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第四話『見慣れてしまったよ、見る事しか俺は出来ない』

「なんでお前が付いてくるんだよ」

「約束しただろ?」

 まぁ約束はしたけど今日とは言って無いよな、日時は指定してないよな。


「嫌われても知らんぞ、彼奴難しい年ごろだし」

 まぁ彼奴に限ってそんなことは無いだろうけど。

「其処はお兄様の力で何とかしてください」

「誰がお兄様だ」

「えー、お兄様、お兄様言われてるじゃないですかね、お兄様」

 やけにウキウキらんらんの親友。

 まぁなんでこいつがこんなんになっているかは大方察しがつく、でもねぇ俺じゃどうにもでき何だよね。


「そー言えばだが、お前アストレアになんかやったか? なんだか知らんが眼を赤くして走っていくのを見ちゃったから」

 軽い導入からの真剣な口調での本編。

「ああ、やったよ、喧嘩した」

「あらら、お前アストレアん家にぶち殺されるんじゃね」

 半ば冗談だがそれは本当にありそうで怖い。

 

 次から俺の居場所あの学校にあるかな……。ただでさえさなかったのに。


「ってのは冗談だ。全部お嬢様から聞いた、そしてお嬢様にお前の事を話した。あんな言葉じゃ誰も通じる訳ないだろ、だから解説しといてやった」

 余計なことを……。

 まぁいいや、薄々気付いていただろうしな、この様な俺を。


「お前はもっとお嬢様を思い込まずに見た方がいいぞ」

 ふいに親友からそんな言葉が漏れて出た。



「あっ、お帰りなさいませ、お兄様」

 はぁ~、此方もこちらでまるで難儀な事ばかり。

 家の前で此方を此方の帰りでも待っていたのかすぐさま駆け寄ってくる一人の少女。

 

「だからお兄様と呼ぶな、お前の父親に殺される」

 ニコニコと笑う自称妹のカレン。


「あっ、ジークさんも」

 親友の存在に気が付いたのか愛想よく挨拶する今住んでいるところの家主の娘であるカレン。

「ハハ、今日君のお兄様が怖い怖いお嬢様に半殺しにされてたから心配になって送ってきてあげたよー」

 ここでポイント稼ぎに入るジーク氏。

 そもそも次のテストで実技で全敗したら何か頼みたい事があるらしくカレンに合わせろと言う無理矢理な約束を取り付けて来たのは此奴だが、まるで何もなかったかのように友を心配しているて体でルンルンウキウキで話し掛ける親友。


「エッ、お兄様がどうして……」

「いやいや普通に負けたんだよ、実技試験で」

「あのお兄様がですよ」

「あのお兄様が誰かは分からないが俺はお前の思っているほど強くはないから」

 無邪気な疑問が痛いよ、今日エドラル君の心は滅多打ちだよ。

 オーバーキルだよ。

「カレンちゃんはお兄様が好きだねぇー」

「はーい~、そうですよー」

 和気藹々と謎の話に盛り上がる親友と自称妹。

「カレンごめんな、今日はちょっとお前の鍛錬に付き合える余裕は無い」

 心の余裕も、体の余裕も。

「えー、お兄様の本気を見て見たかったなー」

 ハッ? なんだこいつ。


「さてはカレン、お前喋っただろ、此奴に」

「さー何のことでしょうかねぇ~、私は全てを知っている訳では無いですもの、でもお兄様が何故此処に住んでいるかという理由を親友であるジークさんにお話ししただけです」

 仲良さげにお互いの顔を見合って微笑みあう二人、まるで悪戯でも成功させたような顔だ。


「それお前の父親との間で他言無用になっているんだがねぇ」

「大丈夫です、お父様の許可は頂きました」

 グッと指を立てて大丈夫だと言うことをアピールした。

 相変わらず娘には甘い事で……。


「水臭いぞ、親友に大切なことを話さないなんてなぁ、アレキサンダー君」

 とまぁ皮肉気にこの姓を呼ぶのだ。一つの秘密はバレてしまった、だが知ったところで大した秘密ではない。

 そもそも言った所で信じて貰えないから俺は言わない様にしているんだ。

 それに俺は彼らが思ったような後継者では無いのだから。

 本当はこの名を名乗るのは相応しくない。


「じゃぁカレンちゃんお兄様が付き合ってくれないなら俺が相手してあげよっか? 学校とは違い武器アリの魔法での模擬戦の方がカレンちゃんとしてはいいかな?」

「願っても無い事です、お兄様の親友が御手合わせしてくれるなんて……」

 親友を前に真剣で凛とした風格を帯びるカレン、流石は帝国の大臣を務めたこともあるお家の娘。流石は武勇に秀た一族の次期当主。

 戦うと言うことを意識した瞬間に一気に一種の儚さや幼さというものが姿形も残さずに消え失せ、別人のような貌へと豹変する。

 どうやら彼女はもう戦う気満々の様だ。


 家の庭に俺達を連れていくと二人はあらかた距離を取った。

 そしてそれを外から眺める俺。


「やり過ぎんなよカレン」

「えっ、もしかして俺が負ける前提で話をしてるの……」

 悲しそうな表情をするする親友。

「ではよろしくお願いします」

 礼儀正しくカレンはジークに向かってお辞儀をした。


「来な」

 手をくいッと捻って挑発するジーク。

「【雷撃】」

 戦いの定石である雷撃系魔法による牽制を行うカレン、に対してジークは。

「「武装コード・対魔陣】」

 あのお嬢様の一撃をも防ぐジークの防壁が雷撃をいとも簡単に跳ね除ける。

「【捕縛】」

 横方面に防御に回ったジークを休む暇なく下からの揺さぶりを入れる、最初から牽制である雷撃はフェイクであったというわけだ。

「【武装コード・炎陣】」

 伸びて来た魔力によって編み出された蔓が一瞬で焼け落ちた。

 それと同時に庭の芝生も、ごめんなさいメイドさんウチの親友が折角手入れした庭を荒らしてしまって……。ほんと、ごめんなさい。

 

「おお、魔導戦闘の基本を応用できるなんて凄いな、これはお嬢様とも戦えるかもしれないな」

 ニヤリと笑う、ジークは不敵な笑みを浮かべた。


「炎よ我に付き従え、【武装コード・剣、峰】」

 魔導戦闘では敵を殺すような技の使用は禁じられている、それ故に彼は刃ではなく峰を使用したのだ。

 ただそれもただの峰ではない、自身の生み出した魔法の残り香を使い、炎に包まれた烈火の魔剣がジークの手に錬成された。


「【身体強化ルーン・疾走】」

 自身に身体強化魔法をかけて一気に距離を詰めるジーク。

 初激を防ぎ、其処に現れた隙を利用して戦っていくそれが親友のやり方。そしてあのお嬢様も彼の防壁を破れずかなり苦戦していたほどにはこいつも実力者だ。

 地を翔ける、炎が渦巻く刃。


「お噂はお兄様から常々窺っていました、そう来ると思いましたよ。【捕縛】」

 ジークの足を取ろうと地面から次々に蔦が伸び襲い掛かる。

 ただ速度を上げたジークの前にはそんなものは無意味。

 遂にはジークの間合いがカレンを捉え、その体に武器を……。


「【陣破壊】」

 炎はたちどころに消え失せ陣は空気へと散り、剣は無色透明な風へと変わった。

 空を斬った、いや剣は無くなり斬ることすら叶わなかった。


「【捕縛】」

 場に残っていた蔓が無抵抗な男へと襲い掛かる。

 カレンはむやみやたらに蔓を出していた訳では無かった、避けられると分かっていて、避けられるからこそこの一瞬を狙ったみたいだ。

 ただ剣が消えても自身に掛けられた魔法の効力は消えない。

 必死に襲い来る蔓をその強化された体で躱していく。

 しかし抵抗虚しく、ジークは蔓に捉えられ一歩も動けないように全身を締め上げられる。


「終わりですね」

「いいやまだだ」

 普通ならここで御終い、でも負けず嫌いな親友は、負けたとは思っていない親友は魔法の起動句、魔法名を唱句するのである。


「【操り人形】」

 その瞬間に親友を捕縛していた蔓は拘束を辞め全てが全てカレンの方に勢いよく襲い掛かっていくのであった。

「ごめんねカレンちゃん、女の子にこーゆことするのは下衆だと思うけど勝負だから」

 全く紳士的でない技を使うジークさん。

 カレンも勝負だと言うことを認めているので特に何も抱いていないようだが、学校で男が女子に捕縛魔法を使うのは暗黙の了解で禁止されている。

 使ってしまったら最後、その男は変態の烙印を押されてしまう。そして次の日から女子の視線が厳しくなる。

 まぁ彼が使ったのは厳密にいえば捕縛魔法では無く、ただの術返しなのだが……。

 

 でもカレンちゃんはやっぱ優しいね、これを使った男を蔑みの眼で見つめずに逆にあの状況下で術返しを行ったジークに尊敬の眼差しを向けるなんて。

 流石は自称妹、なんてな。 


「頑張れよーあの屑野郎に負けるんじゃないぞ~」


「はい、お兄様。見ていて下さい、日頃の成果を見せるときが遂に来たようです」

 いい娘だなぁ、傷心の俺の心には癒されるよ。

 この帝国で多分俺を認めてくれるのは、カレンとカレンの父母、そしてジークだけだ。彼らだけは俺に真っ当な人間として接してくれる。


 襲い来る蔓の大軍を目の前に木剣を握りしめるカレン。


「ほう本家直々に仕込まれた、イスカンダル流が見られそうだな」

「【武装コード・風刃】」

 次の瞬間、木剣を風が包み込んだ。

 

「行きますよ、ジークさん」

 地を蹴り蔓の群れに突撃するカレン、ただカレンを襲う蔓は皆風の刃によって悉く切り裂かれ薙ぎ払われていく。

 いとも簡単にカレンはジークの操り人形となった蔓を切り裂いた。

 

「【武装コード・解除】」

 風の刃は人ですらも容易く切り裂いてしまう為にカレンは剣に掛かった魔法を解除し、ジークと相対する。

「【武装コード・剣、峰】」

 衝突する実在する剣と魔導により編み出されし剣。

 ただ剣と剣が己を打ち付け合う瞬間にジークは笑うのだ。


「【武装コード・暴風】」

 衝撃は引き金となる、それはそれは一瞬の、それはそれは大きな突風の。

 実在する剣は宙へと吹き飛ばされる。

 ただ魔導で編み出した剣には風なんてものは関係ない。


「俺の勝ちだな、カレンちゃん」

 ジークは分かっていない。きっとジークは知らないんだろう。

 ジークは知らずに勝利宣言をした。


 イスカンダル流の本当の恐ろしさを。騎士団が使っている紛い物のではなく中興の祖直々に仕込まれたイスカンダル流の戦い方を。


 カレンは笑った、それは作戦が見事に決まった軍師の様に意味あり気に笑った。

 音もなく上空から高速で飛来する木剣。

 それはジークの脳天擦れ擦れで止まる。


「俺の勝ちですか? ジークさん」

 カレンは誰もが愛らしいと思うほどのいい笑顔をして微笑む。

 対してジークはあと少し木剣がズレていたらどうなっていたかということを考え青ざめ戦慄しているのだ。

「俺の負けだよ」

 手を挙げて降参であることを示すジーク。

 

「お兄様勝ちましたよ」

 無邪気にカレンは俺に駆け寄ってきて勝利の報告を行うのだ。

「ああ見てた」

「見てたじゃないです、もっと褒めて下さい」

 ポンッとカレンの髪の上に手を当て撫でて上げる、これくらいはセーフだよね、許してよご当主さん。殺さないでよ。


「えへへ、やりましたよー」

 小動物を撫でているようで癒されるなぁ~。

 髪の毛サラサラだし。


「ふっ、お前ら兄妹仲良いな」

 微笑まし気に見つめてくるジークに幸せそうなカレン。


「そうでしょー」


「兄弟じゃないし、俺今日死ぬんじゃないのかな……」

 特にこんな庭であの人の娘にこんなことしてるんだからあの人の耳に入ったらもうどうなってしまう事やら。


「大丈夫です、お兄様は私が守ります」

「否定はしないんだな……」

 ポンと胸を叩くカレンだが、ジークの眼が胡乱気なものへと変化する。


「そー言えばお前カレンに頼みたい事があって此処に来たんだろ?」

 あー忘れてたと言わんばかりにこの親友は相槌を打ってカレンを連れて少々離れた所へ連れていく。

 何やら俺抜きで内緒話をしているようだ。


 気になる……。


「エッー」

 大きな声を上げてぶんぶんと首を振るカレン。

 それに対してジークはせがみ込むように何かを頼んでいるみたいだ。


「有り得ません、有り得ません、出来ませんよ」


「そこを何とか」


「お兄様がですよ」


「うん、あのお兄様がだ」


「まじスカ」

 いつもは聞かないような乱れた口調になっている。

 こらこらそんな言葉いったいどこで覚えて来たの~、お兄ちゃんショックだよ。


「マジだ」

 先程の戦い以上に真剣な顔をするジーク。



「しょうがないですねぇー」


「えっ、いいの」


「まぁお兄様にはお兄様の幸せがあるんですし」

 ん? 俺の話だよな、いまいち何を言っているのかは分からんが。


 話が終わったのかジークとカレンが此方に戻ってくる。それもお互い変にニヤニヤして。


「ということで、妹さんの許可も降りたのでエドラル君、君は明日アストレアお嬢様と仲直りも兼ねてデートしてもらうことになりました」


 エッ……。

 は?


「だそうですお兄様」 

 顔を赤くして此方を微笑ましい目で見る妹。


「はぁぁぁぁぁぁぁ」

 頭にいくつも、いくつも疑問府が消える事無く浮かび続ける。


「君たち放置してたら喧嘩始めるしそもそも進展が全く見られないし、僕頑張っちゃった。まぁほんとは喧嘩せずに初々しく不慣れにデートしてくれるのが一番だったけどね」

 てへっと、笑う親友。

 有り得ない、有り得ない、冗談でもそれは許されない。


「応援してますわ、お兄様」


「もうエドラル君ったら鈍感なんだから~、まぁ頑張り給え見事お嬢様とイチャイチャして来いよ」


  

 


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