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昔書いた小説の投稿です。
データをコピペしてUPするだけなのに、まだスマホでの操作に慣れていません。
本当にこれで良いのか?
上杉和哉は息苦しさに目を覚ました。目の前は水色の布で覆われている。しかも、顔には気持ちの良い感触。
はて? 何だろう。 寝ぼけてうまく回らない頭で考える。とりあえず、この気持ち良さの正体を探ろうと顔を密着させる。
すると、「うぅ~ん」という何処かで聞いたことのある声が頭の上のほうから聞こえ、背中に回された手に力が込められる。
もしかして…抱きしめられている…? もしかしてこの感触は胸…?
「………」
驚きで声も出ない。
「やばい、やばすぎる」
慌てて身体をひねり、抜け出る。脱出した拍子に背中からベッドの下へ落下する。
「痛~~」
あっ、声が出た……じゃなくて。冷静に考えろ。 眠気は一気に吹っ飛んだ。しかし、現在の状況が把握できない。
──よく思い出すんだ。起きぬけの脳をフル回転させる。 昨日は夕飯を食べた後、十一時頃までテレビを見て、眠くなったので一人で寝たはずだ。
そこまでは良い。──間違いないはずだ。
だが、何故、ホワイ、起きたら一人じゃないんだ? ベッドの上には和哉の良く知る女の子が眠っている。水色の布とはパジャマの生地だった。
長尾めぐみ。隣に住んでいる幼馴染の女の子だ。和哉と同じ一六歳。ちょっとボケボケしているけれど、かわいい、そして和哉が好きな女の子だ。
だが、ベッドに連れ込むような関係ではなかったはずだ。
「カズちゃん。下まで音がしたけど、どうかした」
ノックもせず、入ってきたのは和哉の母親、上杉恭子だ。
「イエイエ、マッタクナンデモナイデスヨ。オカアサマ」
思わずカタコトになってしまう。
「変なカズちゃんねぇ。お母様なんて呼んだことないじゃない」
混乱して脳内が妙な言語変換をしたようだ。 変で良いから早く出て行ってください。
さりげなく布団を掛け直し、立ち上がるが、恭子の目はベッドの上へ。
嫌な汗が頬をつたう。
「お母さま。…いや、母さん。これは色々と誤解するかもしれませんが何もありません。多少胸の感触が気持ちよかったような気がしますが、全くの誤解です」
まだ混乱しているらしく、余計な感想を交える。しかも普段母親に使ったことのない丁寧語が出てくる。
和哉は自分では気づいていないが、テンパると、敬語になってしまうようだ。
「誤解ねぇ~」
確かに自分も第三者だったら絶対納得しない。でも、何も記憶にない。何かあったのならさすがに覚えている…と思う。何もなかったはず…だよな。
一瞬ちょっと弱気になってしまったが何もないはずだ。パジャマが乱れている様子もないし。
恭子の目は全く信用していないらしく、視線はベッドの上から和哉の下半身に移る。そこは思春期の男の子が朝元気になるであろうモノがでっかく自己主張している。
──説得力ゼロ。 恭子の視線が痛い。
「………」
ああ、無言で出て行かないで。
だが、この下半身が収まるまで追うこともできない。逆効果なだけだろう。
「終わった」
和哉はがっくりと膝をついた。家庭内信用度は地に落ちた。 そんなことはお構いなしにめぐみはまだ夢の中のようだ。
「お~い、起きろ」
ほっぺたをつつく。ぷにぷにした感触がまた…、じゃなくて。
「………」
今出て行った恭子ではない、別の視線を感じて頭上を見ると、半透明の小さな女の子が宙に浮いている。
「なんだ、お目覚めのちゅーしないのか? ワタシに遠慮することないぞ」
少女は腕を組み、面白がるようにとんでもないことを勧める。
「…もしかしなくても、やっぱり姉ちゃんの仕業か」
ため息が漏れる。
この空中に浮いている少女は七年前に死んだ和哉の姉の幽霊だ。
当時十歳だった姉は交通事故で亡くなってしまった。 勉強・スポーツ何でもこなし、出来ない事は無いってくらいのスーパー姉ちゃんだった。和哉とめぐみはすごく尊敬していて、学校が終わるといつも姉の後ろをついてまわっていた。
だから、姉が亡くなってしまったとき、二人ともすごく落ち込んで食事も取らない有様だった。
姉の幽霊が現れたのは彼女の身体が火葬場で焼かれ、骨だけになってしまった日の晩だった。和哉はそれまでずっと泣き通しで、もう泣くために生きているような状態だった。そのため、姉の姿は自分の願望が見せた幻覚だと思った。
姉の幽霊は両親には見えず、和哉だけに見えていた。当時、生意気だった和哉は幽霊の存在なんか信じず、精神病だと信じた。
──そのせいで、元々うまく行っていなかった両親の仲がさらに悪くなりとうとう離婚してしまった。そのため、現在は母子家庭だ。
いくつかの病院を回ったが、姉の幻覚はずっと呼び掛けてきていた。 …姉は本当に死んだのか、…本当は自分が狂っただけで世界は元の通りなのじゃないか。
現実と妄想の境はどこなのだろう、と考えるようになった。
そんな和哉の状態を聞きつけためぐみは心配して様子を見にやってきた。めぐみ自身も顔色が悪く、まだショックから抜け出せていないようだった。
めぐみはそこで、姉の幻覚と対面する。
「あっ、お姉ちゃんの幽霊だ」
めぐみは姉を見つけ、ためらいもせずに抱きついた。
理由は知らないけれど、姉の姿は和哉とめぐみにだけ見えていた。めぐみは半透明の宙に浮いている姉をすんなり受け入れ、毎日会いにくるようになった。
めぐみの顔色はすぐに良くなり笑顔を見せるようになった。それに比例して和哉も元気を取り戻していった。
一週間もすると、姉と嬉しそうにお喋りしているめぐみの姿を見ると幽霊みたいな存在も有りかもしれないと思うようになった。姉が見えることを母親や医者に話さなくなり、病院通いもいつの間にか終わった。
それ以来ずっと成長することもなく、十歳の時の姿のままで姉の幽霊は二人に憑いている。
「人聞きの悪い事言うな。めぐみが久しぶりにカズ坊と寝たいとお願いしてきたからちょっと手伝っただけだ」
「ボクがめぐみを襲ったらどうするつもりだよ。これでも男なんだから」
「ふむ、本棚の裏に隠してある雑誌の嗜好を見る限り男のようだが…」
「何でそんなことまで知っているんだよ!」
「ふっふっふっ。このお姉ちゃんに隠し事など考えないことだ。そろそろ男性の生態を教えなくてはならないと思っていたからめぐみのお願いは渡りに船だった。無論、めぐみを無理矢理襲うというのであれば死を覚悟してもらわなければならないが…」
「だったらベッドに潜り込ませるなよ。もうちょっと別のやり方があるだろう」
和哉はため息をついた。
「あ、お姉ちゃんおはようです」
二人のやり取りの声で起きためぐみは驚く様子もなく少女に挨拶した。
「ああ、めぐみおはよう」
「って、めぐみ起きたのかよ。しかも普通に挨拶しているし」
「カズ君もおはようです」
この姉には何を言っても無駄だ。さっそくめぐみへ矛先を変える。
「小さな子供じゃないんだから、めぐみは年頃の男と一緒に寝るなんて嫌だよな?」
「カズ君。朝の挨拶はちゃんとしなくちゃいけないです。もう一度、おはようです」
めぐみは和哉と違って、異性とベッドを共にしてもいつもの通りだった。
「おはよう。──じゃなくて、男と一緒に寝るなんて嫌だろ」
めぐみは指をあごに当て、少し考える。そして出た結論は
「カズ君以外だったら嫌かなぁ~」
「そう言ってもらえるのは嬉しいけど、…色々と問題あるだろ。ほら、ボクに襲われる心配とか」
「カズ君いじめるですか?」
「いや、いじめないけど…」
そういう意味じゃない。そのくらい分かるだろ。
「それならよかったです。めぐみはカズ君と久しぶりに一緒に寝られて嬉しかったですよ」
……分かっていなかった。男女で一緒のベッドに寝るという重大な行為を気にすることなく、めぐみはにこりと笑う。
「ああ、何でこんなに無垢に育ってしまったのだ。保健体育の授業とかでも習うだろ」
「その手の情報はワタシが代わりに聞いておたから問題ない」
「姉ちゃんの所為かよ!」
「さすがに高校生でそれはまずかろうとワタシも最近になって気づいた。だから、そろそろ実施で教えようかと…」
「黙れ、腐れエロ姉ちゃん。余計なお世話だ」
「誰が『腐れエロ姉ちゃん』だ! カズ坊だってこのみの胸に顔を…」
「わ~、わ~、聞こえない。聞こえない」
「二人とも今日も仲良しさんだね」
めぐみは姉弟の怒鳴り合いを見てぽややんと微笑む。
めぐみは少し(かなりか?)天然だった。
こんな感じのコメディを目指します。




