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かえりみられぬ花嫁

エブリスタにて2019.6.27〜9.26まで連載しておりました作品です。

2019.10公式コンテストにて準金賞をいただきました。

 花も実もつけず、ただ朽ちていく枝がある。


 きっと自分もそうなるのだろう。

 自らの行く末を思って、初音はふっとため息をこぼした。

 その表情は悲しみよりも諦めが色濃く出ている。


 ***


「初音様、わたくしもう黙っていられません」


 侍女であるみおが肩を震わせた。普段は温厚なみおがいつになく声を荒げているのは、あるじである初音に関わることだからだ。子供の頃からずっと一緒だったから、彼女とはまるで実の姉妹のような関係だ。

 

 この二月の間、こうしたやり取りは何度もしてきた。最初のうちは初音も同じように、いやそれ以上に憤っていたものだ。


 桜吹雪の舞い散る頃、初音は生まれ故郷である中津國より六日かけてこの斎賀國へと嫁いできた。この輿入れは両国の同盟を強化するための手段だ。

初音の母は現国主の義理の妹で、代々国主に仕える家臣の系譜である父と結ばれた。この婚姻において初音に白羽の矢が立ったのは、遠縁ながら国主の血を引くことが多分に関与している。


 政略結婚と言えど国と国を結ぶ大事な役割を自覚して、初音は顔さえ知らぬ夫に寄り添う決意を固めてきた。けれど肝心の夫はというと、戦に出たままいつまで経っても帰らない。


 対立国との戦はすでに終結していると聞く。後宮を取り仕切る女官より夫の帰還予定を十日後と聞いた時は、まだ見ぬ相手に淡い憧れを持つ気持ちもあった。

 しかしそれから二十日、一月、一月半とその予定がずるずる延びて、そんな想いはしおれてしまった。


 歓迎されていないのではないか。

 ここへ来たのは間違いだったのかもしれない。


 そんな不安が徐々にふくらみ、ひっそり涙をこぼした夜もある。

 次に悔しさが湧き出した。


 初音は己に課せられた役目を果たすために住み慣れた場所を離れ、家族や親しい友人とも別れ、馴染みのないこちらへ嫁いできた。というのにこの扱いときたら、初音のことだけでなく、祖国をも愚弄していると言えるだろう。


 顔を見たら一言言ってやらなければ気が収まらない。そう息巻いていたのはすでに過去。ついに二月が過ぎた時、初音は諦めを覚えた。

 季節はめぐり、ぬるい雨が降り注ぐ時期となっていた。

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