古代ギリシャの線文字A(2.記号のルーツ)
ここでは、線文字Aの何たるかにつき概観します。
1.概観
線文字Aに関しては、在アテネ・フランス考古学研究所のOlivier及びGodartによるオンライン資料(通称GORILA)が「Mnamon GORILA」で検索可能で、通し番号付きの写真や資料が登場する。
(1)線文字Aと線文字Bの共通記号(80種類)
線文字AとBに共通する記号で、線文字Bの類推で音声が判明しており、「*」を付して番号が記載される。基本的に日本語の平仮名50音と同様に(子音+母音)の音節 (シラブル)単位だが、80種類なので優に必要な音を網羅し、同音を表す別記号も含まれる。
(2)線文字Aに特有の記号(309種類)
(ア)比較的単純な記号。表音記号に加え、表意記号も。(98種類)
(イ)単純な表音記号を複数合成した記号(164種類)
(ウ)度量衡の記号と見られるもの(47種類)
2.音声の判明している文字
ジョージア・トビリシ国立大学の研究者G.クヴァシラヴァ(Gia Kvashilava)の「On Decipherment of the Inscriptions of Linear A in the Common Kartvelian Language: ku-ro and ki-ro」を検索すると、線文字Aと線文字Bの共通文字表が登場する。(通し番号はE. Bennettによるもの)(注)
(1)各記号は人間・動植物や文物のシンボルであり、日本語的な風情がある。(例えば65番の「JU」は平仮名の「ゆ」に酷似)
(2)各記号に関し、具体的に何を表現しているのか、該当する日本語を発見出来れば、その最初の音節
(シラブル)を表すものと理解できる。従って線文字Aの発明者は、元祖日本語を話していたとの結論である。
例: 鏡を表す記号(*77) ⇒ 「KA」の表音文字
但し日本語に同音異義語が多いため、個々の記号の字源は、一つとは限らない。
(3)MU(*023)の様に、同一音を表すのに、複数の異なる記号が使われたりするが、恐らく筆記者が左利きの場合、書きやすい文字を工夫したので多様性が生まれたのだろう。特に左右を逆にした(鏡の)イメージは、同じ記号を表すと考えられる。
(注)G.クヴァシラヴァは、背景言語に関し、古代ジョージアの言葉と主張しているが、青銅器時代の末期、ミノア人がクレタ島を離れて分散した場合、日本語以外の様々な国の言葉にも、影響を及ぼした可能性があろう。
3.記号のルーツ/字源
(1)母音
母音は、A(*08)、E (*38)、 I(*28)、 O(*61)、U (*10)の5つで、記号の字源は、それぞれ次の通り。これらの記号が単語の冒頭に来る場合、「は」行(HA、HE、HI、HO、HU)の発音も、視野に入るだろう。
(文字) (イメージ) (日本語ルーツ)
HA/A(*08)双斧/エジプトの聖牛⇒ 斧/アピス(ハピス)
HE/E (*38) ・・・・ピラミッド ⇒ エジプト
HI/I (*28) ・・・・・松明の火/イカ ⇒ 火/イカ
HO/O(*61) 真珠貝(古典ギリシャ語オストレオン、οςτρεον:牡蠣)
或いは、ワイン(古典ギリシャ語オイノス、ο’ινος)
HU/U (*10)・・・ 振り返る馬 ⇒ 午(馬)
(注)古典ギリシャ語には、H に相当する記号がなく、単語が母音で始まる場合、母音の上に、H 音の有無を示すアクセント記号が付けられる。例えば、α の上に 「’」なら、ア/ア-、上に「、」 なら、ハ/ハ-。
(参考)キプロス音節文字の「 I 」 の記号は、焚火を表す。
(2) 音節
AU だけ二重母音で、残りは開音節(母音+子音)。子音は、D、J、K、M、N、P、Q、R、S、T、W、Z、と見られる。このうち「Q」は、(単語の冒頭以外で)「は」行に相当するだろう。なお[ ]内は、筆者独自の解釈。
(文字) (イメージ) ⇒ (日本語ルーツ)
AU(*85) 釣り針にかかり、水面から顔を出す魚 ⇒ 青、魚
DE(*45) 立派な建物(高床式・千木の装飾) ⇒ 殿/神殿(古代の出雲大社本殿)
DI(*07) メソポタミアの神殿 ⇒ ジグラット
DU(*51) こぶ牛(左向き) ⇒ 丑(?)
JA(*57) 木の幹のヤニ採取/魚を捕る簗 ⇒ ヤニ/ヤナ
JE(*46) 屋根に千木のある家 ⇒ 家
(参考)奈良時代には、や行の「え」(JE)が存在。山口仲美「日本語の歴史」(岩波新書。2019年第30刷)。
JU(*65) 垂れ下がる花/ゆりかご ⇒ ユリ/ゆりかご
KA(*77) 円の中に十字 ⇒ カメ、鏡、風車
[ KE(*44) 十字に × ⇒ ケツ ]
KI(*67) リュトン(角型杯) ⇒ 器
KO(*70) 下向きの釘/ 木(インダス文字風)⇒ こ(だち)
KU(*81) 翼の鳥/ KU(楔型文字)の応用 ⇒ カラス/ 食う
MA(*80) 猫/魔物 ⇒ ミャー/魔物
ME(*13) 植物の芽、もやし ⇒ 芽
MI(*73) 耳、植物の実、蛇 ⇒ 耳、実、巳
MU(*023) 紫の染料を取る巻貝(Murex) ⇒ ムラサキ
(注)クレタ島東部のChryssi島発掘の際、紫の染料の取れる巻貝(Murex)の残骸が大量に発見され、ミノア人が貝紫を採取していた事が窺われる。この染料は、青銅器時代からビザンチン帝国に至る地中海東部で貴重で高価とされ、ローマ時代には皇帝だけに許された色「皇帝紫」として知られている。
佐賀県の吉野ヶ里遺跡から発見された弥生時代の文物のうち、紫色の布切れに関し、染料が貝紫だと判明している。また聖徳太子が603年に定めた冠位12階では紫色の冠が最高とされ、日本では紫の格式が最も高いとされてきた。これに対し、中国では黄色が皇帝の色、韓国では赤である。
NA(*06) ナツメヤシ/ 横棒2本から降りる点線 ナツメヤシ/ 涙
NE(*24) 「王」⇒ 北斗七星・小熊座の柄杓の間の「子の星」(北極星)/枝に摑まるネズミ
NI(*30) 両肩の荷物/「二つ」を表す図柄 ⇒ 数字の「二」
NU(*55) 縦糸を横糸が縫う構図 ⇒ 縫う
PA(*03) 咬み合わせた歯 ⇒ 歯
PI(*39) 琵琶/ 山から昇る太陽 ⇒ 琵琶/ 陽(日)
PO(*11) 横から見た乳房/乳首 ⇒ べに(紅)
PU(*29,*50) 琴の様な楽器/ふいご ⇒ プサルテリー / ふいご
QA(*16) チューリップ系の花 ⇒ 花
QE(*78) ケシの実 ⇒ ケシ
QI(*21) 羊の頭 ⇒ 未
RA(*60) ハープ/ライア(Lyre)
RA(*76) らせん
RE(*27) サフランの花の柱頭(注) ⇒ レンゲ
(注)インダス文字では、同じ記号を3本指の手と見做し、MITE、SATE、あるいは REと読んだ。これを踏まえ、RE(*27)の読み換えは、MITE/SATE。
RI(*53) 理知的な目鼻立ち ⇒ 理
RO(*02) 縦棒の長い十字 ⇒ (船を漕ぐ)櫓
SA(*31) 3方向に分かれるY字形 ⇒ 三 / さかな
SE(*09) 麦等の穂 ⇒ シトス(Σιτος)は古典ギリシャ語で、穀物
SI(*41) 棺の遺体/枝 ⇒ 死/支
SU(*58) 中が閉じていない「巳」の字 ⇒ 巣
TA(*59/*66) 竜/凧 ⇒ 辰/凧
TE(*04) 植物 (シュロ)の葉 ⇒ 手
TI(*37) 上向く乳首 ⇒ 乳首
TO(*05) トンボ/マスト ⇒ トンボ/止まり木/鳥居
TU(*69) 腰の張った女性 ⇒ 妻
[上から着地した槍 ⇒ インダス文字「TU」(半月を突く槍)の変形]
TWE(*87) 口琴(楽器) ⇒ TWE(擬声語)
WA(*54) 綿花/ 布の織器(下に縦糸の重り)⇒ 綿
WI(*40) 上部がすぼまり、三角形に近い「田」。
(参考)奈良時代、ワ行は「わ」、「を」に加え、「ゐ」(WI)と「ゑ」(WE)があった由。
ZA(*17) 木からぶら下がるザクロの実 ⇒ ザクロ
ZE(*74) セミ/鋸 ⇒ saw(英)、sega(伊)
ZO(*20) 弓矢(いて座の記号) ⇒ 鏃
ZU(*79) 毛の生えた頭/上から見た舟 ⇒ 頭/ 図
4.ミノア語と日本語の類似点
線文字Aに記録された古代ミノア人の言葉と日本語との間には、次の類似点が指摘される。
(1)開音節が単位
線文字Aでは母音/二重母音を除き、全ての記号が開音節(子音+母音)のシラブルで構成され、平仮名・カタカナに酷似する。
(2)母音
A、E、I、O、U の5種類。
(3)子音
(線文字A) D、J、K、M、N、P、Q、R、S、T、W、Z
以上、線文字A・Bに共通し、音価の類推される記号(*01~*87)から。日本語と同様に、L音とR音の区別がない。
Q行の字源は、QAが「花」、QIが「羊」なので、現代の日本語なら、H音。またP行の場合、PAが「歯」、PIが「琵琶」、POが「紅」、PUが「プサルテリ-」(楽器)なので、概ね日本語のB音と推定される。
W行に関し、線文字AではWA(*54)とWI(*40)が知られ、WIは「ヰ」に酷似。WOと目されるのが、「を」に似た形の、O(*61)。現代の日本語では「わ」と「を」が一般的。
ついては濁音(DとZ)及び半濁音(P)を除き、またQ行を H行として書き直せば、次の通り、日本語と一致する。
(線文字A‘) H、J、K、M、N、R、S、T、W
(現代の日本語) H、J、K、M、N、R、S、T、W
奈良時代、H音はF音/P音の様に発音され、次の通り。
(奈良時代の日本語) H(F/P)、J、K、M、N、R、S、T、W
因みに奈良時代の日本語では、JEの記号が存在した由で、線文字Aにも(*46)として存在する。
(4) 膠着語
線文字Aの単語で語尾が微妙に変化するとして、欧米の研究者がよく引き合いに出すのが、KI-ROである。
MA-KA-RI-TE KI-RO U-MI-NA-SI (HT 117a.1-2)
KI-RI-SI (TY 3b.1)
KI-RI-TA (HT 114a.1)
このうちKI-RO は「黄色」の可能性もあるが、KI-RI-SIとKI-RI-TAは、いずれも(KI-RI)+接尾語と見られ、線文字Aの背景言語は「膠着語」と推定される。日本語も膠着語である。