄の様な訓練訓練訓練だ。楽しかった事なんてもう録に思い出せない。


『ナンバーJ-1応答せよ。繰り返す。ナンバーJ-1応答せよ』

言霊通信だ。敵に絶対に傍受されない、私たちヴァルキリー専用の通信手段。

通信担当のヴァルキリーの言霊を感知するのは随分と久し振りに感じた。


「こちらナンバーJ-1城野 睦月。敵に包囲されてる」

言霊を感知した方向に素早く言霊を返す。

『良かった。無事だったのね。睦月。状況は把握してる。敵の包囲網には穴がある。突破口を教えるわね。突破したらすぐに帰還して』

「了解。隊の……他のメンバーは?はぐれたの」

『みんな撤退を開始してる。あなたも急いで』

「了解」


それから死に物狂いで戦場を駆け抜けた。

戦場で独りは怖い。


なんとか撤退地点にたどり着き、まず最初に同じ部隊の仲間の安否を確認したかったが、すぐに地下のリニアレール押し込まれる。どうやら撤退してきたヴァルキリーは私で最後だったらしい。


脱出するリニアもこれが最後。この車両が脱出したら地下道は爆破されるようだ。

様々な物資と共に無理矢理押し込められたリニアレールの車両の中で私ははぐれた仲間がの反応をロストした事を知らされた。




話は今から5年前にさかのぼる。

世界は突然の異星人の来訪に沸き上がっていた。


銀河星間連邦の先見隊を名乗る彼らは当初は非常に友好的で、星間貿易は私達に様々な利益をもたらすなんて言われていたのを覚えている。


それから2年がたち銀河星間連邦の本体が地球に到着した。

銀河星間連邦の本体、その艦隊の全ては強力な宇宙戦艦でありその数は1000に及ぶ大艦隊だ。

彼らはその全艦を持って地球を完全に包囲した。


そして彼らはこう言ったのである。

「2年に及ぶ調査の結果、地球人は非常に知能が低く強欲であり野蛮極まりなく我々星間連邦の一員たるにふさわしくない。よって、これより地球から地球人を排除し地球は我々が管理するものとする」

突然の手の平返しに世界は怖れおののいた。


それから地球に10数隻の戦艦が降下を開始。数は全体の100分の1程度でしかないがその力は圧倒的だった。

地球に降下した彼らの戦艦は大都市をひとつひとつ、ゆっくりと、だけど確実に潰していく。


私達、地球人の軍事力は彼らの足元にも及ばず、ただ蹂躙されるのを待つしかなかった。

彼らに抵抗した人達は漏れなく殺され、抵抗しなかった人達は彼らに連れていかれた。連れていかれた人達の末路は奴隷か宇宙生物の肥料、あるいは宇宙植物の苗床等と録なモノではなかった。


私達は頭上に宇宙戦艦が現れる日を恐れて日々を過ごした。

そんな絶望の淵に立たされた私達地球人だったが、一筋の光明をみつけるに至る。

未来人を名乗る人物からの技術供与だ。


現状唯一、異星人に対抗できる兵器。魔導兵器が私達地球人にもたらされた。

地球防衛軍が結成され様々な魔導兵器が造られた。

だけどそれは反抗の決定打にはなりえなかった。


魔導兵器が真価を発揮するには人体に魔導ドライブを埋め込んだヴァルキリーの存在が必要不可欠だった為だ。

しかし魔導ドライブを埋め込むにふさわしい場所は女性の子宮でありその為、ヴァルキリーになれるのは若い女性に限られた。手術を受けてヴァルキリーになれば子を育む子宮が魔導装置に占有される為、子を成す事ができなくなる。

非常事態にも関わらず反発する人権団体も少なくは無かったのだ。


最終的に業を煮やした防衛軍が独走を始め魔導ドライブの適合者を強制徴発するに至った。

私、城野 睦月もこの時、魔導ドライブの適合者に選ばれ徴発された。家族に別れの言葉を告げる時間すら与えられなかったのをよく覚えてる。


こうして戦場にヴァルキリーが姿を現す様になったのだが、それでも形勢を逆転するには至らなかった。


ヴァルキリー出現当初こそヴァルキリーの手によって真価を発揮した魔導兵器の圧倒的パワーにより異星人の侵攻を一時的に押しのける事に成功する。しかしレーザー光線あるいはビーム砲による集中放火によってヴァルキリーの撃破が可能ということが判明。異星人の侵攻が再開される。


ヴァルキリーの力は依然として圧倒的であった。敵と同数であったら負けはしなかっただろう。否、敵が100倍であっても負けなかっただろう。しかしヴァルキリーは数が少なかった。少なすぎたのだ。

再び地球人は窮地に追い込まれる。


今から半年前。とうとう異星人の宇宙戦艦が日本に侵攻を開始した。

最初の攻撃場所は首都、東京だ。


ここで私、城野 睦月も初陣を飾る事となる。

敵戦艦の移動速度の早さは尋常ではなく、気が付いた時には既に敵は東京上空に浸入していた。


私達、地球防衛軍日本支部ヴァルキリー部隊も東京全面に展開。防衛にあたるも、わずか30分で霞ヶ関が陥落。1時間後には防衛軍日本支部が東京から名古屋への撤退を決定。更に名古屋に臨時政府を置く事が決まる。


ヴァルキリー部隊の被害は1割程度。損失は軽微だったといえる。だけど精鋭と言われた第一部隊が全滅した事に私達は衝撃をうけた。

私は家族を残したまま東京を去ることになった。私だけじゃない。東京に家族がいる仲間はみんなそうだった。


そして今日。

敵の戦艦が名古屋に侵攻を開始。私達は応戦するもむなしく撤退にするにいたる。

防衛軍日本支部並びに臨時政府は大阪に移転する事となる。

この戦闘で防衛軍日本支部のヴァルキリー部隊は全体の4割を喪失。私、城野 睦月の所属する第三部隊は私を除いて全滅。敵は私達、ヴァルキリーとの戦いに慣れてきてる様に感じられた。


この世界には絶望しかない。



大阪に脱出した私は臨時で与えられた宿舎のベッドで布団にくるまっていた。

もう既に日は高い。本来ならば訓練漬けでまた地獄の日々を送っていたハズだろう。


だけど名古屋でおった傷がなおりきってきていないため訓練は免除中だ。

左腕の肉がレーザーで焼かれ骨が見えていたが、それもだいぶふさがってきている。

もっともこのくらいの傷なら治癒ユニットさえあればヴァルキリーならば一瞬でなおせるのだが、今は戦時。治癒ユニットも節約しなければならない。


名古屋が陥落した事で名古屋より東の兵器工場から大阪への輸送が不可能な状態に陥っている。

それに治癒ユニットを打ち込まなくても時間をかければこのくらいの傷は治癒してしまう。それがヴァルキリーである。


「レンちゃん……」

未だにあまり動かせない左腕を右手でおさえながら名古屋ではぐれた仲間の名を呟く。

上月レン。彼女と睦月はただの仲間ではない。


魔導ドライブの埋め込み手術の後、魔導ドライブが身体に馴染むまでの痛くてツラい期間を同じ病室ではげましあった『同室』の相方だ。

ヴァルキリーにとってこの『同室』という言葉にはそういう特別な意味合いがある。

血の繋がった家族よりも深い絆がそこにはあった。


思えば手術が終わってからというもの二人はずっと一緒だった。訓練生時代も配属された部隊も一緒。

そんな相方の存在を感じられないのは初めてで、心がドンドン渇いていく感じがした。


この感覚は手術の為に家族と引き離された時に似ていると私は思った。

最初のウチは会いたくて会いたくて仕方がない。だけど段々とその感覚が薄れていって、そのうち何も感じなくなる。最終的には異星人に制圧された東京に置き去りにしたというのに何の感情も沸かなくなっていた。


私は『同室』レンに対しても、家族の時と同じように感情が渇いていくのではないか。そう思うと気が気ではなかった。


異星人の侵略部隊は侵攻した都市に長くとどまる傾向がある。それは彼らの目的が略奪であるからだ。

中でも地球人の女性に対して奴隷として、あるいは宇宙生物の苗床の価値を高く見ており、彼らが次の都市に侵攻を開始するのは執拗に女性を探し尽くした後だと言われている。

それが未来人よりもたらされた情報だ。



東京、名古屋では撤退した都市防衛戦が展開され限界を越えたら撤退し次の都市で体勢を立て直すという戦略が取られた。

しかしその方法では数で劣るヴァルキリーは圧倒的に不利。その為大阪では全く違う戦法を展開する事が決定された。



「へっ?後輩ですか??」

療養中に受け取った通信担当からの言霊に思わずすっとんきょうな声を上げてしまった。


「いや、ちょっと待ってください。適合者は既に全員徴発済みじゃなかったんですか?」

「ですから基準値を引き下げたんですよ。大幅に」

二の句を聞いて更に驚愕する。


「そんな……私達でも相当な苦戦を強いられているのに、適合値がそんなに低い子達を無理にヴァルキリーにしたところでどうにかなるとは……」

「適合値を70%から50%まで引き下げれば適合者は10倍以上になります。ヴァルキリーの最大の弱点はその数の少なさです。戦いは質より量。ならば取るべき方針はひとつ。もう後はないんですよ。私達には」


ヴァルキリーを大幅に増やすという事は妊娠可能な若い女性が大幅に減るという事を意味する。

此度のヴァルキリー増員は文字通り最後の手段と言っても過言ではないだろう。


「話を戻しますね。あなたの後輩、ヴァルキリー2期生は既にそちらに向かっています。司令書は2期生の子に持たせているので、合流し次第行動に移ってください」

それでは私は他の子達にも連絡を回さなければならないのでと一方的に話を切り上げられた。



「ほ、ほ、本日より城野さんとぺ、ペアを組む事になりました。ヴァ、ヴァルキリー2期生、堀野マキです。宜しくお願いします」

「えっと、とりあえず落ち着こっか……」

噛んだ。なんていうかちょっと可愛いな。

これが司令書を持って私の所にきた後輩の第一印象だった。


「す、すみません。城野さんみたいな凄い人とペアを組むと思ったら緊張してしまって……」

「凄い?私が??」

「はい。魔導ドライブの適合値96%全ヴァルキリー中トップの数値を誇る最強のヴァルキリー……ですよね?」

「確かに適合値だけみればそうだけど、私より強い人はたくさんいるから……」

そう確かに適合値、数値だけなら私はトップだった。だけどそれだけだ。


魔導エネルギーの出力だけが大きくて、射撃も録に当てられず、複数の術式を同時に展開する事もできない落ちこぼれ。

唯一自信がある事といえば障壁の堅さと持続力くらいだろう。

それが私だ。


「それより司令書を見せて貰っていいかな?」

気まずくなった私は話をそらした。



「はぁ……」

堀野マキ、彼女が持ってきた司令書を見てため息が出る。

いつかはこういう命令が出るだろうと予測はしていた。だけど実際にその命令を目の当たりするとやっぱり気持ちが沈む。


司令書を両手で抱えるように持って私の所のきた後輩ちゃんが緊張してたどたどしく挨拶する様は初々しくてそれはもう可愛かった。守ってあげたくなる妹系みたいな感じ。

だけど司令書の中を見ればそんなものは全て吹き飛んでしまった。


「あの……先輩?」

後輩ちゃんが不安そうな顔でこちらの様子を伺っている。

「なんでもない。それじゃあ……行こうか」



「先輩、急ぎましょう!今日中にあと3ヵ所は回らないといけませんから。早くしないと日が暮れてしまいます」

そう言って後輩が急かす。

私達に課せられ任務は市中へのデコイと隠蔽結界の設置だ。


東京、名古屋の陥落により次のターゲットが大阪である可能性が濃厚になった。

そのため大阪では大規模な疎開とシェルターへの避難が始まり大阪の市中は無人になりつつある。


しかし異星人が大都市を狙うのは地球人を奴隷とする為である。

都市から人がいなくなったのでは異星人達を誘いこむ事ができなくなる。

そのため人の生体反応を偽装したデコイの設置である。


そして大阪では本隊の早期撤退と残留部隊によるゲリラ戦が予定されている。

その為、残留するゲリラ部隊の拠点用に生体反応を隠蔽する決壊の設置が急務となった。


「マキちゃんは元気だね。そんなに急がなくても大丈夫だよ。次の侵攻まではまだ時間があるから」

「何でそんな事がわかるんですか?」

「東京が落ちてから名古屋侵攻が始まるまで半年かかった。たから次も半年後、まだ3ヶ月はかかるだろう……って……」


言いかけたところで、不意に違和感を感じて空を見上げる。

そこには、敵の戦艦があった。


「まさか……こんなに早いなんて……」


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