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闇黒歴4852年 3月5日

 闇黒歴4852年 3月5日


 日記を始めたばかりで何だが、特に書くような事はない。

 もともと何もなくて暇だったのだから、考えてみれば当たり前だった。

 しかし、3日坊主になる前に終わってしまうのは何かに負けたようで面白くない。

 そこで書くことのない日は昔の出来事を書くことにした。

 思い出すという作業はボケ防止にいいとか聞いた気がする。

 暇つぶしにもなるし、一石二鳥というものだろう。



 私が魔王として生まれた時、私には魔王としての意識がしっかりと根付いていた。

 身体は無力な赤子ではなく、人間で言えば10代後半くらいの若者のものであった。

 魔王の意識を持った私ではあったが、そこに前世の記憶というものを併せ持っていた為か、生まれてしばらくの間は混乱していたように思う。


 うっすらとしか覚えていないが、混乱していた私はとても暴力的であった。

 私は生まれた時から魔王であり、魔王であるからとあらゆる強者が挑んでくるのだ。

 それだけであったのなら、私は混乱などしなかっただろう。

 混乱した理由は、前世の記憶が私にあったから、としか言えない。

 魔王としての私は暴力を振るい死ぬ事を拒んでいたが、前世の私が暴力を振るう事を、生物を殺す事を拒んだのだ。

 魔王であるとはいえ、前世の記憶があったとはいえ、生まれたてで未熟である私が混乱するのは当然の事と言えよう。


 しかし生まれたてであるとか、混乱しているとか。

 そんな事情を挑んでくる者たちが酌んでくれる訳でもない。

 混乱しながらも生きる為に、私は暴れた。私の生まれた城が更地になるまで暴れた。

 もしかしたら更地になった後もしばらくは暴れていたかもしれないが、覚えていない。

 混乱している時は誰しもそんなものだろう。


 とにかく、私は生まれてからしばらく。50年くらいは暴れていたのではないだろうか。

 何を壊したか、何を殺したか、そういうのは覚えていないが、ある日ふと、私にかかっていた混乱がとけたのだ。

 混乱がとけても二つの意識は変わっていなかったが、ぶつかる事もなく、混ざる事もなく、どちらも私であり、それが私であると理解したのだ。

 簡単に言えば慣れたのだ。


 我に返った私はどちらの意識も受け入れていたが、前世の私は生き物を殺したくなかったし、魔王の私は死にたくはなかった。

 挑んでくるモノの流れは止まらず、彼らは毎日のように私へと斬りかかり、殴りかかり、殺そうとしてきた。

 魔王としての私は喜んで暴力をふるい、前世の私は殺す直前で手を止めた。

 そんな日を繰り返していくうちに、私に下僕ができていたのだ。



 む、そろそろ夕食であるらしい。下僕のひとりが呼びに来た。

 もう少し書いていたかったが、今日のデザートはアップルパイであるというのだから、仕方がない。

 気分がよかったので、呼びに来た下僕の骨折を治してやった。

 続きはまた今度書くとしよう。

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