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海洋環境研究所調査部  作者: 島崎順一
1/1

某国の陰謀

「本国と連絡はとれたか?」

「ハッ、先程取れました。現在の所、問題は無いと報告致しました」

「よし、わかった。そのまま待機」

そう言うと、ミン上佐は椅子に座らせている

敦子に向かって、流暢な日本語で「君の友人はどんな友達関係がいるのだ。まるで007ではないか」ミン上佐は敦子に答えを求めていた。敦子は「彼女は普通の女子大生です。たぶん、男の人は普通の科学者です。その男性の事は詳しくは知らないんです」敦子はそう言うと下を向いてしまった。

「う~ん、しかしあの手際は、かなり場慣れしていると思うのだが・・」敦子は黙って下を向いたままである。ミン上佐は続けて「明後日には、装置を本国に移送しなければならない。人質としての君の役目は、父親達に装置の完成を急がせる事だ」敦子は下を向いたまま泣いている様であった。さらにミン上佐は「君を人質にして父親を誘い出す事も、友人の科学者を拉致して装置の製作をさせる事までは上手く行っている。しかし、君の友人がしつこく嗅ぎ回るから、暫くの間大人しくしていて貰おうと誘拐したのに、逃げられるとは想定していなかった。まぁ、仕方ない、どおせ、彼らには何も出来はしないのだから。いいか、父親に作業を急ぐ様に言うのだ」

ミン上佐は敦子に父親に連絡をする様に言って、電話型無線機の受話器を手渡した。

「あっお父さん・・・うん、大丈夫。早く装置を完成させる様にって言ってる。・・・・判ってるけど、完成させないと私もお父さんもそれに松本のおじさんも殺されてしまうよぉ・・・わかった、そう伝える」そう言って敦子は受話器をミン上佐に手渡した。「後、三日はかかるそうです」そう言うとまた下を向いてしまった。リン上佐はそうかと満足した様で、電話型無線機を持って、敦子を監禁している部屋から出て行った。島根原発の沖合い300メートルの海底40メートルに、サンオ型潜水艦の黒い船体が、横たわっていた。全長35メートル、幅4メートル弱の小型潜水艦で乗員は19名である。沿岸用潜水艦であるため、島根原発まで航海するのはギリギリの距離であった。そのために、予備の燃料を積んだドラム缶が甲板に固定されている。指揮を執っているミン上佐は、総参謀部偵察局第586部隊の精鋭であった。彼の任務は核燃料濃縮装置の小型化に成功した松本教授を誘拐し装置を製作して本国に持ち帰る任務であった。その為に松本教授の共同研究者である宮川教授を拉致する必要があった。教授には娘がいて、京都の大学に行っている敦子である。先ず、敦子を誘拐し父親を拉致する、そして、松本教授を誘き出し拉致したのである。装置の完成まで、後三日である。

ミン上佐の懸念材料は敦子の友人の広瀬麻由子とその男友達であった。その為に何人かを調査に京都に派遣したが、今の所調査に進展は無いようであった。広瀬麻由子も自宅には帰っていないとの報告を受けていた。このまま何もトラブルが起こらない様にと、ミン上佐は願うだけであった。

島根原発の敷地の隅にある倉庫の地下作業場に宮川教授と松本教授は北朝鮮の若い兵士や技術員と装置の製作を急いでいた。装置の大きさは大きなダンボールぐらいの、特殊な回転装置で濃縮が短時間で行える装置であった。従来の濃縮装置と比べると20分の1の大きさである。遠心分離装置の回転軸に特殊な制御を与え安定した超高速を生み出し、スクープ管を改良し、自動向流制御装置と合わせる事により、遠心分離装置の中心部にU235を効率良く集積させ、濃縮が出来るのである。分解すればダンボール3個分で1ユニットになる。これを自国で大量に生産すれば、短時間で高濃縮ウランが、製造されるのである。

松本教授は実験機は完成させたが、実機の製作はまだであった。松本教授は「ほんとにこの装置を彼らに渡すのか?」と宮川教授に手を休める度に聞いていた。

宮川教授は「何か手を考える」と言って娘の事や松本教授の事も心配であった。宮川教授は「しかし、日本って言う国は、スパイに対して全くの無防備な国だ」と諦めた様に言った。「そうだね、まさか原発の施設に潜入して国の重要な技術や装置が盗まれるんだからね」ともう完全に諦めた口調で松本教授は力なく言った。二人は黙り作業を続けた。

作業場の鉄製のドアが開き、作業を監視している警備部隊のキム少尉が入って来た。

「装置は明後日の深夜に移送する。それまでに完成させるんだ」と流暢な日本語で言って

装置の製作状況を作業台の周りを歩きながら確認していた。北朝鮮の技術者も腰に拳銃を携帯している。チェスカーズブロヨフカ75である、兵士達は中国製のCQ311を構えている。この装備から見て彼等は精鋭部隊である事は間違いない。もしかして、RPG7対戦車ロケットも持っているであろう。

宮川教授は「こんな状態では逃げる事もできんな」と独り言を言って、無事に開放される事は現実的なんだろうかとも考えていた。

秘密を知っている我々を生かしておくはずは絶対に無いと思っている。こんな重要施設の敷地に潜入して誰も気がつかないのは、もう笑うしかなかった。日本も、もう終わりだと思った。この施設の職員も警察も公安もそして日本の政府もこの事実は知らない。後三日それまでに行動しなければならない。

部隊長のミン上佐は偵察局の中でも、異常に金日成を敬愛している人物である。最近の北朝鮮は金正日体制が綻びてきている。若い優秀な軍人たちは、長老達を無視し、さらに6家国協議も無視して、若いアフリカの精鋭部隊と手を組み、新しい国作りを模索しているのである。何故、ミン上佐が宮川教授に目をつけたのか?それは、敦子の友人で、京都で活動している若い同志が、敦子との雑談の中で、父親の研究や松本教授の研究を聞いていたのである。その内容は、逐一本国に報告され、情報の一部が、ミン上佐が知る事になったのである。作戦は、既に潜入している同志達の支援があれば、問題が生じる事は無かった。しかし、敦子を拉致して、父親の宮川教授の誘拐も簡単であったが、敦子を自由にしなければ、自害すると抵抗し、ましてや、松本教授を誘き出す事の手助けは絶対にしないと、ミン上佐を困らせたのである。宮川教授が作業を受諾した大きな理由は麻由子の誘拐であった。敦子の友人であると言うだけで、全く関係のない人間である。その麻由子を助けると言う条件を出したのである。敦子達は麻由子が救出された事をまだ知らないのだ。

ミン上佐が今優位に立っているのは、それだけであった。麻由子の事がもしも知れたら作業を拒否し、命に代えて装置の完成を阻止するであろう。ここは、慎重に対応しなければならない。装置を本国に持ち帰り、大量生産をして、早急に核兵器を完成させなければならない。わが国に核兵器が存在しない事が世界に知れたら、それだけで国は滅亡してしまうのだ。この作戦は必ず成功させなければならない。


21時を少し回った頃に、亀本とトミーはビルから紹介してもらったジョージ・ハミル中佐と嘉手納のバーで、明日の手順を打ち合わせしていた。亀本は装置の大きさや特徴などを質問したが、明日機内で説明するからと言って、バーボンのストレートを美味しそうに呑んでいた。書類上複雑になるので本人が直接同行した方が簡単だと言って岩国まで同行してくれる事になった。ジョージ中佐とビルはアメリカの大学が一緒で、環境関連の学問でビルが生物学、ジョージが電子工学を専攻していたらしい。今回ビルの無理を聞いてくれたのは、近い将来研究所で研究をさせて欲しいと言う希望をビルが所長に頼んでくれる事が条件であった。二人とも「なるほど」と納得したのであった。やはり裏にはこんな話があったんだと笑ってしまった。しかし、この装置が今回の事件で大きな貢献をする事になるのである。22時を過ぎて亀本とトミーは、明日早朝7時に嘉手納基地の正門で待ち合わせをすると言う事でジョージと別れた。ジョージはもう少し呑んでから帰ると言ってバーボンのお代わりをした。亀本は帰りのタクシーの中で、トミーに「今回の事件は、かなり厄介な事になりそうだな」と小さな声で言った。「そうですね、まさか、あんな装置が必要になるなんて思ってもみませんでしたよ」とトミーは苦笑いをしていた。トミーは「所長は潜水艦を見つけてどうするつもりでしょうね」

亀本に聞いた。亀本は「分からないよ、でも所長の事だから、何かとんでもない事を考えていると思うよ。まぁ、行ってみたらわかるよ」何か亀本は今回の作戦を楽しんでいる様であった。


日曜の夜10時のバーは暇であった。

カウンターに皆が並んで座れた。私が一番奥に座り左隣に麻由子がそして吉田、ビル、由美子、美津子そして研ちゃんである。

私は一杯だけ呑んだら帰るからと言って、ジョニィウォーカーのブルーをロックでダブルと注文した。麻由子と由美子、美津子はイチゴのスムージーカクテルを、吉田はジントニック、ビルと研ちゃんはヤルデン・エルロムとレバノン、シャトーケフラヤの赤ワインをどちらにしようか迷って、ケフラヤをボトルで頼んだ。全員の注文した飲物が来て、吉田が「じゃ明日に」と言って乾杯をした。皆話が弾み、話題は研究所の事が中心であるが、私と麻由子の話題が、一番賑やかであった。

マスターは今日まで親子だと思っていたらしい。予定通り一杯で済ませた私は先に帰るからと席を立った。麻由子はもう少し居ると言って「皆と一緒に帰る」とリラックスしている様であった。私はじゃそうしなさいと言って、吉田に麻由子の事を頼んで店を出た。

生暖かい風が頬を掠めて行く。縄手通りに向って歩きブティックに入った。そこで、ビキニタイプのお洒落なブラと下着を5セット、ブランドのTシャツを5枚、色違いのパンツを2着、靴下を5セット。可愛いプラダのスニーカーを一足買って、これで暫くは大丈夫だろうと、大きな荷物を持って、縄手通りを北へ、白川を越えたところにあるコンビニで私の下着を買って、縄手を御池通りまで出てホテルに着いた。時計は11時半を指していた。部屋に入って荷物を置き、シャワーを浴びて、新しい下着に着替えホテル備え付けのパジャマを着た。窓側の椅子に座って煙草を吸っていると麻由子が帰って来た。吉田が送って来た様で、ドアの隙間から「おやすみ」と手を挙げているのが見えていた。麻由子はご機嫌で帰って来た。いい事である、これから始まる真相を追究する行動がまた麻由子を苦しめるかも知れないから。私は麻由子にシャワーをして、早く寝るように言った。

麻由子は沢山の荷物を見て「それ何?」と聞くと荷物の点検を始めた。「あっ、忘れてたぁ、ダーリン覚えていてくれたんやぁ」と大喜びをしてシャワーに行くと言って、服や下着を脱ぎ散らしてシャワールームに入った。

私は脱ぎ散らかした下着や服を纏めて椅子の上に片付けておいた。直ぐに麻由子は出てきた「早いねぇ」と言うと「髪を洗ってないから。朝洗う」と言って裸の身体をバスタオルで拭きながら応接室に来た。麻由子は新しい服や下着を全て試着し、納得して満足した顔で「ダーリンありがとう」と言って私の首筋に抱きついてきた。私は「はいはい、分かったから、今日は早く寝なさい」と言って麻由子を放し、寝るように言った。麻由子は何かを期待していた様だが、今はその時ではないと思っている。だから、麻由子には物足りないかも知れないが、ここは我慢してもらうしかないと思っている。でも、麻由子は大人しく寝てくれた。


朝7時、米空軍嘉手納基地の正門でタクシーを降りた。正門にはジョージ中佐がジープで待っていた。ジョージ中佐が衛兵に何か言うと、敬礼して入門を許可してくれた。亀本とトミーはジープの後部席に乗り込みそのまま基地の奥へと入って行った。トミーは「広い、とにかく広いですね」とビックリしている。亀本も何も言わないが、驚いている様である。くねくねと基地内をジープで走り、第390情報隊の司令部に着いた。そのまま、裏手の研究棟にジープを横付けし停めた。

ジョージ中佐は「さぁ急いで荷物を載せるぞ」と言ってジープを降り、建屋に入って行った。ジュラルミンのケースを4個積み込み輸送機の格納庫に向った。格納庫前にはC130がプロペラを回して待機していた。急いでジュラルミンケースを積み込み、亀本続いてトミーそしてジョージ中佐が乗り込み直ぐに滑走路に向かい嘉手納基地を出発した。10時頃に岩国基地に到着するはずである。輸送機の中でジョージ中佐は、装置の取り扱いの説明を始めた。亀本とトミーは顔を見合わせて笑った。

久し振りに気持ちよく目が覚めた。7時だった。私は起きて応接室に行き煙草を吸った。

麻由子は良く寝ている。9時の空港行きリムジンバスに乗るから、暫くしたら麻由子を起さないといけない。私は体を解すためにシャワーを浴びることにした。少し熱めのお湯でしっかりと身体を温める。全身に活力が戻って来た感じがする。バスタオルを首から掛けて裸で応接室に戻ると、ベッドルームから、麻由子が「おはよう」と起きていた。私は起きて準備をしなさいと言って下着を着け様とすると、麻由子が「来てっ」と言って両手を広げて、ベッドまで来いと、合図を送っている。私は裸のままベッドに行き、横に座って麻由子に「時間無いよ」と言って、おでこにキスをして応接室に戻り、下着を着け服を着た。

麻由子は、何かゆとりでも出来たのか大人しくベッドから出て、笑顔でシャワーに行くと言って裸になり、私の前をバタバタと通って行った。もうお互い裸の姿は意識しないでいい様である。変に気にすると、余計におかしな心境になる気がした。

そんな麻由子を無視して私は吉田に電話をして、京都八条口9時10分発のリムジンバスに乗るから8時40分にロビーで待つ様に伝えた。

麻由子がシャワーを終えてタオルで髪を拭きながら応接室に入って来て、どの下着にするか迷っていた。私は「後30分したら出かけるからね」と急ぐ様に言った。

麻由子は、卑弥呼の黒いサテンのシンプルなビキニを選び鏡に映してご満悦である。白の極細のスキニーデニムに白の白雪姫のTシャツでプラダのピンクベージュ、ラバーソールのスニーカー、それにビームスの黒ジャケットの出立ちで、なかなかのお洒落であった。荷物の確認をして必要ない服や下着等は麻由子の実家に宅急便で送る事にした。

フロントで宅配の手続きを済ませ、研ちゃん達の今夜からの部屋を確保して吉田と簡単な打ち合わせをし、タクシーに乗り場に急いだ。研ちゃんや由美子、美津子が早起きして見送りに来ていた。麻由子は「行って来ま~す」と、まるで旅行にでも行くみたいに、笑顔で手を振っている。

皆、それを見て、それぞれ顔を見合わせて笑っていた。タクシーは15分程で京都駅八条口京阪ホテル前の空港リムジンバス乗場に着いた。

チケットを購入していると、タイミングよくバスが到着した。乗客は半分ぐらいでのんびりと座れた。

吉田とビルは一番後ろに座り、私と麻由子はその前の席に座った。麻由子は座ると直ぐに手を握って指を絡め、頭を私の左肩に乗せ目を瞑った。振り向いて吉田とビルを見ると二人も目を瞑っていた。これからの事を考えて今は心も身体も休めて於かなければと、私も目を瞑った。伊丹空港までは50分ぐらいである。伊丹空港には10時に着いた。吉田はチケットを受取りにJALのカウンターに行った。ビルはコーヒーを飲もうと2階を指差した。私は吉田に、コーヒーを飲む真似と煙草を吸う動作をして2階に行くと指差した。

吉田は「了解した」と軽く手を上げ手続きをしていた。この空港のコーヒーラウンジは煙草を吸える店は限られている。でも、コーヒーの味は普通だが・・。煙草を優先した。

席に着いて注文を済ませた時、亀本から連絡が入った。「今、無事に岩国の米軍基地に到着しました、これから書類検査をして荷物をレンタカーに載せて出発します。到着は3時過ぎになると思います。所長、この装置見たらかなり感激すると思いますよ」と笑いながら言って電話を切った。

「亀ちゃん、今岩国、これから装置を車に載せて松江に向うそうだよ。それと、装置がかなりイケテるみたい」と皆に報告した。ビルは「噂しか知らないけど、ジョージはかなりレベルの高い装置を作った様だね」と同級生の自慢が出来て満足している様である。

かなり緊迫した内容を会話しているのだが、麻由子は「お腹空いたぁ、何か食べていいかなぁ?」と姫は状況をまるで無視して仰しゃる。私の答えは「好きな物を召し上がれ」と言うしか答えはないのである。麻由子はホットケーキを注文し満足顔であった。

私は吉田とビルに何か食べる?と聞いたが、空弁を買うからいいと、笑っていた。

麻由子がホットケーキを食べ終わるのを待って、それでは、そろそろ行こうかと金探ゲート通って搭乗口に向った。待合ラウンジで搭乗開始を待つ間に吉田とビルは空弁を買いに行った。麻由子もトイレに行くと言ってゆっくりとトイレに歩いて行った。

私は吉田とビルが買物から帰って来てから、私も空弁を買いに行った。時々買うセントレアの「穴子わっぱ」が売っていたのでそれを買った。これは美味い物が手に入った、と一人ほくそ笑んでいた。皆の所へ戻ったら、搭乗開始になり、それぞれ搭乗を始めた。私は麻由子にチケットを渡し控えを受け取った。席は主翼の少し後ろの左側で吉田とビル、その後ろに私と麻由子が座った。定時に飛行を開始し、15分後シートベルト装着のランプが消灯した。吉田とビルは空弁を開けて「おっ美味そう」とか言って、結構楽しんでいる様である。麻由子は眼下の瀬戸内海を窓から覗き込んでいる。私も空弁を出して、包みを開けて穴子わっぱを楽しもうとした時、左隣から悪魔の手が伸びてきて、私の穴子わっぱは連れ去られてしまったのである。「まゆちゃん、それ私の弁当」と言っても「聞えませんバリア」を張って、黙々と私の穴子わっぱを蹂躙している。私は諦めペットボトルのお茶を出して空腹を紛らわせたのである。

まぁ、こうなる事は予測はしていたから、やはりなと思っている。まるで大阪日本橋の「秘密倶楽部」で受けた感触である。私の境遇を前に座っている吉田とビルが振り返って笑っている。私も笑うしかないのであった。隣では美味しそうに、また嬉しそうな顔をして食べている麻由子を見ているのが楽しいのだからどうしようもないと思っている。

飛行は順調で定時の12時20分に出雲空港に到着した。空港ロビーで吉田はレンタカー契約をしている。予約をしているので、契約は直ぐに終った。車は空港玄関前に停めてあった。車は吉田が運転した。ビルは助手席、私と麻由子は後部席に座っている。出雲空港から宿泊地のしんじ湖温泉一畑ホテルまでは40分ぐらいである。麻由子はこんなに早く宍道湖を再訪するとは思ってもいなかった。過ぎ行く町並みや全ての景色は、全く違った印象を受ける。緊張、緊迫感そして期待感。

麻由子はこれで、ここに来て事件の全貌が明らかになると確信していた。麻由子の見る景色に焦点は一度も合わなかった。

ビルは初めての土地で全てが珍しいものであった。ビルは山陰地方に来るのは初めてらしい。ビルは宍道湖をはじめ全ての景色を記憶する様に見つめていた。車は吉田の安定した軽快な運転で1時半過ぎに一畑ホテルに着いた。ここは松江しんじ湖温泉と言う温泉街である。ホテルに着いてチェックインをして、6階の洋室ツインを三室確保する事が出来た

私は直ぐに港に出かけるから各自部屋に行って荷物を置いて来る様に言って、ロビーに集合して欲しいと言った。私は亀本とトミーの部屋の手続きをするからとロビーに残った。

直ぐに皆降りてきて、出かける準備が整いが、2時前にホテルを出た。ホテルで尋ねると、その港までは30分くらいで行けるそうであった。私は皆に申し訳ないけど何か食べ物を買って来るので少し待ってと言うと、麻由子は「私も行く」と言って駄々を捏ねる。この前の食堂に行きたいと煩いので「分かった、連れて行くから」と負けてしまった。ビルが麻由子に、その食堂は美味しいの?と聞いて、麻由子が「イケテル」と言ったものだから、ビルも行きたいと言い出した。私は「分かりました、皆で行きましょう」と言って吉田に、そのまま港に行くから車で行こう、と吉田も食堂に誘った。

ホテルから車で2~3分の距離である。

食堂のおばさんは私と麻由子を覚えていてくれて、白菜とキュウリの漬物を大盛りでサービスしてくれた。今日のアジの乾物も美味しかった。ビルも吉田も満足している様である

20分ぐらいで食事を終えて、車に乗り込み予めナビにデータを入力していたので、港に急いだ。私は携帯を出して亀本に電話を入れた。島根原発の西側の半島の付根に「片句」と言う漁港がある、その一番奥に着て欲しいと伝えて、現在地を聞いた。出雲市に入った様である。3時前に狭い道を通り抜けて、小さな漁港に着いた。赤い瓦がやけに目立つ小じんまりとした集落であった。

奥の波止に鳥取ナンバーのベンツが停まっていた。吉田はそのベンツの後ろに停めて、車の中にいる中年の男性と話をしている。

何かの書類にサインをして車に戻ってきた。

「契約完了」と言って、もう直ぐ船が到着するそうだと報告した。あのベンツは船に乗って来るスタッフを迎えに来た船会社の社長らしい。3時を過ぎて正面の少し突堤で狭くなっている港の入口から20フィートクラスのクルーザーがやって来た。波止場に横付けされたクルーザーから二人の若者が下船して来た。我々は軽く会釈をして麻由子と船を見に行った。ブルーアンカーよりも二周り小型である。麻由子は後部デッキの椅子に座って小さな漁港を眺めている。気がついたらベンツが帰って行くのが見えた。そのベンツの姿が消えてから暫くして、山口ナンバーのシルバーライトバンが此方にやって来た。亀本達である。私と麻由子は船を降りて彼らを出迎えた。二人は直ぐに車を降りて来て、麻由子に「無事で良かったねぇ」とトミーが両手で麻由子の手を握手して、良かった、良かったと何度も言っていた。麻由子も「心配掛けてごめんなさい」と頭を二人に下げた。

亀本が「所長、大変でしたね」と笑いながら言って、「調査部の行動開始ですね」と私と吉田を見た。私は「よろしく」と真面目な顔をしてそれに答えた。

私は亀本に「装置はどれ?」って聞くと、トミーが「ビル手伝って」と言ってライトバンの後部ドアを開けて、ジュラルミンのケースを4個下ろし、船に積み込んだ。

車を作業の邪魔にならない様に停めて、全員船に乗り込み、亀本が計器のチェックをしてエンジンを起動する。トミーが舫いを外し、ゆっくりと方向を変えて微速前進である。

漁港の防波堤を抜けると外海である。夕方になり少し海風が吹いている。波はそれ程高くはない。最初の半島を迂回し、二つ目の半島を越えた時、右手に前方に島根原発は見えて来た。私は亀本に二つ目の半島の先端から300メートルの位置で船を停船して欲しいと言って、トミーが用意してきた双眼鏡で島根原発を確認した。トミーはアンカーを打って

ロープを固定した。亀本がデッキの操舵室から降りて来て、トミーと二人でジュラルミンケースを開けて装置を組み立て始めた。

三十分で装置は組み上がった。私は初めてみるタイプだと思った。ビルも見た事が無いと言っている。装置はメインコントローラー部とジョイスティック部、モニターと水中探査機の4つで構成されている。私は亀本にこの辺は水深何メートルかと聞いた、亀本は魚探を確認して40メートルですと答えた。

私はテスト開始と告げると、トミーがオレンジの水中探査機の内蔵スイッチをオンにして水面に浮かべた。亀本はモニタースイッチを入れて、ジョイスティックコントロールの電源を入れた。するとモニターに水面が映ったのだ。皆「凄い」と言って水面に浮かんでいるオレンジの探査機を見た。亀本はいくつかのスイッチを入れて、ステックを前に倒すと

水中探査機は水中に消えて行った。同時にモニターに海の中が映っている。亀本は「この装置の特別な仕様は探査機が相手のソナーに反応しないんです。ゴーストなんですよ」とジョージ中佐の説明を紹介してくれた。

「それは面白い」私は満足していた。ビルも喜んでいる。亀本はモニターを見ながら探査機を操作している。5分程で海底にゆっくりと到達した。海底は砂地であった。小魚がたくさん群れている。時折鯛やグレ、ハマチ等の大型魚もモニターに映っている。私は亀本にそのまま東へ進めて欲しいと言った。この探査機の受信可能範囲は5キロであるそうだ

暫く、ゆっくりと前進する探査機の映像を見ていた。その時私の後ろでモニターを覗いていた麻由子が「あっ、何かある~」と大きな声で言って、私の肩を何度も叩いた。

確かに前方100メートル程に何か黒い物体がモニターに映し出されている。亀本は慎重に探査機を前進させる。だんだんと黒い物体は鮮明になってきた。30メートルまで近づいた時、それが潜水艦である事が全員理解出来た。「こんなに早く見つかるとは・・」

ビルは「ジョージは凄い装置開発したなぁ」

と感心していた。私はそれよりも突然の発見に、これからどうするか決めかねていた。

亀本に「もう少し、近づいても大丈夫か?」と聞いた。亀本は「問題ないよ」と言って、微速で探査機を前進させた。「たぶん、少し大きな魚ぐらいとしか分からないと思うよ」

「動力が水流式だから、モーターやエンジンの音はしないし、水が流れる音しかしないんだよ」と自信満々であった。探査機はゆっくりと潜水艦の周りを探査した。国籍や船名等も分からない。亀本に「このモニターは録画は出来るのか?」と聞いた。答えは「録画はもうしてる」であった。この装置は凄い。

何度か潜水艦の周囲を探索し、探査機を船に戻した。「今日はここまでにしよう」と言って、「こんなに早く見つかるなんて、ビックリやなぁ」私は驚いた顔をして皆を見た。麻由子も「ほんまやね」と言って、映画の世界が現実に起こった事を実感していた。

現在位置をGPSに記憶させて、その場を少し離れて機材をジュラルミンケースに収納した。それが終ると亀山に港に帰る様に伝え、

船を片句漁港に向けた。20分程度で漁港に着いたが、その間、誰も口をきかなかった。

漁港に船を着けて、荷物を降ろして車に積み込んだ。亀山と吉田が、漁港の組合長に挨拶に行って来ると漁連事務所に出かけた。

私は車に麻由子と乗って待っていた。トミーとビルは海を見ながら何か話しているが、内容は良く分からない。でも、さっきの海底で見た事では無いようである。今は、皆現実逃避している様である。私も同様であった。

吉田と亀本が帰って来た。漁港に使用料を支払い、停泊許可を3日間貰ってきた。全員車に乗り込み、ホテルに戻り打ち合わせをする事になった。30分程で一畑ホテルに到着した。5時半であった。


「警部、ほんとにこの道でいいんですかぁ」

「ナビが指示してるんやから、間違いないやろ」「もう、県警に頼めばいいのに」

「お前なぁ、こんな場所に県警に出張らせて

嫌味言われるだけや、黙って運転せぇ」

警部と言うのは、京都府警捜査一課の村井警部、文句を言われているのが、村井警部の部下の林田巡査部長である。二人は京都府警、本部長の特命を受けて島根県松江市に調査に来ているのである。島根県警に依頼せず、わざわざ京都から刑事が二人、調査に来た理由は、京都大学の松本教授の捜索に来たのである。松本教授は京都府警本部長と京大で同級生であり、家族的な付き合いもしていて、松本教授の家族が府警本部長に捜索を頼んだのである。府警本部でも面子の問題が生じ、島根県警に捜索を表立って依頼する事をせずに優秀な刑事を捜索に派遣したのである。

長いトンネルを抜けると目の前に異様なコンクリートの建造物が現れた。

「あっ、ありました警部」

「わかっるわぁ。俺も目はある」

二人の乗った車はゲートで停まった。

林田巡査部長が窓を開けて、守衛と話している。その会話に村井警部が割って入り、「京都府警やけど、この施設の責任者に会いたいやが誰かいてますかぁ」と質問する、守衛は少し待ってと言って電話で連絡していた。

守衛は電話を置くと、「所長が居られますのでお会いになるそうです」「この横の建物の前に車を停めて、玄関からお入りください」と村井に伝えた。二人は礼を言って横の事務所棟の前に車を停めて中に入った。

玄関を入ると職員が待っていた。二人は職員に案内されて二階の応接室に向った。職員がドアをノックしてドアを開け二人は部屋の中に案内された。中には所長の豊田満夫が待っていた。豊田は二人に椅子に座る様に薦めて、煙草も自由にどうぞと言って、自分も煙草を出して火をつけた。

「わざわざ京都からご苦労様です。それで、どの様なご用件でしぅようか」豊田は煙草の煙を吐きながら二人に尋ねた。村井は「京大の松本教授をご存知ですか」と尋ねた。

「えぇ、松本教授なら、良く知ってますよ」

「この原発の基本設計者ですし、年に何度かお見えになりますからね」豊田はそう言うと

内線電話でコーヒーを頼んだ。

「実は京大から松本教授と連絡が取れないと相談があり、府警本部として捜索に訪問したのですが、松本教授がどこに居られるかご存知ありませんか」村井は形通りの質問をして豊田の答えを待った。豊田は「う~ん、そうなんですか。でも松本教授はこちらにはおみえではありませんよ。所内の事は全て私に報告が入りますから」と答えた。村井は「やはり来て居られませんか。分かりました、申し訳ありませんが、私共もこのまま帰るわけにはいきませんので、所内を見学を兼ねて捜索をさせて貰えないでしょうか」と村井は所長に頼んだ。「えぇ、いいですよ、誰かに案内させましょう」と言って内線電話で職員を呼んでいた。暫くするとドアがノックされ、職員が入ってきた。広報部の長井課長であった

豊田所長は長井に「このお二人を、危険区域以外は全てご案内して差し上げてください」

と指示をした。長井は二人に軽く会釈をして

「それでは、このバッジを胸に着けてください」と二人にフイルムバッジを渡した。見学が終了した時に被曝量を測るのである。

豊田所長は「それでは私は用事がありますのでこれで失礼します」と言って松江市内の観光もして帰ってくださいね、と言って二人を送り出した。二人は「ご協力感謝致します」と頭を下げて部屋を出た。事務所棟を出て、

向かいにある、一号炉棟から捜索を始めた。

宮崎鼻側にある三号炉の捜索が終ったのは二時間後であった。確かに広い施設の中を全て捜索出来た訳ではない。でも、秘密の内にこの施設に入って滞在するなど不可能である。

少なくともこの施設には居ない事は確かである。別に怪しい事は無く、問題は無いと思われる。被曝の恐れのある施設以外は殆ど調べた。二人は事務所棟の駐車場まで戻り、案内をしてくれた長井課長に礼を言って別れた

二人は車に乗り、とりあえず松江署に行く事にした。「村さん、原発には何もありませんでしたね」と林田が言った。「あほ、たぶん施設の半分も見てないわ~。その気になったら何処でも隠れるとこは、あるんとちがうかぁ」「でも村さん、隠れる意味がわかりませんよ」「そやから、行方不明なんやろがぁ」

「まぁ、適当に捜査して、早よう京都帰ろ」

村井はそう言うと、松江署に向う様に林田に言った。

二人は松江署で松田教授の捜索依頼をして、今夜の宿泊の手配を考えていた。村井は松江署の前で煙草を吸いながら暮れ行く宍道湖を眺めていた。何でもこの位置からの夕陽は最高らしいのだが村井にはそんな事はどうでも良かった。早く用事を済ませて京都に帰りたかったのである。のんびりと煙草を吸っていると、林田が村井の所に戻って来て、「村さんホテルは一畑ホテルがいいそうです。予約しておきましたよ」と報告した。村井は「それじゃ今夜はのんびりと温泉でも入って、明日市内を一回りしたら帰るかぁ」と言って林田にホテルに行こうと言った。時計を見ると5時になっていた。ホテルに到着してチェックインの手続きを済ませ、ラウンジでコーヒーを飲むと言ってラウンジの椅子に座りのんびりと煙草を吸っていた。


我々はホテルに到着するとトミーとビルが、ホテルで台車を借りてジュラルミンのケースを部屋に運びに行った。私は吉田と亀本、麻由子達でフロントに行き、亀本とトミーの宿泊手続きをしていた。その時、後ろから私の名を呼ぶ声がして振り返ると村井がいた。

「島崎さん、久し振りやけど、面白い場所で会うねぇ」と言って手を挙げて挨拶をしていた。私は少し間を於いて「あぁ、村井さん、ご無沙汰してます。その節は、大変お世話になりました」と型どおりの挨拶をして、京都府警が松江に何の用事かと尋ねた。

村井は笑いながら「野暮用ですよ」と逆に私に、松江で何をしてるのかと尋ねた。

私も「野暮用ですよ」と笑って答えた。まさかこんなところで、京都府警の刑事に会うとは思っていなかったので、事実少し驚いていた。

村井との再会は、私が逮捕されて送検されて以来であるから、5年ぶりの再会であった。私は名刺を出して「今はここで仕事をしてます」と言うと、村井も名刺を出して、「私もねぇ、今はこちらですわぁ」と名刺を私に渡した。「おっ、警部じゃないですかぁ。出世ですね、それに府警本部の一課じゃないですか」と当時は所轄の巡査部長であったから、かなりの出世である。「まあね、島崎さんのお陰ですわぁ」と言って、「でもねぇ、その警部が野暮用で松江に来る様では府警もお終いですわ~」と笑って言った。横で麻由子が心配そうに見ていたので、「この刑事さんが私を逮捕した方だよ」と教えてあげた。

吉田も思い出した様で、亀本に何か話していた。麻由子は、不思議そうに、そうなんやぁと言う顔をしていた。吉田が手続きが終ったと横から言ったので、「それでは」と村井に言って、我々は部屋に戻った。

部屋に入ると、直ぐに皆私の部屋に集まって来た。吉田は「思わぬ人に会いましたね」と言ってビルとトミーに説明していた。

私は食事は19時でいいかなぁと、皆に確認して、その時間にロビーに集合する事で、それぞれの部屋に戻って行った。

部屋に麻由子と二人になると、麻由子は側に来て「刑事さん、何しに来たん?」と尋ねてきた。「さぁ、何しに来たのかわからんけど

警部クラスが来てる以上、重要な事件だと思うよ」と麻由子に説明してあげた。

麻由子は、少し心配している様であったが、

「今回の事件、相談してみたら」と言って、

私の顔を見た。

「そうやねぇ、でも、今は我々だけで対応した方がいいと思うよ」と言って「敦子やその

家族に危険がある以上は、内密に捜査はした方がいいと思うんだけど・・でも、危険がある様であれば相談してみるよ」と麻由子に心配しないでいいからと、頭を撫でて外出の準備をする様に言った。

麻由子はシャワーして来ると言って、服を脱ぎ下着だけになって、バックから着替えを出している。私は椅子に座り、煙草を吸いながら、村井が何の捜査に来たのか考えていた。

あまりにもタイミングが良過ぎる。もしかして京大教授の捜査かも知れないと思った。

しかし、今はあの潜水艦の録画を見せるのは事を大きくしてしまうと考えていた。

先ずは、行方不明の者達の発見と、この状況の背景を調べて確認する事が優先であると思っていた。


村井はラウンジにいる林田の前に座った。「村さん、誰ですか?」と林田が尋ねた。「昔、逮捕したヤツで、今はここで働いているらしい」と名刺を見せた。

「へ~っ、この研究所って結構有名ですよ。

どの雑誌だったか忘れましたが、少しお堅い雑誌に掲載されているのを読んだ事があります」

「そうなんやぁ、まぁ、もともと犯罪とは関係ない人間やからな、真面目にしてるんやったら俺には関係ないから、しかし、野暮用と言ってたが、あのジュラルミンのケースはなんやろ」と言って煙草に火をつけた。

「チラッとしか見てないけど、確か英語の刻印があったなぁ、マークもあった」と言って手帳を出して話し始めた。「まぁ、今の俺達には関係ないかぁ」と手帳を背広の内ポケットに仕舞うと「さぁ、温泉にでも入って美味い飯を食って、のんびりするかぁ」と言って席を立ちエレベーターに向った。


7時に全員ロビーに降りて来た。皆何を食べようかと話し合っている。私は皆に好みが色々だから、美味しい魚を食べさせる居酒屋に行こうと言って、フロントで店を紹介してもらい、タクシーに分乗して夜の松江市内に出かけて行った。その夜は山陰の美味しい魚やてんぷら、お寿司そして李白を堪能した。

午後10時過ぎにホテルに戻り、明日は9時に出発するからと言って、それぞれの部屋に戻りゆっくりと睡眠を取る事にした。

私と麻由子もその夜は何事もなく、大人しく睡眠を取った。

翌日、朝から松江は晴天であった。雲ひとつない素晴らしい天気である。麻由子は相変らず私を抱き枕にして寝ている。京都に連れ戻してからは、必ず横で寝ている。何だかそれがまだ二日ぐらいしか経たないのに自然な気がする。不思議なものだ男女の中は・・。

時計を見ると6時であった。

私は起きて冷蔵庫からコーラを出して窓辺の

椅子に座り一口飲んだ。ふ~っと息を吐き、喉に滲みる感じを心地よく思い、シャワーを

浴びにバスルームに向った。

シャワーを浴びて部屋に戻ると麻由子はまだ寝ていた。私は下着だけで窓側の椅子に座りキラキラと輝く宍道湖を眺めている。今この街に大変な事が起こっているのを忘れてしまいそうになる風景である。

私は暫く次の行動を考えていた。どう対応したらいいか、どうすれば誰も傷つかず済むのか、それとどうやって彼らに目的を諦めさせ帰途に向わせるのか考えていた。

そうしている内に7時半になり麻由子を起した。麻由子は相変らず裸で寝ている。大きく欠伸をして「おはよう」と元気良く挨拶をして、今朝は寝起きがいい様である。背中を壁にもたれて、下半身を布団に入れたまま、身体を動かし血液を全身に送り込んでいる。

私は外の景色を見ながら思案の継続中である。麻由子は身体が起きたのかシャワーに行くとスリムな身体を弾ませてバスルームに。

8時過ぎに吉田から内線電話があり、朝食を一緒にしようと連絡があった。8時半にロビーで待ち合わせする事と、他のメンバーへの連絡を頼んで受話器を置いた。

シャワーを終えた麻由子に朝食食べに行くから準備をする様に伝え、私も準備を始めた。

8時半にロビーに行くと、みんなが雑談をしていた。いつもの食堂に朝食を食べに行くことにする。食事を終えてホテルに戻り、今夜も泊まると予約を入れて、船を停泊している漁港に向かった。30分ぐらいの距離である。松江市内を抜けて山道を通り、漁港に着いた。車内では、皆無言であった。これから起こる事を考え緊張しているのがわかる。麻由子は私の腕に自分の腕を絡ませ外を見ていた。麻由子は、責任を感じている様である。自分の考えのない行動で、研究所のみんなを巻き込んだ事に、かなり悩んでいる様だが、私は無言で、絡めている麻油子の腕を、優しくさすって、「心配するな」とそっと言った。

車を停泊してる船の横に停めて、外に出た。

吉田と亀さんは、挨拶に行くと言って、事務所に歩いて行った。ビルとトミーは船の点検と機材の搬入を始めていた。

私は麻由子と二人で、その様子を見ながら、タバコに火をつけて、私自身も精神集中させていた。出発の準備が出来たとトミーが手を上げて合図をしていた。挨拶に行っていた二人も帰ってきて出発である。亀さんは、昨日の位置をチェックして、GPSをセットしてスロットルを軽く押し、微速で漁港を出た。

昨日とポイントまで20分である。外海は穏やかで、波も無く絶好の天気であった。

トミーとビルは、ソナーの設定をしている。

亀さんは、スロットルを軽く押して、スピードをあげていく。私と麻由子は、船が作る白い波を見ながら、少し冷たい風を体に感じていた。これから始まる何かを、どう対処すればいいのか、私は頭をフル回転させていた。


村井と林田は、遅めの朝食を、ホテルのラウンジで取っていた。村井は、林田に「今日は島根大学と、繁華街で聞き込みをするからな」と言って、コーヒーを飲んでいた。林田は「島根大学は、宮川教授の勤め先ですよね」

と言って、「たぶん、成果は無いと思いますよ」と言って、トーストにカジリついている」村井は「そんなのどうでもええんやぁ。調査した事実さえあれば、本部長は納得するやろ」と、まったく、この調査に乗り気ではない様子である。村井は、京都府警の敏腕刑事で、人探しなど、まったく興味はないのである。それに、京都には、重要事件がそのままで、部下に任せて来ているのである。

部下は優秀だが、捜査に参加できないのは、現場の刑事としては、歯がゆいのであった。

食事を終えて、林田がフロントで精算をしている。精算を終えて車に乗り込み、島根大学に向かった。「林田、チャッチャッと聞き込み済ませて早く帰ろぅ。昼過ぎの電車で帰るでぇ」と言って、窓を開けて外の空気を大きく吸った。

島根大学までは、車で15分程の距離で、朝のラッシュも終わり、予定通りの時間で到着した。車を来客駐車場に停めて、事務所棟に向かった。事前に連絡を入れてあるので、受付で到着を知らせ、会議室で事務長を待った。5分程して事務長の朝田が会議室に入って来た。挨拶を終えて、村井が宮川教授の失踪に関して質問をした。大学側としても、対面上、公にはしたくないのだと言う見解らしい。しかし、連絡が取れないのは事実であるそうで、大学としては、念のために警察に届出を提出したとの事らしい。どちらかと言うと心配より迷惑だと言う状況らしい。

まぁ、警察としても、良識ある大学教授が何日か連絡取れないからと、真剣に受け取ってはいないのである。京都府警も同様である。

村井は、宮川教授がどんな研究をしてたのか、聞いてみた。「宮川教授は、主に原子力の開発を研究テーマにしております」朝田事務長はそう答え、世界的な権威でもあると付け加えた。村井は、更に同じ時期に連絡が取れなくなっている、村井が捜索に来た目的の人物である松本教授の事を尋ねた。

朝田事務長は「あぁ松本教授ですよね。存じております。しかし、電話でも申し上げましたが、こちらにはお見えではありませんよ。

来られる時は、宮川教授から連絡がありますし、ご本人からも連絡が必ずありますので」

そう言って、他の大学の教授の事まで知らんと、言った印象である。しかし、村井としては、宮川教授の事よりも、松本教授の捜索がメインであるから、更に質問をした。

「松本教授は、宮川教授とは同じ研究なのですか?」「此方に来られる時は、宿泊はどちらで?」と具体的な質問をした。

朝田事務長は、「たぶん同じ様な研究だと思います。宿泊は、普通大学内の宿舎ですが、たまに原発内の宿舎で泊まられる事がありますが、市内のホテルと言う事はありませんね」とキッパリと答えた。昨日の原発での捜査結果では、原発には行っていない。そして今日の島根大学での結果、大学にも来ていない。いったい何処に行ったんだ。村井は、頭をかきながら、更に研究の内容を聞いてみた。

朝田事務長は、少し間を空けて答えた。「私も詳しくは知らないのですが、従来の原発よりもはるかに小型化を実現したらしいですね。将来は、ユニット化して、都市毎に設置するのが目標らしいですよ」と知っている知識を教えてくれた。すると、黙って聞いていた林田が質問した。「原発ですから、燃料はウランですよね?使用済み燃料の処理はどうするんですか?プルトニウムはどうするんですか?」と矢継ぎ早に質問をした。林田は警察でも珍しい理工学部出身である。

朝田事務長は笑顔でその質問に答えた。

「そこなんですよ、この研究の凄いとこは。

発生した使用済み燃料は、従来の方法ではなく、新しい理論で、殆ど半永久的な利用が可能らしいのですよ」と朝田事務長は、誇らしげに林田を見た。「凄いな、世界の構図が変わりますよ、途上国などは、発展する加速が変わりますよね、凄い」と林田は感心していた。村井は、「そんな凄い、国益に関係してる人物が連絡取れないのに、政府は何もしないのですか?」呆れて聞いた。朝田事務長も

「関連省には連絡を入れたのですが、書類にして送ってください。と言って本気にしません」と諦め顔であった。村井は、なんか日本と言う国の将来を考えてしまった。今の閣僚達は、ゲーム世代で現実に痛みを感じる人との接触が極端に少ない人種である。それに従来から存在する、消極的な対応、個人プレーの違和感。この前の尖閣諸島の事件がいい例である。確かに日本はおかしい。特に政権交代してからは、日本は、対外的に何も出来ないと印象を持たれてしまった。村井は、警察も同じだと思っていた。村井達は、朝田事務長に礼を言って、島根大学を出た。

林田は車を市内に向かって走り始めた。

助手席に座っていた村井はタバコを取り出して火をつけて大きく吸い、窓から一気に煙を吐いた。「林田、もう一度原発見たくなった。外観が見える場所でいいから行ってくれ」

と指示を出した。林田は車を停めて、ナビで検索して、原発の西側にある片句地区を設定した。車は北西に向かって走り、松江の市民もあまり認知の少ない片句が、日本の運命を決める地区になるとは知らず、車は向かった。村井達の車は、30分程で目的地に到着した。低い山道を通る県道である。その途中に車を停め、上から見下ろす感じで村井は原発の施設を見ていた。「村さん、いつもの感が働いたんですか?急にもう一度原発をみたいなんて」林田は、事件で突然感を働かす村井の習慣を良く知っていた。村井は「ふん」と鼻で笑い遠くに見える原発の施設を見ていた。「うわぁ、やはり日本海はいいですね、なんか演歌が似合うのが良くわかりますよ。太平洋とは少し違いますよね」と言って海を見ていた林田が、「村さん、原発の沖合いに船がいますよね、釣りでもしてるんでしょうかね」と村井に指を指して、その船の方向に向けた。村井は、ジッと船を見つめて、突然、「林田、車からカメラ持って来い」と怒鳴った。林田は、急いで車の中に置いていたバックからカメラを取り出し、村井に手渡した。

村井はカメラを構え、ズーム最大にしてその停泊してる船に焦点を合わせた。そして、大きな声で、「あっ、島崎やぁ」と怒鳴り、カメラを林田に手渡した。林田は、受け取ったカメラで急いで船に焦点を合わせた。「あっ、間違いありません、昨日ホテルで会った連中です」とカメラのシッターを何度も切った。「う~ん、やはり何かあったんやぁ。昨日もっと探ればもっと早くわかったのに、くそぅ」そう言って村井は「一番近い港は何処やぁ、あんな大きな船が停泊できる港は」

林田はナビをみて、この片句漁港が一番近いですが、この港には、あんな洒落たクルーザーなんかありませんよ」とパソコンの検索を終えて村井に報告した。「じゃ、何処なんやぁ、あんな大型のクルーザー停泊する港は」

「村さん、検索したら、松江の七類港ぐらいしかありませんよ」「そこは遠いんかぁ」

「一時間ぐらいかかりますよ。行きますかぁ

、でも、今日は市内の聞き込みありますよ。

それに昼過ぎの電車乗れませんよ」林田はそう言って、今回の目的外の行動に出ようとしている村井に警告をした。「そんなんわかっとる。何か気になるんやぁ、本部には俺から連絡入れとく。一日延長やぁ」林田は、うわぁ、また始まったと、頭を抱えてしまった。村井は、軽く林田の頭を叩いて「早よぉ行け」と車を七類港に向けさせた。「赤マイマイ無いけど、とにかく飛ばせ。絶対何かある」

村井は確信した顔をしてタバコの煙を窓の外に吐いた。行き先不明のおっさん探すより、絶対こっちや。島崎の事や、絶対、何か企んでる。村井は、独り言の様に呟くと、林田に「急げ」を連発していた。


40分で我々を乗せたクルーザーは、昨日の現場に着いた。トミーは、潮の流れを確認して、パラシュートアンカーを水中に、そっと沈めた。エンジンを切っているので、船上はとても静かであった。波が船に当たる音しかしない。トミーとビルは、静かにソナーを組み立てている。亀さんは、潮の流れを読みながら、船の向きを調整している。暫くして、トミーが私に、OKのサインをして、センサーを静かに海中に沈めて行った。全員がモニターを覗き込んだ。緯度・経度は昨日と同じである。モニターに海底が映し出された。

「あれ~、潜水艦がいてない」麻由子が、大きな声で叫んだ。私は、慌てて麻由子の口を私の手で塞いだ。「まゆちゃん、静かに」私は、声を落して、麻由子に言うと、同時に、みんなが指を口に当てて「シィー」と黙るようにと合図をしていた。麻由子は、無言で、声を出さずに「ゴメン」とみんなの顔を見ながら頭を下げていた。私は、小さな声で「何でいないんや、位置は合ってるよなぁ」とトミーに聞いた。ビルもトミーも、OKサインしている。私は亀さんに潮の流れを利用して、この位置から少し離れる様に指示を出した。船は、パラシュートに引かれて滑る様に移動して行く。少し離れた位置で、私は停船を指示し、トミーとビルが、パラシュートを引き上げている。同時に亀さんが、アンカーを打った。船は停止し、動きを止めた。

私は「どうなってるんやろ、昨晩の内に移動したって事だよな」亀さんが「昨日の事を気づかれたんでしょうか」と聞いてきたが「判らないけど、普通の軍事用潜水艦なら、我々が港を出た時点で、探知されてアウトだけど、昨日の様子や、ノースコリア製だと考えると、気が付いたとは、考え難い。きっと、移動したんだと思う。「亀さん、少し西側に移動しよう。西側に岸壁があるやろ、その近くまで」

私は、亀さんにそう言うと、この問題を解決するまでの時間は、あまり無いと感じていた。船は、超微速で進んでいる。トミーとビルは、モニターを確認しながら、装置の微調整をしている。麻由子は、無言で目の前に広がる原発の施設を見ていた。

船は原発の西側の沖合い300Mの位置で停止した。ビルとトミーが、ゆっくり音をたてないようにアンカーをおろしている。

水中のセンサーをゆっくりと動かしてみる。

すると、トミーが声を殺して「あっ」と叫んだ。そこには、モニターに映し出された、黒い塊が映し出されていた。「いたな」私は、吉田に、そう言うと、みんなの顔を見回した。みんな頷いている。そして無言である。

私は、麻由子とトミーに釣りの偽装をさせた。餌こそつけてはいないが、本格的な釣りの偽装である。そして、釣りに関する事は会話をしていいと伝えて、二人を船尾に向かわせた。私は、ビルに潜水艦の映像を録画するように指示し、吉田と亀さんに、これからどうするか相談をする事にした。三人で船室に入り、ソファーに座ってタバコに火をつけた。

「栄ちゃん、民間人が出来るのはここまでだよ、後は警察に任せよう」亀さんも、タバコを吸いながら「そうですね」と答えた。

勿論、吉田も賛成である。問題は、何処の警察に届け出るかである。松江の所轄か、それとも県警本部か、それとも公安か、届ける相手を間違えたら、尖閣の様に不起訴で帰国させてしまう。これには、かなり強気な国会議員が必要だし、現場のスタッフも必要である。必要なら米軍も利用してもいいと考えている。実際に米軍の装置で発見したのだから。

「栄ちゃん、誰かお奨めはある?」吉田は、少し考えて、「いなくも無いけど、今難しい時期だろ。議員が動くかが問題だな」

「そうですよね。宮古出身の議員もいるけど、難しいかも知れませんね」みんな暫く考えていたら、ビルがキャビンに入って来た。

「所長、米軍使おうよ」そう言って、プランを話始めた。ビルが話し終わって、吉田が、

「かなり強引なプランだよな」と笑っている。亀さんも、笑っていた。「よし、それでは一度帰って作戦を詳細に練り直そう」私は、そう言って、撤収の準備をする様に指示を出した。デッキに出ると、麻由子がルアーで、メバルを釣っていた。大騒ぎである。トミーが介添えをしている。「ダーリン、釣れたぁ」麻由子はニコニコであった。私は笑顔で、手を叩いて「すごい」と褒めてやると、今夜食べると、うるさい。ビルも魚を見て、「美味しそう」と麻由子の頭を撫でている。

ビルに録画の確認をさせて、トミーと吉田が装置の撤収をし始めた。

私は、タバコを吸いながら、潜水艦の中に居るであろう人物が、何の目的でそこに居るのか、もう一度考えてみた。施設の破壊なら、時間がかかり過ぎるし、もし、施設の中に潜入しているのであれば、何かの情報を入手する為に存在してるのか。行方不明の教授達は原発の専門家である。もしかしたら、施設の中で何か作業をさせられているのか、でも、これは想像でしかない。中の様子を探る為に一度施設に行かなければならないな。私は、今確認されている事実を頭の中で広げていた。トミーがアンカーを引き上げている。亀さんはエンジンを掛けて、出発すると合図をしてきた。とにかく、今は何も出来ない、作戦をたてる事が先決であった。船は静かに原発の前を離れて行った。まずは、片句漁港に戻る事にした。

片句漁港に着いて、指定された場所に船を横付けし、ロープでしっかり固定して、亀本が船室のドアに鍵をかけた。亀本は吉田と漁港事務所に挨拶に出かけた。トミーとビルは、ライトバンに機材を積み込み、ロープで固定していた。麻由子は、クーラーボックスの前に座り込んで、クーラーの中の、自分が釣ったメバルを近くで拾ってきた木の枝で、突いていた。

村井と林田が七類港に着いたのは、昼頃であった。村井は林田に、レジャーボートを取り扱っている船舶会社を探す様に命じ、港湾事務所に向かった。そこで最近レジャーボートのレンタルは無かったかと尋ねたが、港湾事務所は把握してないと言われ、事務所の外でタバコを吸っていると、林田が戻って来た。「村さん、わかりましたよ。こっちです。」と村井を急き立て、中堅の船会社に案内した。そこで聞いた内容は、環境研究所が、海洋調査のために一週間契約したとの情報であった。契約者は、海洋環境研究所の施設部長の亀本 章であった。一級船舶の免許書のコピーもあった。対応した船舶会社は、何か問題でもあるのかと怪訝そうな顔をして村井達に尋ねた。村井は「彼らに尋ねたいことがあって、それと操作に協力してもらいたいと思い探していたんですよ」と、何とも理由にならない理由を話し、何時頃に港に戻る予定かを尋ねた。「ここには戻りませんよ」と意外な返事に村井は「ここに戻らんんて、じゃ何処に戻るんやゃ」と声を少し大きくして質問した。林田が間に入り、「この港じゃないなら、何処の港ですか?」と丁寧に質問をして、村井の前に割り込んだ。

「片句港に回漕しましたから、片句港に戻ると思いますよ。引き取りもその港ですから」

それを聞いて村井は「くそ~」と怒鳴った。

林田は船舶会社の人達に礼を言って、村井を連れて表に出た。村井達は車に戻り、地図を広げて、片句港を調べた。「村さん、ここです。原発の西側です」と地図を示した。

「なんて事や、感が外れた」と村井は、悔しがった。林田はこれから、片句港に向かうかと尋ねたが、「ホテルに戻るでぇ」と言って村井は車をホテルに向けさせた。「やはり近場の港やったんやぁ。船の種類と大きさで判断を間違えてしもうたぁ」

ホテルに戻ると村井は、フロントに行き「島崎さんはお戻りですかぁ」と在室の確認をした。フロント係りは、「先ほどお戻りで、お部屋の方にいらっしゃいますが」と村井の質問に答えた。村井は一瞬考えて、「部屋に電話を繋いで貰えませんか」と電話連絡を依頼した。暫くして、フロント係りから電話を受け取った。「あっ島崎さん、村井です。少しお話を聞きたいのですが、ロビーのラウンジまでお越し頂けませんか?」といつもの雰囲気では話し方でラウンジに来て貰うことを依頼した。言葉は丁寧であったが、私の答えを聞かずに電話を切ってしまった。強引な警察の態度であった。村井は電話を切ってラウンジに行き、林田の横に座った。タバコに火をつけて、林田の「来ますかね?」の質問に、必ず来ると言ってタバコの煙を生きよい良く吐いた。

「電話誰?」と麻由子は聞いた。私は「昨日の刑事だよ」と答えた。「えっ刑事さんが何の用事なん?」と少し怯えた感じでいたが、「何か聞きたい事があるそうだよ、心配しなくていいから」と言うと、「アカン心配。吉田さんを連れて行って。私も行く。」と部屋の電話で吉田を呼んだ。吉田はすぐにやって来た。「どうしたぁ、まゆちゃん」吉田は少し慌ててまゆに呼んだ理由を聞いた。「昨日の刑事さんが、ダーリンに聞きたい事があるからラウンジに来て欲しいって言ってきたの」麻由子は一気に話した。吉田はエッと言って、私の顔を見て「そうなの?何の用事?」と話の続きを求めた。「何の用事かはわからないけど、とにかく行ってみるよ」と出かけようとすると、麻由子が、「吉田さん一緒に言って~、私も行く~」と少しヒステリックになっていた。吉田は「所長、同行させてもらいます。まゆちゃんは部屋に残っていてね」と言って、ダダを捏ねるのを無視して、私と吉田は部屋を出て行った。

ロビーに下りると、ラウンジに村井と林田が座って待っていた。 私は軽く手を上げて「お待たせしました」と言って、村井の前に座った。吉田は私の横で、名刺を出して村井と林田と名刺を交換した。交換が終わり私の横に座った。村井は名刺を見て「ほ~っ、弁護士さん」と言って名刺を眺めていた。

私は「それでお話と言うのはなんでしょう?」と村井に尋ねた。村井はタバコに火をつけて、少し間を空けて「実は島根原発を見に行ってきたんやけど、そこで、原発の沖合いに停泊してるレジャーボートに島崎さんが乗ってるのを確認してね、何をしてたんか聞きたいと思ってね」とゆっくりとした話し方で聞くと、またタバコを大きく吸って天井に向かって煙を吐いた。すると吉田が村井に「村井さん、まさか、世間話をしに島崎を呼んだわけではないんでしょ。村井さんも公務員として公の立場があると思いますが、島崎も研究者として公の立場があります。話の内容によってはお話できない事もありますので、ご承知願います」と弁護士らしい対応をした。村井は露骨にイヤな顔をした。「まぁ、弁護士さん、そう構えんと雑談ですよ、雑談」そう言うと「だからねぇ、原発の沖合いで貴方を見たから、何をしてたんか聞きたいんですわ、釣りをされる様な服装でもなかったしね」

村井はあごを摩りながら、ニヤリと笑った。

私は吉田の顔を見て、暫く沈黙し、村井に少し時間をくださいと、吉田に目で合図をしてラウンジの奥に移動した。私は吉田に「どうする?」と尋ねた。吉田は「所長次第ですよ」と笑顔で言った。私は暫く考えて、麻由子の事と北朝鮮の話、潜水艦の話はしないでおこうと言って、村井達の席に戻った。

「お待たせしました。では、質問にお答えします」と村井に言って、京都で私の知人の女子大生が行方不明になり、その父親で島根大学の教授が行方不明になった事、調べていくうちに、その父親の友人で京都大学の教授も行方不明になっていた事。そして、調べた結果、三人とも松江に来ていた事がわかり、調査の一環として、海上からの方が、特に原発は全体が把握出来るので、船を借りて沿岸を調査していた事等を話した。

村井はう~んと唸って「そうでしたかぁ、たぶん我々と同じ人物ですなぁ」と言って林田の顔を見た。「えっ、そうなんですか?」私は偶然を驚いた。村井は捜索に来た松本教授の事を話し、何故、村井達が捜索に来たのか経緯を話し始めた。

更に村井は、原発も危険地区以外はすべて見て回ったし、職員にも聴取をしたが、何も発見出来なかったと付け加えた。「そうですかぁ、我々も何も情報がなくて・・」私は、少し探りを入れてみる事にした。

「今言えるのは、行方不明になった宮川教授もその友人の松本教授も、核施設の研究をしていたらしいんですよ。」と少し情報をリークした。「えっ、核施設ですか?」林田は驚いて、村井の顔を見た。村井は「それは、優秀な研究者なんですか?」そう私に尋ねた。

「私達が調べた結論は、世界のトップレベルです」と村井の質問に答えた。「トップレベル」今度は、村井も林田も驚いた顔をした。

私は更に話を続け、「特に成果があるのは、ウラン濃縮装置の小型化の研究です。この研究により、同時に開発している、各施設の冷却方法が変わり、山間部や町の中にも設置可能になるらしいんですよ」話終えると、林田が、「実は原発で所長さんにその話をお聞きしたのですが、あまりにも現実離れした話なので、凄いと思っただけで、身近な事とは考えなかったんですよ。そんなに凄い人達なんですか。それじゃ燃料のリサイクルはどうなるんですか?」と質問してきた。私は物理学者ではないので詳しい事はわからないけど、動燃の「もんじゅ」の様な大規模な施設は必要なくなるらしいと調べた内容を話した。村井も林田も無言であった。私は、原発に行ってみたいと思ってると言うと、村井が「私たちも行きましたが、何もありませんよ」と自分たちは、もう調べたとプロ意識を出した。私は、技術職員を良く知っていて、その方に案内をお願いしようと思ってると言うと、村井が、是非同行させて欲しいと申し出た。私は吉田の顔を見て、確認して了承し、これから部屋に戻り、アポイントを入れると言って席を立った。時間は、後ほど部屋に連絡を入れると言って部屋番号を聞き、吉田と部屋に戻った。村井は「よろしく」と手を上げて我々を見送った。村井と林田は、私を見送った後、椅子に座りタバコを吸った。「村さん、何か面白くなりましたね」と興味津々である。「あぁ、なんかある。俺たちに言えない事が、絶対ある」村井は、タバコの煙を大きく吐いた。

私と吉田は部屋に戻った。部屋に入ると麻由子が駆け寄ってきた。麻由子は心配そうな顔をして迎え、何か言いたそうであったが、黙っていた。すぐにビルとトミー、そして亀本も部屋に飛んで来た。まず、亀本が心配そうな顔で状況を尋ねた。みんなも同じ気持ちの様である。私は落ち着いた口調で「心配ないよ」と答え、みんなに話があると座るように勧めた。麻由子は、今にも泣き出しそうな顔をしている。それを見て吉田が話し始めた。

吉田が話し終えると、ビルが質問した。「日本の警察は信用できるのか?」私は「それはまだわからない。しかし、今の段階では、秘密に行動するのは問題がある。警察を同行させて、いつでも直ぐに警察の介入が出来る様にしておく方が最善だと思う」

「だから、明日原発に行ってみる。みんなにもそれぞれ手伝って貰わないといけないが、お願いするよ」と計画を話した。

トミーとビルは、再度潜水艦の様子を探る事、亀本と麻由子は、敦子の実家の浜田に行って母親と面会してくる事、私と吉田は、刑事二人を同行させ原発に行く事。みんな、それぞれ了解の合図をして、明日の打ち合わせを始めた。私は携帯電話を取り、島根原発の高木技師の名前を検索して電話をかけた。

直ぐに高木は電話に出て、時候挨拶を終え、明日訪問する事を伝えた。理由は聞かなかったが、私の電話から聞こえる声で重要性を理解した様である。高木技師は優秀な人物である。

高木技師は、環境学会で良く会う関係で、以前原発の排水処理装置に関して何度か訪問した事があり、夜は毎晩飲み歩いた記憶がある。体育会系のサッパリとした性格の信頼できる人物である。将来は私の研究所で研究したいと、飲んではいつも話していた。確か専門は核融合技術で、新たなエネルギーを開発していると聞いた事がある。

みんなそれぞれ、打合わせが終わり、雑談をしていた。私はみんなに、「いろいろ心配かけてすまない。今夜の夕食は私に任せてくれ」と携帯で川京を選択し、予約を入れた。

奥さんが出て、今日はまだ予約が入ってないからと言ったので、私は貸切にして欲しいと伝えた。人数は8人と告げると、みんなは「えっ」と言った顔をしたが、18時に行くと言って電話を切った。吉田はニヤリと笑い、なるほどと言う顔をした。麻由子は「ダーリン、何で8人なん?」と聞いたが、答えず部屋の電話から村井に連絡した。村井は固辞したが、打ち合わせもあるし、仕事を忘れて一緒に食事をしましょうと強引に誘った。村井は最後まで断ろうとしたが、納得させた。

吉田は「警察の動きが読めるかも知れませんね」と頷いていた。麻由子は「川京、川京」と言って部屋をスキップして大喜びである。

さっきまでの心配そうな顔も、私に対する心配も全くない。やはり麻由子はすごい。

ビルが「マユちゃん、そのお店美味しいの?」と尋ねると、「うん、最高~」とビルに指でピースサインをすると、麻由子の後ろについて大はしゃぎでスキップをしている。ビルが美味しい日本酒はあるかと聞いたので、最高のがあると言うと、今度はトミーと三人で部屋の中で大はしゃぎであった。私と吉田、それに亀さんの中年トリオは、笑ってそれを見ていた。私は、みんなにまだ時間あるからそれまで各自部屋で待機するようにと言った。部屋には麻由子と二人になったが、「ねぇダーリン、鰻のたたき、食べてもいい?」と聞いたので、姫のお好きな様にと言うと、また部屋の中をスキップした。はしゃいでいる麻由子に、「明日は遠出をするんだから、あまり呑み過ぎない様にと釘を刺して、浜田の敦子の実家に連絡して、時間の確認をしなさいと言った。たぶん昼過ぎになるからと付け加えた。麻由子は部屋の電話から、敦子の実家に連絡して約束を取り付けた。私は暫く目を瞑るからと言って、ベッドに横になり、明日の予測をする事にした。麻由子は、シャワーして来ると言って服や下着を取り、裸になって浴室に行った。私は微かに聞こえる麻由子の鼻歌を聴きながら目を瞑ってしましていた。私はバッチリメイクした麻由子に起こされ、下のロビーに向かった。吉田もみんな先に下りて来ていて、ロビーの端で雑談をしていた。村井と林田も待っていた。

村井は「島崎さん」、ほんとにいいのかい」と頭を掻きながら遠慮がちに言ったが、「同じ目的ですから、力を合わせましょう」と言って、懇親会ですから気を使ったり、遠慮しないでと言った。事前に一畑交通のタクシーを3台予約しておいたので、先頭に私と麻由子、それに吉田。2台目に村井と林田、3台目にトミービル、亀さんが乗った。

タクシーは15分程で川京に到着した。私は運転手さんに21時に迎えに来る様に頼みタクシーを降りた。店の暖簾は外されていて、ドアに「本日貸切」と張り紙がしてあった。私は先頭で店に入り、「また来ました」とご主人達に挨拶をして、貸切にして頂いた礼を言った。後に続いた麻由子が、キャキャ言って、奥さんや娘さんと再会を喜んでいた。ご主人も「おっ、京都娘がまた来たか」と大喜びであった。みんな店に入り、私の職場の職員と友人ですと紹介し、私が席順を決めた。

奥に麻由子そして私、私の左に村井、林田、そして吉田、亀本、ビル、トミーである。

ご主人に、何でも美味しいものをどんどん出してくださいと言って、とりあえず「李白」を人数分出してもらった。すると麻由子が、「私、鰻のたたき~」と大きな声でご主人に言うと、ニッコリ笑って「マユちゃんにもう作ってるよ」と厨房の中から皿を出して麻由子に見せた。もう麻由子は半狂乱であった。

さすがの京都府警も麻由子には一声も無かった。ビルが「まゆちゃん、うなぎのたたきって何?」と聞くと麻由子は「うふふっ」と不気味に笑うだけであった。ビルとトミーは顔を見合わせて同時に「相当旨いやぁ」とハモッた。それぞれに「李白」が配膳され、私は明日は頑張りましょうと音頭を取って乾杯した。村井は「こりゃうまい酒やぁ」と言い、林田の顔を見て、もう一口呑んだ。ビルも「うまい」を連発し、みんなも直ぐに御代わりをした。最初に麻由子待望の鰻のタタキが出され、各自二人に一皿であったが、私と麻由子の皿は、麻由子の前に移動されてしまった。仕方ない、予測はしていた。それから「七珍」が次から次と出され、また「李白」も御代わりのラッシュであった。私は村井に少しづつ今までの経過を雑談の中に紛れ込まして聞いていた。吉田は、林田に酒を勧め、同じく雑談と情報のサンドウィッチであった。

麻由子は娘さんと芸能の話題でキャキャ会話が弾んでいて、亀さんやビル、トミーは宮古の話で盛り上がっていた。林田は吉田に研究所には外国の方も居られるんですねと尋ねた。吉田は、研究所の変わり者ですと、ビルを改めて紹介した。ビルが遺伝学では欧米でかなり有名な博士と聞いて、林田は驚き「凄い」と唸った。しかし、ビルは「私は下っ端ですよ」と答え、研究所の成果を話して聞かせていた。「所長はね、もっと凄いんですよ」と言うと私の研究成果も話始めたので、途中で割り込み中断させた。「申し訳ない、いろいろ機密の部分があって」と私は林田に侘びを入れた。その頭が弱っている間に吉田は、酒を勧め、情報のサンドを再開した。

村井は小さな声で「良かったですね、良い女性と巡り合って」私は「ありがとう」と笑って答えた。村井は私が逮捕された時に婚約した女性にも事情聴取しており、逮捕されて直ぐに婚約解消を告げられた事を知っていたからである。あの婚約者はどうしてますと私に尋ねた。私は拘置所に送検される頃に結婚したと答えた。村井は「わからんですねぇ、女心は・・」と言ってグラスを私の方に向けてグラスを合わせた。村井も当時里に帰省している奥さんの事で悩んでいて、取調べをしながら相談に乗っていた事が思い出された。

時計を見たら21時前であった。私はみんなに明日は早いから、この辺でと言うと、みんな赤い顔であった。グラスに残ってる「李白」を飲み干し、さぁ帰ろうと席を立つ様に促した。私は吉田に会計を任せ。ご主人に食事の礼を言って店の外に出た。店の前には先程のタクシーが待っていた。会計を済ませた吉田を待って、再度ご主人に礼を言うと村井にタクシーに乗るように勧めたが、もう少し呑んで帰ると言って、川京のご主人にどこか良いお店はないかと聞いて、ご主人はタクシーの運転手さんと少し話し、「この運転手さんがご案内しますから」と言ってタクシーに乗せた。村井は、窓を開けて、食事の礼を言い、明日の昼12時にロビーでと言って手を上げるとタクシーは動き出し、紹介された店に向かった。我々はそれぞれタクシーに乗り、真っ直ぐホテルへと戻った。麻由子が窓を開けてお店の人達が見えなくなるまで手を振っていた。

村井達が乗ったタクシーは、10分程で松江駅の近くにある雑居ビルの前で停車した。林田が料金を払おうとすると、運転手さんは「料金は頂いてますから」と言ってドアを開けた。雑居ビルの2階らしい。店に入るとカウンターだけのバーであった。ガラスのりんごがたくさん置いてあり、店の名前らしい。

ママと何人か女の子がいる落ち着いた店であった。村井はお絞りで手を拭きながら、ウイスキーの水割りを注文し、林田は喉が渇いたからと言ってビールを注文した。

林田もお絞りで顔を拭きながら「みんな良い人でしたね」とタバコを取り出し女の子に火をつけてもらっている村井に言った。

「アホか、お前は」村井は煙を吐きながら林田の顔を見て言った。「ペラペラしゃべりやがって、島崎の目を見たか?酒の欠片も無かったやろ。あれは動物の目や」林田は、ビックリして、ビールの入ってるグラスをカウンターに置くと「頭を深く下げて「すいません」と村井に謝った。「まぁ。ホンちゃんの事件やないから、あまりキツイ事は言わんが、ありゃしゃべり過ぎやでぇ」と今度は少し笑みを浮かべて、林田の頭を軽く叩いた。

「あいつ等、俺達より聴取がうまいわ」

「そうなんですか?気が付きませんでした」

林田は頭を掻きながら、自問していた。

話は変わりますが、あのお酒美味しかったですねと最近の若い人種の変わり身の早さに溜息を付きながら、「明日、本部長と一課に土産にするから、忘れんとけよ」と村井はまた林田の頭を軽く叩いた。店の女の子は、何の話か判らず、「どんなお酒ですか?」と林田に聞いた。何でも「李白」と言う名前らしいと言うと、女の子は頷いて、「島根の銘酒です」と笑って言った。林田は独身であるから、女の子と話すのが楽しいらしい。村井は、そんな林田を無視して、我々の事を考えていた。

あいつはほんとは何をしに松江に来たのか、それとやはり、気になるのはあの箱の中身や、何が入ってたのか、村井はかなり引っかかっていた。隣で盛り上がっている林田に、そろそろ帰るぞと言うと、丁度メルアドの交換をしていた。村井は呆れて「帰るぞ」と言ってママを呼んで会計を済ませた。エレベーターで1階に下りると、タクシーが停まっていた。来る時に乗ったタクシーである。

村井は苦笑いをして、一畑ホテルを告げた。

ローカルは流しは殆ど無く、無線で呼ばれるのが主らしい。我々は良いお客だった様である。ホテルに着くと、直ぐに爆睡してしまった二人であった。

私たちはホテルに到着すると、ラウンジで明日の打ち合わせの最終確認と吉田が得た情報を分析した。話を纏めると我々の持っている情報に比べ新しいものは何も無かった。

だからこそ、明日の原発の調査が生きてくる。所詮警察であっても、原発施設の事などわかるはずはない。やはり我々が独自で調査をした事は間違いではなかった。もっと厳密に言えば、麻由子が松江に行くと言わなかったら、ここまでの事はわからなかったと思う。麻由子の功績だ。しかし、ここまで来たら我々だけでは問題が残る。何も出来ないわけじゃないけど、逮捕権も捜査権もないのだ、当然限界は出てくると思う。たとえ米軍と共同で捜査したとしても、国内での捜査には制約がある。だけど私はビルに米軍との連絡を当面は個人レベルで進行する様に指示した。亀本には、敦子が不明になった時の詳しい状況、父親が不明になった時の状況等を詳しく聴取してくる様に支持を出して、各自部屋に戻る事にした。明日から忙しくなると、私はそう思った。

部屋に戻り、私は携帯を出して京都の調査部隊に連絡した。研ちゃんは、松本教授の件でかなり調査が進んでいると報告した。私は麻由子にお風呂入りなさいと言って、窓側の椅子に座って、報告の続きを聞いていた。裸の麻由子が前を通り過ぎるのを横目で見ながら研ちゃんの報告に質問をいくつかした。

報告を要約すると次の事がわかった。

「松本教授は、10年近く原子炉に関する研究をしていて、数年前に核燃料の濃縮装置の小型化に成功し、現在実証試験中である事がわかった。ただ、これまでの内容と違うのは熊取の京大原子炉実験室で製作していた検証装置が、教授と一緒に不明になっている点である。最終段階まで実験が終了している装置である。これは問題であるが、研ちゃんの報告には続きがあった。ウラン235の濃縮率4%程度にする時間が大幅に短縮され、通常の半分になった事だ。研ちゃんは引き続き調査をすると言って電話を切った」

これはマズイ。そんな小型化であれば、潜水艦で搬送する事は容易である。そしてこれが彼らの手に渡れば、短時間に核爆弾が製造される事が可能になるかもしれない。この問題は事実を話せば米軍も黙ってはいないだろう。さて、警察に話すか、米軍に話すか思案の為所である。悩んでタバコを吸っていたら、バスタオルで髪を拭きながら裸の麻由子が浴室から出てきた。「ダーリン、何悩んでるん?」裸のまま私の前の椅子に座って、髪を拭いていた。私は研ちゃんの報告を話して聞かせた。麻由子は「ねぇダーリン、敦子が行方不明になったのは、お父さんや松本教授を誘拐するためだったんやないかなぁ」麻由子はそう言うと「もしそうなら、車の中での敦子の態度にも納得する。怯えてたし、私にごめんって言ったし・・」「そうだな、そうかも知れない。」「でも何でそんな秘密の事がしれたんやろ」麻由子は不思議そうに言うと、立ち上がり、洗面所にドライヤーをしに行った。私も麻由子と同じ考えだった。しかし、どうしてそんな機密が漏れたのか、後で聞く研ちゃんの報告で理解できたのである。

歯を磨きに洗面所に行くと、髪を乾かし終えた裸の麻由子と入り口ですれ違った。「まゆちゃん、下着つけたら」すれ違った裸の麻由子に言ったが「いや」、完全に無視であった。溜息をつくのと、歯を磨く作業と交互にする羽目になってしまった。私に麻由子はコントロール出来るのだろうか、そう考えると、溜息の割合が多くなっていた。何とか歯を磨き終えてベッドルームに戻ると、ドレッサーの前で麻由子が化粧水をパタパタとカット綿で叩いていた、裸で・・私はもう完全に麻由子を無視してベッドに入り、体制を整えて完璧に寝る姿勢になっていた。しかし、それさえも完全に無視をして、裸の麻由子が横に入ってきた。それもご丁寧に私のTシャツとパンツをあっさりと取り去り、裸にして後ろからピタッとくっ付き、おやすみダーリンと言って睡眠に入ってしまった。麻由子は、明日の朝は早いから、そのまま寝かす事にして、私も目を閉じ熟睡の世界へと入っていった。

あくる朝、背中に湯たんぽを背負って、熱い熱いと喚きながら走り回っている変な夢で目が覚めた。目を擦り、後ろを顔だけ窮屈に曲げて見ると、湯たんぽは、麻由子の豊かな乳房であった。時計を見ると、6時半であった。私は背中の湯たんぽを、そっと外してベッドを出た。窓側の椅子に座り、冷蔵庫から水を出して一気に飲んだ。目は覚めたが、湯たんぽが2つある感覚だけが、クローズアップされて、変な、いやむしろその感触を楽しんだ。少し元気になっていた。私は7時に麻由子を起こし、出かける準備をしなさいと麻由子の肩を揺すると、素早い反応で、蟻地獄に落ちた蟻の様に、瞬時に布団の中に引き摺り込まれてしまった。若さの瞬発力には抵抗は無意味であった。正面から私にしがみ付き

「後5分」と甘えた声で申された。麻由子の形の良い大きな乳房が私の胸を押さえつける。苦しいが苦しくない。とにかく、5分のカウントに入った。私の5分の経過宣言毎に、麻由子は、私の頬に自分のほっぺをスリスリして「無言のイヤ」の合図。3度目のスリスリで、私は大魔神に変身して麻由子を完全に眠りの世界から引き戻した。ブツブツ言いながら浴室に向かったが、目は開いているのかは定かではなかった。予定よりも30分遅れて、ロビーで待っているみんなの所に連れて行ったのである。ホテルのラウンジで、トーストとコーヒーの簡単な朝食を取り、昨晩の研ちゃんの報告をした。勿論、麻由子の推理も披露した。みんなは驚き、推理に感心していた。自慢げな麻由子は、一人だけホットケーキを頼み、蜂蜜をたっぷりと掛けて、遅れた事の反省もなしで、朝食を楽しんでおられる。予定より遅れて麻由子と亀ちゃんは、浜田市に向かって出発した。その後直ぐにトミーとビルが片句港に向かった。私と吉田は、昨日の研ちゃんの報告を、再度分析する事にした。

濃縮装置の小型化は、用意に運搬も可能であるし、濃縮期間も短縮可能である。吉田と分析しているうちに、仮に原発施設内に潜伏するとしても、そんなに大きな空間は必要ではないはずだ。しかし、精度を高めた部品を製作するには、北朝鮮にある機器では不可能である。きっと彼らは、完成間近の装置の存在を何らかの情報で知って、短時間で完成させ、本国に持ち帰る計画ではないかと推測した。吉田も私の推測に同意して、本国に戻る時期は何時だろうと考えていた。教授達が行方不明になってから、約2週間、長くても後2週間ぐらいかと、我々は結論づけた。

その根拠は、潜水艦乗組員の人数である。

もし拉致して監視下の中で製作させるには、最低でも5名から6名、麻由子を拉致した人数は最低でも5名(現在も捜索している可能性もある)、上陸して諜報を担当するのに2名から3名。艦内に残る最低限必要な人数は4名から5名。これだけの人数の生命を維持するには、艦の性能は一ヶ月がギリギリである。バッテリー、エンジン燃料も限界である。この艦の航続距離は沿岸用であるため限界を超えて潜入して来ている。そのため、帰還するための燃料を考えると、一ヶ月の消費が期限だと想定される。これはビルが、米軍から得た情報である。彼らが何時潜入したかは特定出来ないが、最短で1週間以内かとも考えられる。私と吉田は、後1週間と判断した。私は吉田を誘って、少し早めの昼食を取りに、ホテルの近くにあるいつもの食堂に、のんびりと歩いて出かけた。

昼食をゆっくり食べて、のんびりとホテルに戻ると、ロビーに村井と林田が待っていた。

村井と林田は昨晩の礼を言い、その後に行ったバーも感じ良かったと話してくれた。

我々は、村井達の車に同乗させてもらい原発へ向かった。車内で村井は、いろいろと質問をしてきた。特にジュラルミンケースの中身をしつこく聞いてきた。私は海洋調査も兼ねて来ているので、その測定装置であると答えたが、まるで信用していない様子であった。

私は村井を納得させるつもりもないので、話を適当に誤魔化してした。林田が口を挟み、どんな装置だとか、性能はどうだとか煩く聞いたが「機密です」と相手にしなかった。

そんな会話をしていたら、トンネルに入った。抜ければ原発である。会話は途切れ、トンネルを抜けるのをみんな待っていた。長いトンネルを抜けると急に明るくなった。

ゲートの守衛に、高木技師と約束があると伝えると、守衛室の奥から年配の守衛が出てきて、「島崎先生、暫くです」と愛想良く話し掛けて来た。「あぁ、どうもご無沙汰してます」「高木さんがお待ちですよ、正面入り口からお入りください」と言って若い守衛に連絡を取る様に指示を出していた。私は軽く手を上げて林田に車を出す様に言った。

車を駐車場に停めて玄関に行くと高木が我々を待っていた。「先生、お久しぶりです」

「今日は無理を言って申し訳ない。彼らに所内を案内して貰いたいんだ」「大丈夫ですよ、最近暇ですから」と笑って言った。

私は高木の腕を掴み、少し離れた。「実はあの二人は刑事なんだよ。昨日も所内を捜索に来たらしいんだけど、素人だから、良くわからなかったらしくて、偶然知り合いで、同じホテルに宿泊していて、同行を頼まれちゃってね」と事情を話し、所内で普段誰も近づかなくて秘密に作業できる施設はないかと尋ねた。高木は少し考えて、確か一番奥の建屋の地下に小さいけど、工具が揃っている部屋があると言った。私は高木に所長は?と聞くと今日は県庁で会議があり戻らないと言った。

私は少し安心した、どうも所長とは合わないと思っていたからだ。今の内である、村井に先に仕事をしてくるからと言って30分程待っていて欲しいと伝え、ロビーで待つように言った。村井は渋々了解したが、かなり疑っていた。吉田に相手をする様に指示し、高木とその建屋に向かった。私は歩きながら高木に真実を話した。「えっ、ほんとですか?」「所長からは何も聞いてませんよ」

「まぁ、技術部には直接関係はないけど、教授とは一緒に作業する関係だから、話してくれてもいいのになぁ」と疑問を抱いている様であったが、私は気にしない様にと言い、その部屋の事を詳しく聞いた。その部屋は、試作の部品などを製作する部屋で、この施設が出来てからも一度か二度程度しか使用していなくて、所員の中には存在さえ知らない者もたくさん居るそうである。「先生は、そこに教授がいると考えているんですね」高木の緊張した声のトーンが現実化しそうな気配を予感させた。その部屋には、トイレとシャワーそれに簡易ベッドがあるらしい。ますます怪しくなった。問題の棟に入り奥にある地下へ行くためのドアを回すと鍵がかかっていた。

「おかしいなぁ、部屋の鍵は施錠してあるのは理解できるけど、このドアは普段は開いているはずなんだが・・」高木は腰に着けているマスターキーを外してドアを開けた。階段が暗闇の地下に続いている。高木は壁のスイッチを入れて電気を点けた。私は高木に慎重にと小声で言い、静かに下に下りて行った。

部屋の前に来て高木がマスターキーで施錠を解除しようとしたので、慌てて止めた。

「高木さん、待って」高木はエッと言って手を引っ込めた。「中の間取りはどうなってます」ドアを開けたら予備室があって、中ドアを開けると作業室だと答えた。私は少し考えて、ゆっくり解錠する様に言って、開けたら後ろにさがってくださいと言った。解錠して高木は後ろに移動した。私はゆっくりとドアノブを回しドアを少しだけ開けた。金属を加工する音が微かに聞こえてきた。私はドアをゆっくりと閉めて、高木に施錠する様に指示し、階段を戻り外に出た。そのドアも施錠させ、我々はその棟を離れた。村井達が待つ本館との中間のところで、高木に「まずい」と言った。高木も状況を理解した様で頷いていた。私は迷った、当然監視している人間は居るであろうし、三人が揃っているとは思えない。私はビルに連絡した。ビルは深刻な状況を米軍に相談し、折り返し連絡すると言って電話を切った。この状況を村井に話しても良いものか思案していた。しかし、ここは日本のそれも原発内である。警察に話さないわけにはいかない。私は決心して正面ロビーに向かった。途中、高木にあの地下に続くドアを監視するカメラは無いのかと尋ねた。高木はあると答え、確認してくると言って、監視センターに向かったので、私は一度ホテルに戻るからと言って携帯に連絡する様に言って、これは極秘だからと念を押した。高木は了解と言ってOKのサインをして走って行った。村井達は雑談をしていたが、わたしの姿を見て近づいて来た。「用事は終わりましたか」言い終わる前に村井の腕を掴み外に出た。「村井さん、落ち着いて聞いてください」と言って、敦子の父親の件、敦子の件、そして麻由子の誘拐、同時に松本教授の行方不明を話し、二人の教授が開発した装置の詳しい内容を話し、その調査に米軍から提供された探査装置で潜水艦を発見したこと、そして今、この施設の中で何らかの作業が進行中である事を話し息をついた。村井はすべての話を聞き終わるとその場にしゃがみ込んでしまった。頭を抱え「とんでも無いことに・・」そう言って黙ってしまった。「村井さんこれを解決するには警察よりも自衛隊の出動が必要ですよ」と言って、村井の手を取り引き起こした。それで相談なんだがと言って村井に一度ホテルに戻り相談しませんかと持ち掛けた。村井は現実を理解するのが精一杯で生返事をして、私の後ろをついて来た。

ニコニコと笑って吉田と会話をしていた林田は、村井の異変に気づき飛んで来た。

「村さんどうしました」無言の村井の両肩を揺すって何度も尋ねた。村井は小さな声で「ホテルに戻る」と言って車に向かった。

わけのわからない林田は、上司の異常な状態にパニックになっていた。吉田は、やっぱりと言った顔を私にして「作戦会議ですか」と言って私の横に並び車に向かった。

ホテルに着くまで、村井は一言も話さなかった。林田も無言で運転に集中していた。吉田も窓の外を見つめながら、私に言わなくても察しはつくよと言った雰囲気で考えていた。

携帯が鳴ってポケットから取り出すと高木であった。「先生、おかしいんです、問題のカメラだけ作動してません」そう言って話を続けた。「それで、極秘ですから、職員にはそのままで良いと言って、予備の監視カメラがあるので、それを内緒で設置しました。回線は無線にして私の部屋に飛ぶ様に設定しておきましたよ。勿論録画してます」と言って、後でホテルに行くと言って電話を切った。

吉田は「行動派ですね」とニヤリと笑って満足そうに、また窓の景色を見ていた。ホテルに着く前にまた電話が鳴った。亀さんである。「あっ所長、今話しを聞いて、これから戻ります」と言って、詳しい事は帰ってから話しますと電話を切った。ホテルに着いて、村井に私の部屋で話しましょうとエレベーターに向かった。また電話である。ビルだ。

「所長、大騒ぎですよ」と笑っている。米軍は動く事は可能であるが、極秘での作戦になると言った。私は新しい動きがあると言って早く戻って欲しいと伝え電話を切った。

村井は、感心していた。「島崎さんのチームは、我々以上ですね」と少し皮肉とも取れる話し方をしたが、自分では全く対応出来ない悔しさも滲み出ていた。部屋に入りタバコに火をつけて、椅子に座った。吉田は、部屋にある椅子を全て持ってきて並べた。そして、吉田も座り、私は改めて今回の件を林田に聞かせた。全てを聞き終わり林田は村井の顔を見て「どうするんですかぁ」と絶叫に近い声で聞いた。村井は黙っている。そして、私はビルが米軍と作戦を立てている事を話した。当然自衛隊も動く。ただし、極秘である。

暫く沈黙があって、私の携帯が鳴った。研ちゃんである。研ちゃんの報告は少しショックであった。と言うより麻由子がショックを受けると思った。敦子のボーイフレンドに北朝鮮系の者がいて、かなり親しくしていたと報告した。研ちゃんは、話を纏めると、敦子が父親の研究を逐一話していた事がわかったのだ。たぶん情報の漏れた原因はそこだと思った。私は研ちゃんの働きを労い、明日宮古に帰る様に指示をした。電話の内容を聞いていた村井は「そう言う事かぁ」と唸った。

ドアをノックする音が聞こえて、ビルとトミーが戻って来た。台車にジュラルミンのケースを4個載せて部屋に入って来た。村井と林田はそれを見て、「米軍のじゃないですか」と林田が驚いている。私はビルに録画を見せてと言って準備をさせた。すでにデータはチップに転送済みであった。トミーが部屋からノートパソコンを持ってきてUSBを刺して再生をした。村井と林田は食い入るように再生された海底の黒い物体を見つめていた。

村井は見終わると「これだけでも証拠やぁ、我々も動けるでぇ」と言ったが、相手は重火器を装備した特殊部隊ですよと言って、おまけに最低でも3人の人質がいるんですよと言った。村井は唸り「じゃどうするんやぁ」と怒鳴った。私は、だから今みんなで相談してるんですよと諭す様に言って、吉田に何か案はないかと尋ねた。それと、村井に今はこの件については極秘で他言無用だと念を押した。人質がいては村井も応じるしかなかった。

ビルは電話してくるとベッドルームに行った。英語の早口な会話に村井達は内容を察する事は不可能であったが、私と吉田はニヤリと笑い全部は理解出来なかったが、内容は把握した。「明日の夕方に着くよぉ」ビルは電話を終えて応接室に戻ってきた。

そうなんやぁと答えて、詳しい内容を話す様に言った。ビルは、今夜遅くに沖縄を出発して岩国に行き、そこで部隊を編成して明日の夜に松江に到着すると言った。ビルの友人のジョージ・ハミル少佐は、今夜来るそうである。どうやって来るのかは聞かないでおいた。吉田がフロントに電話してコーヒーを注文した。村井は悩んでいたが意を決して本部長に電話を入れた。松本教授が見つかるかも知れないとだけ報告し、捜査にもう2、3日かかると了解を得て電話を切った。ビルはジョージの部屋を確保する電話をフロントにしている。私は後から来る連中の部屋は?と尋ねると野営だと当たり前の様に笑って言った。

トミーは「野営かぁ、やるなぁ」と腕組みをして唸っていた。コーヒーがワゴンに乗せて運ばれて来た。私は19時に個室で食事は出来ないかと尋ねた。人数は聞かれ部屋を見回し10名と答え、和食のリクエストをして予約をした。村井は会計を別にしてくれと言ったが、聞かなかった。

ドアが開いて亀さんと麻由子が帰ってきた。

「お帰り、ご苦労様」とみんなそれぞれ二人に声を掛けた。麻由子は「ただいまぁダーリン」とご機嫌であった。手には浜田市のお土産を持っていた。「赤てん」と言って、平天の赤いものらしい。敦子の実家は浜田市内の城山公園の裏手であったらしい。浜田港の近くで古い家だから直ぐにわかった、と麻由子は自慢して戯けて言った。亀さんは海の綺麗な町でしたよと、少し離れた海岸に景色の綺麗な国民宿舎もあるらしくて、時間があれば泊まってゆっくりしたかったし、海岸に行って見たかったんですけどね。と残念がっていた。でも往復6時間弱は疲れましたよと笑っていた。何でも途中一時間ほど麻由子が運転していたらしい。みんな驚いて感心していたが、亀さんが、眠気を覚ますのには最適でしたねと行った時に、全員が大笑いをした。村井も林田も少し笑った様であった。

麻由子は、頬を膨らませて拗ねていたが、その麻由子を隣のベッドルームに連れて行き、敦子の事を話した。麻由子は「えっ」と絶句して黙ってしまった。確かにその様な人物がいた様な気がすると言って下を向いてしまった。しょんぼりとした麻由子を一人残して、私はみんなの所に戻った。みんなは録画を再生したり、これまでの経過を話し合い事実確認をしていた。ビルはそれをスマートフォンに書き込んでいた。部屋の電話が鳴った。トミーが出る。高木であった、私は部屋に来る様に伝えてとトミーに言った。暫くすると高木がドアを叩いた。吉田が迎えに出て部屋に入って来た高木に、みんなを紹介した。高木は、明るいうちは行動しないと思うので、夜もう一度確認に戻ると言った。私はそれを制して暫く待って欲しいと頼んだ。高木は黙って了解した。たぶん私が何か計画があるのだと予測したようである。時計を見ると予約した19時前であった。高木に食事に行こうと誘い、みんなにそろそろ行きましょうかと促すと、部屋のドアをノックしている音がした、ビルがニヤッと笑ってドアを開けに行った。トミーが「そんなぁ早すぎやろぅ」と呆れていた。予想通り、ビルの後ろから部屋に入って来たのは、背の高いアメリカ人であった。大きな荷物を肩に担いでいる。ビルは彼を私に紹介した「私のボスの島崎博士だよ」私は握手に答えて、「遠い所を良く来てくれた」と簡単な英語で労った。吉田も亀さんもトミーも英語で挨拶をして、私は彼らが刑事だと紹介した。村井と林田は順番に挨拶を日本語でしたら、「私はジョージ・ハミル少佐です」と日本語で答えた。場が少し和んで笑いが起こった。すると、隣のベッドルームから覗いていた麻由子を見つけ、ビルに「彼女は?」と尋ねた。麻由子はジョージの前まで進んで流暢な英語で自己紹介をし、今回の事件の始まりは私なんですと、迷惑を掛けた事や協力してくれた事に感謝した。ジョージは驚いて、素敵な英語だと褒めた。すかさずビルが「ボスの恋人だ」と手の早いアメリカ人に先制パンチを浴びせた。ジョージはとても羨ましいと私に言って、今度事件が成功したら、是非友人を紹介して欲しいと真面目な顔で麻由子にお願いしていた。麻由子は「喜んで

」とジョージを有頂天にさせた。私は改めてみんなに食事に行こうと誘った。

部屋は10人用の部屋で、私の横に順番に村井、林田、吉田、亀本、向かいの席には、ジョージ、ビル、麻由子、トミー、高木が座った。料理が運ばれて来て、それぞれの前に並べられた。リクエスト通り和食である。

それぞれ、雑談をしていた。皆事件の事には触れなかった。仲居さんが料理を運んだり、飲み物を運んで来たりしていたのもあるが、雑談の中にも重苦しいものは感じていた。1時間程で食事も終わり、コーヒーを頼み、暫く打ち合わせをするので、遠慮して欲しいとお願いした。コーヒーが運ばれてきて、ドアが閉められ、瞬間無言の時間が過ぎた。

私が何か話さないといけないのだが、最初の言葉が見つからないでいた。その時、麻由子がジョージに「ねぇ、ジョージさん、ここまでどうやって来たの?」と屈託の無い笑顔で聞いた。ジョージは笑いながら、岩国までF15で、岩国から松江までジェットヘリできたんだと麻由子の質問に答えた。全員へぇ~と感嘆の声を上げた。1時間半で来たと付け加えると更に沈んでいた空気は一気に上昇した。さすがに良く気がつく娘だと感心した。ビルが職権乱用じゃないの?とジョージを鹹かったが、これは日米の重要な問題であると真面目な顔をして言った。私はジョージに潜水艦の録画を見せた。思った通りだ、1隻行方がわからなくなっていたんだ。と監視衛星の説明をした。約一ヶ月前から探索していたと情報を開示した。私と吉田は顔を見合わせ1週間以内、もっと早い時期かもと、私と吉田が想定した内容を話した。ジョージは頷きこの数日だねと私の話に同意した。村井は、「そんなぁ、何の準備もできんわ」とお手上げ状態だと天井を見た。林田がこんな複雑な事件は、準備が必要かかるし、上層部の判断は絶対出ないと断定した。ジョージは、準備は出来ていると言った。明日の夜にSEALsが潜入を完了すると言って、現地で自衛隊のSと合流すると付け加えた。

フル装備だそうである。表面上は、日米演習となっている。

作戦としては、人質救出が最大の条件であるが、戦闘を極力行わない様にする事も重要事項であると一致した。結論は無謀な侵略と犯罪を中止して撤退させることである。

装置の完成と奪取を諦めさせる事をどんな方法で実施するか、明日の昼までに決める事にした。

結論をジョージに伝え、ジョージが作戦を指揮する事で決定した。実際の作戦には民間人である我々は参加できないのだ。

高木は今夜から地下入り口の監視を続けると言って、みんなに挨拶して原発に帰って行った。我々も今夜は休んで明日に備える事にした。ビルは、今夜はジョージの部屋に泊まると言って一緒に部屋を出て行った。吉田はトミーに「寂しいなら私たちの部屋に来るかい」と笑って言った。トミーは大きく手を振って「一人で寝かせてください」と笑っていた。みんなそれぞれ部屋に戻り、私は村井に話があるとロビーのラウンジに誘った。麻由子に先に部屋に戻る様に言うと、村井も林田に先に部屋に戻れと伝えた。閉店しているラウンジに座ってタバコに火を点けていたら、ホテルマンが、コーヒーをサービスだと言って持って来てくれた。私にはアイスコーヒーであった。この数日で私の好みを把握するとはこのホテルの教育は素晴らしいものである。私は丁重に礼を言って一口飲んで、村井に「警察はどうします?」と尋ねた。村井は暫く考えてから、本部長だけには報告したいと言った。警察の上司だけでなく、松本教授の親友として事実を知らせておいた方が良いのではと私に許可を求めた。私は暫く考え、「どの様な人物ですか?」と尋ねた。「キャリア組の中では、誠実で愛国心の強い硬派であると答えた。私は情報のリークを恐れたが、村井が信頼するに足りる人物であると強く言うので許可をした。どおせ今この事実を知っても警察には何も出来ないと判断したからである。村井と報告する内容を確認し合意した内容のみ報告すると約束して、携帯電話を出し緊急連絡用に聞いていた京都府警本部長の携帯電話に連絡した。山口本部長は、深夜の携帯のコールに緊急を感じ、電話帳に登録していない相手に、落ち着いた声で出た。

「深夜遅くに申し訳ありません。一課の村井です」と村井は話し始めた。30分程の報告であった。山口本部長は、40年の親交のある親友の安否を心配しながら、宮川親娘の安全を確保する事を指示していた。それと、そんな短時間に国際問題を解決するための方針を出せるはずが今の政府には絶対出来ないと言明した。山口本部長は、村井に「今は警察の立場ではなく日本の国民として行動してくれ」と言って、私も日本国民として承諾すると村井を信頼すると言って、島崎さんの指示に従う様に要請した。次の変化が起こるまで極秘にしておくと言って、責任は私が取るからと力強い言葉で電話を切った。

「信頼できる人物ですね」「えぇ、歴代の本部長の中でも、ずば抜けてます」「この本部長が就任してから志気があがりましたから」

これで、報告していないのは政府関係者だけである。悩んだ、どうしたらいいか悩んだ。

今の政府には信頼は全くない。危機管理も全く機能していない。そんな連中に報告してもたぶん情報はたらい回しになるに違いない。

それにマスコミにリークする馬鹿な議員も必ず出てくる。明日の深夜から原発施設への立ち入りは禁止となる様に、米軍が島根県知事、中国電力に要請している。緊急対策演習のためと極秘扱いである。私は明日で終わる様に祈りましょうと言って部屋に戻る事にした。フロントに礼を言ってエレベーターに乗り目的の階に着くまで無言であった。ひとつ下の階で村井は降りた。「じゃ明日」と言って閉のボタンを押した。私は麻由子が新京極で「私松江に行く」と言ったシーンを思い出していた。そこから始まったんだ、そう思いそれが昔の様にも思えた。

部屋に戻ると、麻由子は椅子に座り窓から暗い宍道湖を見つめていた。部屋に入ると首を少し私の方に向けたが、また外を見ている。

私は麻由子の側に行き、肩に手を置いて「心配ないよ」と言うのが精一杯であった。

麻由子は無言で頷き、泣いていた。

私は何も言わず麻由子の側に居ることしか出来なかった。

(つづく)

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