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私の日常にあいつが割り込みかけている

ちょうどその次の日だった。

私が佐藤に会ったのは。


私は学校帰りに地下鉄駅に向かっていた。

ラーメン屋を通り過ぎもう少しで地下鉄駅。

そうすると目の前に髪の毛を鮮やかに染めた集団がたむろしていた。なんか嫌な感じ。避けて通ろう。


私は佐藤に気がつかなかった。そのまま通り過ぎた。

その時、


「おい、桜井、桜井だよな。」


不良グループの中から声がした。私は声のする、不良グループの方に目をやった。

誰かがこっちへ来る。それは佐藤ようだった。

タエコが言ったとおり、佐藤ようはすっかり変わっていた。

髪の毛は茶色で耳にはピアスが光っていた。明るく染められた髪の毛は幼さを残す佐藤ようにはまだきちんと馴染んでいなかった。


でも私は不思議と嫌な印象は受けなかった。

佐藤の明るい髪の毛、その無意味で稚拙な自己主張を私はなぜだか気に言った。

クラスメイト達の型にはめられた真面目な黒髪よりも。


私は佐藤とほとんど話したことが無かった。それでも佐藤は私を見つけてくれた。

少しだけはにかみながら、少しだけバツが悪そうに佐藤が言う。


「俺、今仕事してるんだ。今度仕事で横浜に行くんだよ。クラスのみんな、元気か。」


「たぶん元気だと思うよ。」

私は素っ気なく答える。少し緊張する。余計なことは言わないことにした。


「そうなんだ。桜井、全然変わってないね。」

佐藤ようは少し顔を赤らめた様に見えた。


私は褒められてるのか、けなされてるのか分らなかった。


「ありがとう。」

小声で一応言っておいた。


「じゃあ、俺、行くから。じゃあね。」


「うん、バイバイ。」


佐藤ようは仲間たちと一緒に行ってしまった。

佐藤と同じように茶髪にピアスの仲間たち。

でも、学校の連中よりもよっぽど正直な人たちに見えた。




平凡な日が続いている。今日も学校。明日も学校。明後日も。

いつもと少し違っているのは学校祭の準備が始まったこと位だ。でもまだ本格的に始まった訳ではないから、だいたいがいつもと同じ。

相変わらず学校では一人で格闘していた。敵たちと。頭の中でだけれども。


今日も授業を終え、帰路に着く。朝通ってきた道を戻る。

スープカレー屋のウィンドウに自分の顔が映る。学校にいた時まで引き締めていた顔を少しだけ緩める。相変わらず口角は下がったままだ。

これは人が寄ってこない訳だ。原因はきちんと分かっている。改善する気はないけれど。改善する理由がないんだもの。


しばらく歩くと帰り道を歩く私の前にまるで数日前と同じように自転車に乗った集団が現れた。

みんな揃いもそろって鮮やかな髪の毛の色だ。

ガラが悪そうだったから私はその集団から目を逸らした。目が合わない様に下を向いて通り過ぎようとする。

その時だった。



「おい、おい」


集団の中から声がした。ああ、なんか嫌だな。早く行ってしまおう。地下鉄駅まで走ろう。

私は走り出した。


「おい、桜井。桜井」


えっ。集団の中の声は私を呼んでいた。誰だろう。


「おい、桜井。走んないでよ」


集団の方に顔を向ける。そこに居たのは佐藤ようだった。相変わらず金髪に近い茶髪で耳にはピアスが光っている。


「なんか用」


ぶっきら棒にぼそぼそと私は言った。今日初めてしゃべったから声の調子がおかしかった。

そして集団の他の人達の視線を感じてなんだか嫌だった。


「別に。ただお前が歩いていたから」


ようは周りに居る友人達に先に行ってろ、と手で合図を送る。

鮮やかな髪色のガラの悪そうな集団が去っていった。

ようだけが残った。


「そうなの。別に話す事がないじゃん」

私は半分わざとに半分本気で素っ気なく返した。


「そうだね」


ようは素っ気ない私の返事に一瞬だけ悲しそうにひるんだように見えた。


「学校、楽しい。みんな元気」


ようが尋ねる。


「別に普通かな。みんな元気だと思うよ」


「そうなんだ。もうすぐ学校祭だね」


「うん。」


学校祭か。学校祭で何かがあってようは学校を辞めちゃったんだっけ。

ようは今でこそこんな感じだけれども、学校に通っていた時は学校行事に積極的に参加する人だった。誰よりも一生懸命に。

私はクラスの揉め事のついてはよく分からない。いつも深入りせずに遠くから見ていたから。

でもようは誰よりも一生懸命にクラスのダンスを完成させようとしていたな。

純真な目を輝かせて。

そんな印象の人。


もしかしたら一番いい奴から消えていくクラスなのかも。

恐ろしい。



「今年の学祭、何をするの?」


「今年もまたダンスだよ。」


「またダンスなんだあ。俺が居た時もダンスだったよね。もう大分前の事だけど。覚えてる?」


「うん、覚えてるよ。それで学校辞めちゃったんでしょ」


私は言ってしまった後に少し後悔した。触れちゃいけない所だったかもしれない。

少し顔をうつむける。


「うん、そうだよ」

ようの笑顔の中に気づくか気づかないかだけの少しの戸惑いが混ざっていた。ようは思ったよりも明るく答えた。わざと明るく答えたのかもしれないが。


「なんかごめんね。今はお仕事頑張ってるんだ。いいじゃん。頑張ってね」


「うん、頑張るよ。ありがとう。学校のみんな元気?」


「佐藤君、なんかそればっかり聞くね。大丈夫、みんな元気だと思うよ」

さっきよりも少し積極的な返事をしてみる。


「そうか。ねえ桜井さん、よかったら連絡先教えて。」

ポケットからスマートフォンをごそごそ取り出しながらようが言う。すこしはにかんで照れ隠しをしている。


「いいよ」

内心ドキドキしながら素っ気なく答える。

このスマートフォンに異性を登録するのは初めてだ。


「ありがとう。たまに連絡してもいい?」

まだはにかみながらようが言う。


「うん、わかったよ」

素っ気なく返す。


「そうしたら俺行くから。じゃあね!」

ようは先を行く仲間たちに追いつこうと走っていった。

ようと話したのはまるで一瞬の出来事だった。

ようの肩を揺らして走る後姿だけが見える。

数秒して一本道の大分先に居た仲間たちにようは追いついた。



一人スマートフォンの画面を眺める。

画面を少しこすってみたりする。


ようはもう仲間たちに馴染んでいた。まるでつい先ほどまで話していた桜井の存在など無いかのように。


桜井は妙に物悲しくなった。

一人ぽつりと残されてしまった気がした。

すぐ横を人が通ってゆくのだけれど。



さて、そろそろ帰らないと。



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