第7話 殿とメール
殿ルート④
※遠野視点
要注意
[二十二日目]
愛しい彼女のアドレスを手に入れた。どうやってか?もちろん、手早く教室でだよ。
……さっそくメールを送ろう。
「今、何してるの?」
返事がない。更に送る。
「ああ、君の傍にいたいなあ、今すぐ君の傍に行きたい」
……やはり返事はない。
「……何で返事をくれないの。許さない許さない許さない許さない許さない……………………………」
………返事が来た。
放課後、彼女に呼び出された。彼女も、僕のことが気になってるんだ。嬉しいな。あぁ、どうしたんだろう。彼女のきれいな顔が引きつっている。それでも他のブタ共とは雲泥の差がある美しさだけれど。
「……私が言いたいことはわかるかな?」
……なんだろう?愛の告白?いや、まだ早いよね。じゃあ、彼女の使いかけの消しゴムを僕の新品と交換したことかな。それとも、たまに彼女のことを隠し撮りしていることだろうか。もしや、この間渡した体操服が、実はほぼ新品の僕のものと交換したのがバレた!?そんな、ゼッケンまで付け替えたのに!……などと頭のなかでは色々と、どう言い訳しようかと考えていたが、この件ではなかったらしい。
「……どうして、あなたは私のアドレスを知っているのかしら?」
カバンから拝借したから、とはさすがに言えない。
「……さあ?」
ゴッ!!
なんでかな、と続けようとした言葉は、彼女の拳骨によって遮られた。
……痛い。
彼女が、僕を殴った……。
彼女が……?
嘘だろう。
顔を上げて、彼女を見た。夕日を背にした彼女は、神話の戦女神のようで麗しかった。
「授業中に三通もメール寄越すな!!!」
……彼女の席は、僕の斜め後ろ。
じゃあ、君は僕を見ていてくれたの?何だやっぱり君も僕が好きなんじゃないか。ああ、嬉しいな。
「メールは一日一通しか送ってこないで。そうしたら返信してあげる。でも、それ以上送ってきたら、返信しないわ」
「……え」
なんだか、とても魅力的な提案が聞こえる。
彼女は何を言っているのだろう。
きれいな顔が近付いて、僕の眼鏡のレンズの向こうで微笑んでいる。
「ねえ、するの?それとも、やめるの?」
「……やります」
……これは、夢?それとも僕の願望が作り出した幻だろうか。
[二十四日目]
昨日のメール「今何してるの?」と聞いたら、十時間後に「寝てた」と返ってきた。
……もう朝だよ。僕はいつメールがくるかずっと待ってた。
「昨日はメールがこなかったから徹夜した」と送ったら「メンゴ」と一言返ってきた。
……今日のメール終了。
……そうか、これはわざとだ!敢えて返信を遅らせたり、短い返信をすることによって僕を焦らしているんだ!!
[二十五日目]
……彼女が返信をくれない。死にたい。
そうだ、死ねばいいんだ。彼女を殺して僕も一緒に死のう。そうしたら、もうこんな気持ちになることはないに違いない。
「一緒に死のう」
……もっと早くこうすればよかった。
早く僕のものになって。早く……この手で君を抱き締めたい。
君の息が絶える瞬間は、きっと僕の至福の時となる。
コメディに脱線しそうになりました