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4話

投稿遅くなり、申し訳ありません。

ビュウウウゥゥゥ…


 数秒前、夕麻の体は「ガコン!」という音とともに、真っ暗な虚空へと投げ出された。不測の事象に体はこわばり、嫌な汗が服を濡らしていく。


「チクショウ!あの猫女め、性根腐ってやがる!何が管理者だ、何が創造主だ、ただの性格の悪いコスプレババァじゃねえか!てか、これどこまで落ちるんだ!?あああああもおおお!!」


 真っ暗な空間をしばらく落ち続けていると、急に視界に美しい青と緑が広がった。どうやら、地上のはるか上空に抜け出たようだ。おそらく、ヨルドの空だろう。なぜなら、夕麻の落ちている眼下には、太平洋らしき場所に横たわる、巨大な大陸が広がっているからである。


「ファンタジーを冒険する前にゲームオーバーじゃねえかよおおおお!!!クソォ、こうなったらイチかバチか魔法で乗り切るしか!」


 夕麻は杖を腰から抜き、ギアをぐるりと最大まで回し、自分の背中に大きな羽が生える様子を強く思い描いた。


バッサアアアァァァァァ!!


 生命の危機による強い思念も相乗したのか、背中には見事な翼が現れた。背中周辺に意識を集中させ、飛ぼうと動かそうとしてみると、バサバサと意図した通りに動き始め、翼の大きな面積により生み出される揚力で、体は徐々に宙に固定され始めた。


「チュートリアルにしては、ちょっとハードなんじゃないか?」


 ゆっくりと高度を下げていくにつれ、アナナキの言っていた通り、眼下には大きな山が見え始めた。その山は、ムー大陸の中央のあたりに位置し、広大な面積と自然とを有しており、資料集なしでは迷子になることは間違いないというほど広く、「緑の海」という表現が似合う様相を呈していた。


「ちょうど町とかから離れてそうだな。人とか居なそうだし、魔法の練習をするには都合がいいか」


 羽の操縦にも徐々になれてきたころ、森の木の頭あたりに到達し、羽を大きく広げてゆっくりと滑空し、コケのはえた地面に着地した。


「この羽、ちゃんと消すことできんのかな...」


 手に握っていた杖のギアを少し緩め、羽が消える様子を思い浮かべると、パァァァと光とともに背中の違和感と重さが消えた。背中に意識を集中させても、何かが動く様子もない。


「さて、異世界チートを始めますかね」


 ギアを少し上げ、杖を構えて周囲の物を「把握する」イメージを思い浮かべ、強く念じた。


「やっぱり鑑定が安定でしょ。何もわからずに動くのはさすがに危険だし。」


 ピカッと視界に光が走り、周囲の情報が流れ込んできた。まず、夕麻がいるこの大きな山は「アララト山」というようだ。周りにはいろんな植物、木、野生動物が存在し、人の手が及んでいない現代社会では考えられない豊かな緑が広がっている。


「人は...いないようだ。魔法の練習にはちょうどいいな」


 杖をしっかりと握り直し、魔法の練習をしようとしたその時、


「あれ?、そういえば詠唱とか構えとかって必要じゃないはずだよな?」


 この世界、というよりNFAによってもたらされる魔法は、あくまでも感情による物理現象への干渉、それが増幅されておきる現象なのである。そのため、ゲームや小説にあるような詠唱や予備動作、構えなどは必要なものではないはずである。


「でも、アナナキは指パッチンしてたし、俺もそれをガードした時に地面をなぐってたし... なんか無意識的にそれっぽいことしちゃうみたいだな」


 夕麻は杖を構えず、棒立ちの状態で火の玉のイメージを思い浮かべ、念じた。


ボッ...


「あれ? さっきよりも弱い気がするぞ...?」


 今度は杖を構え、振りかざし、強く燃え盛る炎のイメージとともに適当な呪文を唱えた。


「カグツチ!」


 その詠唱に自分の感情、思念がスッと入った感触ともに、地面がほのかに揺れ始め、同時に眼前に巨大な火柱がうねりを上げながら立ち昇った。


「はぇぇ? こんなに強力に作用するものなのか… 中二病であればあるほど強くなるって感じみたいだな。 というよりも今のは流石に人に見られたんじゃないか?」


 人に見られてないかと考えていると、ふと資料集のことを思い出した。そして杖のギアを切って腰に収め、カバンから分厚い本を取り出した。


「う〜ん、やっぱゴツすぎだな。どうやって捜し当てるか…」


 しばし考えた後、背表紙側から開いて大量の索引を当てに、アララト山の地図らしきページにたどり着いた。アナナキの言っていたとおり、現在地表していると思しき矢印マークが浮き出ていた。


「これじゃまるでナビじゃないか。一番近くの街はどこですかー、なんてな」


 すると、ページが勝手にパラパラとめくられ、ムー大陸中心部を見下ろした図のある一点が点滅し始めた。その図の大部分は緑に覆われたアララト山に占められていて、やはり自分の現在地を表す矢印マークが浮かび上がっていた。点が指し示している場所は、現在地からだいたい西の方角に位置していた。


「うぉっ!? 機能つけ過ぎなんじゃないか…? まぁいいや、とりあえずこの街目指していくか」


 夕麻は資料集を片手に、街の方向へ歩き始めた。しかし、資料集はずっしりと重く、彼の腕に負荷をかけ続け、夕麻は程なくして立ち止まることとなった。


「これ重たいなぁ。俺が方向音痴なのが悪いだけなんだけど、何とかなんないかなぁ」


 しばらく考えていると、魔法で浮遊させるという案が浮かんだ。さっそく腰から杖を抜いてギアを回し、手に持っていた資料集が浮かび上がる様を想像した。するとにわかに浮遊感を持ち、手から浮かび始めた。


スッ… フワァァ


「おぉ、ちょうどいい高さに浮かんでくれたぞ。でもこれって、魔法の効果は持続するものなのか?」


 資料集に向けていた杖をおろし、ギアを切って腰に収めた。すると空中でフワフワと上下していた資料集は、一瞬、空中で加速度が0となりピタッと静止したかと思うと、急速に落下し、ドサッと音を立てて苔むした地面に落ちてしまった。


「うーん… 効果系の魔法はずっと唱えていないとだめなのか? ていうことはさっきの羽は物理的に体にはやして、神経をつないでいたってことになるのか?」


 落下中のことを思い出していると、ギアを最大まで上げていたことが頭をよぎった。あることを思い立ち、杖を構えて、ギアを0にしたままでさっきのように浮遊させるイメージを想像した。すると、ギアをかけて使用したさっきとは違い、もたついた様子でゆっくりゆっくりと資料集は持ち上がり始めた。


「やっぱり月にあるNFAだけじゃあ弱いってことか、それとも単に俺のセンスがないってことか、どっちなのやら…」


 センスがないかもというセルフ突っ込みになぜか腹が立ち、少し乱暴な様子で杖を振り回しながら、資料集が吹っ飛ぶ様をイメージし、現実に重ねるように強烈に念じた。すると…


ググググ… バシュゥゥゥゥン!


 突然ブルブルと震えたかと思うと、爆発にさらされたかのように吹き飛び、山奥へと消えて行ってしまった。


「あちゃー、やっちまったかな。 杖なしだとさじ加減が難しそうだ」


 夕麻は少しイライラした様子で頭を掻きながら、資料集が飛んで行った方向へ歩き始めた。




 街のほうへ向かおうかと考えていた本来の意図とは違い、資料集を探しに山奥へ向かっていった夕麻は、杖のギアをやや高めに上げ、鑑定を常駐させながら奥へと進んでいた。


「カグツチ!とか調子に乗ってでっかい火柱起こしちゃったから、さっきの場所は絶対誰か来てる気がするんだよなぁ」


 周りの植物が全体的にデカくなっていっていることに気付く様子もなく、夕麻はどんどんと足を進めている。また、鑑定をかけっぱなしにして愚痴をこぼすようなマルチタスクは一種の才能であり、「センスがない」というセルフ突っ込みは当てはまらない、ということにも気づく様子はない。


「一応、あの資料集は日本語で書いてあるから、ここらの人が拾っても読めないだろうけど…」


 しばらく足を進めていると、少し開けた場所に出た。それと同時に視界に見覚えのある本が入り、鑑定の結果に「アナナキお手製資料集☆取扱注意」と表示された。夕麻は杖のギアを切らずに腰に収め、ため息をつきながら資料集に歩み寄った。


「やれやれ、やっと見つかったぞ…」


 そう言いつつ資料集に近づいて拾い上げ、現在地のページを開いた。すると、ページに表示されている自分の矢印マークの周囲は、自分の目に映る通りに開けた土地のように描かれていたが、一か所だけ気になるところがあった。


「アロン世界樹…?」


 『世界樹』という、何やら壮大な文字列が今いる開けた土地の一か所に存在すると、資料集は言っているのである。この開けた場所に入ってきたときはこの資料集目指してまっしぐらに駆け寄ったため、周りを見ていなかったようだ。


「俺が向いている方向から左…?」


 資料集から顔を上げ、ゆっくりと件の方向を向いてみる。すると、そこには天を掠めるように勇ましく聳え立ち、この世界を支えているかのような大樹があった。


「……ほぉ~」


 世界樹という存在はゲームや映画などでよく出てくる、同じみなファンタジー要素ではある。しかし、現実の質量をともなって眼前に現れたそれは、夕麻の持っていた先入観をふきとばし、畏敬の念を与えていた。夕麻は持っていた資料集を鞄にしまい、思わず感嘆の声をこぼしながら世界樹に歩いていく。


「いったい樹齢何年なのやら…」

「この世界が生まれた時から、といえば分かるかな?」

「!?」


 どこからともなく声が聞こえ、夕麻は驚いて周りを見渡した。するとどこから現れたのか、世界樹のそばに大きなライオンがたっていた。明らかにこちらをじっと見つめている様子で、しばらくすると夕麻のほうに歩き始めた。


「この場所に不浄な人間がくるのは久しぶりだ、穢れた者どもは我の信者たちが払ってくれているからな…」


 なぜか人の言葉を話しながら近づいてくるそのライオンは、途轍もない威圧感とオーラを放っていた。

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