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「……上杉」


 佐藤君は乱入してきた和哉を睨みつけてくる。

 メチャクチャ恨まれてますよ。


 『気にするな』


 姉ちゃんは気にしなくても、ボクはすっごく気になります。


 和哉(姉)はめぐみを抱き寄せ、佐藤君をせせ笑う。


「めぐみはワタシの女だ。貴様のような下郎には近づく事さえもったいない」


 その言い方は変だろ。その台詞は時代劇ドラマに影響されているだろ。


「お姉ちゃん。カズ君の身体でなにやってるですか。さっきから二人で内緒話をしてます。……めぐみは仲間はずれですか」


「さすが、めぐみ。良くワタシだと判ったな。だが、大丈夫。お姉ちゃんに任せておきなさい。告白の場面で妙な踊りを踊るようなヘンタイはお姉ちゃんが追っ払ってやる」


 和哉(姉)はめぐみに耳打ちする。


 その妙な踊りをさせたのはアナタです。


「ワタシとめぐみは両親も認める仲だぞ」


「長尾さん。上杉の言っていることは本当なのか…?」


 めぐみは和哉(姉)に促されとりあえずうなずく。

 すかさず、和哉(姉)はめぐみをさらに抱きしめる。


「うおおおぉぉ~~~」


 佐藤君は走り去る。


 ……彼、泣いていたぞ。

 どう考えてもやりすぎだ。


「おい、姉ちゃん」


 あっ、声が出る。


 すかさず文句を言おうとするが、反応がない。姿も見えない。


「あれ? どこ行った?」


「お姉ちゃんならどっか行っちゃったです。カズ君、ちょっと苦しいです」


 抱きしめたままだった。


「ごめん」


 慌ててめぐみから離れる。 まさか逃げたのか……


 どう収拾つける心算だ。 野次馬の視線が突き刺さる。


──呆然と立ち尽くす。このまま消えることができたらどんなに良いだろう……


「もうっ、ラブラブパワー全開? やっぱり二人は相思相愛だったのね。うんうん、わたしたちには分かっていたわ」


 佐藤君が戻ってこないのを確認し、美佳子が寄ってくる。

 その他の野次馬もぞろぞろ出てくる。


  姉の呪縛から解放され落ち込んでいる和哉をクラスの男子が取り囲む。


「みんな、上杉の熱い想いを認めてやろうじゃないか!」



「今朝のことがあるから、鉄の制裁は勘弁してやる」

「しかし、長尾さんを泣かしてみろ。地獄を見せてやるからな」


 男子は次々と激励(?)してくる。


「どう? よく撮れているでしょ」と、クラスの女子はスマホの画面を見せてくる。

 さっきの恥ずかしい場面がしっかりと映っている。

 しかも動画、ムービーだ。


 血の気が引く。それをどうする気だ。


 ちょっと、何故メールを送ろうとしていますか。


…まさか、それを送る気ですか。


「今すぐ消去してくれ~」


 恥ずかしすぎる。今すぐ逃げ出したい。


「安心して。ベストショットはちゃんと編集して上映するから」


 クラスメートが指した方向を見る。


 何故、山崎君はビデオカメラを持っているのですか。

 …理解不能です。


「みんな、楽しそうです。ですけど、斉藤さんは何故いきなり走って行ってしまったですか」


 めぐみはやっぱり良く分かっていないようだった。

 あと、彼は佐藤君だからね。


──こうして、なし崩し的に和哉とめぐみはクラス一同公認のカップルになった…






──日曜日、恭子の言っていた挨拶はホントに実施された。


 上杉家、長尾家合同で食事会をするだけの予定だったのだけど…… 何故、うちの母親はこの間の恥ずかしい場面のデータを持っているのでしょうか。


  誰からもらったんだ?

 ヤメテ!

 おじさんに見せないで。お願いだから、お母さま…


  外堀どころか二ノ丸、三ノ丸を越えて既に内堀の総てが埋まっていると思うのは気のせいだろうか。

 もう既に自分の人生が決まってしまったような気がする和哉だった。


 姉は和哉たちをうらやむように、見守るように漂う。そして満足げな微笑みを見せた。



これで一応、完結。

元々、A4用紙で10枚くらいの短編でした。


まだ続きそうですが、これ以降は文章にしていません。

文章にせずとも、自分が満足出来れば良かったので、続きは頭の中の妄想だけです。


万一、読みたい人がいれば、書くかもしれません。

ネタはあるので。

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