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前の話で、上杉君があっさり好きとか、言っちゃってますけどこんなキャラだっけ?

「ふむ。めぐみのことが心配でいても立ってもいられずにきたようだな」


 しかも訳知り顔で一人納得しているし。


「何でここにいるんだ? 機嫌は直ったのか」


「これだけ人がいればあの男の子も妙なことはできないだろう。ワタシの見たところあの男の子は駄目だ。めぐみの相手には役不足だな」


 見た目十歳の幼女が男子高校生に向かって男の子呼ばわりか。


「でも、ぱっと見そんなに悪そうな奴じゃないんじゃないか」


「何独り言云っているの? 佐藤君が喋り始めたわ」


 姉と会話している和哉の肩を美佳子がつついた。


 姉の声は他人には聞こえない。傍から見ると和哉が一人で喋っているようにしか見えない。



 佐藤君の言葉にめぐみはきょとんとしているみたいだ。


「愛を語っているようだな。しかし、あの子は星座オタクか。めぐみに宇宙の神秘について語っているぞ。恋愛を星の成り立ちに例えているようだが、そんな回りくどい例えではめぐみが分からないだろうに。…意味を理解できずに首をかしげているぞ」


「内容が聞こえるのか?」


「もちろんだ。ワタシはお前らの姉だぞ」


 いや、姉なのは関係ないだろ。むしろ幽霊だってのが関係しているんじゃないのか。


「『俺の一番星になってくれ』と言っている様だ。頭がおかしいんじゃないか」

「『俺の一番星になってくれ』って言っているわよ。キモイ」


 同時に美佳子が報告する。


 何でこいつは会話が聞こえるんだ。和哉のところまでは声は届いていない。


「先回り隠れていた山崎君が盗聴しているの」と、美佳子はクラスメートの名を上げる。

 よく見ると和哉以外の野次馬たちは耳にイヤホンを装着済みだ。


 いったいこのクラスの人たちは何を考えているのだろう。


「好きだ。付き合ってください!」と佐藤君が叫び、同時にめぐみの手を握る。


「めぐみの手を握った~」


 美佳子はいちいち実況中継している。


 が、美佳子の言葉が終わらないうちに姉が猛然と佐藤君へ文字通り飛んで行き、ドロップキックを喰らわす。


「めぐみに何をする! この痴れ者!」


  佐藤君はいきなりの衝撃に姉のほうを見るが、姿は見えない。野次馬には佐藤君がいきなりよろけたように見えるはずだ。


 二、三度きょろきょろしたが、佐藤君は気を取り直して再度手を握ろうとする。それを今度は踵落しで阻止する。


「あの人はいったい何をやっているの……?」


 美佳子の疑問はもっともだ。姉の姿が見えない限り、彼は妙な踊りを披露しているヘンタイだ。

 佐藤君はめげずに手を握る動作を繰り返す。その度に姉に蹴りを喰らう。まるでコントだ。


 めぐみはそれに気づかず姉に手を振る。


 ──のんきだ。


 姉は業を煮やし、めぐみに何やら指示する。


「めぐみには好きな人がいると言えって言ってるです」


「だ、誰なんだ。それは」


 その言い方じゃ、言わされているってバレバレだろ。佐藤君は興奮して気づいていないみたいだけど。


 めぐみは姉のほうを見て、

「え~と。カズ君らしいです」


 『らしいです』って何だ。『らしいです』って。せめて自分の意志で言ってくれ。


「きゃ~、和哉君のとこ好きだって。やったわね」


 美佳子は和哉の首根っこを揺さぶり盛り上がる。野次馬の視線も一斉に和哉へ集中する。


 いや、明らかに言わされてるっぽいだろ。姉の姿が見えなくてもそれくらい気づけ。


 その間も佐藤君はあきらめない。


「カズ君って、上杉のことか。でも、二人は付き合っていないんだろ。俺のほうが君を愛している」


 これでは埒があかないと悟ったのか、姉が怒鳴る。


「カズ坊! こっちに来なさい」


「嫌だ。何をさせるつもりだ」


 めぐみは身を乗り出していた和哉に気づく。


「カズ君、何やってるです?」


「めぐみの肩を抱いて『めぐみは俺の女だ』って言いなさい」


「そんな恥ずかしいこと言えるか!」


「お姉ちゃんの言うことが聞けないの!」


「絶対にイヤダ!」



「ーーなら、非常手段ね」


 言うなり、姉の姿が消える。──と同時に和哉の足が勝手に動く。


「な、なっ……」


 喋ろうとするが言葉が出てこない。


『まったくしょうがない。奥手な愚弟のためにワタシがカズ坊の胸の内を代弁してやろう』姉の声が頭に響く。


 余計なお世話だ~~。


 しかし、どんなに力を入れようが、和哉の意志では全く動かない。

 和哉(姉)はめぐみを視線から庇うように佐藤君に立ちはだかる。


 どうしろっていうんだ!


クラスメートって、こんな奴らばっかりで良いのか。


・・・良いんだ! 気にするな!

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