第6話 殿と経過
殿ルート③
※主人公視点
[三週間目]
「じゃあね、送ってくれてありがとう」
「ああ、気を付けてな」
心配そうに私を見送る爽やかイケメン。体格も良いので、夜道ではとても頼りになる。
私は、最近『兄貴』と一緒に帰っている。『殿』ルートでは『兄貴』の存在が重要だ。彼の存在が嫉妬を煽る原因になる。といっても、決められているルートとイベントなので、自由度は少ない。
プレイヤーの自由になるのはここからだ。
「あ、忘れ物しちゃった。体操服、明日も使うのに……」
」
明日も使うなら、置いたままでもいいじゃないか、と冷静に突っ込むのは心の声だ。ゲームキャラって規制が多すぎるよ。
「それならここにあるよ」
背後から声がかかった。うん、知ってるよ、イベントだからね。
振り向くと、『殿』が立っていた。
「……どうして、私の忘れ物を持ってるの?」
「君の机にあったから」
「どうして」
「どうしてって、君が聞くの?」
「……私に、何の用?」
「忘れた体操服を届けに来たんだよ」
……なんと答えようか。
「きつく言う」
「やさしく言う」
「無視する」
の三つがあるが、「無視する」を選ぶと五分の三の確率で即死する。確率、高過ぎる。面倒だが説得するしかない。
「なんで、すぐに声掛けてくれなかったの?わざわざうちまで届けてくれなくてもよかったのに」
……「やさしい言葉」か?これは。結構キツいと思う。が、『殿』はそう感じなかったようだ。
「やっぱり、君しかいない」
髪の毛と眼鏡と夕闇とで、彼の表情は見えないが、どうやら喜んでいるようだ。
「わざわざありがとう、じゃあね」
自分でも冷たいと思うが、さっさと体操服を受け取って家に入ってしまう。
「またあした」
扉の向こうで『殿』が笑った気がした。
……そう、明日から『フラグ折り』が始まるのだ。
最初の三週間はノベルゲーム形式で進んでいき、ほとんど選択肢はない。
だが、残りの一週間は基本選択肢2パターンに追加して、『女の武器』コマンドが増える。どこで使うかは自分次第だ。……できれば使いたくはないのだが、使わなくては生き残れない。
落とすからには、ハッピーエンドで終わりたい。……例えそれが、乙女ゲームに於いての『禁じ手』であるとしても。
女の武器
①泣き落とし
②色仕掛け
③調教