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誤解

「どこの侍女だ?」


 向けられた言葉に、初音は固まった。


(侍女、って……)


 いくら小袖姿とはいえ、まさか侍女と間違えられるなんて。初音の沈黙をどうとらえたか、章継は再度口を開く。


「違ったか? それは悪いことをした。女官の方だったか」


 侍女から女官に格上げしてくれるが、そういう問題ではないのだ。状況はますます悪くなった。今ここで正体を明かせば、お互い気まずい思いをするしかない。かと言って、偽ってどうなる。初音にもそれくらいの分別はあった。


「いえ、私は……」


 かえりみられぬあなたの妻です。頭の中に浮かんでも、それを口にする勇気はなかった。


「安心しろ。今夜のことを告げ口するつもりはない」

「……そういうことを気にしているのではありません」

「なら何が問題なんだ」

「俺を焦らす気か?」

「い、いや……違って……」


 しどろもどろに受け答えながら、どう伝えるのがいいか、必死で考える。


「あの、ですね……」


 緊張で脈が早くなり、こめかみが痛む。


「私、……」


 意を決して答えようとした時、ふいに章継が視線を外した。


「まあいい。別に、どこの誰だろうが構わない」


 追求を逃れられてほっとする。これで解放されると思ったが、章継はなおも初音に問いを向けた。


「お前、祝勝会には出ないのか」

「……呼ばれていませんから」


 拗ねる気持ちが声音に出ていたかもしれない。気を取り直して笑顔を張り付ける。


「気取った宴ではないから出入り自由だ。連れて行ってやろうか」


 親切のつもりで言ってくれていたのだろうが、頷くわけにはいかない。


「いえ、結構です」

「厨房が張り切ってうまいものを用意しているから、ここで杏を齧るより余程いいと思うが」


 話を蒸し返されて、顔が引きつる。


「ありがたいお話ですが、お気持ちだけで……」

「そうか? 残念だな」


 さらりと告げられた言葉が意外で、大きく目を見開く。残念、だなんて。


「なんだ、その顔」


 訝しげな表情で見下ろされ、初音はしどろもどろに返事をする。


「そのようなこと、おっしゃっていただけるとは思いませんでした」

「まあ、お前みたいなのは珍しいからな」

「私みたいなの、って……?」

「知りたいか?」


 質問に質問で返されて、もどかしさにむっとする。


「気になるような言い方を、なさるので」

「なんだろうな、奔放というのか。俺は木から果実を採ってその場で食べる女は初めて見た」


(聞かなければよかった……!)


 心底おかしそうに目を細められ、初音は顔から火が出るような思いだ。


「それは大変失礼しました……っ」


 少しでも期待を持ってしまった自分の馬鹿さ加減に腹が立つ。


「怒ったか。新鮮でいいと伝えたかったんだが」


 顔を伏せた初音の頭に、章継の大きな手のひらが乗る。そのままあやすように頭頂部を揺らされる。


「……まさか、泣いていないだろうな」


 心配そうな口ぶりに、頭上に置かれた手に逆らって頭を上げる。


「そんなか弱い性格はしてません」

「それならよかった」


 きっぱり告げて挑むように見据えると、思いの外近い場所に章継の顔がある。

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