ⅶ.
人間、霊に関わらず、寄生体が亡くなった場合、その人に寄生していた物怪はすぐに肉体を離れ、死体は残骸と化す。
だが、極々僅かな例外。
寄生していた物怪がその人に感謝や深い情を抱いていた場合に限り、物怪自らの残影を、死者の霊体に遺す事実が、実は確認されている。
だが、その中でも例外中の例外。
元々俺の第五形態は俺の妹、真希の異能力。
真希の異能力は主に四つだった。
生前の真希の物怪はツルミヨ。
真希の死後、ツルミヨが真希の霊体に三つの異能力を残したから、真希と一番近い血縁関係に当たる俺が一つ・焚祈だけを譲り受ける形になって……。
真希は元素が水の異能力を使っていた異能力者だ。
本来水は冷たい物。
俺の怪絽と合わせて考えると、あまりいい能力ではないように見えるだろう。
だが、術者が亡くなり、その術者が使用していた異能力が別の術者へ譲り受けられると、その怪絽に沿った異能力に変換される。
変換されない場合もあるらしいが、俺の場合は違った。
つまり、水だった異能力が俺へ譲り受けられると同時に、湯へと変わったのだ。
ここまでは、良い。
俺も霞隊長から説明を受けてなんとなくは理解していた。
しかし、この説明があると逆にここで一つ疑問が生じるのだ。
―――どうしてツルミヨはわざわざ霊体となった真希の身体に異能力を三つも遺したのか
もしかするとツルミヨは、俺が真希を生き返らせたい、蘇生させたいと願うことを、理解していたのかもしれない。
蘇生させた後、俺と真希が今度こそ笑って共闘できる様に―――……。
「―――ねぇ。ねぇってば。嵐?」
「悪い……どうした?」
「僕お腹空いちゃったからさ、ご飯作って欲しくて!あの、嵐特製のカレー食べたいんだぁ〜!」
「っつっても、具材とか……」
「大丈夫、あるから!」
「……お前、たまに食い意地張るよな」
そんなこんなで、ツルミヨの頼みを引き受けた俺は白く小さな冷蔵庫から人参、玉ねぎ、牛肉、中辛のカレールウを取り出して、まな板と鍋、包丁を用意した。
まず、玉ねぎをできるだけ細かくみじん切りにした。
粒の大きさが揃っていないと、口の中で違和感が残るからだ。
その玉ねぎを中弱火でじっくりと、焦げ付かないように飴色になるまで炒める。
途中で水を少し加えたりしながら、甘みを最大限に引き出すのが俺のこだわりだ。
玉ねぎがしんなりとして深い茶色に変わったら、乱切りにした牛肉、人参を加え、肉に焼き色がつくまでさらに炒める。
厚手の鍋が、熱を均一に伝え、保温性良く煮込んでくれる。
具材全体に油が回り、香りが一段と強くなったところで、静かに水を注ぎ入れる。
沸騰したら、丁寧にアクを取り除いた。このひと手間が、澄んだ味わいを生む。
弱火でコトコトと煮込むこと数十分。
野菜が柔らかくなったのを確認し、火を止める。
そして、市販のカレールウを割り入れ、鍋底から優しくかき混ぜる。
ルウが完全に溶けたら、再び弱火にかけて、とろみがつくまで煮込む。
これで、九条家のカレーが完成だ。
「うん、やっぱり嵐のカレーはおいしいね♪」
「そりゃ良かった。……。なぁ、ツルミヨ」
「ん?どしたの?」
「お前、何で真希の霊体にわざわざ異能力を三つも遺したんだ―――?」




