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雨垂れに囚われて哀れ / a miss inverted !



 生まれて初めて人が死ぬところを見た。

 腹から血を流し、口から血を吐き、悔しさを絶叫に変えて泣いていた。



 ……早くここから離れろ。自分達に構うな。レシュア様、ああレシュア様……。



 そんな言葉を聞いた。意味を理解するよりも先に罪悪感が思考を支配して、背中を向けることができなかった……。



 私達が休憩をやめて先を進みはじめたすぐ後に人型の機械が一体急降下してきたのだった。

 体長は二メートル程で肩や頭、足の爪先は四角い形状をしていた。見た目は痩せ型でひ弱な印象だったが、歩く時のごつごつとした身のこなしは人間の筋力を超えた力量を感じさせた。



 デイミロアスとロッカリーザは素早く私の前に立った。それは仕方のないことだった。未知の動体への対応ならばそうするより他に選択肢はなかったのだ。

 二人は私の秘密の能力をある程度認識していたと思う。近くにいることがどれほど危険なことなのかも十分に分かっていたはずだ。



 だから、あの時私が一人で突進していれば、未来は変わっていたかもしれなかった……。



 機械の両腕には人間と同じ形の指がついており、その先端から黒い液体が垂れていた。

 周囲が暗くてもそれがなにかを認識する思考は維持していた。血生臭い空気が嗅覚を否応なしに刺激していたからだ。

 そして、機械が次に起こす行動もなんとなく予想できていた。



 二人は同時に飛びかかった。

 私は彼らがアイテルを制御できるよう距離をとることが最善の援護だと思った。実際彼らはアイテルによる攻撃を当てることができた。それなのに、彼らの力は機械の体に届かなかった。

 見たこともない速度で腕を振り回し、見たこともない速度の足運びで背後を取ると、謎の機械は彼らの一瞬の油断をついて同時に腹をえぐった。



 ……二人は私に向かって叫んだ。

 でも、見捨てることはできなかった。



 相手の動きは観察できた。あとは『00』が上手く噛み合うかどうかだった。

 ためらっている暇はなかった。

 靴を脱ぎスカートの裾から下半分を破り捨てる。

 悲しみをわずかな怒りで押さえつけ、神経を一点に集めた……。



 軽く踏み込んで、まだ息がある二人を抱えたモノの先に飛んだ。

 気づかれる前に拳を振り下ろす。

 機械の肩に当たったが、返ってきたのは半身の痺れを伴う痛みだけだった。

 新たな攻撃対象を認めた機械は三歩後ろに下がり、しな垂れた二人を上下に振って落とした。



 極限まで集中を保ちながら胸の苦しさを奥歯で押さえつける。

 両手を前方にかざして相手の行動を待った。

 突進攻撃をしてくれば『00』で勝てる。

 理由を考えている余裕は既に消えていた。

 この機械の存在は本能に委ねるしかない。

 あとから考えても遅くはないと腹をくくった。



 猛烈な速度で向かってきた。

 身構えた両手は空気の流れに任せて機械の右腕を掴み取る。

 そのまま相手の頭上に飛び上がり全身を翻して着地と同時に腕を捻り切った。

 なおも抵抗をやめないのでもう片方の腕も同じように捻る。

 機械の暴れ方が動揺しているように見えて頭の神経になにかをかすめたが、その時にはもう自分を止められなくなっていた。



 ……動かなくなるまで、動くもの全てを千切った。

 ……急いで駆け寄ってみたら、彼らも動かなくなっていた。



 力を解いたと同時に押さえつけていた感情が声に出た。

 こんなことになるんだったら一人で抜け出すとはっきり言うべきだった。ルウスおじさまの真剣な申し出を断れないとその場の考えで受け入れてしまったのは間違いだった……。



 そして今、私は彼らへの感傷に甘ったれていた。



 デイミロアスとロッカリーザは私に早く逃げて欲しかったのではない。自分達が死ぬところを見ないで欲しかったのだ。どうせ味わう痛みなら、軽い痛みのほうが癒えるのが早い。だから、あんなに必死になって叫んでくれたのだ。

 なのに私は、彼ら二人が機械に攻撃を入れた直後にその力量を測ってしまった。そういう教育を施されていたとしても絶対にしてはいけないことだった。足手まといは私のほうだというのに。



 ……本当に、ごめんなさい。本当に、ごめんなさい。



 二人の身体を仰向けに寝かせて周辺にある土を片っ端から掘り起こしてそれを被せた。そして00を使う前に千切って捨てたスカートの布を比較的重量のある石と靴で固定して置いた。またここに来る時の目印にするためだった。



 両手が傷だらけになっていた。ひりひりと痛んだ。必死になっていたせいで物音に気づかれる危険を考えていなかった。もしかしたら心の中で新手の機械が来ることをを望んでいたのかもしれない。あれくらいの相手なら複数が束になってきても対処できる自信はあった。

 結局、機械も軍兵も現れなかった。

 私は後ろ髪を引かれる思いでその場を離れた。



 あと二時間もすれば日は昇りそうだった。王城の人間に見つからないうちに都市へ駆け込みたかったので、ありったけの体力を搾り出して走った。

 森の湿気で汗ばんだ胸元が透かし編みの布に張りつく。現実が私を逃がさないように感覚で縛りつけているのではないかと疑った。意識の足場を失って追い詰められた精神が破裂する音がしたような気がした。

 目から涙が零れると、それすらも身体から抜けるのがもったいないと思い瞼を閉じて走った。水分が失われると体力を著しく消耗する。まだそんなことを考えている自分に腹が立った。



 転んでしまった。速度に任せて身体が回転する。うつ伏せの状態で回転が納まると、今度は自分の情けなさに耐え切れなくなって咽び泣いた。



 ……どうして生まれてきたんだろう。どうして今日まで育てたのだろう。誰がなにを必要としていたのだろう。こんな人間モドキのために……。



 もう考えるのはやめようと決めていたことをしつこく引っ張り出す。今日まで使用人だったアザミさんがここにいたらきっといつものように頬を叩くだろう。そして優しく抱きしめて、誰かを悲しませることは絶対に許さないと叱るだろう。

 どうせなら最後にもう一度駄々をこねておけばよかった。こんなに弱い自分と向き合うのはこの先耐えられそうにない。

 これ以上泣き続けると本当に身体が脱水しそうだったので、とにかく立ち上がって走り続けた。



 十分程走った先に目的地である都市『ゼメロム』に到着した。森を少し抜けた草原の一画にその入り口はあった。

 この世界に点在する都市は全て地下に建設されている。初代女王が自然災害から人間を守るために最も安全な環境を考慮した結果なのだそうだ。これらの知識は全部ルウスおじさまから教わったものなので、実物を見るのはこれが初めてだった。



 入り口は人間が十人横に並んで通れるくらいの広さで、いつ誰が出入りしてもいいように開かれていた。ここからでははっきり見えないが、中はなだらかな下り坂になっているようだった。


「ん!?」


 また声を出してしまった。後ろを振り向いて観察する。日がもう少しで昇りそうだったので、草原はうっすらと青味がかっていた。

 疲れているせいか視界がぼやけて見える。なにかが動いているようにも見えるし、なにもないようにも見える。



 物陰から不自然な葉の擦れる音がして、現れた。……急だった。

 人型の機械だった。今度は複数いる。数えている余裕はなかった。

 待ち構えようと力を込めたが、どういうわけか私は都市の中に逃げ込んでしまった。



 自分でも信じられなかった。いくら体力がなくても死ぬ気で戦えば倒せない相手ではなかった。

 都市には人が大勢いる。無意識だった。心細いと感じたのかもしれない。一人で生きることの辛さに限界を感じはじめたのかもしれなかった。



 その愚かな行動が、どれほど残酷な未来を呼び込むのかをはっきり知るまでに二分もかからなかった。

 おおよその見当はついていた。分かっていた。自分は分かっていてそうした。

 でも分からなかった。なぜ機械を相手にしたくなかったのか。



 地下都市の内部に潜り込んだ機械達が居住区域の住民達を次々と殺していく光景を、心と気力を失った身体はただ茫然と見ていることしかできなかった。

 私は、これを最後まで見届けた後に自殺しようと思った。



 ……私のせいじゃない。

 ……私が殺したんじゃない。

 ……私は、あなた達を知らない。

 ……。

 ……こんなに弱い人間だったなんて、知らなかったんだ。

 ……だから、ごめんなさい。





















「なーにやってるのよ!! あなたも早くこっちに来なさい!!」


 なにかが聞こえたような気がした。女の人の声だった。語気は強いがどこかふわりとした安らぎを含んだ落ち着く声だった。


「ったくあの子、こんな時になにをやっているんだか。……ごめん! ちょっと喝入れてくるわ。生き残った人達の誘導を最優先でよろしく! すぐに戻る」



 ……もうカラダの中、空っぽのはずなのに、なんでだろう、目から涙が止まらない。もう耐えられないよ。逃げ出したいよ。でももう、そんな体力ないよ……。



「……ょっと! 聞いてるの! しっかり……なさいよ!! それでもあなた! ……なの!!」


 ばちん、という大きな音と右頬の鈍い痛みが目の前に立っている人物を教えてくれた。潤んで不鮮明になっていた視界を汚れた手の甲で拭うと、上下とも真っ赤な服を着た仮面の人が映った。右手には仰々しい鎌を持っていた。

 仮面には抽象的な赤と黒の線で描かれた人の顔らしきものがあった。目と鼻と口の部分がくり抜かれていてそこだけが奇怪な黒い影を作っている。服は住民とは明らかに違う密着型の防護服、ダクトスーツによく似たものを身につけていた。どうやら機械ではなさそうだった。


「あなた、戦えるんでしょ?」

「……どうして、それを」

「今それを説明している暇はないわ。やれるんなら手伝って。で、どうするの!」


 夢の中にいるのではないかと思った。実際はもう死んでいて、なにか面白くない会話をしているのではないかと思ったのだ。

 すると、ばちん、ともう一発もらった。痛みだけはずいぶんはっきりしてきた。


「もう、いいわ。そのかわり、あとで存分に後悔しなさい」


 そう言い残して、仮面の女性らしき人物はもといた場所に戻ってしまった。

 心配は無用だった。私はもう、十分に後悔している。



 疲労と混乱と動揺で身体が固まっても視力だけは正常に働いていた。

 彼女の行動を目で追っていると、他に一際動きの機敏な男の人が一人、機械の攻撃を誘いながら住民達を避難させているのが見えた。

 二人ともかなりの実戦を重ねているかのような無駄のないアイテルを放出している。やはり彼らも力量を測る対象だった。



 ……私の存在はあなた達のアイテルを余すことなく『無効』にしてしまう。アイテルを使えないのではないの。いくら使ってもこの身体が全部打ち消してしまうから表に現れないだけなの。あなた達まで死んでしまったら助けられる命まで取りこぼしてしまう。だからそっちには、どうしても行けないの。言葉にできなくて、ごめんなさい……。



 居住区域の惨状を瞳に映しながら、これを最後の涙にしようと決意した。

 弱くてもいい。卑怯でもいい。どうせ明日にはいなくなっている傀儡だったのだから……。



 約一時間後、六体の機械は二人の鮮やかな攻撃で全て破壊された。仮面の女性と痩せ型の背の高い男性は増援が来るのを待っていたが、来る気配がなかったので避難した住民を一箇所に集めて事態の説明をはじめた。

 心が抜け切った私はその場の様子をぼんやり眺めていた。すると仮面の女性がいらいらした表情で寄ってきて腕を力任せに引っ張ると、半ば引きずられるように合流させられた。



 立つ位置がおかしいと思った。彼女達の隣で住民達を上から覗き込んでいるのだ。

 ざわめく住民達の視線が自分に集中している。理由を考えていると一人の高齢らしき女性がぽつりと呟くのが聞こえた。


「……あの方、王女様じゃないの?」


 地下都市に住む人にも情報が与えられることを初めて知った。顔が知られているということは、私の居場所を城に報告する者が出てきてもおかしくないということだ。

 考える必要はもうないはずなのにこれからどうすればいいのかと不安な気持ちになり、冷静な精神の置き場が脳のどこにあるのかますます分からなくなってしまった。

 仮面の女性は真剣に説明を続けていた。


「……というわけで、残念なことに二十七名の犠牲者が生まれてしまいました。ご家族の皆様には謹んでお悔やみ申し上げます。まず、この都市を狙ってきた機械についてですが、詳細は王城からの正式な発表が近々あると思います。本来ですと今ここで公表することは許されないことなのですが、今回のような事態に巻き込まれた皆様方はおそらく納得されないでしょうから特別にお話しします。……あれは、『異星文明』が地球に送り込んできた機械兵器です。つまり、侵略してきたのです」


 住民達がどっと混乱の声を上げた。同じように私も頭が真っ白になった。彼女の言葉を鵜呑みにしていなかったが、確かにあれは地球で作られたものではなかった。

 もしそれが事実だとしたら迷うことなく人間を襲ったことにも辻褄が合う。しかしあまりにも常軌を逸している。異星文明?を信じようとするほうが難しいように思えた。


「あと、既にお分かりかと思いますが、こちらにおられるのはゾルトランス女王陛下、妃殿下のお一人、レシュア様です。この都市に来られた理由についてですが、単刀直入に申しますと脱走されてきました。異星文明との和解を城の誰よりも強く訴えておられたのがレシュア様でした」


 小さく鼻から息が出てしまった。おそらくなにも聞いていなかったのは私だけなのだろう。


「元老院はレシュア様のお考えを反逆と看做し処刑しようとしていたのです。この意味をお分かりになれますでしょうか。つまり、彼ら元老院は女王陛下のいないことをよいことに彼女の尊き意思を無視し、この機兵団と交戦することを決めたのです」


 住民達はさらに大きな声を上げた。恐怖の感情から沸き起こる怒りみたいなものを元老院に吐き捨てる者もいた。


「これらの話を踏まえてご理解いただきたいことが二点あります。まず一つめは、レシュア様はあなた方の味方であるということです。もしこの中にゾルトランスの考えを支持する者がおりましたら直ちに退去願います」


 ざっと百人はいるであろう住民達の集合から離れる者は一人もいなかった。


「次に二つ目ですが、機械兵は現在我々が知っているだけでもまだ相当な数が控えていると思います。この都市の存在も知られてしまったかもしれません。仮にあなた方がここを離れたとしても、このままの状態では奴等の拠点にされてしまうかもしれません。そこで提案ですが、ここを全て破壊しようと思っています」


 聴衆の声が止まった。当然の反応であると同時にやむを得ない判断だと思った。

 いくらアイテルを使えても実際に二十七人が命を落としてしまったのだ。立て篭もって襲撃を迎え撃つにしても人員と力量の均衡を保てないだろうし、なにより時間が不足している。若干腑に落ちないところを認めつつも彼らへの提案は結果的に理に適った処置だった。



 知らぬ間に分析している自分がいた。無性に腹立たしくなった。関わりのない人間ならどうなっても構わないとほんのわずかにも感じたことを、早く自傷で償いたいかった。

 今頃になって全身の痛みが酷いことに気づく。切り傷だらけの手の平を見ると大きく膨れ上がっていて、気持ちに逆らうように活発な脈を打っていた。


「今から五時間後に爆破を決行します。こちらの代表はおられますか?」


 奥のほうからすっと手が挙がる。老齢の女性の手だった。


「説明する必要はないかと思いますが、地下都市には設備の全てを破壊するための爆破装置が備えられています。女王への裏切りがあった場合の処置をするためです。……それでは代表、起動の助力をいただきたいのですが、よろしいですか?」


 こくりと頷く代表を見てやっぱりそうだったのかと悔しがる住民がいた。どうやら噂として以前から存在していたものらしかった。


「今後の判断については各自にお任せいたします。ここからですと最も近い都市『リムスロット』に受け入れてもらうことが得策となるでしょう。ただし行き着くまでの安全は保障しかねます。最後になりますが、ご遺体のことについても言わせてください。今後機械兵に回収されるような事態が発生しますと我々にとって様々な悪影響が出ると予想されます。強制はいたしませんが移動は遠慮していただくようお願いします。以上で解散となります。ご苦労様でした」


 絶望に頭を抱える者、動かなくなった住民のもとに向かう者、さめざめと泣き崩れる者、それを黙って見ている自分。これはなんなんだと叫びたくなった。



 どうしてここに立っているのだろうか。

 どうして自分ではなくて、知らない人が死んでいるのか。

 彼らはなにを思って死んでいったのだろうか。

 希望や夢はあったのだろうか。

 悔しかっただろうか。痛かっただろうか……。



「……今更こんなことを言って慰めにはならないだろうけれど、あまり自分を責めないほうがいいわ。城からの距離を考えてもここは落ちても仕方がなかった。現に私達が来る前に奴等はここを徘徊していたのだから」


 仮面をつけた長い黒髪の女性はこちらを向いて喋っていた。さっきまで見えていた仮面の模様が、今はなくなって真っ白になっている。

 私は話したくなかった。黙って睨み続けているとやれやれといった手振りをしてまた喋り出した。


「そうね。まだ自己紹介していなかったものね。私はレイン・リリー。レインでいいわ。それと彼はヴェイン」

「おっす、可愛いお姫様。今日は随分とやんちゃあそばされましたな。想像以上のおてんばっぷりで、なんつうかヤバイって感じだ。とりあえず、よろしくな」


 ヴェインという名の男の人が手を差し出して薄ら笑いを浮かべていた。見た目は浅黒い肌の色を除けばどこにでもいそうな普通の若い男性の顔だった。

 どことなく鋭い目つきをしているようだが、全体的にすっきりとした顔立ちなので男性的な勇ましさはあまり感じられない。格好は軍兵のダクトスーツによく似た形状のものを着ていて清潔感があった。こちらは上下とも紺色の服だった。


「おう、握手、しようや」


 したくなかった。この人が発した言葉の意味が分からなかったのが主な理由だった。そしてなんとなく、どこか不潔な人だと思った。


「あなた達は何者なんですか。なぜ私のことを知っているのですか?」


 余計な質問をしてしまった。後悔が影響したのか、視界が少し揺らいだ。


「ということは、なにも聞いていないということね。それは困ったわ。簡単に言ってしまっていいのかしら。どう思う? ヴェイン」

「話しちまっていいんじゃないのか。どのみち分かっちまうだろうし、このお嬢さん、きっとそういう類のこと教えてくれるまで退かねえだろ」

「それもそうね。まあ、とにかくここの処理をはじめるまでしばらく時間もあることだし、休憩しながらゆっくり話すことにしましょう。それでいい?」


 吐き気がした。

 この二人を見ていると自分が別の世界に飛ばされたような感じがしてめまいが止まらなかった。ゆらゆらと肩が動いて遠くに行ってしまいそうだった。

 ……。

 身を屈めて胃の中の物を出した。

 流れ落ちる唾液と吐き出された液体を眺めながら、安易な決断であったことを激しく後悔した。

 彼らにだけは、こんな姿を見せたくなかった……。



(ちょっと、大丈夫!? ヴェイン、医療室に運ぶわよ!)

(ったく、世話の焼ける姫だなあ。これだからガキってやつは……)



 このまま、死んでしまえばよかった。




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