巻き込まれし転移者1‐2
☆
「しかし、これからどこに行くか」
できるなら王国やら皇国やら帝国みたいな人がいっぱいいる場所は避けたかった。
そういった場所だと必ずイベントが起こるからだ。
自分はただ巻き込まれただけなのでそういうのはリア充3人組に任せたほうがいい。
とはいえ。
「どこにいけばいいか考えるな」
この世界の地図がない。
案内人もいない。
知り合いもいない。
現時点で元の世界に戻る方法もない。
だからこの世界で暮らし、元の世界に戻る方法を探すべきなのだが零は元の世界に戻る!というのが重要事項とは考えなかった。
「まあ、それは何とかなるだろう。まずは現地の奴を見つけて適当な場所に案内してもらうか。とはいえ、そう都合よく見つかるわけ」
「きゃー!なので!」
悲鳴━━かどうかはいささか疑問だったが、緊迫した声が聞こえた。
☆
零がそれを見つけるのはさほど難しいことではなかった。
草原を疾走している小さな影が一つ。
何かに追いかけられているらしい。
「怪我をすると嫌なので回避するのです!」
小さな影はそう言って横へと跳んで回転した。
瞬間、さっきまで小さな影がいた場所に何かが着弾した。
「ふぅ。なので。
ナノは助けを見つけたので助けてもらうのです!」
━━それは俺のことか?
そう思った零目掛けて小さな影が突進してきた。
「ご主人様!助けてなのです!ナノは大いに困っているので!」
小さな影が両手を広げてきた。
どうやら抱きつくつもりらしい。
見知らない相手に飛びつかれるのが嫌だったので零は避けた。
と抱きつく物体がなくなったのでダイブした小さな影は地面に勢いよく落ちた。
「痛いのです」
「あー、大丈夫か?」
「心配するくらいならしっかりと受け止めて欲しかったのです」
恨みがましく言った小さな影の正体はまだ幼さが残る少女。
年齢は12、3。
短めの金髪とオートアイ(右目が青、左目が赤)である。
一見どこにでもいそうな子供たが、頭には人間ではない耳がついていた。
そして右半分を機械的な何かが包んでいる。
仕方なく零は助け起しながら、少女の頭上を見た。
━━やっぱりRPGのゲームみたいにステータスがあるな。
これで簡単にではあるが少女の正体が分かった。
>ステータス
名前:ナノ・ナノ。
レベル:5
種族:機獣乙女
その他、ステータスは・・・・
━━俺とどっこいどっこいだな。
運動能力と機敏さは少し高い。
そして魔力値もかなりのものだ。
「名前はナノか」
零が言うと少女━━ナノは目を見開いた。
驚いた感じで。
「どうしてナノの名前を知っているのです?」
「どうしてって頭の上。ステータスが浮かんでいるだろう?」
「?」
ナノは首を傾げただけだった。
━━ナノには見えてない?俺がこの世界の人間じゃないから【あれ】が見えるのか?
それよりも。
「俺のことをご主人様と呼んだのはなぜだ?」
「一目で思いました。アナタがご主人様なのだと」
ナノはモジモジするように零を見た。
「他をあたってくれ。俺はこの世界に来たばかりでこちらの仕組みは分からないし」
「まさか時の旅人さん!?」
「何だ、それ」
「希にあるみたいです。別の世界からこちらの世界に迷ってくる人。それが時の旅人さん」
━━俺はそれとは違う気がするが。
巻き込まれてきただけだし。
「ご主人様はやめてほしい。俺は零。ただの冒険者だ」
「ナノたちを助けてくれるのです?」
「助けるって何から?」
零の言葉を遮るように火の雨が降ってきた。