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言葉の力  作者:
1/1

始まり


4月


静かな夜。大抵の人は眠りにつき、一日の疲れを癒す午前0時。


そんな夜を一人の男が駆ける。


四月とはいえ、まだ寒さが残る夜を男は一人、汗を撒き散らしながら駆ける。


男が熱心なマラソン好きか、といえば決してそうではなさそうだ。


何故なら、男の走り方はバラバラ足をもつれさせながら走っていて更に先程から後ろを何度も見ながら走っている。


まるで何かに追われているかのように。


「ハァ…ハァ…ハァ………。」


男は肩で息をしながら走り続ける。


道を左に曲がる。さらに右へ左へと道を変えながら走る、走る、走る。


そして偶然見つけた廃工場へ入り込む。錆びて思うように動かない扉を開けて近くにあった鉄パイプで閂をする。


「ハァ…ハァ…ハァ…。」


男は息を整えながらこれからすべきコトを考える。


即ち、逃げる為の算段を。


男の名前は 【吉田誠】

職業は強いて言うなら 【指名手配犯】

3月13日、近所の小林一家を殺害後小林家の通帳、印鑑、金品を強奪し、現在逃亡中。


「吉田さん。」


ふと、自分を呼ぶ声がしたが廃工場の中には自分以外に人はいなかった。空耳かと思い、また思考を始める。


「吉田さん。 吉田誠さん。」


今度ははっきり聞こえた。がやはり姿がない。


「誰だ。どこにいる。」


吉田は声を上げて言う。


「僕はここです。」


声はすぐ後ろから聞こえてきた。あわてて後ろを向くとそこには


廃工場の壊れた屋根から月灯りを背にした黒子が一つ。


吉田は眼を凝らして黒子を見るとそれは


全身を黒一色の長いコートで身を包みフードを被った人だった。


「誰だ。お前は。」


「失礼。年上には礼儀を払わないといけませんね。」


黒子はフードに手をかけると頭から外した。フードの下からは男とも女ともとれそうな中性的な高校生くらいの少年の顔が現れた。


「僕は【ことは】といいます。訳あって貴方を探していました。」


「俺をだと?」


「はい。貴方は3月13日に小林一家を殺害後、現在4月15日まで逃走を続けました。」


吉田は自分の背に汗が流れるのを感じた。走ったときの汗とは違い、冷たい汗。


「お前、何でそれを。まさか警察関係者か。」


「いいえ。僕は只の学生ですよ。少し特殊な。」


「そうか、じゃあな。ボウズ。早く帰って寝な。」


吉田はそう言うと少年に背を向けて扉に向かい歩き始めた。


冷静を保ってはいるが何故か少年を見てから嫌な予感がし冷や汗が止まらない。


まるで、死神に見つめられたようだった。


少年は吉田を見送った。しかし、吉田は廃工場から出ることが出来なかった。閂にしていた鉄パイプが何故か一つの輪に変形し、扉を固定してしまっていたからだ。


吉田は何度か扉を開けようと試みたが一向に輪が外れる気配が無かった。


「クスクス。」


笑い声がした。


吉田が少年の方を向くと何事も無かったように少年は吉田を見ていた。


「これはお前の仕業か。」


吉田はありえないと考えながらも言った。そして少年から返ってきた言葉は


「そうですよ。」


まさかと思うものだった。


「どうやってやった。」


吉田は少年に問いかけると少年は


「方法に関しては、教えてもいいんですが、信じてもらえないと思うので。」


「信じてもらえない?まさか魔法だなんて言わないよな。」


すると少年は眼を見開いた。明らかに驚いている表情だった。


「魔法ですか。遠からず近からずです。」


「ありえない。とりあえず早く出せ。」


「それは出来ません。」


少年の答えは簡潔なものだった。


「何故だ。」


「何故なら、僕が吉田さんへの用が済んでないからです。」


「なら早く済ませろ。」


吉田は少し苛つきながら少年にいい返した。


「わかりました。では吉田さん。」


少年は少しの間を置いて


「死んで下さい。」


宣告した。


吉田は呆然としてしまった。いきなり現れた少年がいきなり死を宣告すれば当たり前といえば当たり前だ。


少年は吉田に向かって歩いてくる。


一歩、また一歩。


そのたびに、少年の靴の音が廃工場内に木霊する。


吉田には少年の靴の音が冷たく聞こえ、自分の恐怖心が警鐘を鳴らす。


「ま、待て。」


ピタリと少年は歩みを止めた。吉田は安堵に包まれながら二の句を繋いだ。


「何故、お前に殺されないといけない。お前はさっき学生と言ったぞ。」


「はい。確かに僕は学生と言いました。が、こうも言いました。少し特殊と。」


「特殊、だと。」


「えぇ。」


吉田は少年の自己紹介を頭の中で思い出し、反復する。その時は、別段気にしなかった【特殊】と言う単語がやけに気になり始めた。


「やはり、警察に連れていかれるのか。」


吉田は逃げることの出来ない廃工場に膝をついた。逃げることを諦めたように。


「それは違います。」


少年の声がした。


「僕は言いました。貴方を殺すと。」



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