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主人の筆入れ  作者: 鬚爺
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第5話 北星鉛筆 大人の鉛筆

主人は技術職として就職した。主な業務はパソコンに向かっておこなっている。それでも机上には筆入れが置かれ、メモをしたり、資料の下書きや添削をしたりと活躍の場を設けていただいた。自宅での筆記にあたっても我々が携わっており、毎日、職場と自宅を往復している。


筆入れの中の大きな変化はシャープペンシルが入っていないこと。もっとも、サイドノックシャープペンシルが去った後に後釜が入ることはなく、複合ペンが担っていた。それに代わって活躍しているのが北星鉛筆の大人の鉛筆だ。黒と赤、連れ合い同士で同時に仕え始めた。

黒と言いつつ、その見た目は素地の木材、鉛筆同様六角形の断面の本体に上下銀色パーツで構成されている。その中には必ずBの芯が入れられ、職場の机に入っている芯削りで黒は鋭角を保たれた。主人が受話器を耳に当てた際に持たれるのは彼であり、その業務はメモ。ゆえに書く相手はそのときによりメモ用紙であったり、付せんだったりした。ほぼ、ノートに書かれることはなく、職場ではだいたい一度仕事に出ると、主人が帰るまで休憩は机上であった。


一方、赤は素地ではなく、赤くコーティングされており、ノックする側に近い六角形の一面に「文房具カフェ」と印字されている。彼女は連れ合いとではなく、iroshizukuの【夕焼け】を吸入された私とペアで活躍していた。資料をチェックする際、確認した数値や項目をはねるのが彼女の仕事であり、間違いがあった場合に書き込むのは私の担当である。彼女は連れ合いと異なり、常に先を丸めていて、文字を書くのには不便だったのだろう。彼女はチェックする際、かなりの力を込めてはねていった。それこそ紙に凹みを作るほどの筆圧で。その後、私が主人の手に収まるときにはすごく緊張したものだ。あのような力を込められては繊細なペン先がどうなってしまうことか!と。その緊張が主人にも伝わるのか、彼女の後にペンを滑らせるときにはいつもより柔らかく紙面に向けられた。


彼女と仕事に出た際にはよく彼に声をかけられた。

「今日の出来はどうでしたか?」

「『出来』って奥様の?それとも資料の?」

ここに至って私に対して敬語を使わない文房具はいなくなっていた。いつの間にか年長者となったということ。私は新人の彼に対してちょっとイタズラをしてみたくなり、こう言ってみたのだ。

「家内の仕事ぶりはいかがでしたか?」

「チェックする場所がばらつく感じね。主人は単語や数字の右端をはねたいのだろうけど、文字にかぶってしまったり、上下にずれるのが散見されたわ。まぁ、業務として不十分かと言われれば十分よ。かなり力強く勤しんでいたみたいだけど、ストレスでもたまっているんじゃない?」

「そんなことないと思います。かなりやりきった様子で、今日は筆入れに帰ってきてすぐに休んだようです」

「そう、奥様を大切にね」

「えぇ、お互い長く仕えられるよう精進します」

そう言った彼の背中越しに満足した彼女の寝顔がのぞいていた。

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